令和に入ってからの中小企業診断士試験の合格率は、6%~8%程度で推移しています。
100人受けて90人以上が落ちる計算ですから、途中で資格取得を諦めるケースも珍しくなく、資格学校などでは入学者の半分近くが、一次試験を受けることなく挫折するという話もあるくらいです。
もっとも、一度目指した資格を途中で諦めるのは、悪いことではありません。
魅力を感じて一歩踏み出したものの、仕事や家庭との兼ね合いで思ったようには進まなかった、というケースはよくあることです。
しかし、中には早合点で諦めてしまうケースもあるため、諦める前に考えるべきことをまとめました。
1. 今まで何時間勉強したか?
2. 学習環境は自分に合っているか?
3. 勉強方法を間違えてないか?
4. 一時的な停滞ではないか?
5. はずれ科目で落ちてないか?
6. 関連資格に挑戦してみたか?
7. 目指した理由を思い出せるか?
8. 終わりに
9. まとめ
1. 今まで何時間勉強したか?
まず大事になってくるのは、試験合格に必要な勉強時間をしっかりと確保してきたか?ということです。
勉強時間の確保が十分でなかったのであれば、成績が振るわない原因は能力や適性ではなく、単純に勉強時間が足りてないだけという可能性もあります。
以下の表は、有名資格学校が示している、中小企業診断士試験に合格するために必要な勉強時間数です。
LEC | 800時間~1,000時間 |
スタディング | 1,000時間 |
TAC | 1,000時間 |
フォーサイト | 1,000時間 |
アガルート | 1,000時間 |
どの学校も1,000時間を目安として掲載しています。
もちろん個人のスキルによって、必要な勉強量は大きく変わります。
例えば、大学生とコンサル会社の社員とでは、ベースとなる知識量が違うため、学習時間に差がつくのは当たり前です。
実際、ネットで合格者の声を見て回ると、短いケースで200時間、長いケースだと2,500時間という事例もありました。
その差2,300時間、まさに千差万別です。
しかし、1,000時間というのはそれなりに根拠のある数字で、例えば、資格学校のスタディングやTACでは、科目ごとに必要な学習時間を以下のように示しています。
(1次試験学習時間の目安)
科目 | スタディング | TAC |
企業経営理論 | 150時間 | 130時間 |
財務・会計 | 180時間 | 150時間 |
運営管理 | 150時間 | 120時間 |
経営情報 システム |
80時間 | 110時間 |
経済学・ 経済政策 |
100時間 | 120時間 |
経営法務 | 80時間 | 110時間 |
中小企業経営 ・政策 |
60時間 | 60時間 |
1次試験 トータル |
800時間 | 800時間 |
(2次試験学習時間の目安)
科目 | スタディング | TAC |
事例Ⅰ~Ⅲ | 100時間 | 100時間 |
事例Ⅳ | 100時間 | 100時間 |
2次試験 トータル |
200時間 | 200時間 |
学習状況が芳しくないのであれば、自分が勉強してきた時間を科目ごとに割り出し、上記の目安と比較してみると良いでしょう。
もしかしたら「苦手科目に時間を取りすぎてしまい、全体の進捗に悪影響が出ていた」といったことが分かるかもしれません。
(参考「中小企業診断士の勉強時間は1,000時間?半年合格は無理?」)
2. 学習環境は自分に合っているか?
諦める前にぜひとも見直してほしいのが、学習環境です。
これは非常に大事な要素で、ここを間違えると、挫折の可能性が高まってしまいます。
実際、ネットを少し調べただけでも、以下のような「挫折情報」がヒットします。
(挫折例)
いずれも、学習環境が自分に合ってないがために挫折した事例です。
では逆に、うまくいったケースはどうなのかと調べてみると、上手くいった人でも学習環境が原因で挫折しかけたという話は、よくある話のようです。
しかし、挫折をそのままにせず、自分が勉強を継続するためにはどうしたらよいかを考えたうえで、以下のような見直しをしています。
(見直した例)
挫折しそうなときには、思い切って学習環境をガラッと変えてみるのがおすすめです。
中小企業診断士講座の元運営責任者が、以下の7つの通信講座のコストパフォーマンスを比較して、おすすめ2つのメリット・デメリットについて解説してみました。
・TAC
・スタディング
・診断士ゼミナール
・クレアール
・LEC
・アガルート
・フォーサイト
詳細は「中小企業診断士の通信講座おすすめ2選!元講座運営者が比較します」をご確認ください。
3. 勉強方法を間違えてないか?
独学の場合に多いのが、勉強は継続できているのに成績が伸びない、というケースです。
この場合は、勉強方法を間違えているかもしれません。
例えば、暗記に執着してしまって演習問題が後回しになる、といったケースです。
本人は演習問題を解くために暗記をするのですが、暗記が先にくると、使いどころの分からない知識を延々と覚えることになります。
多くの人は苦痛に感じますし、眠気との闘いにもなりやすく、覚えたつもりでもなかなか定着しません。
逆に、暗記ではなく演習問題を優先させ、わからない単語や論理をしらみつぶしに調べていくという方法なら、周辺知識と結び付けて覚えることができるので、知識が定着しやすくなります。
最初は暗記以上に大変ですが、実践的な訓練と紐づけて知識が増えていくので、やればやるほど成績が伸びやすくなります。
もちろん、勉強方法の合う合わないは人それぞれですから、これが正解というわけではありません。
しかし、努力に成績が伴ってないと感じる場合は、勉強方法を見直してみましょう。
(参考「中小企業診断士試験の暗記法:おすすめ4選をご紹介!」)
4. 一時的な停滞ではないか?
中小企業診断士の受験勉強は、1年、2年という長丁場になります。
長い期間、一つのことに取り組んでいれば、時にはやる気が出ないことや、思ったように進捗しない時があるものです。
これは誰にでも起こりうることで、仕方のない面もあります。
しかし、そのような状態を軽視し、気乗りしないまま勉強を続けていると、やる気がそがれて資格取得という目標自体に、嫌気が差す場合もあります。
行き詰まりを感じた場合の対処法は、定番と呼べるものがいくつかあるので、それらを日頃から意識して勉強するのがおすすめです。
ここでは代表的なものを4つご紹介します。
1) 休息を取る
長期間の勉強で疲れがたまっていると感じたら、休息を取りましょう。
1日勉強をやめて、興味の赴くままに別のことをします。
食べ歩き、映画、読書、旅行、なんでも良いので、心がワクワクするような体験をすることが大事です。
脳だけでなく心もリフレッシュでき、新たな活力がわいてくるものです。
2) 勉強場所を変える
例えば、自分の部屋で勉強していたのをリビングに変えてみる、あるいは外出して勉強するなど、場所を変えるのもおすすめです。
勉強は静かな環境ばかりが、良いわけではありません。
カフェなど周囲に人がいて、適度に雑音がある方が集中力が増す、というケースはよくあります。
3) 仲間と情報交換する
同じ目標を持つ仲間と、情報交換をするのもおすすめです。
最近はSNSで同じ仲間を見つけることができるので、そういった人たちとゆるくつながっておくのも、一つの方法です。
勉強の仕方や進捗状況について、数週間に一度くらいのペースで情報交換すると、刺激を受けてやる気が出るはずです。
逆に頻度が高すぎると、驕りや焦りの原因にもなるので、注意しましょう。
4) 勉強の時間を短く区切る
人間の集中力は、それほど長くは続きません。
一気に長時間やろうとすれば、集中力が切れて理解力が落ちたり、眠気に襲われたりします。
その結果、1日3時間やるつもりが、1時間そこそこで切り上げる羽目になったりするのです。
もし、「まさにそうだ!」と思われたなら、ポモドーロテクニックと呼ばれる時間管理術がおすすめです。
ポモドーロテクニックでは、25分ごとに5分の休憩をはさみます。
集中力が完全に切れる前に休憩を入れることで、2時間、3時間といった長時間にわたる勉強を、苦もなく乗り切ることができるようになります。
合わない人もいますが、合う人には絶大な効果を発揮するので、試したことがない人は、ぜひ試してみてください。
5. はずれ科目で落ちてないか?
中小企業診断士の試験は、特定科目の難易度が大きく変動することがあります。
難易度が大きく変動した科目がある年は「当たり年」とか「はずれ年」と言われますが、近年は毎年のように合格率が大きく変動する科目が出現しています。
以下の表は、令和に入ってから合格率が前年比で半減した年と、その科目をまとめたものです。
年度 | 合格率が半減した科目 (前年からの合格率推移) |
令和元年 | 中小企業経営・政策 (23.0%⇒5.6%) |
令和2年 | 運営管理 (22.8%⇒9.4%) |
令和3年 | 経営情報システム (28.7%⇒10.6%) 中小企業経営・政策 (16.4%⇒7.1%) |
令和4年 | 経済学・経済政策 (21.1%⇒10.5%) |
令和5年 | 運営管理 (16.1%⇒8.7%) |
毎年、なんらかの科目が大きく難化しており、令和3年にいたっては、2科目も合格率が半減しています。
そのような科目が原因で不合格になったのであれば、運が悪かったと割り切ることも必要です。
他の受験生と比べて能力的に問題があったわけではないので、ここは気持ちを切り替えて、次のチャンスに備えるのが得策です。
6. 関連資格に挑戦してみたか?
勉強内容が難しくて挫折しかけているような場合は、少し角度を変えて関連資格に挑戦してみるという選択肢もあります。
以下の表は、中小企業診断士の関連資格をまとめたものです。
(中小企業診断士の関連資格)
1次試験科目 | 関連資格 |
経済学・ 経済政策 |
ERE(経済学検定試験) |
財務・会計 | 日商簿記検定2級 ビジネス会計検定2級 経営学検定中級:経営財務 |
企業経営理論 | 経営学検定中級 |
運営管理 | 販売士検定2級 |
経営法務 | ビジネス実務法務検定2級 |
経営情報 システム |
ITパスポート |
中小企業診断士は科目が多いため、内容が被る資格もいろいろとあります。
遠回りだと感じるかもしれませんが、内容が被るということは中小企業診断士の試験対策にも役立つということであり、勉強が無駄になることはありません。
また、関連資格に的を絞って勉強することで、7科目に向けられていた意識を1科目に絞り込むことができます。
意識が集中すれば、その資格に合格できる可能性は確実に高まるでしょうし、合格できれば成功体験を一つ積み上げることにもなります。
つまり、学習成果だけでなく、メンタル面でも非常に大きなプラス効果が期待できるのです。
中小企業診断士のような長丁場の挑戦を乗り切るためには、このような「急がば回れ」の精神も時には必要です。
(関連資格の詳細については「中小企業診断士試験の関連資格7選」をご確認ください。)
7. 目指した理由を思い出せるか?
資格取得への意欲が低下してきた場合は、なぜ中小企業診断士を目指したのか?という初心に帰ることも重要です。
経営知識を身につけたい、コンサルティングという仕事をやってみたい、出世や転職に結びつけたいなど、当初の思いが残っているうちは、諦めずに挑戦し続けるべきです。
資格取得に対する熱量さえあれば、継続は力なりで、成功も失敗も全てが糧になります。
しかし逆に、あきらめた方が良い場合もあります。
それは完全に熱が冷めているのに、それまでの惰性で勉強を続けているようなケースです。
・将来像を思い描いてもワクワクしない
・投下した時間や費用がもったいないから勉強を続ける
このような場合は一旦勉強から離れ、自分にとってこの資格が本当に必要なのかを、考え直した方が良いでしょう。
諦めるという決断は始める決断よりも難しいものですが、一旦手放すことで別の景色が見えることもあります。
惰性が一番よくありません。
8. 終わりに
いかがでしたでしょうか?
中小企業診断士のような難関資格の対策には、薄いペンキを何重にも塗っていくように勉強する「ペンキ塗り学習法」が有効とされています。
最初はまだらにしか理解していなくても、何度も繰り返し学習することで、記憶を定着させ理解を深める学習法です。
中小企業診断士の試験勉強も、最初はまだらにしかペンキを塗れてないように思えるでしょうが、その状態がいつまでも続くわけではありません。
継続していけば、少しずつでも知識は厚みを増していきます。
勉強を続けることがつらくて諦めようと思うのも無理からぬことですが、そのタイミングが実は、まだペンキを1~2回しか塗ってない段階かもしれません。
そうであれば取り組み方を変えるだけで、まだまだ伸び代はあるはずです。
諦める前に今一度、自分の学習環境や取り組み方を、分析してみてはいかがでしょうか。
9. まとめ
◆自分に合った学習環境を構築する。
◆勉強効率の良い勉強法を取り入れる。
◆勉強の停滞期にあるなら取り組み方を見直す。
◆はずれ科目が原因で落ちたのなら割り切りも必要。
◆勉強に行き詰った場合は関連資格にチャレンジしてみる。
◆診断士資格を目指したころの情熱があるなら諦めない方が良い。