中小企業診断士という資格に興味を持ち、情報収集を始めると、早い段階でそんな疑問を持つようになります。
なにしろ、中小企業診断士の試験科目は7科目もあり、取り扱うテーマもITに会計に法務など多種多様。
一朝一夕で理解できるような量ではありません。
しかも、合格するには2次試験までクリアしなくてはならないのに、チャンスは年に1回のみ。
不合格で全てが無駄になるのは嫌だな..
と不安に思うのは、無理のないことです。
そこで今回は、診断士試験の合格者たちは何年くらい勉強していたのか?それだけの期間を勉強に充てなければならない要因は何なのか?といったことを中心にまとめていきます。
1. 診断士試験合格までに何年かかる?
1) 合格までに必要な年数
2) 何年もかかる理由
2. 何年も勉強するのは時間の無駄?
1) 撤退の目安を決めておく
2) 必ずしも無駄ではない
3. 終わりに
4. まとめ
1. 診断士試験合格までに何年かかる?
1) 合格までに必要な年数
合格までに必要な年数については、資格学校が公表しているデータが参考になります。
以下の表は、LEC東京リーガルマインドが公表しているデータを基に、作成しました。
《合格するまでの期間と割合》
年数 | 割合 |
1年以内 | 27% |
2年以内 | 21% |
3年以内 | 21% |
4年未満 | 13% |
4年以上 | 15% |
表を見ると、最も多いのが「学習期間1年以内」というパターンで、合格者のうち27%、実に4人に1人が該当します。
意外かもしれませんが、他の資格学校でも同様の傾向が出ていますから、1年以内での合格は不可能ではないということです。
「1年以内」に続くのが「2年以内」「3年以内」となっており、割合はどちらも21%。
「4年未満」「4年以上」になると、割合は10%台にまで下がります。
「3年以内に合格した人」というくくりで計算すると69%になりますから、「合格者の大半は学習期間3年以内」とみることができます。
実際、中小企業診断士のSNSやブログで経験談を見て回っても、「合格者の学習期間は2年~3年が最も多い」との記述をよく見かけます。
挑戦するなら長くても3年以内の合格を目標に、学習計画を立てていくのが良いでしょう。
2) 何年もかかる理由
合格までに複数年かかる人が多い理由は、ある程度はっきりしています。
いくつかピックアップして解説します。
① 難易度が高いから
試験合格までに複数年かかる1つ目の理由は、「難易度が高いから」です。
難易度を示す一つの基準として、合格率があります。
中小企業診断士試験の合格率は、近年上昇傾向にはあるものの、それでも最終合格率は5%~8%。
つまり、中小企業診断士試験は受験した人の9割以上が落ちる「狭き門」の試験なのです。
《直近5年の合格率の推移》
年度 | 1次試験 | 2次試験 | 最終 |
2023年 | 29.6% | 18.9% | 5.6% |
2022年 | 28.9% | 18.7% | 5.4% |
2021年 | 36.4% | 18.3% | 6.7% |
2020年 | 42.5% | 18.4% | 7.8% |
2019年 | 30.2% | 18.3% | 5.5% |
このように合格率が低い大きな理由に、出題範囲が幅広いことが挙げられます。
1次試験には、以下の7科目が出題されます。
合格するためには7科目平均で6割以上を得点し、なおかつ4割未満の科目がないことが、条件となっています。
全体の点数がどれだけ良くても、どれか1科目が4割未満だったら不合格なので、苦手科目を作らないことがとても重要です。
ところが、7科目の中には「財務・会計」や「経営法務」のように、初学者がとっつきにくかったり、ときどき難易度が跳ね上がったりする「難関科目」や「地雷科目」があり、そのような科目に対しては、受験生も苦手意識を持ちがちです。
合格するためには、7科目すべてをまんべんなく勉強しなければならないものの、科目ごとのそうした特徴をくみ取って強弱をつけていくことも、重要になってきます。
一般的には「1,000時間の勉強時間が必要」と言われますが、こうした事情もあるため、人によっては1,000時間よりも多くの時間を必要とするケースも、珍しくありません。
(必要な勉強時間の詳細については、「中小企業診断士の勉強時間は1,000時間?半年合格は無理?」をご確認ください。)
② 働きながらの受験が多いから
試験合格までに複数年かかる2つ目の理由は、「働きながらの受験が多いから」です。
令和5年度の1次試験申込者の職業をまとめると、以下のようになります。
職業 | 申込者数 | 構成比 |
企業等勤務 (公務員含む) |
21,278人 | 81.9% |
自営業 | 1,789人 | 6.9% |
その他 (学生・無職等) |
2,919人 | 11.2% |
合計 | 25,986人 | 100% |
表を見てもわかるように、中小企業診断士を目指す受験生の多くは社会人であり、企業や公的機関に勤務するビジネスパーソンです。
中小企業診断士は合格率が低い難関資格ではあるものの、司法試験などのように仕事を辞めて受験に専念する人は稀で、ほとんどの人は仕事と勉強を両立させながらチャレンジします。
取り組み方として多いのは、平日は仕事から帰宅して2~3時間、休日に6~8時間程度を勉強に割り当てるというパターンです。
このパターンなら1年に1,000時間以上の勉強時間を確保できるので、理論上は1年での合格も可能です。
しかし、残業や出張などがあるビジネスパーソンにとって、1,000時間もの勉強時間を現実に確保するのは簡単ではありません。
そのため、日々の勉強時間が1~2時間しか取れなかったり、全く勉強しない日が出てきたりして、2年、3年と時間がかかってしまうというのが実情です。
合格するまでの勉強時間に関しても、業務経験によって大きな個人差があります。
試験科目に関する業務経験が豊富であれば短くてすみますが、すべての科目の経験値が低ければ、1,000時間でも全く足りないという状況になります。
その場合は3年、4年と学習期間が増えていくことになります。
③ 科目合格制度があるから
試験合格までに複数年かかる3つ目の理由は、「科目合格制度があるから」です。
科目合格制度とは、1次試験の個別の科目ごとに合否判断をする制度であり、大まかに言うと6割以上の得点で科目合格が認められます。
合格となった科目は、その合格実績を翌年と翌々年に持ち越すことができるため、申請すれば該当科目の受験を免除してもらえます。
例えば、今年「財務・会計」に科目合格すれば、来年と再来年は「財務・会計」は受験しなくても、合格としてカウントしてもらえるということです。
つまり言ってみれば、「今年、来年、再来年の3年間で全科目合格すれば良い」ということであり、制度として複数年かけての合格を想定した設計になっているといえます。
実際、最初から科目合格制度をフル活用する戦略で試験に臨む受験生も多く、結果として合格までに複数年かかるという状況が、生まれやすくなっています。
(科目合格制度の詳細については、「中小企業診断士:1次試験の科目合格戦略メリット・デメリット」をご確認ください。)
中小企業診断士講座の元運営責任者が、以下の7つの通信講座のコストパフォーマンスを比較して、おすすめ2つのメリット・デメリットについて解説してみました。
・TAC
・スタディング
・診断士ゼミナール
・クレアール
・LEC
・アガルート
・フォーサイト
詳細は「中小企業診断士の通信講座おすすめ2選!元講座運営者が比較します」をご確認ください。
2. 何年も勉強するのは時間の無駄?
「絶対に中小企業診断士試験に合格する!」と意気込むのは良いことです。
一方で、結果も出ないのにダラダラと挑戦し続けるのも、考え物です。
ここでは、ダラダラと勉強しないためにも撤退基準を決めておくことや、仮に何年も勉強することになった場合でも、その勉強経験は無駄ではないといった点について、順に解説します。
1) 撤退の目安を決めておく
これは試験勉強に限らない話ですが、うまくいかなかった場合の撤退基準を決めておくのは、とても重要です。
人間誰しも、一旦動き出した気持ちにブレーキをかけるのは、抵抗があるものです。
合格を夢見た気持ち、勉強によって得た知識、そしてそのために使った時間と費用、それらすべてが無駄になるような気になるかもしれません。
しかし、不合格を重ねることによって自己肯定感が下がったり、家族との関係が崩れたりしては、元も子もありません。
そのため、事前に撤退ラインを決めておくのは、とても有意義なことなのです。
撤退基準についてですが、年数か点数で判断するのが一般的です。
「〇年頑張ってダメならあきらめる」
「〇点取れなかったらあきらめる」
といった具合です。
あくまで目安なので、状況に合わせて修正していくくらいの気持ちでいた方が良いでしょう。
基準の決め方ですが、年数については冒頭で紹介したデータが参考になります。
このデータでは、合格者の7割は3年以内に合格しています。
4年目以降になると、全体に占める割合がぐっと下がっています。
これらのことから、「3年頑張ってみてダメなら諦める」というのが、合理的な撤退ラインでしょう。
また、点数の基準を考えるなら、40点が一つの目安になります。
中小企業診断士の試験では、40点未満は不合格要件となっています。
数年頑張って一度も40点を超えられない科目が複数あるようなら、向いてないのかもしれません。
撤退基準に関してはネガティブなイメージを持ってしまいがちですが、期限を設けることで逆にモチベーションコントロールにつながる側面もあります。
それに、診断士資格を取るために勉強したことは、無駄にはなりません。
合格が難しい難関資格だからこそ、勉強したことはいろいろと役立てることができます。
2) 必ずしも無駄ではない
中小企業診断士を目指して何年も勉強することは、例え合格が無理だったとしても、無駄ではありません。
その理由を解説します。
① 資格の価値が高いから
何年も勉強することが無駄ではない1つ目の理由は、「資格の価値が高いから」です。
当サイトでは何度も言っていますが、中小企業診断士は「国家が認めた唯一の経営コンサルタント資格」です。
この資格ほど経営を体系的に学べる国家資格は他にはなく、2020年の国の経済財政諮問会議では、診断士資格のさらなる活用が提言されてもいます。
また、AI時代への適応力は、税理士や公認会計士、社会保険労務士などよりはるかに高いという分析もありますし、日経新聞の「ビジネスパーソンが新たに取得したい資格第1位」にも選ばれています。
つまり、国から注目され、研究機関から将来性が抜群だと分析され、新聞のアンケート調査では人気ナンバーワンにも選ばれている、中小企業診断士はそんな資格なのです。
業務面で見ても、「独占業務がない」と言われるものの、行政機関や商工会、中小企業基盤整備機構、中小企業支援センターなど、公的な機関には中小企業診断士が受託できる業務がいろいろと用意されています。
こうしたことから、資格の持つ潜在的な価値が現在進行形で高まっているのは間違いなく、複数年かけても資格取得にチャレンジする価値は十分あります。
仮に資格取得ができなかったとしても、仕事を続ける以上は学んだ知識は十分に活用できるはずなので、無駄になることはないでしょう。
② 学び続ける習慣がつくから
何年も勉強することが無駄ではない2つ目の理由は、「学び続ける習慣がつくから」です。
仕事でもプライベートでも、人生は変化と成長の連続であり、その時々に大小さまざまな課題があります。
何となくやり過ごしていればよい時も多いですが、中には課題を克服するために、意識的に学ばなくてはならない時もあります。
例えば、仕事において業務知識やスキルの習得をする時や、昇進・昇格試験に挑戦するときなどは「何となく」ではやり過ごせません。
知識やスキルの習得は日々の学びの蓄積ですし、昇進・昇格試験も対策勉強が必要となってきます。
プライベートでも、出産や育児、介護など、家族の健康や人生が関わってくることは、否が応でも勉強することになります。
最近では老後に備えた資産形成で、積極的に投資を勉強する人も増えてきています。
こうした「学びの機会」に、勉強習慣があるかどうかは、結果を大きく左右します。
対象が何であれ、学ぶにはコツと慣れが必要ですから、中小企業診断士試験の合格を目指して日々机に向かい続けた経験は、無駄にはならないのです。
③ 他の資格取得に活用できるから
何年も勉強することが無駄ではない3つ目の理由は、「他の資格取得に活用できるから」です。
中小企業診断士の勉強を経験したのであれば、もっとテーマを絞り込んだ他の資格を目指すこともできます。
《中小企業診断士と関連資格》
1次試験科目 | 関連資格 |
経済学・ 経済政策 |
ERE(経済学検定試験) |
財務・会計 | 日商簿記検定2級 ビジネス会計検定2級 経営学検定中級:経営財務 |
企業経営理論 | 経営学検定中級 |
運営管理 | 販売士検定2級 |
経営法務 | ビジネス実務法務検定2級 |
経営情報 システム |
ITパスポート |
中小企業経営 中小企業政策 |
ー |
どの資格も合格率はほぼ20%~50%以上で推移しており、資格によっては比較的簡単に取得が可能です。
試験日程も年に数回というものから随時実施しているものまであり、変に構えることなく気楽にチャレンジできるでしょう。
中小企業診断士の試験勉強で学んだ知識をベースにチャレンジでき、合格すれば肩書が一つ増えるわけですから、診断士資格の勉強は無駄にはなりません。
(関連資格の詳細は、「中小企業診断士試験の関連資格7選」をご参照ください。)
3. 終わりに
いかがでしたでしょうか?
「取得に何年もかかる難関資格」「勉強時間は最低1,000時間必要」などと心理的ハードルが上がってしまう謳い文句が、中小企業診断士にはいくつもあります。
確かに、試験に合格した人のデータを見ると、複数年かかっている人が半分以上いるので、合格が簡単でないことは明らかです。
しかし、勉強する内容はビジネスパーソンとしての知識を底上げするものばかりですし、複数年といっても合格者の大半は3年以内に合格しています。
それに、人気の資格に選ばれたり、AI時代にも生き残れる資格と言われたりしているので、将来有望な資格であることは間違いありません。
気になっているのなら、チャレンジしないのは非常にもったいないです。
どのような結果が出ようとも、チャレンジした経験と得た知識は無駄にはなりませんから、撤退基準を決めた上で、全力で取り組んでみてはいかがでしょうか?
4. まとめ
◆働きながらの難関資格挑戦なので複数年かかる人が多い。
◆科目合格制度が複数年かけての挑戦を助長している側面もある。
◆年数なら3年、点数なら40点未満が撤退基準として合理性がある。
◆資格自体が注目を集めており、人気と将来性を兼ね備えている。
◆診断士資格の受験で学んだ知識は他の資格取得に活かせる。