自営業にも会計知識は必須です。
ただ、「何を学べばいいのかわからない。」という人が多いのも事実。
そこで今回は、自営業を営んでおり、公認会計士でもある筆者が、自営業が勉強すべき会計知識について、解説していきます。
自営業としての成功を掴むためにも、ぜひこの機会に会計知識を身に付けましょう。
1. 守りの会計知識
1) まずは簿記3級
2) 事業用と私用を区別する
3) 費用は証拠を残す
4) 青色申告の申請
2. 攻めの会計知識
1) まずは現状把握
2) 会計数値を分析する
3) ビジネス会計検定3級&2級
4) 会計センスを磨く
3. 終わりに
4. まとめ
1. 守りの会計知識
1つ目の自営業が勉強すべき会計知識としては、「守りの会計知識」が挙げられます。
守りの会計知識とは、損しないために、あるいは罰則を受けないために必要となる会計知識のことを言います。
主に確定申告において、守りの会計知識を身に付けておかないと、より多くの税金を支払うこととなり、また、場合によっては意図せず虚偽の報告をしてしまい、罰則を受けることもあります。
そのためここでは、守りの会計知識の基本中の基本について、順に解説していきます。
(*法人化している場合は確定申告ではなく「決算」という形で会計知識が必要となりますが、法人化する段階の方は、既に必要な会計知識を身に付けているケースが多いので、本記事では法人化していない自営業者を対象として話を進めます。)
1) まずは簿記3級
まず会計初心者は、とにかく「簿記3級」を学習してください。
簿記は会計の土台となる知識です。
(簿記の詳細については、「簿記とは何かを簡単に初心者にわかりやすく解説します!」をご参照ください。)
簿記の知識をもとに、日々の活動を仕訳という形で記録していきます。
そして、この日々の記録を積み上げた会計帳簿をもとに、必要な税金額の計算を行い、確定申告を行います。
簿記の知識があやふやで、日々の記録を正確にしていないと、例えば本来費用計上できていた費用を計上しておらず、その分過大に税金を支払うこととなるかもしれません。
つまり、税金で損をしないためには、まずは簿記の知識をしっかり身に付けて、日々の活動を正確に記録する必要があるのです。
(簿記3級については、「簿記3級は独学で合格可能?」も合わせてご確認ください。)
法人化していない自営業者が、主に支払う税金としては、所得税があります。
(消費税は基本的に、年間の売上が1千万円を超えるまでは、考える必要はありません。)
所得税とは読んで字のごとく、「所得」に応じて課される税金となり、「所得×税率」で計算されます。
そして、所得は「収益(*1)-費用(*2)」で計算されます。
(*1 税務上は「益金」と呼ばれます。)
(*2 税務上は「損金」と呼ばれます。)
つまり、所得税とは、「(収益-費用)× 税率」で計算されるため、費用を多く計上すればするほど、支払うべき税金は少なくなっていくのです。
2) 事業用と私用を区別する
守りの会計知識の次のポイントとしては、「事業用と私用を区別する」ことが考えられます。
会社員であれば、会社のお金と自分がプライベートで使用するお金の区別は、当然ついていると思います。
しかし自営業の場合は、この境界線が曖昧です。
売上に関しては、基本的にプライベートで発生するものではないため区別がつきやすいですが、費用に関してはかなり曖昧な点が多くなりがちです。
例えば、以下のような費用が発生した場合、これは事業用の費用でしょうか?それとも私用の費用でしょうか?
・プライベートと仕事で兼用している携帯電話の料金。
・自宅で仕事をしている場合の家賃。
・健康診断の費用。
・住民税の費用。
*個々の事例を列挙して解説し始めるときりがないので、ここでは割愛します。
これら1つ1つについてしっかりと自分で調べて、事業用の費用と私用の費用を分けておかないと、確定申告の際に必ずと言っていいほど、費用の計上忘れが発生して、結果として税金を多く払うこととなります。
そのため、費用を支払う時はその都度「事業用」なのか「私用」なのかを調べ、使用する口座やクレジットカードもきっちりと分けて管理する必要があります。
始めはめんどくさく感じるかもしれませんが、ある程度パターン化していきますし、また、確定申告の際に過去に遡って1つ1つ見ていくよりは、はるかに楽です。
事業用の帳簿をつける際は、会計ソフトの利用がおすすめです。
簿記3級の知識を身につけても、正直なところ独力で会計帳簿全てを作成するのは難しいです。
かといって、公認会計士や税理士などの専門家に依頼するほど複雑でもなく、費用もそこまでかけたくないという本音もあるかと思います。
この点、「freee」などの会計ソフトであれば、1カ月あたり1,000円~3,000円程度で帳簿作成が可能です。
基本的な情報を毎回入力していけば、各種帳簿は自動で作成してくれますし、プランによってはチャットやメールでのサポート体制もありますので、ぜひ検討してみてください!
3) 費用は証拠を残す
守りの会計知識の次のポイントとしては、「費用は証拠を残す」ことが考えられます。
よく「領収書はとりあえず持っておいた方がいい」という話を耳にするかと思います。
この点について、毎回確定申告の際に領収書などの証拠を提出すると思われている方もいますが、確定申告の際の提出は不要となります。
ではなぜ必要なのか?というと、税務調査があった際に、費用計上の証拠として提出するために、7年間は会計帳簿とその証拠を保存する義務があることが、税法に規定されているためです。
(法人の場合は会社法の規定により、10年間の保存義務があります。)
そのため、費用の証拠は必ず毎回入手するようにしてください。
この作業は毎月やった方がいいです。
と言いますのも、クレジットカードの明細や請求書の発行などは、期限が設けられているものが多く、1年分をまとめて発行しようとしたら発行できなかった、といったケースも考えられるためです。
少しめんどうかもしれませんが、毎月初に前月分の費用の証拠を確認する作業を、習慣化する必要があります。
費用の証拠書類として、まず思い浮かぶのは、領収書かと思います。
ただ、領収書がない、あるいは領収書をもらい忘れた費用については、その他の証拠を残す必要があります。
費用の証拠としては、以下のようなものが考えられます。
(*上から順に、優先度(証拠能力)が高くなります。)
(*レシートは領収書よりも、証拠としての価値が高い場合があります。)
・領収書
・レシート
・請求書
・納品書
・領収したことが確認できるメール
・出金伝票(日付・用途・支払先・金額が記載されたもの。)
4) 青色申告の申請
守りの会計知識の最後のポイントとしては、「青色申告の申請」が考えられます。
確定申告には白色申告と青色申告があり、以下のような違いがあります。
白色申告 | 青色申告 | |
前提条件 | 誰でも利用可能。 | 複式簿記による帳簿作成。 青色申告承認申請書の提出。 |
65万円の特別控除 | ✖ | 〇 |
経費で認められる範囲 | 狭い | 広い |
純損失の繰り越し | ✖ | 〇 |
専従者給与を必要経費として算入 | ✖ | 〇 |
30万円未満の固定資産の一括費用計上 | ✖ | 〇 |
貸倒引当金の計算 | 煩雑 | 簡単 |
各項目の詳細については本記事では割愛しますが、ここでお伝えしたいのは、圧倒的に青色申告の方がメリットが大きいということです。
そのため、青色申告をするための前提条件となる、2つの項目について対応する必要があります。
1つ目の複式簿記による帳簿作成については、前述の通り簿記3級を勉強して、会計ソフトを使って事業用の記録をして、費用に関して証拠を残しておけば、とりあえずは問題ありません。
2つ目の青色申告承認申請書については、作成自体はfreeeなどの会計ソフトを使えばすぐにできるのですが、「開業日から2ヵ月以内」または「3月15日まで」の提出期限に注意が必要です。(*開業日が1月1日~15日の場合も3月15日が期限となります。)
提出期限を過ぎるとその年は、青色申告での確定申告ができなくなります。
2. 攻めの会計知識
2つ目の自営業が勉強すべき会計知識としては、「攻めの会計知識」が挙げられます。
攻めの会計知識とは、売上を拡大するため、あるいは、利益をだすために必要な会計知識のことを指します。
1) まずは現状把握
攻めの会計知識としてまず必要になるのは、現状を把握することです。
現状を正しく認識していないと、将来に対する具体的なプランを立てることができません。
ただ、現状把握のために何か特別なことをする必要があるわけではなく、正確な会計帳簿を作成すれば問題ありません。
日々の取引の結果を集約した会計帳簿を見ることで、事業の現状を把握することができます。
2) 会計数値を分析する
現状を把握したら、把握した各会計数値を分析して、具体的なアクションプランを練る必要があります。
会計数値の分析方法としては、いくつも種類があるのですが、ここでは代表的なものをご紹介します。
売上に対してどの程度利益が上がっているのか?投下した資本に対してどの程度利益をあげているのか?について分析する手法となります。
(詳細:「収益性分析とは?ビジネス会計検定で学べる各指標をご紹介!」)
流動資産や流動負債の関係から短期の安全性について、固定資産や固定負債・自己資本の関係から長期の安全性について分析する手法となります。
(詳細:「安全性分析とは?各指標を学ぶにはビジネス会計検定がおすすめ!」)
上記の手法は上場企業などの規模の大きい企業に対してのみ有効な手法だと考えている人もいますが、自営業などの規模の小さい事業の分析にも有効な手法です。
分析の結果、事業のボトルネックを把握することができ、将来の改善活動につなげることができます。
3) ビジネス会計検定3級&2級
上述の各分析手法の基礎を学ぶのにおすすめなのが、「ビジネス会計検定3級&2級」となります。
検定試験であれば、必要な基礎知識が体系的にまとまっており、また、試験合格という短期的な目標設定ができてモチベーションも維持できるため、短期間で知識を付けたい方には非常におすすめです。
ビジネス会計検定の各級の詳細については、以下をご参照ください。
・3級:「ビジネス会計検定3級が必要ない人とは?受験要項や難易度は?」
・2級:「ビジネス会計検定2級とは?3級との違いは?挑戦すべき5つの理由」
4) 会計センスを磨く
最後に、攻めの会計知識の土台となる会計センスを磨くために、おすすめの方法について紹介していきます。
① 事業の会計数値を頭に叩き込む
1つ目の会計センスの磨き方としては、「事業の会計数値を頭に叩き込む」ことが挙げられます。
会計センスが優れている人は、常に自分の中に比較軸を持っています。
「この数値は○○の何倍の数値だからすごいな。」「○○の方が多くの広告費を使っている。」といったように、自分が既に知っている数値と比較しながら、会計数値を分析していきます。
そして、自営業の人におすすめなのが、自分の事業の数値を徹底的に頭に叩き込んで、比較軸にする方法です。
自分の事業の数値を比較軸にすることで、全ての会計数値を自分事として捉えることができます。
「自分の事業の数値を把握するなんて当たり前!」と思われたかもしれませんが、例えば、先月の売上と費用はいくらで、その結果として利益がいくらだったか、今すぐ即答できますでしょうか?
即答できなかった方は、いつ聞かれても答えられるように、頭に叩き込んでください。
② 株式投資
2つ目の会計センスの磨き方としては、「株式投資」が挙げられます。
会計センスは実際に会計を使ってみることで、磨かれていきます。
しかも、自分のお金がかかっていれば、より真剣に自分事として取り組むことができ、成長速度を加速させます。
株式投資であれば、投資対象企業の財務分析を行うために会計の知識を使う必要がり、かつ、自分のお金を投資することになるためおしりに火がつきます。
始めはあまり難しく考えず、自分が好きな企業の株を少額買ってみることをおすすめします。
③ 株主総会への参加
3つ目の会計センスの磨き方としては、「株主総会への参加」が挙げられます。
株式投資の場合、有価証券報告書という紙切れ・電子データの数値を分析するにとどまるケースが多いです。
そこでおすすめしたいのが、株主総会への参加です。
財務数値の裏側にある、社長や社員の思いに触れることで、会計数値に意味・ストーリーを持たせることができます。
単なる数値遊びから、数値の背景にあるストーリーを想像できるようになることで、会計センスが大きく磨かれることとなります。
3. 終わりに
自営業が勉強すべき会計知識について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
自営業となることは、1つの事業のオーナーになることであり、事業全体を評価・分析して、次へのアクションプランを立てるために、会計知識は必須となります。
この機会にぜひ、必要な会計知識を身に付けましょう。
4. まとめ
◆会計帳簿を使った現状把握、会計数値の分析、会計センスを磨く、などの「攻めの会計知識」も必要。