近年経理周りで良く耳にするようになった言葉に「RPA(Robotic Process Automation)」があります。
RPAの記事を見ると、経理の将来性について不安に思われるかもしれません。
そこで今回は、RPAについて概要を解説した上で、経理の将来性について解説させていただきます。
結論からお伝えすると、経理の将来は過度に明るいものでも暗いものでもありません。
将来性について正しく理解して、経理としてのキャリアを積んでいきましょう。
1. RPAとは?
1) RPAとは?
RPA(アール・ピー・エー)とは、パソコンやサーバー上にあるソフトウェア型のロボットが、定型作業を代行する概念のことを言います。
大きく分けて、「サーバー上のRPA」と「PC上のRPA」の2つがあります。
・PC上のRPA:規模が小さく、単純な細かい作業の自動化
【RPA】
あくまで人間が定義した範囲内の行動を自動化する。
【AI】
自立的に知識を蓄積して、その結果に基づいて新しい判断・行動を行う。
*経理とAIの関係性については「経理はAIでなくなる!?人工知能に負けないためには??」をご参照ください。
2) RPAの経理への導入事例
経理は定型業務が多いので、RPAが非常に導入しやすい職業と言われております。
例えば、以下のような業務で実際に利用されております。
・OCR(Optical Character Recognition)で読み込んでExcelに転記。
・売掛金や買掛金と決済データの照合。
・決算書を外部、内部向けに加工して送信する。
以前勤めていた会社で、新規事業としてやっていた人材事業にRPAを導入していました。
パソコン上のRPAで、候補者に対してスカウトメールを送付するといった利用方法でした。
たまたまその会社の場合は人材事業でも定型業務があったため、RPAが導入できましたが、本来は経理の方が定型業務が多く、RPAの導入に最適です。
3) RPAのメリット
一般的にRPAを導入すると、以下のメリットがあります。
・業務フローが確立されている業務であれば適用できる。
・導入に伴い業務フローの洗い出しができる。
・人的エラー、コストを減らせる。
4) RPAのデメリット
逆に、RPA導入のデメリットとしては、以下があります。
・RPAにより職を奪われた人材に対する、新たな雇用を創出する必要がある。
5) 導入のコツ
RPAを導入するにあたっては、以下のようなポイントを押さえて進めていく必要があります。
① マニュアル化
RPAを導入するにあたり、業務フローがマニュアルとして確立されている、つまりパターン化されている必要があります。
毎回異なった処理が必要となる業務であれば、それはもはや定型業務ではなく、引き続き人力でやっていく必要があります。
マニュアルというと文字のイメージがあると思いますが、基本は動画でも問題ありません。
動画でわかりづらい業務についてはマニュアルを作成する、といった方針をとるのも1つの方法です。
② 身近な作業から導入していく
2つ目のコツとしては、現場レベルの身近な業務からRPAを導入していくことが挙げられます。
いきなり全社的・基幹的な作業をRPAで代替しようとした場合、過度な期待を生むこととなり、結果大抵の場合挫折することが多いです。
RPAは何でもできるわけではありません。
まずは現実的に代替できそうな、単純業務から導入していくことがコツとなります。
③ 導入の意図を周知する
RPAを導入するにあたっては、導入の意図を関係者に周知する必要があります。
特に、現在その業務をやっている経理部員に対する説明は必須となります。
伝え方を間違えれば、自分の職が奪われると思い、非協力的になる社員がいてもおかしくありません。
人員を削減することが目的ではなく、作業を効率化して、空いた人員をより生産性の高い作業にあてることが目的であるといった点は、周知していく必要があります。
6) RPAツール例
・UiPath Community Edition
・Dr.経費精算
・Robo-Pat
・IBM Robotic Process Automation with Automation Anywhere
2. 経理に将来性はある?
1) 経理の人数は減っている!?
国勢調査によると、2000年以降経理事務員の人数は約100万人減少しています。
この数は他の職業と比較しても、突出しているところがあります。
この原因としては、以下のような点が考えられます。
・経理業務のアウトソースの普及。
・派遣、パート社員への転換。
これだけを見ると悲観的に聞こえるかもしれません。
ただ、経理の現場からすると、少し違和感がある方もいるかと思います。
と言いますのも、経理の現場では今人手不足となっており、各社条件を上げていい人を募集している状況だからです。
つまり、一時期経理事務員の数が減っていったのは事実ですが、すでに下げ止まっており、現状は逆に人が足りない状況となっております。
監査法人時代のクライアントや、ベンチャー時代の自社の経理の人達を見ても、どこも人手が足りているとは言えず、人を常に欲している状況でした。
厳密に言うと、「いい人材」が足りない状況が恒常的に続いておりました。
そのため、経理部員としてスキル・人格共に磨き上げていけば、あなたを欲している企業はたくさんあると言えます。
2) いかに必要なことに時間をかけられるか
人手が足りないこのような状況の中で、経理の人達に必要なこととは何なのでしょうか?
伝票の入力作業をひたすらやることでしょうか?
Excelへのデータ転記を毎日繰り返すことでしょうか?
答えは、「必要なこと」に時間をかけて、不要なことには時間をかけないことです。
上述のような定型作業は今後、RPAやAIに代替されます。
そのため、次項以降で説明する、今後の経理に求められることに対して、いかに早く取り組めるかがカギとなります。
極端な話を言えば、誰でもできるような定型作業を依頼されたら安請け合いせずに、本当に必要となる作業のみをやる、ぐらいの心構えが必要となります。
現実問題としては、自分がやりたことだけをやるのは難しいかと思います。
そのため、単純な定型作業を依頼された場合は、その作業をやる代わりに自分のやりたいこともやらせてほしいと、交渉してみるのも1つの方法です。
3) これからの経理はより楽しい業務に!?
それでは、これからの経理にはどのような業務が求められるのでしょうか?
以下、主要な4つを解説していきますが、内容を見ると少し楽しそうではないでしょうか?
実はRPAやAIが定型的なおもしろくない作業を引き受けてくれることで、経理の仕事はより楽しいものになる可能性があります。
① 財務数値の面から経営の意思決定をサポート
1つ目のこれからの経理に求められる業務は、経理の専門分野である会計・財務といった面から、事業の方向性などを決定する情報を提供する業務となります。
事業の方向性を決めるためには、現状の決算数値、資金繰りを分析する必要があります。
形式的に毎回決まった分析数値を計算するだけであれば、RPAで自動化する方が、経営者としても早く、そして確実なのでありがたいです。
ここでいう分析とは、会社のビジネスモデルを理解して、管理会計やマーケティングなどの側面から、その月その月の、経営の意思決定に必要な情報を分析することを言います。
『営業利益が先月比で10%低下しているので、当月は10%改善していきましょう。』
では何の分析にもなっていません。
『営業利益が先月比で10%低下しており、販管費の広告宣伝費のうち、A市場に対するものが8%増加したのが主な原因となります。ただこれは、今の主力製品があるB市場が今後縮小していくことを考えた場合の、新たな投資先としてA市場に先行投資したものです。A市場の詳細については。。。』
といった、ビジネスを会計数値で読み解く能力が必要となります。
② 会計論点について専門家と議論
2つ目の今後経理に求められる業務は、新たな会計論点に対して、公認会計士や税理士などの専門家と話し合う業務が考えられます。
簡単な会計処理であれば、パターン化してRPAで自動処理しても問題ありません。
一方で、ビジネスモデルは日進月歩で変化しているものであり、それに対応するために常に新たな会計論点が発生しています。
また、会計上の見積もりなどの将来予測を伴う分野については、そもそも将来の予測ですので、会社により、あるいは専門家により判断が異なることがあります。
そのため、今後も会計論点について専門家と協議するというのは、経理に求められる業務となります。
③ 非定型取引に対する判断
経理業務の全てが、マニュアル化できる定型的な業務に分類されるわけではありません。
と言うか、非定型業務は実際のところかなり多いです。
会社が同じビジネスを、同じやり方で、同じ費用しかかけずにやり続けたら、経理業務の大部分は定型化できます。
しかし実際は、変化し続けない限り、競合に負けて市場から淘汰されてしまいます。
つまり、会社のビジネスへの取り組みが常に変化していくので、経理業務も常に非定型取引に対する対応が求められます。
非定型取引は、イレギュラーな取引であり、どう対処すればいいかわからない。。という方も多いかと思います。
そんな時は、以下の3ステップを意識していてください。
STEP1:会計基準や税法、社内規定などの原則論をまず確認して、原則的にはどうすべきかを必ず調べる。
STEP2:過去に自社内で似たような事例がないかを、過去データや先輩に聞いて調べる。
STEP3:他社で似たような事例がないかを、公認会計士などの専門家やネットから調べる。
④ RPAやAIの導入支援
4つ目の将来経理に求められる業務は、RPAやAIの経理業務への導入支援業務となります。
RPAやAIが今経理がやっている業務を代替するのであれば、逆にRPAやAIの経理業務への導入支援業務は増えていくことになります。
RPAやAIの専門家になるなんて無理だよ。。。思われるかもしれませんが、何も専門家になれと言っているわけではありません。
RPAやAIについて、最低限非エンジニアとして知っておかなければいけない知識を学んでおけば、導入支援やコンサル業務は可能です。
また、可能であればプログラミングも多少勉強しておいた方が、今後は経理部員としても有利に働くと考えられます。
詳細につきましては、「経理こそプログラミングを学習すべき4つの理由!」も合わせてご確認ください。
上記では4つ紹介しましたが、今の定型的な経理業務がここ数年でなくなることはまずないと考えられます。
と言いますのも、経理業務をやったことがある方であればわかると思うのですが、現場での作業は全て業務フローに落とし込めるほど単純ではありません。
経理に未来がないということはないので、過度に悲観的になる必要はありません。
一方で、今のままでは差別化が難しくなっているのも事実です。
そのため、次項でお伝えするような、今からできることを少しずつ進めていくことが、今後経理として活躍する上で大切となります。
3. 生き残るために今からできること
これからの経理に求められる業務について解説してきましたが、ここからは、具体的に一個人として、これから何を学んでいけばいいのか?について具体的に解説していきます。
1) 財務数値の分析力
1つ目の学ぶべきことは、財務数値を分析する力となります。
毎日決算書を眺めているだけでは、分析する力は身に付きません。
まずは基礎的な分析方法を「暗記」する必要があります。
暗記?ネットで調べればこのご時世何でもわかるから、暗記する必要はないのでは?と思われるかもしれませんが、基礎を暗記することは非常に大事です。
例えば車の運手に例えると、操作方法や道路標識などは、ネットで全て調べることができます。
では暗記する必要がないのか?というと、もちろんそんなことはありません。
運転中にいちいち操作方法を確認する時間はありませんし、一度止まって道路標識をネットで調べていたら、後ろの車に追突されるかもしれません。
このように、最低限の基礎知識は暗記しておかないと、財務数値を分析する本番では全く役に立ちません。
ここで、財務数値の基礎的な分析方法を学ぶ方法としては、次の2つがおすすめです。
① ビジネス会計検定
財務数値を分析するためには、売上高営業利益率といった収益性指標や、自己資本比率といった安全性指標、売上高伸び率といった成長性指標など、複数の基礎的指標を学ぶ必要があります。
そして、これからの基礎的な分析指標を学ぶことができるのが「ビジネス会計検定」となります。
2級まで取得しておけば、一通りの基礎知識は押さえたと思っていただいて問題ございません。
各級の詳細については以下をご参照ください。
3級:「ビジネス会計検定3級が必要ない人とは?受験要項や難易度は?」
2級:「ビジネス会計検定2級とは?3級との違いは?挑戦すべき5つの理由」
② 決算書分析の本
ビジネス会計検定2級までの勉強が完了したら、その発展として、決算書分析関連の本を読むことをおすすめします。
いきなり本から入るのも1つの方法ですが、最低限の分析知識がないと、挫折してしまう可能性があり、また、書かれていることの真の意味を理解することができないこともあるため、ビジネス会計検定を取得されてからの方が望ましいです。
おすすめの書籍については「決算書の読み方がわかる本!おすすめランキング8選」をご確認ください。
2) ITスキル・マーケティングの知識
2つ目の学んでおくべきことは、最低限のITスキル・知識です。
先ほどお伝えしたプログラミングや経理周りのExcelなどのITスキルも必要となりますが、ここではさらに一歩踏み込んでビジネスモデルを理解するために、マーケティングの知識を学ぶことで、頭一つ抜け出る存在となることをおすすめします。
例えば、「SaaS」「SEO」「リスティング」「アフィリエイト」「UI/UX」と言われて、何のことか答えられますでしょうか?
どれもウェブマーケティングでは基本的な言葉ですが、このあたりを理解していないと、自社のビジネスモデルを理解できない可能性は十分にあります。
私はベンチャー企業に勤めていた時に、ITスキルやマーケティングの知識について学びました。
しかし、今実際に自分でビジネスをすることで、SEOなどについて本当の意味で学んでいます。
知識はアウトプットしないと、なかなか定着しないものです。
そのため、もし副業が可能なのであれば、実際に自分でアフィリエイトなどをやれば、ある程度のマーケティング知識がつくかと思います。
3) 起業家とのつながり
3つ目のこれからの経理がやっておくべきことは、起業家とのつながりを持っておくことです。
簡単なことではありませんが、起業家との人脈は後々かなりプラスになる可能性が高いです。
もちろん単純に、いざという時に自分を雇ってもらえる、といった良さもあります。
ただそれ以上に、起業家、つまり経営者は最新のビジネスモデルに非常に敏感であり、定期的に話せる機会を設けることができれば、今後のビジネスの流れについて、アンテナをはることができます。
経理畑の人はビジネスの流れに疎いことが多いので、その道のプロである起業家に業界の話を聞くことで、ビジネスの流れを読める経理として、自社で重宝される可能性が高いです。
4) セルフブランディング
これからの時代は「個」の時代であると言われております。
経理と言えど、セルフブランディングが必要になってきます。
ここでいうセルフブランディングとは「○○社の△△さん」ではなく、「△△さん」としての価値を高めるということです。
セルフブランディングを高めておけば、フリーランス経理になったとしても、複数社から仕事をもらいながら、1社に勤めるよりもはるかに多くのお金を稼ぐことができるかもしれません。
(フリーランス経理については「経理がフリーランスになるのは可能?押さえるべきポイントは?」をご参照ください。)
もちろん簡単に高められるものではありませんが、簡単にできないからこそ、今後価値が高まっていきます。
方法としては、会社員としての活動とは別に、個人としても情報発信をしていく方法が考えられます。
ブログやX(旧Twitter)などのSNS、セミナーなど、情報発信する場はたくさんありますので、名無しの経理部員ではなく、「△△さん」というあなたの固有名詞で勝負してみてください。(もちろん本名を必ずしも名乗る必要はありません。)
5) 経理業務全般の経験
5つ目の経理として生き残るためにやっておくべきことは、経理業務全般を経験しておくことです。
経営の意思決定に関わるサポートであれ、RPAやAIの導入であれ、専門家との話し合いであれ、最終的には経理業務全般を理解していることが前提となります。
そして、経理業務全般について理解するためには、一度は全ての業務を経験する必要があります。
ある程度の頻度でジョブローテーションが組まれている会社であれば、進んでジョブローテーションを経験してください。
そうでない場合は、人事面談などの際に、自ら他の業務もやりたいと進言して下さい。
また、もし転職を考えている場合は、少人数のベンチャー企業も候補に入れてみてください。
少人数企業の場合、1人で経理業務全てを回さなければいけない可能性もあり大変ですが、その分成長のスピードも速いです。
経理の転職については「経理が転職しやすい7つの理由」でも解説しております。
6) 副業
最後は、経理として生き残るためというよりは、経理として生き残れなかった場合のリスクヘッジの意味合いで、副業についてお伝えしていきます。
いざという時のために、稼ぎ口や蓄えは多いに越したことはありません。
ただ、経理でもできる副業があるのでしょうか?
結論としては、あります。
詳細は「経理におすすめの副業6選!経理代行の他には何がある??」で確認していただきたいのですが、以下のような副業がおすすめとなります。
・不動産投資
・輸入代理店
・メルカリやヤフオクでの転売
・セミナー業
・アフィリエイト
4. 終わりに
経理の将来性やRPAについて解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
先にも述べましたが、経理の将来性については過剰な期待も過剰な不安も必要ありません。
将来経理業務に起こりうる出来事をある程度理解して、あとは今やるべきことをしっかりとやって、経理としての知識・スキルを積み重ねていってください。
5. まとめ
◆RPAのデメリット:実際の業務フローは単純ではない。代替される人達のケアー。
◆経営の意思決定に役立つ財務情報の分析・提供や、非定型取引の会計処理など、今後も多くの仕事が残る。
◆財務分析スキルやITスキルなどを磨いていく必要がある。