簿記取得は公認会計士試験には意味がない?メリット・デメリットとは?

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公認会計士試験に興味を持った際に一度は考えるのが、公認会計士試験の勉強を開始する前に、簿記の勉強をした方がいいのか?といった点です。

そこで今回は、公認会計士試験の前に簿記を取得することの、メリットとデメリットについてお伝えしていきます。

事前に簿記を取得することのメリット・デメリットを正しく理解して、公認会計士試験合格に向けてプランを練りましょう。

【筆者の情報】
・公認会計士のマツタロウ
・簿記検定を受けずに会計士試験合格
・前職で公認会計士講座の責任者を担当
・大手監査法人→経理部に出向
 →教育×ITベンチャー→自営業

 

 

1. 公認会計士試験とは?

公認会計士試験とは?

1) 公認会計士試験とは?

公認会計士試験とは、公認会計士・監査審査会が主催する、公認会計士たる技能・知識を有するかを判定する国家試験となります。

マーク式の短答式試験と、記述式の論文式試験から構成されております。

論文式試験を合格したらすぐに公認会計士になれると思われている方もいますが、実はすぐにはなれません。

合格後監査法人などで働きながら、仕事終わりに実務補修所という場所に1~3年程度通った後に、最後の修了考査に合格して、晴れて公認会計士として登録することができます。

★筆者の経験談
皆様は公認会計士という職業について、どの程度理解されていますでしょうか?
名前からも想像できるように、会計の専門家であるといった点は一般的に理解されていますが、具体的な業務についてはほとんどの方が知らないのが実情かと思います。

かく言う私も、公認会計士を始めて目指した時は、「企業のお医者さん」というネーミングから、「ビジネスに役立ちそうだな」と漠然と思った程度でした。
(筆者の経歴については「公認会計士のキャリア:監査法人⇒ベンチャー⇒自営業の私の経験談!」をご参照ください。)

公認会計士は独占業務である「監査」がメインの業務となります。
監査とは、企業が自己採点で提出した会社の経営成績(売上・費用や利益など)や財務状況(資産・負債など)について、「この企業の採点はこれで問題ないですよ」とお墨付きを与える業務です。

その他会計面のコンサルや税理士業務、経理業務など、幅広いフィールドで活躍できる資格となります。

 

2) 試験科目

① 試験科目概要

【短答式試験】

・財務会計論 [200点]

・管理会計論 [100点]

・監査論 [100点]

・企業法 [100点]

 

【論文式試験】

・会計学(財務会計論・管理会計論)[300点]

・監査論 [100点]

・企業法 [100点]

・租税法 [100点]

・選択科目 [100点]

*経営学、経済学、民法、統計学から1科目選択

 

② 試験科目詳細

・財務会計論
計算問題の簿記と、理論問題の財務諸表論に区分されます。
簿記はさらに、商業簿記と工業簿記(管理会計論)に区分されます。
会計基準に従って実際に財務諸表を作成する能力や、会計処理の理論的背景が問われます。
配点からもわかるように、公認会計士試験において最も大事な科目となります。
・監査論
公認会計士の独占業務である監査の基礎的な概念や、実務的な手続きについて出題される科目となります。
監査基準や実務指針といった規定に基づき、企業が提出した財務諸表に重要な誤りがないと結論付けるために必要なプロセス・考えについて扱うと共に、独立性を担保するための倫理規定などの分野についても扱います。
・企業法
会社法から主に出題される科目となります。
(その他には商法や金融商品取引法が出題範囲となります。)
監査をするにあたり、企業の機関設計などのガバナンスや、事業譲渡や株式交換といった組織再編に関する知識が必要となり、このあたりが含まれている法律である会社法が出題範囲となっております。
・租税法
法人税法・所得税法・消費税法が試験範囲となる科目となります。
会計とは切っても切り離せない税金に関する知識を扱う分野です。
論文式試験のみとなります。
・選択科目(経営学)
論文式試験のみで実施される選択科目については、9割以上の受験生が経営学を選択します。
経営学は経営やマーケティングに関する基礎的な知識から、財務諸表分析までを扱った科目となります。

*余談ですが、管理会計論・経営学の財務諸表分析に関しては、ビジネス会計検定2級の勉強をしておけば、基礎的な内容をカバーできます。ビジネス会計検定2級については「ビジネス会計検定2級とは?3級との違いは?挑戦すべき5つの理由」をご確認ください。

 

3) 難易度・合格率

【短答式試験】

公認会計士試験
短答式
合格率
2023 15%
2022 16%
2021 22%
2020 22%
2019 23%
2018 26%
2017 23%
2016 22%

*合格率=合格者数÷(受験者数-欠席者数)
*例:2023年15%=2,103人÷(18,228人-4,569人)

 

【論文式試験】

公認会計士試験
論文式
合格率
2023 37%
2022 36%
2021 34%
2020 36%
2019 35%
2018 36%
2017 38%
2016 36%

最終的な合格率は、『短答:20% × 論文:35%』の7%前後となります。

司法試験と並んで文系最難関資格に位置付けられており、受験者層のレベルも高いため、合格率以上の難しさを感じる試験となります。

 

4) 試験日程

・短答:12月に第Ⅰ回試験、5月に第Ⅱ回試験の計2回開催されます。

・論文:8月下旬の1回のみとなります。

 

5) 受験資格

受験資格はなく、誰でも受験することが可能です。

 

6) 勉強時間

最低でも3,000時間程度の勉強時間が必要となります。

平日2時間、休日7時間の勉強を2年半やり続けたら3,000時間に到達します。

そのため、少なくとも3年程度は勉強に専念する必要があります。

 

7) 簿記検定との関係性

公認会計士試験の財務会計論の中に簿記が含まれております。

また、簿記2級で扱う工業簿記も、管理会計論として公認会計士試験の範囲に含まれております。

 

2. 簿記取得のメリット

簿記取得のメリット

ここからは、公認会計士試験の前に簿記を取得するメリットを5つ紹介していきます。

簿記2級までの取得を前提としておりますので、その点はご注意ください。

 

1) 公認会計士試験に対する適性を測れる

1つ目のメリットは、公認会計士試験、ひいては公認会計士に対する自身の適性を測ることができる点が挙げられます。

公認会計士試験を受験するとなると、人生のうち数年間を勉強に捧げることとなります。

最終的に合格できれば問題ないのですが、勉強を進めて数年たった後に、会計という分野が自分には合わないということに気づいた場合でも、既に犠牲にしてきた時間、お金があるので、受験勉強をやめるにやめられない状況となってしまいます。

こうならないためにも、まず簿記の勉強をすることで、会計に対する適性の有無を判断することができます。

ここで言う適性とは、会計が好きか嫌いか?と言うよりは、最低限会計を学んでいける素養があるか?といった点を意味しております。

そのため、得意になれなくても、簿記2級まで合格した場合は、十分会計に対する適性があると言えます。

 

2) 勉強内容がそのまま公認会計士試験に活きる

2つ目のメリットは、簿記検定で勉強した内容が、そのまま公認会計士試験につながるといった点が挙げられます。

他の資格と同じような分野を扱う資格はいくつかありますが、簿記検定と公認会計士試験ほど、勉強内容が結びついている資格同士はめずらしいです。

そのため、簿記検定2級を取得した後は、スムーズに公認会計士試験の勉強に移行することができます。

 

3) モチベーション維持につながる

マイルストーンという言葉を皆様ご存知でしょうか?

ビジネスシーンでよく使用される言葉ですが、物事の節目を意味する言葉であり、中間目標のことを言います。

公認会計士試験の勉強はとても長丁場となり、途中で勉強に対するモチベーションの維持が誰しも難しくなってきます。

そこで有効となってくるのが、途中にマイルストーンを設けて、小さな達成を経験することで、モチベーションを維持する方法です。

そして、公認会計士試験におけるマイルストーンとして、「簿記3級合格」「簿記2級合格」を設定しておくことは、中だるみを防ぎ、非常に有効な方法となります。

 

4) 公認会計士試験に合格できない場合のリスクヘッジ

4つ目のメリットとしては、最終的に公認会計士試験に不合格だった場合でも、簿記を取得していれば、最低限社会的に評価を受けることができる点が挙げられます。

何年か勉強して、惜しくも公認会計士試験がダメだった場合に、その過程は自身の糧にはなりますが、客観的な評価としては、3年勉強して落ちた人と全く勉強していない人は同じ扱いとなることが多々あります。

この点、簿記2級までを持っておけば、例えば経理職への就職・転職を考えた場合、一定程度の評価を受けることができます。

もしもの時のセーフティーネットとなる点も、簿記取得のメリットとなります。

(簿記と就職・転職の関係性については「簿記2級・3級は就職・転職に有利?履歴書の書き方もご紹介!」をご確認ください。)

 

5) 簿記を得意科目にできる

5つ目のメリットは、事前に簿記の勉強をしておくことで、公認会計士試験で簿記を得意科目にすることができる点が挙げられます。

会計士試験は科目数が多く、全てを満遍なく学習していく必要がありますが、全ての科目を同時並行で進めるのはかなり難しいです。

この点、一番勉強に時間がかかる簿記だけでも先に勉強しておき、得意科目にすることができれば、後は暗記科目を覚えることに集中できるので、相当なアドバンテージになります。

また、短答式試験の簿記はスピード勝負となりますので、簿記は早いうちから勉強を積み重ねて、スピードを上げておく必要もあります。

 

★簿記のおすすめ通信講座
簿記講座の元運営責任者が、「講座代金(安さ)」と「講座との相性(わかりやすさ)」の観点から、おすすめ通信講座を以下の5つに絞り、メリット・デメリットについて解説してみました。

・クレアール
・フォーサイト
・ネットスクール
・CPA会計学院
・スタディング

詳細は「簿記の通信講座おすすめ5選!安さとわかりやすさで比較すると..」をご確認ください。

 

3. 簿記取得のデメリット

簿記取得のデメリット

それでは、事前に簿記を取得することのデメリットはあるのでしょうか?

以下でデメリットを5つ紹介していきます。

 

1) 費用がかかる

1つ目のデメリットは、簿記検定の受験料や予備校代などの費用負担がある点が挙げられます。

勉強への先行投資は、しっかりと勉強して知識をつければ、多く場合後から投資を回収できます。

しかしそうは言っても、1円でも安くできるのであれば、安いに越したことはありません。

そのため、事前に簿記検定を受験するよりは、いきなり公認会計士試験を受験した方が、費用面から考えた場合はお得となります。

★筆者から一言
一方で、予備校によっては簿記取得者に対して割引を実施しているところもあり、金銭的な負担はあまり変わらないとも言えます。

また、もし簿記を通じて自分に会計分野は合わないと判断して、会計士試験をやめた場合は、むしろ大きな費用の節約になる可能性があります。

 

2) 実は少し遠回りになる!?

2つ目のデメリットとしては、簿記2級までの勉強をすることが、実は公認会計士試験の合格を考えた場合、少し遠回りになるかもしれないといった点が挙げられます。

と言いますのも、前述の通り簿記検定の内容は公認会計士の財務会計論・管理会計論の内容とかなり関係しているのですが、似て非なるものであるのも事実です。

誤差の範囲内と言えばそうなのですが、会計士試験ではまず出題されないような論点については本来飛ばすはずが、簿記検定を取得するために勉強することになる、といったことも起こりえます。

★筆者の体験談
実は私は簿記3級すら勉強せずに、いきなり公認会計士試験の勉強を開始しました。
そんな私でも合格できましたので、簿記を事前に勉強することは、絶対に必要なことではないです。

当時は大手予備校の会計士講座を受講していたのですが、講師の方が濃淡をつけた講義をされており、本来簿記検定であればもう少し扱うであろう論点について、軽く扱っていたケースもありました。

 

3) スケジュール調整が難しい

3つ目のデメリットは、会計士試験の勉強スケジュールの調整が、少しくるってしまうかもしれない点が挙げられます。

簿記検定を事前に受験する場合、どうしても簿記検定の試験日に合わせて、その後の会計士試験の勉強スケジュールを組むこととなります。

うまくスケジュールが合えばいいのですが、最悪の場合タイミングが合わなければ、簿記検定のために会計士試験の目標年度が一年ずれる可能性さえあります。

そのため、スケジュール調整の点も事前に簿記検定を受験するデメリットとなります。

 

4) 簿記にはまってしまう可能性

4つ目のデメリットは、簿記にはまってしまい、簿記1級まで目指してしまうことです。

簿記が楽しく、はまってしまう人は一定数います。

そして、はまった人達が目指すことが多いのが、簿記検定1級です。

公認会計士試験合格後に簿記検定1級を受験するのであれば、全く問題ありません。

しかし、簿記が楽しくなってしまったあまりに、事前に簿記1級まで受験するのは、簿記取得が会計士試験のための「手段」ではなく、簿記取得自体が「目的」となってしまっています。

(簿記1級については「簿記1級は無駄?勉強時間や合格率を踏まえて徹底解説!」も合わせてご参照ください。)

 

5) 決意が鈍る

最後のデメリットは、とりあえず簿記を受けることで、公認会計士を目指すという決意が鈍る可能性が挙げられます。

一時的にモチベーションが上がって、その勢いで公認会計士試験の受験を決めた人達に起こりうることなのですが、簿記検定を間に挟むことで、良くも悪くも一旦冷静になってしまい、公認会計士試験に対するモチベーションが低下してしまうことがあります。

メリットでお伝えしたモチベーションの維持につながることと矛盾するかもしれませんが、公認会計士試験のレベルになると、早めに決意を固めて、引くに引けない環境を作ることも大切になってきます。

そのため、簿記検定を受験することで、会計士試験受験の決意が鈍ることは、デメリットと言うことができます。

 

★費用と合格者数を比較!
公認会計士講座の元運営責任者が、費用と合格者数の観点から、以下の5つの公認会計士スクールを比較してみました。

・CPA会計学院
・TAC
・大原
・LEC
・クレアール

詳細については「公認会計士スクールを費用と合格者数で比較!元講座運営者のおすすめは?」をご参照ください。

 

4. 終わりに

公認会計士試験の勉強を開始するにあたり、事前に簿記検定を受験するか否かについてお伝えしてきましたが、いかがでしたでしょうか?

既にお伝えした通り、事前に簿記検定を受験することには、メリットもデメリットもあります。

両方とも理解した上で、ご自身が納得できる選択をしてください。

 

5. まとめ

Point! ◆メリット:適性を測れる・試験内容が重複している・リスクヘッジ・得意科目にできるなど。
◆デメリット:費用負担・最短ルートではない・スケジュール調整が難しい・簿記1級まで目指してしまうなど。

会計士スクールをコスパで比較 >>