「請求書早くだしてください!」
「こんな経費認められませんよ!」
このようなことを経理に言われて、「経理ってうるさいな。。」と思った経験はないでしょうか?
確かに経理は規律に厳しく、ともすればうるさい存在となりがちです。
しかし、経理がうるさいのにはちゃんとした理由があります。
そこで今回は、経理がうるさい理由について、公認会計士の目線で解説させていただきます。
経理がうるさい理由を理解することで、経理に対して少しでもやさしく接することができるようになってください。
1. 無駄な出費を抑える
経理がうるさい1つ目の理由としては、「無駄な出費を抑える」ことが挙げられます。
プライベートの出費も会社の経費で落とせたら。。と考えたことは、皆様一度はあるのではないでしょうか?
一社員の立場で見ると、家族を養うために生活がかかっており、少しでも出費を抑えたい気持ちはわかります。
しかし、当然のことですが、社員の個人的出費を会社のお金で支払うことは、会社として認められることではありません。
社員には給料や福利厚生というかたちで還元しており、その他のお金は会社の成長のために使う必要があります。
そのため例えば、仕事とは関係のないタクシー料金や、会社の人とのプライベートな飲み会代金などは、経費として認めるべきではありません。
また、仕事と関係のある出費であっても、極力無駄な出費を抑え、その分のお金を事業の成長に回す必要があります。
短期的には各社員が自分ために無駄な出費を行うことで、各社員は得をするかもしれませんが、長期的に見れば事業の成長に投資できるお金が減り、会社の状況が悪くなり、各社員の給料が下がったり、リストラの対象となることが考えられます。
経理は会社のお金の最後の番人であり、コストを抑えるために社員に対して口うるさくしていますが、会社の成長、ひいては各社員のために長期的な視点に立って行動しています。
経理からうるさくされると、どうしても一対一の関係で感情的に考えてしまいますが、「会社のためにどちらが良いのか?」といった大局的な視点から考えて、今後は判断してみてください。
以上より、「無駄な出費を抑える」ことは、経理がうるさい理由と言えます。
「売上総利益」という利益をご存じでしょうか?
別名「粗利(あらり)」とも言われる利益であり、売上高から原価を引いて計算されます。
ここから販売費及び一般管理費、つまり経費を引くと、本業のもうけを表す「営業利益」が計算されます。
(各利益については「営業利益・経常利益・当期純利益の違いは?」も合わせてご確認ください。)
つまり、売上総利益を従業員数で割ると、「一人当たり売上総利益」が計算され、ここから自分が使用している経費(人件費含む)を引くことで、自分という存在が会社にもうけをもたらしているのか?損失をもたらしているのか?がわかります。
例えば、一人当たり売上総利益が500万円で、自分の年収が450万円だった場合、タクシー代などの経費が年50万円(月々4万円程度)かかると、マイナスになってしまいます。
自分がどの程度コストとなっているのか把握することは、大切なことですので、一度計算してみてください。
2. 社内の規律を正す
経理がうるさい2つ目の理由としては、「社内の規律を正す」ことが挙げられます。
請求書は数か月分まとめて出す、経費は好きなだけ使う、といったことが社内で当たり前になると、どうなるでしょうか?
社内の風紀が乱れ、以下のようなことが起こりえます。
・顧客の信頼を失う。
・社員のモチベーションが低下する。
・モチベーションの高い社員が退職する。
・上司のコントールがきかなくなり、トップダウンで何も決められなくなる。
・正確な情報が必要な時に得られなくなる。
神は細部に宿るではないですが、1つ1つは小さくても、社内のルールをきっちりと守ることが、結果的に事業の成長につながっていきます。
経理は嫌われ役となっても、社内の規律を正すためにルールに対して口うるさく言う必要があります。
会社は事業のことだけを考えてもうまく機能しません。
会社は「事業×組織」で回っています。
組織作りは一朝一夕でできるものではなく、また、企業規模が大きくなると経営層が管理するには限界があるため、社内ルールが存在します。
普段から社内ルールの徹底のために尽力しているのが、経理という部署となります。
以上より、「社内の規律を正す」ことは、経理がうるさい理由と言えます。
ベンチャー時代に私自身も組織が崩壊していく過程を経験しました。
入社当初は20名いた社員が、1年で半分の10名にまで減りました。
組織が一度崩壊すると、もはや何をやっても手遅れの状態となります。
そうなる前に、社内ルールを徹底して運用することは、非常に重要です。
もちろんルールだけではうまくいきませんが、ルールすら守れない組織では、遅かれ早かれ崩壊します。
一個人としてはルールを守るのが面倒でも、ルールが設定された背景を考えながら、うまく社内ルールに順応していってください。
3. 正確に会社の状況を把握する
経理がうるさい3つ目の理由としては、「正確に会社の状況を把握する」ことが挙げられます。
経理は会社全体の数値情報を集めて、決算資料を作成します。
損益計算書や貸借対照表といった決算資料は、会社の状況を株主や債権者といった利害関係者に報告するためのものでもありますが、会社の現状を把握して、来期以降の事業戦略を練るためのものでもあります。
(損益計算書や貸借対照表については「損益計算書と貸借対照表の違いは??」をご参照ください。)
会社の状況把握が正確であれば正確であるほど、事業戦略も緻密なものとなり、事業の成長につながります。
また、事業戦略策定のためには、情報の正確性だけでなく、スピードも重要となってきます。
1日でも早く経営層に情報提供できれば、理論上1日でも早い事業戦略の作成&意思決定が可能となります。
競合を出し抜くためにも、スピード感を持った意思決定が要求されます。
そのため、経理が各部署に対して口うるさくして、正確かつスピーディーな情報提出を求める必要があります。
以上より、「正確に会社の状況を把握する」ことは、経理がうるさい理由と言えます。
「経営管理」という言葉をご存じでしょうか?
経営管理とは、人・モノ・金・情報といった会社の経営資源を、事業成長のために適切に配分することを言います。
そして、意外に知られていないのですが、「経理」とは「経営管理」の略称となります。
つまり、経理とは、経営管理を行う部署のことを指します。
「経理」というと、地味な仕事をイメージされる方も多いかと思いますが、「経営管理」と聞くと、社内における経理の重要性を理解できるのではないでしょうか?
経営管理を通じた会社への貢献としては、例えば以下のようなものがあります。
・来期の業績予測に対する情報提供。
・会社や各事業、部署の課題を把握する。
・事業や部署ごとの数値目標設定。
・税金対策。
・資産の調達&運用
詳細については「経営管理の肝は経理にあり!経営管理のポイントをご紹介」をご確認ください。
4. 会計監査対策
経理がうるさい4つ目の理由としては、「会計監査対策」が挙げられます。
「会計監査」について、皆様ご存知でしょうか?
会計監査とは、企業が作成した決算書類を、公認会計士の集団組織である監査法人がチェックして、問題はないと保証を与えることを言います。
決算書類とは、企業自身が「うちはこれだけ儲かってますよ!」「借金も少なく現金も豊富なので安全ですよ!」と投資家や債権者、取引先などのステークホルダーにアピールする手段となります。
(ステークホルダーについては「ステークホルダーとは?財務諸表の利害関係者についてご紹介!」をご確認ください。)
ただ、あくまで自己採点の資料であり、企業側としては自社をより良く見せようとする傾向があり、実態以上に優れた企業であるのかのような情報を開示してしまいます。
こうなってしまうと、決算書類を信じてその会社に対して投資をした株主や、お金を貸した銀行などの債権者が、損をしてしまう可能性があります。
そのため、上場企業など一定の条件を満たす会社については、監査法人による決算書類の監査が法令で義務付けられております。
そして、この会計監査に対応するために、経理が社内で厳しく目を光らせる必要があります。
社内の不正や単純なミスなどを経理が見抜けず、監査法人に指摘された場合、最悪の場合監査法人からの保証(「適正意見」と言います。)が与えられず、社会的信用を失う可能性があります。
「細かい部分までいちいち見ないでしょ?であれば手を抜いてもいいのでは?」と思われるかもしれません。
確かに監査法人が出す保証は「重要な点に誤りはない」といったものであり、細かい部分までを保証するものではありません。
だからといって、細かい部分が見られないわけでもありません。
監査の手法の1つに、金額の大小に関係なく、無作為に仕訳を抽出して検証するといった手続きがあり、この手続きの際に細かい経費や取引について検証される可能性があります。
そして、この検証で1件でもミスが発覚すれば、その背後にはもっと多くのミスがあると推定されます。
このようなリスクを抑えるために、日々の細かい点について、経理が口うるさく対応しているということを忘れないでください。
以上より、「会計監査対策」は、経理がうるさい理由と言えます。
経理に対する理解を深めるためには、経理の主戦場である「会計」という分野について勉強してみるのが一番です。
経理や会計と聞いて一番に思いつくのは、日商簿記検定ではないでしょうか?
(簿記検定の種類については「簿記の種類とは?日商vs全商vs全経」をご参照ください。)
簿記は財務諸表を「作成」するスキルを学ぶことができるため、会計を理解する上でおすすめの資格となります。
また、経理以外の方であれば、必ずしも決算書の作成スキルを身に付ける必要はないため、決算書の「分析」スキルを身に付けることができるビジネス会計検定も、より実践的な会計スキルを学べるためおすすめとなります。
ビジネス会計検定では、具体的に以下のような場面で役に立つ知識を得ることができます。
・株式投資。
・自社、取引先の財務状況の把握。
・業界、競合の動向把握。
詳細については「決算書分析の資格と言えばビジネス会計検定!」をご確認ください。
5. 内部統制監査対策
経理がうるさい5つ目の理由としては、「内部統制監査対策」が挙げられます。
経理以外の方は聞いたことがないかもしれませんが、内部統制監査とは、会計監査同様に監査法人から内部統制に関する保証をもらうための手続きのことを言います。
ここで言う「内部統制」とは、財務諸表を作成する際の各プロセスにおいて、不正やミスを防ぐための仕組みのことを指します。
この仕組みを確認するために、例えば以下のようなことが監査法人からチェックされます。
・手作業などエラーが起こりやすいプロセスを把握しているか?
・ダブルチェックやチェックリストなどのチェック体制は機能しているか?
具体的には、上長による承認があるか?監査役との定期的な協議が実施されているか?日々の取引に関するシステムへの入力内容と出力結果が一致しているか?といったプロセスを数十件のサンプルを抽出して確認することなどが、内部統制監査に含まれます。
そして、不正やミスを防止する内部統制が有効に機能していると認められれば、前述の会計監査の負担を軽くすることができます。
決算期において実施される会計監査は、経理にとっては非常に負担が重いものです。
本来決算書を作成するだけで終わるはずが、作成したものについて外部の監査人からチェック&指摘が入り、都度それに対応する必要があるためです。
そのため、内部統制監査の対策をしっかりととり、会計監査の負担を少しでも軽くするために、経理は日々の作業プロセスに関して口うるさくなります。
他部署の方も経理から口うるさくされると対応するのが大変かもしれませんが、経理の事情も理解して、必要な対応をとる必要があります。
以上より、「内部統制監査対策」は、経理がうるさい理由と言えます。
6. 税務調査対策
経理がうるさい6つ目の理由としては、「税務調査対策」が挙げられます。
経理は決算書を作成したら作業が終わるわけではなく、決算書の情報をもとに、法人税や消費税などの税金の支払い額について計算して、納付する必要があります。
税務調査で税金の支払い額に誤りが見つかると、過少申告加算税や延滞税といった追徴課税を支払うことになります。
また、誤りが悪質だと判断されれば、重加算税という非常に重い税金を課されることになります。(重加算税に該当するのは粉飾決算などの相当悪質な場合に限られます。)
例えば、交際費については社内で話題になりやすいのではないでしょうか?
交際費については、「社内の人となのか?社外の人となのか?」「5,000円以下なのか?5,000円を超えるのか?」など、細かい点まで経理から追及された経験がある方もいるかと思います。
これは、税法上の交際費に該当するか否かを判断するために必要な項目となります。
簡単に言うと、税法上の交際費に該当する場合、払った費用のうち半分しか費用として認められず、その分所得が大きくなり、より多くの税金を支払うこととなります。
このように、税法上のどの科目に該当するか経理が厳しくチェックしないと、税金額に誤りが発生して、追徴課税を支払うことになるため、経理がうるさくする必要があります。
以上より、「税務調査対策」は、経理がうるさい理由と言えます。
交際費などの経費に関しては、特に営業と経理が対立するケースが多いかと思います。
営業からすれば、「接待したおかけで契約を結べているんだから、細かいことを言うな!」と思うかもしれません。
ただ、経理には経理の言い分があり、会社のためにやっていることなので、お互いに理解が必要となります。
営業と経理それぞれの特徴については、「経理と営業はどちらがおすすめ?」も合わせてご確認ください。
7. 終わりに
経理がうるさい理由について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
お伝えしてきた通り、経理がうるさいのは個人的な感情論ではなく、全て会社のため、ひいては従業員のためです。
次に経理から細かい指摘を受けた際は、感情的になるのではなく、今回お伝えした内容を思い出して、指摘を受け入れ必要な対応をとってください。
8. まとめ
◆社内の風紀を正すため。
◆現状を正確に理解するため。
◆会計監査に対応するため。
◆内部統制監査に対応するため。
◆税務調査に対応するため。