簿記やビジネス会計検定の勉強をしていると、「ステークホルダー(利害関係者)」という言葉を耳にすることがあります。
財務諸表を利用するあらゆる利害関係者のことをステークホルダーと言うのですが、具体的に何がステークホルダーに該当するか答えられますでしょうか?
今回は、企業活動を行う上で欠かせない、企業を取り巻くステークホルダーについてご紹介していきます。
普段仕事を行う上ではあまり意識していない利害関係者もでてくるかと思いますので、この機会にしっかり押さえておいてください。
1. 財務諸表のステークホルダー一覧
1) 株主
株主は「株式の売買」を通じて意思決定を行うステークホルダーです。
株を買った企業の株価が上昇した際の値上がり益(キャピタルゲイン)や配当金(インカムゲイン)を目的として、財務諸表を分析して投資を行います。
現在の収益性も大事ですが、将来的な成長性を重視する傾向があります。
2) 社債権者
社債権者は「社債の売買」を通じて意思決定を行うステークホルダーです。
購入した社債から利息を受け取り、最終的に償還日に元本を受け取ることを目的として、財務諸表分析を通じて投資対象を決定します。
成長性よりも安全性や収益性の指標を重視する傾向があります。
・株式は会社の所有権の一部を得る権利であるのに対して、社債は会社への資金の貸し付け。
・会社の側から見ると、株式は返済が不要な自己資本となるが、社債は返済が必要な他人資本となる。
・株式は元本割れの可能性がある反面、値上がりする可能性もあるため、相対的にハイリスク・ハイリターン。
・社債は基本的に償還日に元本が返還されるが、値上がりすることもないので、相対的にローリスク・ローリターン。
3) 金融機関(銀行など)
銀行などの金融機関は、企業への「資金の融資」を通じて意思決定を行うステークホルダーです。
元本の返済や利息の支払いに関心を持ちながら、財務諸表から財務情報を得て企業への融資を判断します。
社債権者同様に、成長性よりも安全性や収益性の指標を重視する傾向があります。
4) 得意先・仕入先
「商品やサービスの購入まはた提供」を通じて意思決定を行うステークホルダーです。
価格・製品の品質・安全性・代金の回収可能性などを財務諸表を利用して判断し、意思決定を行います。
負債の割合や赤字になっていないかなどの安全性・収益性を重視する傾向があります。
5) 従業員
「労働の提供」を通じて意思決定を行うステークホルダーです。
賃金・雇用条件・福利厚生などが、財務諸表からわかる経営状況と比較して適切であるかどうかといった点を加味しながら、意思決定を行います。
また、一定以上の役職の従業員であれば、自社や競合の財務分析が必須となってくることもあります。
従業員も財務諸表を利用するステークホルダーということは、意外に皆さん忘れがちです。
雇われている側でも、自社の財務諸表にしっかりと目を通して、自身が無関係ではないということを認識する必要があります。
6) 地域住民
「企業との共存」を通じて意思決定を行うステークホルダーです。
環境・経済的恩恵・社会貢献などに関心を持っている利害関係者と言えます。
直接的に財務諸表を利用する機会は少ないですが、企業誘致の際に応募企業の財務諸表を利用することなどが考えられます。
企業側が意外に忘れがちなステークホルダーが地域住民となります。
本社を転々とする企業も少なくないため、なかなか地域に根差した活動が難しいという背景もありますが、期間にかかわらずお世話になった地域に対する貢献活動も、今後の企業には求められてきます。
7) 国・地方公共団体
「税金の徴収」を通じて意思決定を行うステークホルダーとなります。
企業の課税所得や税金支払能力を財務諸表から読み取り、意思決定を行います。
8) 経営者
「経営判断」を通じて意思決定を行うステークホルダーとなります。
株主からの評価や経営業績に関心を持ちながら、財務諸表を利用して経営上の各種判断を行っていきます。
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2. 利害は必ずしも一致しない
全てのステークホルダーの利害が一致していれば、企業活動は非常にスムーズに進みますが、実際は利害が対立しております。
以下にいくつかの例示を紹介していきます。
1) 株主vs債権者
会社の所有者である株主と、会社にお金を貸している債権者(社債権者や銀行など)の利害は対立しているケースが多いです。
会社内に最終的に残っている利益の使途としては、内部に留保しておいて来期以降に備える方法と、株主に配当金として分配する方法の2つがあります。
ここで、株主側からしてみれば多くの配当金を貰いたいため、極端な話を言えば全額配当してくれという状況も考えられます。
しかし、仮に全額配当してしまった場合、銀行としては来期会社の業績が悪くなると利息を回収できなくなる可能性があります。
この点を解消するために、会社法では配当する際の限度額と一定の積み立てをすることが要求されております。
また、株主は会社の業績を上げて株価をできる限り上げたいため、ハイリスクな投資を好むかもしれませんが、銀行としては利息と元本が回収できればよいため、ローリスクな投資を好み、ここでも両者の利害が対立します。
2) 経営者vs従業員
経営者と従業員も利害が対立するケースがあります。
経営者としては会社の業績をよくするために、資金を事業に投資したいと考えますが、従業員からしたらそのお金で給料アップや、福利厚生を充実させてほしいと考えます。
経営者はこの対立を極力防ぐために、以下の項目について対応する必要があります。
・ミッション、ビジョン、バリューに沿った人事評価制度を作る。
・採用基準を明文化して、採用の段階で会社に合わない人材をはじく。
各従業員が給料アップを望むのであれば、給料アップの基準となる人事評価制度と会社の目標を関係づければ、「各従業員が評価されて給料がアップする⇒会社全体として目標達成に近づく」という構図が出来上がるため、経営者・従業員双方の利害が一致することとなります。
また、採用段階で会社に合わない人材をはじくことも、利害対立を防ぐために重要となります。
ベンチャー企業に入社した時に社員数が20名だったのですが、経営者と利害対立していた従業員から訴えられたり、社風に合わない社員が去っていって、入社1年で社員数が10名まで減少しました。
ただ、売上は倍以上になったため、利害が対立している社員がいた場合、会社経営にとってプラスにならないどころかマイナスになることを、身をもって学びました。
採用する際の一つの目安ですが、社風とスキルについては以下の基準を参考にしてください。
①社風〇:スキル〇⇒絶対採用
②社風〇:スキル×⇒採用
③社風×:スキル〇⇒絶対不採用
④社風×:スキル×⇒不採用
③の人材はスキルが高い分、社風に合わなければ経営者に反発したり、社内で派閥を作ったりするので絶対採用すべきでないと考えられます。
3. どの立場でも必要な決算書分析力
各ステークホルダーについてお伝えしてきましたが、どのステークホルダーでも共通して必要となるのが、財務諸表、つまり決算書を分析する力となります。
そして、この決算書を分析する力を付けるためにおすすめなのが「ビジネス会計検定」となります。
ビジネス会計検定は、例えば以下のような時に役に立ちます。
・銀行員として融資先企業の財務状況を分析する。
・得意先や取引先として取引先の経営業績を分析する。
・従業員として自社の財務状況を分析する。
・経営者として自社や競合の経営成績を分析する。
ビジネス会計検定は3級~1級で構成されており、どのステークホルダーでも2級までの知識は最低限身に付けておく必要があります。
各級の詳細については以下をご参照ください。
・3級:「ビジネス会計検定3級が必要ない人とは?受験要項や難易度は?」
・2級:「ビジネス会計検定2級とは?3級との違いは?挑戦すべき5つの理由」
4. 終わりに
財務諸表を取り巻くステークホルダーについて、また、各ステークホルダーの利害対立についてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
自分がどの立場になるかをまず把握しておいてください。
人によっては複数のステークホルダーに該当することもあるかと思います。
また、自社を基準に考えた場合の各ステークホルダーとの関係性を今一度見直して、ステークホルダーの利害対立ができるだけ少なくなるようにマネジメントしてみてください。
5. まとめ
◆株主と債権者、経営者と従業員などは利害が対立することがある。