「簿記がないと経理ってできないの?」
「簿記を持っていたら経理に転職する際に有利なの?」
経理に興味がある人であれば、一度はこのような疑問を持ったことがあるのではないでしょうか?
今回はそんな疑問を解消するために、経理に簿記が必須か否かについて、公認会計士として数多くの経理を見てきた筆者が解説させていただきます。
1. 経理に簿記は必須ではない!?
2. 体系的に学べて全体像を理解できる
3. 就職・転職の際に客観的な実力証明に
4. 経理であれば2級までは必要
5. 簿記×ビジネス会計検定で差別化
6. 終わりに
7. まとめ
1. 経理に簿記は必須ではない!?
経理は会計に関する専門職であり、会計に関する知識は当然必須となります。
ただ、初めから会計知識を持っておく必要があるかというと、必ずしもそうではありません。
ある程度の規模の会社であれば、しっかりとしたOJT(On-the-Job Training、オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が組まれております。
また、ベンチャーや小規模な会社の経理でない限り、自身が初めに担当する業務の範囲は限られており、マニュアル通りの定型作業の場合も多いです。
定型作業の場合、エクセルで式が組まれているため、作業自体は簡単となります。
そのため、簿記がないからといって悲観的になる必要はなく、実務の中で直接学べば経理として十分やっていけるでしょう。
この観点から言うと、経理に簿記は必須ではないと言えます。
ただし、次の2つの理由から、経理業務に就く際は、簿記を取得することをおすすめいたします。
2. 体系的に学べて全体像を理解できる
突然ですが、皆様は経理の業務を具体的に想像できますでしょうか?
例えば以下のようなものがあります。
・月次、年次決算整理
・税務申告
・会計監査対応
・予算管理…等
上記の作業のなかで、簿記の知識を使わないものはどれでしょうか?
税務申告でしょうか?
予算管理でしょうか?
・・・実は全て簿記の知識を必要とします。
税務申告も簿記の知識を前提としておりますし、予算管理も基礎資料は簿記の知識をもとに作成されます。
つまり、経理のあらゆる作業に簿記の知識が必要となります。
経理業務の土台となる知識を体系的に学び、全体像を理解するのに簿記は非常に重要となります。
経理に簿記は必須か?と聞かれるとそうでないと答えますが、あった方がいいか?ときかれると多くの人があった方がいいと答えるのはそのためです。
他にも、簿記で経理の全体像を把握しておくことで、 以下のようなメリットがあります。
・専門用語が職場で使用された際に、話についていくことができる。
・自分が今やっている業務が全体の中のどこかを把握することで重要性が理解でき、モチベーションを保つことができる。
以上が簿記取得をおすすめする、1つ目の理由となります。
3. 就職・転職の際に客観的な実力証明に
2つ目の理由は、就職や転職の際に履歴書に記載することができ、客観的な経理能力の証明に簿記が役立つ点です。
大学生であれば、過去の経理業務の経験は当然にないため、簿記を持っているか否かが、就職にあたり大きな差別化ポイントになります。
また、経理経験者の方が転職する際は、実務経験にプラスして簿記を持っておくことで、さらなるステップアップが望めます。
経理未経験者の方が経理に転職する際も、客観的な経理能力の証明として役に立ちます。
簿記と就職・転職の関係については「簿記2級・3級は就職・転職に有利?履歴書の書き方もご紹介!」も合わせてご確認ください。
前職で、経理の面接も担当していたことがあったのですが、正直なところ面接の場で経理としての能力を測定するには、限界がありました。
ではどうやって経理としてのスキルを確認していたのか?というと、「経理としてのキャリア」を見ていました。
ただ、経理としてのキャリアがない人も当然います。
その場合は、簿記などの会計系の資格の有無と、いつ取得したのかを確認していました。
経理としての経験がなければ、簿記などの資格で、最低限のスキルをアピールするのがおすすめです。
4. 経理であれば2級までは必要
それでは、具体的に何級まで取得すればよいのでしょうか?
簿記検定試験の合格率は以下のように、3級約40%、2級約20% 、1級約10%となっており、級が上がるほど難しくなり、取得までに時間がかかります。
(ネット試験では2級の合格率が40%前後となっており、3級と変わらない合格率となっております。)
【3級】
・統一試験
回数 | 受験 者数 |
実受験 者数 |
合格 者数 |
合格率 |
166 | 28,565 | 23,977 | 8,706 | 36% |
165 | 30,387 | 25,727 | 8,653 | 34% |
164 | 31,818 | 26,757 | 9,107 | 34% |
163 | 37,493 | 31,556 | 11,516 | 37% |
162 | 39,055 | 32,422 | 9,786 | 30% |
161 | 43,723 | 36,654 | 16,770 | 46% |
160 | 52,649 | 44,218 | 22,512 | 51% |
159 | 58,025 | 49,095 | 13,296 | 27% |
158 | 58,070 | 49,313 | 14,252 | 29% |
157 | 70,748 | 59,747 | 40,129 | 67% |
156 | 77,064 | 64,655 | 30,654 | 47% |
155 | 中止 | |||
154 | 100,690 | 76,896 | 37,744 | 49% |
153 | 99,820 | 80,130 | 34,519 | 43% |
152 | 91,662 | 72,435 | 40,624 | 56% |
・ネット試験
期間 | 受験 者数 |
合格 者数 |
合格率 |
2023/4 ~2024/3 |
238,155 | 88,264 | 37% |
2022/4 ~2023/3 |
207,423 | 85,378 | 42% |
2021/4 ~2022/3 |
206,149 | 84,564 | 41% |
2020/12 ~2021/3 |
58,700 | 24,043 | 41% |
【2級】
・統一試験
回数 | 受験 者数 |
実受験 者数 |
合格 者数 |
合格率 |
166 | 10,814 | 8,728 | 1,356 | 16% |
165 | 11,572 | 9,511 | 1,133 | 12% |
164 | 10,618 | 8,454 | 1,788 | 21% |
163 | 15,103 | 12,033 | 2,983 | 25% |
162 | 19,141 | 15,570 | 3,257 | 21% |
161 | 16,856 | 13,118 | 3,524 | 27% |
160 | 21,974 | 17,448 | 3,057 | 18% |
159 | 27,854 | 22,626 | 6,932 | 31% |
158 | 28,572 | 22,711 | 5,440 | 24% |
157 | 45,173 | 35,898 | 3,091 | 9% |
156 | 51,727 | 39,830 | 7,255 | 18% |
155 | 中止 | |||
154 | 63,981 | 46,939 | 13,409 | 29% |
153 | 62,206 | 48,744 | 13,195 | 27% |
152 | 55,702 | 41,995 | 10,666 | 25% |
・ネット試験
期間 | 受験 者数 |
合格 者数 |
合格率 |
2023/4 ~2024/3 |
119,036 | 41,912 | 35% |
2022/4 ~2023/3 |
105,289 | 39,076 | 37% |
2021/4 ~2022/3 |
106,833 | 40,713 | 38% |
2020/12 ~2021/3 |
29,043 | 13,525 | 47% |
【1級】
回数 | 受験 者数 |
実受験 者数 |
合格 者数 |
合格率 |
165 | 12,886 | 10,251 | 1,722 | 17% |
164 | 11,468 | 9,295 | 1,164 | 13% |
162 | 12,286 | 9,828 | 1,027 | 10% |
161 | 11,002 | 8,918 | 902 | 10% |
159 | 11,389 | 9,194 | 935 | 10% |
158 | 9,310 | 7,594 | 746 | 10% |
157 | 7,785 | 6,351 | 502 | 8% |
156 | 10,078 | 8,553 | 1,158 | 14% |
155 | 中止 | |||
153 | 9,481 | 7,520 | 735 | 10% |
152 | 8,438 | 6,788 | 575 | 9% |
以下の3つの理由で、2級までの取得を推奨します。
②3級は基礎的過ぎるのに対して、1級は専門的な内容でかなり難易度が高く、費用対効果が悪いため。
③工業簿記や連結会計など、より実践的な内容を学べるため。
簿記2級であれば「200時間」程度の勉強で取得でき、経理経験者であれば「100時間」程度での取得も可能ですので、この機会にぜひ取得を検討してみてください。
簿記講座の元運営責任者が、「講座代金(安さ)」と「講座との相性(わかりやすさ)」の観点から、おすすめ通信講座を以下の5つに絞り、メリット・デメリットについて解説してみました。
・クレアール
・フォーサイト
・ネットスクール
・CPA会計学院
・スタディング
詳細は「簿記の通信講座おすすめ5選!安さとわかりやすさで比較すると..」をご確認ください。
5. 簿記×ビジネス会計検定で差別化
簿記との同時取得をおすすめするのが「ビジネス会計検定」です。
両資格の違いは「ビジネス会計検定と簿記検定の共通点、相違点は?」をご参照ください。
簿記の勉強を通じて、経理の日常業務の基礎知識を習得できます。
また、ビジネス会計検定の勉強を通じて、簿記の知識を使って作成した各書類を分析する能力が身に付き、社内・社外に対して自社の状況を適切に説明する能力がつきます。
簿記を持っている経理は多数いても、「簿記×ビジネス会計検定」の知識を持っている経理はかなり希少であり、差別化することができます。
さらに、以下の理由から、ビジネス会計検定も簿記同様に、2級までの取得で問題ございません。(「ビジネス会計検定は1級まで取得する必要がある??」参照。)
・財務諸表分析の全体像を学ぶことができる。
(2級の勉強時間についても簿記同様に200時間程度ですので、「ビジネス会計検定の勉強時間・勉強期間はどのくらい??」を参考に、計画的に勉強を進めてみてください。)
6. 終わりに
いかがでしたでしょうか?
経理業務において簿記の取得は必須ではないです。
一方で、取得する方が皆様のキャリアアップにもつながり、費用対効果も高いことをご理解いただけたかと思います。
受験するかどうか迷われている皆様は、騙されたと思ってとりあえず勉強を開始してみてください。
7. まとめ
◆ただ、簿記があった方が有利に働く。
◆理由①:経理業務の土台となる知識を習得できる。
◆理由②:就職・転職で実力をアピールできる。
◆ビジネス会計検定の同時取得もおすすめ。