「キャッシュフロー経営」という言葉を、聞いたことはありますでしょうか?
会社経営において、「勘定合って銭足らず」という言葉の通り、会計上は利益が出ているのにお金がなく、資金ショートを起こしてしまうことがあります。
このような事態を防ぐためにも、キャッシュフロー経営という手法が重要視されております。
そこで今回は、キャッシュフロー経営のメリットとデメリットについて紹介した上で、キャッシュフロー経営のポイントについて解説していきます。
キャッシュフロー経営について正しい知識を学習して、自社への導入を検討してみましょう。
1. キャッシュフロー経営とは?
キャッシュフロー経営とは、キャッシュ(現預金)を重視した経営手法のことを言います。
損益計算書に記載される会計上の利益だけでなく、キャッシュの残高をいかに増やすのか?といった点を重視して、そのために必要なキャッシュイン・キャッシュアウトといったキャッシュフローを管理します。
例えば、掛取引で商品を売り上げた際に、会計上は売り上げた段階で売上を計上しますが、キャッシュフローの観点からは、掛けの代金を回収した段階が基準となります。
会計上は利益が出ているのに、資金ショートを起こして倒産してしまう「黒字倒産」を防ぐためにも、キャッシュフロー経営は重要な考え方となります。
(黒字倒産については「会計とファイナンスの違いは?関連資格もご紹介!」もご確認ください。)
2. キャッシュフロー経営のメリット
1) 安全性の高い企業経営を行うことができる
キャッシュフロー経営の1つ目のメリットとしては、「安全性の高い企業経営を行うことができる」ことが挙げられます。
企業は資金ショートを起こすことで、倒産します。
逆に言えば、資金が尽きない限り、赤字でも倒産しません。
つまり、キャッシュの残高を重視したキャッシュフロー経営においては、企業の倒産可能性は低く、安全性の高い企業経営を行うことができると言えます。
また、キャッシュが潤沢にあるということは、借入に依存する割合が少ないことを意味しており、自己資本比率などの長期の安全性の指標が健全な数値となります。
(安全性については「安全性分析とは?各指標を学ぶにはビジネス会計検定がおすすめ!」をご参照ください。)
以上より、「安全性の高い企業経営を行うことができる」ことは、キャッシュフロー経営のメリットと言えます。
企業経営においては、安全性以外の指標についても考慮する必要があります。
どれか一つの指標が大事というわけではなく、各指標のバランスが大事です。
例えば安全性以外にも、「収益性」や「成長性」といった指標があります。
各指標の詳細については、以下をご参照ください。
・収益性:「収益性分析とは?ビジネス会計検定で学べる各指標をご紹介!」
・成長性:「成長性分析とは?各指標をご紹介!」
2) 資金繰り以外にリソースをあてられる
キャッシュフロー経営の2つ目のメリットとしては、「資金繰り以外にリソースをあてられる」ことが挙げられます。
資金繰りがうまくいっておらず、来月の資金の目処が立っていない。。。といった状況に陥ると、リソース(人・モノなど)を資金繰りに充当する必要があり、事業の成長などその他のことに、リソースをあてることができません。
場合よっては、経営者自ら資金繰りのために、一日中動き回らなければならないこともあります。
資金繰りにいくらリソースをあてても、事業自体が成長するわけではありません。
(創業初期などは別ですが)経営者まで資金繰りに駆り出される状況になると、事業の存続が危ぶまれる状況と言えます。
この点キャッシュフロー経営の場合、資金繰りをまず固めるので、結果としてその他のことに経営資源を集中することができます。
以上より、「資金繰り以外にリソースをあてられる」ことは、キャッシュフロー経営のメリットと言えます。
3) 対外的な信用力が高まる
キャッシュフロー経営の3つ目のメリットとしては、「対外的な信用力が高まる」ことが挙げられます。
取引先や銀行などの大きな関心事の一つとして、「最終的に自社にどれだけキャッシュを支払ってくれるか」といった点があります。
例えば銀行の場合、『債務返済力→安全性→成長性→収益性』の順に融資先企業を判定することで、最終的に銀行側にどの程度お金を残してくれるかを判断します。
キャッシュフロー経営の場合は潤沢なキャッシュが企業内にあるので、取引先や銀行から見れば、金払いが良く非常に魅力的な企業に見えます
つまり、銀行からの借入を行いやすく、また、取引先との契約が成立しやすくなる可能性が高いです。
以上より、「対外的な信用力が高まる」ことは、キャッシュフロー経営のメリットと言えます。
日本でも完全にポジションを確立してきたAmazon。
皆様も一度は利用されたことが、あるのではないでしょうか?
さぞや利益を出して儲けているのでは?と思われるかもしれません。
しかし、意外にもAmazonの営業利益は、そこまで高くありません。
これは、フリーキャッシュフロー(*)を重視した経営を行っており、利益をあまり重視していないためと考えられます。
キャッシュフロー経営を行うことで、営業活動によるキャッシュフローを稼ぎ出し、その範囲内で投資活動によるキャッシュフローに投資しております。
そのため、キャッシュフローがマイナスになることがなく、毎年潤沢なキャッシュを維持しているのです。
*営業活動によるCF+投資活動によるCF
3. キャッシュフロー経営のデメリット
1) 株主からの配当圧力がある
キャッシュフロー経営の1つ目のデメリットとしては、「株主からの配当圧力がある」ことが挙げられます。
株式会社の場合、会社の所有者は株主であり、経営を委任されたのが経営者となります。
所有者である株主は、経営の専門家である経営者に会社を成長させてもらうことで、株価を上げて、その株を譲渡することで利益を得ます。
あるいは、事業成長のための投資の余地があまりない場合は、キャッシュを事業投資にあてるのではなく、配当という形で株主に還元します。
キャッシュフロー経営の場合、見方によっては投資せずに、キャッシュをただ余らせているとも考えられます。
そのため、株主の立場からしてみれば、配当や自社株買いで株主に還元してほしく、経営者に株主からの圧力がかかる可能性があります。
会社の重要な決議事項には、株主の過半数や2/3以上の同意を必要とすることがあり、経営者と言えども株主の決定には従わざる負えない場合もあります。
以上より、「株主からの配当圧力がある」ことは、キャッシュフロー経営のデメリットと言えます。
2) M&Aの対象になりやすい
キャッシュフロー経営の2つ目のデメリットとしては、「M&Aの対象になりやすい」ことが挙げられます。
潤沢なキャッシュを持つ企業を買収する場合、買収元企業からすれば、買収先企業のキャッシュを手に入れられ、実質的な買収コストが下がります。
例えば、以下のようなM&Aが実施されたとします。
・キャッシュ:1,500億円
(うち借入金:1,000億円)
【買収先企業】
・キャッシュ:1,000億円
・買収評価額:1,500億円
1,500億円の評価額の企業を買収するのに、500億円のキャッシュだけでは足りないため、追加で借入1,000億円を実施することで、買収資金を用意したとします。
この場合、通常であれば1,000億円もの借金を背負うことになるのでリスクが高いと言えますが、本ケースのように買収先企業が1,000億円を持っている場合、買収後にその1,000億円で借入金をまるまる返済することができます。
つまり、キャッシュフロー経営を実施しているようなキャッシュを潤沢に持っている企業は、ある程度のお金をかけて買収しても十分元が取れるため、M&Aのターゲットになりやすいです。
以上より、「M&Aの対象になりやすい」ことは、キャッシュフロー経営のデメリットと言えます。
3) レバレッジを効かせた投資を行いにくい
キャッシュフロー経営の3つ目のデメリットとしては、「レバレッジを効かせた投資を行いにくい」ことが挙げられます。
企業の収益性を測る指標の1つに、「自己資本当期純利益率」という指標があり、この指標が高いほど収益性が高い企業と言えます。
そして、この自己資本当期純利益率は、銀行からの借入を増やすほど高まるという性質があります。
詳細は「財務レバレッジの計算方法とは?効果的に利用すればROEが上がる?」を確認していただきたいのですが、レバレッジとは「てこ」のことを意味しており、例えば自己資金10億円でビジネスをするよりも、借入10億円を追加した20億円でビジネスをした方が、儲けが多きいことを意図しております。
キャッシュフロー経営の場合、そもそも借入をしなくても大丈夫なキャッシュフローで事業を進めるため、あえて借入をしてリスクを負うことはしません。
これは安全性の観点からは望ましいのですが、収益性の観点からは大きな儲けの機会を逃している可能性があります。
以上より、「レバレッジを効かせた投資を行いにくい」ことは、キャッシュフロー経営のデメリットと言えます。
収益性・安全性・成長性の分析など、経営において必須の財務分析スキルを身に付けるのにおすすめなのが、「ビジネス会計検定」です。
簿記のように財務諸表を作成するための細かい仕訳を学ぶことなく、財務諸表を見る力を養うことができます。
実務的な基礎知識を身に付けるためには、ビジネス会計検定2級までの受験がおすすめです。
各級の詳細については、以下をご参照ください。
・3級:「ビジネス会計検定3級が必要ない人とは?受験要項や難易度は?」
・2級:「ビジネス会計検定2級とは?3級との違いは?挑戦すべき5つの理由」
4. キャッシュフロー見直しポイント
最後に、キャッシュフロー経営を実施するための導入編として、キャッシュフローの見直しポイントについて見ていきましょう。
1) キャッシュフロー計算書の管理
1つ目のキャッシュフローの見直しポイントとしては、「キャッシュフロー計算書の管理」が挙げられます。
キャッシュフローを管理するためには、キャッシュフロー計算書や資金繰り表を作成する必要があります。
そして、キャッシュフロー計算書の中でも特に、「営業活動によるキャッシュフローはプラスか?」といった点について注目する必要があります。
(キャッシュフローの種類については「キャッシュフローの種類とは?」をご参照ください。)
本業での成果を表す営業活動によるキャッシュフローがマイナスの場合、まずはこの値がプラスになるように取り組むべきです。
毎年キャッシュの残高が増えていても、営業活動によるキャッシュフローがマイナスの場合は、投資活動や財務活動によるキャッシュフローで一時的に賄っているだけであり、望ましい状況ではありません。
2) 回収は前払い、支払いは後払い
2つ目のキャッシュフローの見直しポイントとしては、「回収は前払い、支払いは後払い」にすることが挙げられます。
キャッシュの残高を増やそうと思った場合、商品の売上はできるだけ早く回収する必要があり、逆に支払いについてはできるだけ遅くする必要があります。
取引先との力関係次第では、簡単にできることではありませんが、うまくいけば即効性のある方法ですので、ぜひ試してみてください。
場合によっては、資金の回収については値引きを、資金の支払いについては割増しをすることで、取引先にも利点がある状況にして、条件をのんでもらうことも考えられます。
3) 債権回収の管理を徹底する
3つ目のキャッシュフローの見直しポイントとしては、「債権回収の管理を徹底する」ことが挙げられます。
当たり前のようで意外にできていないのが、債権回収の管理です。
請求書について期日までに入金されているか確認するといった最低限の管理も、忙しいとついつい忘れてしまうものです。
また、期日を超過した請求先に対しては、すぐに督促の連絡をいれることも大切です。
期日を超過すればするほど回収が困難となりますので、超過後可能な限り早く連絡をいれてください。
4) 在庫の圧縮
4つ目のキャッシュフローの見直しポイントとしては、「在庫を圧縮する」ことが挙げられます。
一見キャッシュフローの改善と在庫には、関係がないように思われるかもしれません。
しかし、余分な在庫を持っているということは、本来キャッシュとして手元にあるべき金額が在庫となり、キャッシュがその分少なくなっていることを意味します。
これは使用できないキャッシュを持っているのと同義となり、非常にもったいない状況です。
そのため、必要のない余分な在庫が極力出ないように、在庫を圧縮する必要があります。
5) クレジットカードを利用する
5つ目のキャッシュフローの見直しポイントとしては、「クレジットカードを利用する」ことが挙げられます。
先ほどお伝えした通り、キャッシュフローの観点からは、支払いは極力後にした方がいいです。
この点、クレジットカードを利用すれば、支払いを1ヶ月程度遅らせることができるため、キャッシュフローの観点からは望ましいと言えます。
注意点として、当たり前ですがクレジットカードの引き落としタイミングを考慮した、資金管理を行う必要があります。
先月仕入れた原材料費について、引き落としが当月となっていることを忘れており、残高が足りず引き落とせなかったということのないように、注意してください。
6) 経費削減
6つ目のキャッシュフローの見直しポイントとしては、「経費削減」が挙げられます。
シンプルかつ最も即効性のある方法と言えます。
ただ、今まで使ってきた経費を急に「使うな!」と言っても、聞く耳を持つ人は少ないです。
意図的に無駄遣いしている場合は除いて、基本的にその経費に意味があると思って、社員のみなさんは使用しております。
そのためまずは、「とりあえず1ヶ月○○費を削減してみよう!翌月からは戻すから。」と言って、1ヶ月限定で経費削減をやってみるのも一つの方法です。
実際に1ヶ月削減してみて、特にマイナスの影響がでなければ、今までその経費を使っていた人達も納得できますので、まずは期間限定として実施してみてください。
5. 終わりに
キャッシュフロー経営のメリット・デメリットや、キャッシュフローの見直しポイントについて紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
大切なのは、1つの経営手法に偏りすぎないということです。
キャッシュフローも当然大事ですが、利益や売上といった会計上の数値も大事です。
キャッシュフロー経営のいいところをしっかり利用しながら、バランスのとれた経営を行う必要があります。
6. まとめ
◆株主からの圧力・買収対象になりやすい・借入を利用した事業投資がしにくいといったデメリットがある。