中小企業診断士ほど、評価の分かれる資格はないかもしれません。
「ビジネスパーソン最強の資格」
といった評価がある一方で、
「将来性がない」
と酷評されることもあります。
正反対の評価がされる裏には、それぞれ根拠となる理由があります。
今回は高評価と低評価の理由について、具体的にまとめていきます。
1. 将来性がないと言われる理由
1) 肩書としての価値が高くない
2) 費用対効果が高くない
2. でも実は将来性に期待できる
1) 活躍の場が多い
2) AIに仕事を奪われない
3) 知っている人からは人気が高い
3. 終わりに
4. まとめ
1. 将来性がないと言われる理由
中小企業診断士の将来性に疑問を持つ理由はいくつか考えられますが、大きく分けると、
・費用対効果が高くない
という2つの理由に集約されます。
それぞれについて解説します。
1) 肩書としての価値が高くない
中小企業診断士という資格そのものに大きな価値があるのは間違いないですが、肩書となると少し価値が劣るかもしれません。
なぜかというと、独占業務がなく、知名度も低いからです。
① 独占業務がない
中小企業診断士には、独占業務が認められていません。
独占業務とは、その資格を持った人にしか許されない業務のことを指し、多くの国家資格には何等かの独占業務が認められています。
資格 | 独占業務の例 |
弁護士 | 民事事件や刑事事件に関連する法律行為や法律相談等 |
医師 | 医業 |
税理士 | 税務の代理、税務署類の作成、税務相談 |
公認会計士 | 監査 |
行政書士 | 官公署への提出書類作成、権利義務関連書類の作成、事実証明に関する書類作成 |
司法書士 | 登記または供託に関する手続き代理、法務局や裁判所などへ提出する書類の作成など |
中小企業診断士 | なし |
上記の他にも、不動産鑑定士、理学療法士、作業療法士、薬剤師、弁理士、建築士など、独占業務を持つ国家資格は珍しくありません。
独占業務があれば、その業務を必要とする人たちが、探してでもやってきてくれます。
例えば、病気の治療を受けたいなら医師、法律行為なら弁護士、税務処理なら税理士という具合です。
もちろん競争が激しいので、待っているだけで簡単に儲かるというわけではありませんが、一定数のお客さんが自ら探してやってきてくれるのは間違いありません。
一方、中小企業診断士の場合はそれがありません。
「〇〇を頼むなら中小企業診断士」といえる業務がないため、肩書を頼りに顧客が寄ってくることもほとんどなく、肩書としての価値は少し劣ります。
② 知名度が低い
中小企業診断士の知名度は、高くありません。
一般の人に直接関わる資格ではないことに加え、そもそもの資格保有者が少ないことも、理由の一つと考えられます。
ちなみに、中小企業診断士の登録者数は、弁護士や社労士の6割程度、税理士と比較すると半分以下です。
・弁護士44,800人(2023/9)
・税理士80,988人(2023/9)
・行政書士51,973人(2023/9)
・中小企業診断士27,000人(2019/4)
ビジネス街を歩いていても、中小企業診断士事務所をみかけることはほぼありませんし、中小企業に勤めている人でも、この資格を知っている人は多くはありません。
知名度が低ければ、肩書としてはどうしても軽んじられる傾向があり、テレビや雑誌に診断士が出演する場合、「中小企業診断士」という肩書を使わずに、他の覚えやすい肩書で紹介されるケースもあるようです。
業界団体である中小企業診断協会も、この知名度の低さを認識しており、広報活動に力を入れるなどの対策をしています。
2) 費用対効果が高くない
中小企業診断士は資格取得にかかる労力に対して成果が見合わず、コストパフォーマンスが良くない、と感じる人もいます。
ここでは、主にコスパが悪いと感じる理由をまとめます。
① 難易度が高く取得に時間がかかる
中小企業診断士の資格を取得するためには、1次試験と2次試験に合格しなければなりません。
1次試験と2次試験をストレートで合格できる確率は5%~8%程度であり、かなりの難易度になっています。
《ストレート合格率》
年度 | 合格率 |
2023 | 5.6% |
2022 | 5.4% |
2021 | 6.7% |
2020 | 7.8% |
2019 | 5.5% |
2018 | 4.4% |
合格するためには多くの勉強時間を必要とし、中小企業診断士の資格講座を展開している有名スクールは「1,000時間前後が目安」と口を揃えます。
1,000時間というのは講座を受講して効率的に勉強した上での話ですから、独学の場合は1,500時間とか2,000時間かけて勉強する覚悟が必要です。
(難易度については「中小企業診断士試験の難易度・合格率は?」も合わせてご確認ください。)
② 登録までに費用がかかる
合格するまでの費用は、安ければ10万円くらいで済みますが、大手スクールの講座を受講すれば20万、30万とかかってきます。
さらに2次試験合格後には、実務経験を積むための実務補習が用意されています。
コンサルが本業の人は本業で行うコンサルを実務補習代わりにできますが、一般の会社員等、コンサル先を確保できない人の場合、お金を払って実務補習を受けなければなりません。
・独学 5万円程度
・通信講座 約6万円~
・通学講座 約20万円~
・養成課程 200万円前後
※養成課程は2次試験免除
・1次試験 14,500円
・2次試験 17,800円
・実務補習 約18万円
※コンサル先がある人は不要。
※PC必須。なければPC代も必要
③ 資格の維持に費用がかかる
中小企業診断士は、5年ごとに資格の更新があり、「知識」と「実務」の両方で更新要件を満たす必要があります。
それぞれに要件が細かく定められていますが、費用としては知識要件が5年で3万円、実務要件が5年で18万円程度必要です。
なお、更新時の実務要件も、自力でコンサル先を確保すれば、実務補習を受講しなくてもクリアできます。
その場合は補習費用も発生しません。
・理論政策更新研修 3万円/5年
・実務補習 18万円/5年
※東京の場合の相場
※コンサル先がある人は不要
また、業界団体である中小企業診断協会への入会も、検討する必要があります。
入会すれば、業界情報をいち早くキャッチアップしたり、人脈を広げる機会が用意されています。
入会は任意ですが、活用できる人には計り知れないメリットがあります。
・入会金 1万~3万円
・年会費 3万円~5万円
※費用は地域によって異なります。
④ 取得しても昇給や昇格がない
診断士資格に対する企業の評価はさまざまです。
昇給や手当支給など、待遇が良くなるケースもありますが、全く評価されない企業もあります。
ちなみに、資格を取得した人に対する職場での受け止めについて、中小企業診断協会のアンケート調査では、以下のような結果が出ています。
上司・同僚から良い評価を得た⇒25.6%
関係先から良い評価を得た⇒24.4%
資格手当が支給された⇒13.1%
昇給・昇格した⇒6.1%
上記にあるように、多くの人が「変化なし」と回答しています。
継続的に努力をしてやっとの思いで取得しても、待遇が全く変わらなければ「あの苦労はなんだったんだろう」と思っても仕方ありません。
⑤ 業務に活かしきれない
取得した人の立ち位置によっては、資格取得で得た知識を活かしきれない場合もあります。
例えば、勤務先がコンサル業務とは無縁の、ごく小規模な会社の場合や、上層部が中小企業診断士のことを知らない、あるいは知っていても全く評価していない企業の場合は、知識の活かしようがありません。
この場合、診断協会に所属して細々と副業をこなしつつ力を蓄えるか、資格を評価してもらえる企業に転職するのが、現実的な選択肢になってきます。
⑥ 転職時に評価してもらえないことも
中小企業診断士という肩書があれば、経営に関する幅広い知識を備えていることの証明になるのは間違いありません。
しかし、だからといって必ず転職に有利になるわけではありません。
例えば、中高年の転職では年代に応じた実績の有無が重要ですから、診断士資格をアピールしても、それだけで転職が成功するとはいえません。
本人にしたら「割に合わない」と感じることでしょう。
もっとも、20代~30代前半の人であれば、診断士資格を持っていることで「ポテンシャルの高い人材」として、大いに評価してもらえる可能性もあります。
中小企業診断士講座の元運営責任者が、以下の7つの通信講座のコストパフォーマンスを比較して、おすすめ2つのメリット・デメリットについて解説してみました。
・TAC
・スタディング
・診断士ゼミナール
・クレアール
・LEC
・アガルート
・フォーサイト
詳細は「中小企業診断士の通信講座おすすめ2選!元講座運営者が比較します」をご確認ください。
2. でも実は将来性に期待できる
将来性に疑問を投げかけられる一方で、中小企業診断士には、明るい未来を予感させるようなポジティブな環境が整っていることも事実です。
ここからは、中小企業診断士の将来が明るいと期待できる理由を解説します。
1) 活躍の場が多い
① 日本企業の99.7%は中小企業
中小企業庁の集計によれば、中小企業診断士が業務対象とする中小企業・小規模事業者は、全企業の99.7%を占めています。
規模別 企業数 構成比 大企業 11,157 0.3% 中小企業(①) 530,000 14.8% 小規模事業者(②) 3,048,000 84.9% (①+②) (3,578,000) (99.7%) 全体 3,589,000 100%
企業の多くは何かしら経営課題を抱えているものであり、理論上は中小企業診断士のクライアント候補は、無数に存在していると言っても過言ではありません。
また、中小企業診断士と中小企業との接点も、商工会や中小企業支援センターなどが各地に設けられており、公的業務という形で経営相談に乗ったり、専門家として派遣されたりもします。
・都道府県中小企業担当課
・中小企業基盤整備機構(中小機構)
・中小企業支援センター
・中小企業団体中央会
・商工会議所
・商工会連合会
こうしたことを考えれば、中小企業診断士の活躍の場は、決して少なくはありません。
② 国の中小企業支援に関われる
国が中小企業向け政策を推進する際は、中小企業診断士を活用することが前提となっているケースも少なくありません。
例えば、2022年3月に経済産業省から発表された「経営力再構築伴走支援モデル」では、中小企業診断士が経営者の伴走支援を行う主力人材として期待されています。
伴走支援を円滑に行えるようにオンライン研修も開催され、その研修を受講すれば資格の更新要件である、理論政策更新研修を受講したことと同じ扱いにもなります。
このように、診断士資格は中小企業経営と直に向き合う国家資格であるため、国が中小企業に対して実施するさまざまな支援策において、実行部隊としての役割が与えられる可能性があります。
2) AIに仕事を奪われない
野村総研と英オックスフォード大学の共同研究によると、中小企業診断士はAIが進化しても仕事を奪われる心配が少ない資格、との結果が出ています。
資格名 | AIによる代替可能性 |
行政書士 | 93.1% |
税理士 | 92.5% |
弁理士 | 92.1% |
公認会計士 | 85.9% |
社会保険労務士 | 79.7% |
司法書士 | 78.0% |
弁護士 | 1.4% |
中小企業診断士 | 0.2% |
この研究では、司法書士や税理士などの中小企業診断士よりも難易度が高い資格でも、80%〜90%という極めて高い確率でAIに取って代わられるという結果が出ています。
対して、中小企業診断士の代替可能性はわずか0.2%です。
中小企業診断士の業務は一部を除いてパターン化が難しい業務であり、問題抽出や改善提案、実行支援などは、経営者や従業員と交わすコミュニケーションの状況によって成否が変わってきます。
人間であれば相手の心情を読み取りながら押したり引いたりの駆け引きができますが、AIはそういったコミュニケーションが苦手であり、コンサルティングなどの業務領域では代替が難しいと考えられます。
3) 知っている人からは人気が高い
中小企業診断士は一般的な知名度はありませんが、ビジネスパーソンとしてスキルアップをしたい人たちからは、人気のある資格です。
受験者数は増加傾向にあり、令和4年度の1次試験では初の2万人を突破し、令和5年度には過去最高を記録しました。
・令和元年度17,386人
・令和2年度13,622人
・令和3年度18,662人
・令和4年度20,212人
・令和5年度21,713人 ※過去最高
過去には、日経新聞と日経HRが行った「ビジネスパーソンが新たに取得したい資格」で、第1位になったこともあります。
人気の背景にあるのは資格の専門性で、企業経営に関してこれだけ網羅的に学べる国家資格は他にはありません。
中小企業診断協会のアンケート調査でも、資格取得の動機として最も多かったのが、「経営全般の勉強ができて自己啓発やスキルアップを図れる」という回答でした。
これだけ人気があるということは、それだけ多くの人がこの資格の存在意義を認めているということです。
「将来性は十分にある資格」と考えるのが妥当です。
(参考「中小企業診断士の受験者数推移:人気が落ちない4つの理由」)
3. 終わりに
いかがでしたでしょうか?
中小企業診断士は、「独占業務がない」「知名度が低い」という理由から、「仕事を取るのが難しいのでは」という否定的な憶測をされがちな資格です。
確かに多くの人にとって、中小企業診断士という肩書を持つ人と巡り合うことは稀であり、判断材料が全くない中で肯定的な印象を持つのは難しいことかもしれません。
しかし、経営コンサルティングを主業務とする国家資格は中小企業診断士のみであり、国や公的機関が実施する中小企業支援策の多くが、診断士の介在を想定した形になっています。
国が中小企業支援をやめるようなことは考えにくいですし、日本の企業が抱える数多の経営課題が消え去るような状況もありえません。
つまり、活躍の場はあちこちにあるはずです。
「仕事を取る」という意識を持ち、試行錯誤しながら立ち回る必要はあるものの、経験を積み上げていければ、人生を一変させるくらいのポテンシャルを秘めた資格であることは間違いありません。
4. まとめ
◆取得難易度が高い割に見返りが少ないこともある。
◆活躍の場がたくさん用意されている。
◆AI時代でも生き残れる可能性が高い。
◆人気があり、多くの人が存在意義を認めている。