簿記1級は、簿記検定の最高峰とされていて、取得すれば会計のエキスパートとし、て大企業の経理部などで活躍できます。
しかし、予備校などの講座で勉強すると受講料が10万円以上かかるため、独学を考えている方も多いのではないでしょうか?
インターネット上には独学で合格した人の体験談がありますが、反対に独学は無理という意見もあります。
今回の記事では、本当に簿記1級は独学では無理なのか?これから学習する人は何から始めればいいのか?などを解説します。
1. 簿記1級の独学が無理な理由
1) 難易度が非常に高い
2) 難解な論点が多い
3) 試験範囲が広い
4) 新たな科目が加わる
5) 過去問が役に立たない
6) 傾斜配点がある
2. 簿記1級の受験は何から始めるべき?
1) 予備校の講座利用の検討
2) 簿記2級を取得する
3) 独学なら科目を並行して学習する
3. 簿記1級の独学が問題ないケース
1) 会計士や税理士の勉強をしている
2) 特定の分野だけを勉強したい
3) 全経簿記上級を取得している人
4. 終わりに
5. まとめ
1. 簿記1級の独学が無理な理由
簿記1級は難易度が高く、論点も難しい内容ばかりで、独学は無理だと言われています。
ここでは、簿記1級の独学が無理な理由を、順に6つ紹介します。
1) 難易度が非常に高い
簿記1級は資格試験の中でも難易度が高く、合格率はわずか10%ほどです。
毎回10,000人前後が受験しますが、合格者は約1,000人しかいません。
同じくらいの合格率の資格には、行政書士や土地家屋調査士、弁理士、社会保険労務士など、そうそうたる国家資格が並びます。
ただし、資格試験の難易度は合格率だけでなく、受験者層も考慮することが大切です。
基本的に受験資格に制限がなければ、誰でも受けられるため合格率は低くなります。
簿記1級に受験資格はなく、誰でも申し込みが可能です。
しかし、実際に受験する人は、公認会計士や税理士試験の受験生、簿記2級合格者が大半です。
また、普段の仕事で経理をしていたり、経営者など数字に携わっている人も多くいます。
他の資格と比べても受験者層の質は高く、それでも10%しか合格しない難関試験と言えます。
2) 難解な論点が多い
簿記1級は理解するのに時間がかかる、難解な論点が多いことでも知られています。
例えば、以下のような論点が出題されます。
・税効果会計
・デリバティブ取引、ヘッジ会計
・連結会計
簿記2級でも出題される論点はありますが、簿記1級はさらに細かい処理を求められます。
簿記2級の連結会計は基本的な問題がメインですが、1級では子会社獲得時の資産・負債の評価や子会社株式の追加取得、個別財務諸表の修正などが出題されます。
デリバティブ取引も、簿記1級の受験生が苦手としている論点の一つです。
デリバティブ取引とは、先物取引や為替予約取引などで、馴染みがない人も多いのではないでしょうか。
取引が複雑で、馴染みが薄くイメージしにくいので、苦手とする人が多くいます。
このように簿記1級は、実生活や普段の仕事で経験していない論点が満載です。
経験したことがない論点は、全体像の把握が難しく、理解するのに時間がかかってしまいます。
3) 試験範囲が広い
簿記1級は、各論点の難しさだけでなく、試験範囲の広さも独学が無理といわれる理由です。
簿記2級のテキストは、商業簿記1冊、工業簿記1冊の計2冊となっていることが多いです。
これに対して簿記1級のテキストは、出版社により異なりますが、一般的には計6冊ほどです。
単純に考えて簿記2級の3倍の範囲があり、さらに各論点も難しくなっています。
試験範囲が広いため、勉強に必要な時間も増え、合格ラインに達するには最低でも600時間の学習が必要とされています。
社会人が土日も含めて毎日2時間勉強して、300日かかる計算なので、実際は1年がかりでの受験となるでしょう。
4) 新たな科目が加わる
簿記1級は試験科目が増えて、以下の4つになります。
・会計学
・工業簿記
・原価計算
新たな科目である会計学では理論問題が出題され、簿記2級までとは異なる学習が必要です。
簿記2級でも〇×形式で理論が出題されるケースはありますが、基本的に過去問などを暗記していれば回答できます。
しかし、簿記1級の理論問題は「企業会計原則」や「企業会計基準」を理解したうえで、なぜこの基準があるのか?など、背景まで把握することが大切です。
このように正しい勉強法を継続しないと、いつまで経っても合格ラインに達しない可能性があり、独学は無理といわれる理由の一つとなっています。
5) 過去問が役に立たない
簿記1級は「過去問が役に立たない試験」だと言われています。
簿記2級までは過去問で合格点を取れれば、本試験でも合格する可能性が高い試験です。
しかし、簿記1級は過去問と同じ問題が出題されるケースは稀で、ほとんどが初見の問題です。
過去問では何回か合格点に達しても、本試験は何回受けても合格しない受験生も多くいます。
試験時間の長さをイメージするために、過去問を解くことは大切ですが、過去問を何周もする意味はありません。
まずは基本を完璧にして、そこから応用力を磨くようにしましょう。
6) 傾斜配点がある
簿記2級は70点取れば合格できるため、問題の難易度により合格率が増減します。
しかし、簿記1級も同じ70点合格なのに、合格率は毎回ほぼ10%になっています。
これは、毎回の難易度が同じだからではなく、10%になるように傾斜配点があるためです。
傾斜配点とは、合格率を一定にするために、各問題への配点を変更することです。
簿記1級は難しい問題にも均等に配点すると、合格者が極端に減ってしまいます。
そのため、基本的な問題への配点を多くして、難問への配点は少なくなる傾向です。
難問を解くことが得意でも配点は少なく、基本的な問題で確実に得点しないと、簿記1級には合格できません。
何度も簿記1級に落ちている方は、基本問題を取りこぼしている可能性があります。
このように、簿記1級は特有の受験テクニックがあり、予備校であればテクニック面も教えてくれます。
独学で学習するとテクニック面が不足して、いつまでも合格できない可能性があるので注意が必要です。
2. 簿記1級の受験は何から始めるべき?
簿記1級を受験しようとしている方が、何から始めればいいのか解説します。
1) 予備校の講座利用の検討
簿記1級を受験するのであれば、まずは予備校の利用を検討しましょう。
初めて簿記1級を学習する場合、無理のある学習計画を立ててしまい、途中で挫折してしまうケースがあります。
予備校の講座で提供されるカリキュラムは、プロが作成しているため、初めて簿記1級に挑戦する方にも無理のない計画になっています。
予備校は、講師に質問できるのもメリットの一つです。
独学では不明点があるとインターネットで検索をしますが、文字だけでは理解しにくい論点もあります。
しかし、検索する以外に方法はないため、時間がかかり学習ペースが遅れてしまいがちです。
予備校であればプロの講師が分かりやすく教えてくれて、効率的に時間を使えるでしょう。
また、簿記1級は長期間の学習になり、途中でモチベーションが落ちてしまいます。
予備校では、一緒に学習する仲間がいて、切磋琢磨できることも特徴です。
仲間から刺激をもらいモチベーションを保てれば、合格への近道となるでしょう。
仕事や費用面などの理由で予備校の講座を受けられないのであれば、通信講座もおすすめです。
通信講座は通学よりも費用が安く、自宅にいながら授業を受けられます。
電話やメールで質問できるので、難しい論点も乗り越えられるでしょう。
簿記講座の元運営責任者が、「実績(合格者数)」と「コストパフォーマンス」の観点から、簿記1級のおすすめ通信講座を以下の3つに絞り、メリット・デメリットについて解説してみました。
・大原
・スタディング
・CPAラーニング
詳細は「簿記1級の通信講座おすすめ3選!会計士が実績とコスパを比較」をご確認ください。
2) 簿記2級を取得する
簿記1級は誰でも受験できるため、簿記2級を取得していなくても問題ありません。
しかし、簿記2級を完璧に回答できるレベルでないと、簿記1級には合格できません。
いきなり簿記1級から学習を始めると、難易度の高さから高確率で挫折してしまいます。
簿記の学習を続けていけるか判断するためにも、まずは簿記2級を取得してから1級に臨みましょう。
簿記2級に必要な学習時間は、250時間ほどと言われていて、独学でも十分に取得可能な難易度です。
簿記2級で基礎を整えてから簿記1級に臨めば、学習効率も上がり、スムーズに勉強できます。
(参考「簿記2級は独学では無理?」)
3) 独学なら科目を並行して学習する
簿記1級を受験する方は社会人が多く、学習できる環境はさまざまなので、どうしても独学する必要がある人もいます。
独学するのであれば、商業簿記、会計学、工業簿記、原価計算のすべての科目を、同時に学習するのがおすすめです。
簿記1級には足切りがあるため、苦手な科目を作らずに、すべての科目で40%以上を得点しなくてはなりません。
また、計算と理論を同時に勉強することで理解が深まることもありますし、気分転換にもなります。
そのため、すべての科目を同時に進めることが、合格への近道です。
独学では学習計画の立て方が、合否を大きく左右します。
多くの受験生は、「1日2時間勉強する」など、大雑把な計画を立てがちです。
しかし、大雑把な計画は、隙が生まれやすく挫折する原因となります。
挫折しない計画を立てるには、「〇時から〇時まで、商業簿記のテキスト10ページから20ページまで勉強する」など具体的に決めておきましょう。
さらに、病気になったり会社の飲み会で勉強できなかったりした場合は、「休日の学習時間を〇時間増やす」など、万が一の事態に備えた計画も立てておきます。
時間を指定して学習することで、毎日の勉強が習慣となり、何も考えずに机に向かうようになるでしょう。
3. 簿記1級の独学が問題ないケース
簿記1級は基本的に独学での合格は難しいですが、問題ないケースも存在します。
ここでは、独学をしても合格できる可能性が高いケースを、順に3つ紹介します。
1) 会計士や税理士の勉強をしている
公認会計士試験や税理士試験の学習をしていて、力試しとして簿記1級を受験する場合は、簿記1級の講座を受ける必要はありません。
① 公認会計士試験と簿記1級の関係
公認会計士は、会計の専門家として企業の監査を行う仕事です。
司法試験と並んで、日本最難関の資格とされています。
公認会計士の試験内容は、簿記だけでなく、企業法や租税法・監査論など多岐に渡ります。
公認会計士の試験範囲は、簿記1級の範囲をほぼ網羅していて、簿記1級の学習をする必要はありません。
公認会計士試験と並行して簿記1級の勉強をすると、公認会計士試験の学習の遠回りとなってしまうでしょう。
公認会計士試験は、簿記1級より応用的で難しい問題が出題されます。
公認会計士試験の学習をしっかりとしている方であれば、簿記1級に合格するのは、それほど難しいことではありません。
簿記1級を取得してから、公認会計士試験の学習を始める人も一定数います。
簿記1級は簿記資格の最高峰であり、ある程度のセンスが必要になるため、合格すれば公認会計士試験に合格する見込みもあり、試金石として使えます。
合格できないのであれば、公認会計士試験にも合格できない可能性が高いため、受験を諦めることも選択肢の一つです。
② 税理士試験と簿記1級の関係
税理士資格を得るには5科目の試験に合格する必要があり、簿記論は必須の科目です。
簿記論は、簿記1級と同じくらいの難易度と言われていて、範囲も大部分が被っているため、簿記1級の講座を受ける必要はありません。
簿記論は工業簿記が出題範囲に入っていますが、出題数が少なくあまり学習する必要はありません。
簿記1級で工業簿記や原価計算が苦手な人でも、商業簿記が得意であれば簿記論に合格する可能性があります。
しかし、商業簿記だけで考えると、簿記論は簿記1級よりも難しいと言われています。
簿記論は問題数が多く、すべての問題に回答するのは難しい試験です。
確実に点数を取る問題と、時間があれば回答する問題に分けて、効率的に回答する必要があります。
問題文を見て直感的に判断しなくてはならないので、簿記1級よりも演習問題を繰り返して、身体に染み込ませる必要があるでしょう。
(「公認会計士と税理士の違い・共通点とは?どっちがおすすめ?」も合わせてご確認ください。)
2) 特定の分野だけを勉強したい
簿記1級で深く学習する連結会計や税効果会計などは、実務でも役に立ちます。
経理の仕事をしていて、ある論点の知識が必要になった場合、簿記1級の講座を受けるとすべての範囲を学習するため効率的ではありません。
特定の分野だけを勉強するのであれば、テキストと問題集を購入して、独学をすれば十分に実務で使えるレベルになるでしょう。
仕事のために学習する場合でも、資格手当や昇進が目的であれば、特定分野の勉強ではなく合格が求められます。
3) 全経簿記上級を取得している人
簿記1級と同程度の資格として、全国経理教育協会が実施する、簿記能力検定上級があります。
出題範囲はほぼ同じで、資格を取得した際の評価も同程度です。(認知度は日商簿記の方がはるかに高いです。)
合格したら税理士の受験資格が得られる点も同じです。
直近の合格率は12~14%ほどで、簿記1級よりも合格率が多少高いため、税理士の受験資格が欲しいのであれば、全経上級も視野に入れるといいでしょう。
全経簿記上級を取得していれば、簿記1級のために予備校の講座を受ける必要はありません。
4. 終わりに
簿記1級の独学の難しさについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
簿記1級は各論点の難易度が高く、出題範囲も広いため、独学は無理だと言われています。
さらに、簿記1級からは会計学や原価計算などの新たな科目が加わり、過去問と同じ問題はほぼ出題されないことも、独学を難しくします。
これから簿記1級の学習を始める方は、まず予備校の講座を検討しましょう。
プロが組んだカリキュラムであれば、無理のない学習ができ、挫折する可能性が低くなります。
講師にいつでも質問できて、不明点をすぐに解決できるのもメリットの一つです。
ただし、公認会計士や税理士の勉強をしているのであれば、大部分が簿記1級の出題範囲と被っているため、独学でも問題ありません。
また、合格が目的ではなく、仕事のためなど論点を絞って学習したい方は、予備校に通うと必要ない論点まで学習するため、コストパフォーマンスが悪くなります。
簿記1級は合格ラインに達するまでの学習時間が長く、適切な計画を立てて取り組むことが大切です。
独学をしようと考えている方は、最後までやり遂げられるか再検討してから、学習を始めてください。
5. まとめ
◆これから学習を始めるなら、まず予備校を利用するか検討するべき。
◆公認会計士や税理士試験の受験生は、簿記1級と試験範囲が被っているため、予備校を利用する必要はない。