キャッシュフロー・マージンについて、皆さんご存知でしょうか?
名前の通り、何となくキャッシュフロー計算書の数値を使って分析する方法の1つなのでは?っといった、漠然とした理解の方も多いかと思います。
そこで今回は、キャッシュフロー・マージンについて解説した上で、有名企業のキャッシュフロー・マージンの数値を、実際に数社見ていきます。
また後半では、キャッシュフロー・マージンなどのキャッシュフローの指標を学ぶのにおすすめの方法として、ビジネス会計検定についてもお伝えしていきます。
1. キャッシュフロー・マージンとは?
1) 計算方法
キャッシュフロー・マージンの計算式は、以下となります。
本業で稼いだ売上高に対して、どの程度キャッシュの回収ができたのか?を求めた指標となります。
2) 売上高営業利益率との比較
似たような指標に、以下の式で計算される、売上高営業利益率があります。
分子が「営業キャッシュフロー」なのか「営業利益」なのかが、両指標の違いとなります。
・営業利益:本業で稼いだ「利益」
本業からの稼ぎを表している点は同じなのですが、実際のキャッシュの入出金を表しているのが営業キャッシュフローとなる一方で、計算上の数値である利益を表しているのが営業利益となります。
以下の具体例を見ていきましょう。
*簡便的な例にするため、キャッシュアウトについては無視しております。
100万円の商品(原価50万円)を3億円の広告宣伝費をかけて、1,000個掛けで販売した。
そのうち0.5億円分について取引先から入金があった。
↓
・売上高:10億円
・売上原価:5億円
・販管費:3億円
・営業利益:2億円
・営業CF:0.5億円
↓
・売上高営業利益率:20%
・キャッシュフロー・マージン:5%
100万円の商品(原価50万円)を3億円の広告宣伝費をかけて、800個掛けで販売した。
そのうち4億円分について取引先から入金があった。
↓
・売上高:8億円
・売上原価:4億円
・販管費:3億円
・営業利益:1億円
・営業CF:4億円
↓
・売上高営業利益率:12.5%
・キャッシュフローマージン:50%
A社の売上高営業利益率はB社よりも高く、一般的な収益性の観点からはA社の方が優れていると言えます。
一方で、B社の営業キャッシュフロー・マージンの方がA社よりも高く、売上の資金回収効率、つまり収益性の質はB社の方が高いと言えます。
A社のように、利益はあがっているけれども、キャッシュの回収効率が低い企業は、取引先に対する支払いがだんだん滞っていき、最悪の場合黒字なのに倒産する「黒字倒産」となってしまいます。
(黒字倒産については「会計とファイナンスの違いは?関連資格もご紹介!」をご参照ください。)
キャッシュフロー・マージンと売上高営業利益率はどちらが大事と言ったものではなく、共に重要な指標となりますので、合わせて押さえておいてください。
その他のキャッシュフロー比率の指標については、「キャッシュフロー比率の指標一覧!」もご確認ください。
3) 目安
キャッシュフロー・マージンは、「15%」が1つの目安となります。
4) 増やし方
キャッシュフロー・マージンの値を増やすためには、現在のキャッシュフロー・マージンの比率よりもキャッシュの回収効率が高い商品の販売、あるいは取引先への販売を増加させることが挙げられます。
例えば、現在のキャッシュフロー・マージンが、以下の値だったとします。
・売上高が10億円
・キャッシュフロー・マージン:10%
ここで、当期に追加で売上5億円、営業キャッシュフロー2億円を稼げる商品を販売したとします。(つまりキャッシュフロー・マージンは40%。)
そうすると、キャッシュフロー・マージンは以下のようになります。
÷
売上高:15億円(=10億円+5億円)
=
キャッシュフロー・マージン:20%
このように、キャッシュフロー・マージンの比率がより高いビジネスを始めれば、当然にキャッシュフロー・マージンは増加します。
5) ポイント
① 期間比較が重要
キャッシュフロー・マージンの分析では、一時点の数値を目安と比較するだけでは不十分となります。
大事になってくるのは、キャッシュフロー・マージンの期間比較、つまり過去5年分程度の推移となります。
現在の値が高くても、過去からの推移をみると低下の一途をたどっている場合、利益の質が低下している可能性があるため注意が必要です。
② マイナスには要注意
キャッシュフロー・マージンがマイナスとなっている場合、つまり営業キャッシュフローがマイナスとなっている場合は、即座に対応が必要な状況と言えます。
本業の稼ぎがマイナスであるということは、このままビジネスを続けても、ひたすらキャッシュが減り続け、それを投資活動の取り崩しや財務活動で賄うこととなります。
スタートアップ企業であれば、営業キャッシュフローのマイナスをVCやエンジェル投資家からの出資といった財務活動で賄うは一般的ですが、それ以外の企業で営業キャッシュフローがマイナスという状況は、非常に危機的な状況と言えます。
③ キャッシュだけを見るのもNG
キャッシュフロー・マージンの分析に焦点をあてすぎても、実は弊害があります。
例えば、3年の長期プロジェクトの代金を一括して前払いでお客様から貰うビジネスの場合、3年分のキャッシュが全て入金された年は異常にキャッシュフロー・マージンが高くなります。
しかし、これはあくまで3年分のキャッシュなので、キャッシュフロー・マージンのみでなく、売上高などの期間按分された会計上の数値にも注目する必要があります。
以前勤めていた会社では、役務提供期間が24ヶ月の商材を販売して、代金は一括して前払いでお客様から頂いておりました。
この場合、月々の会計上の売上は売上総額を24ヶ月で按分したものとなり、ごく少額でしたが、キャッシュベースでみると、24ヶ月分を一括してもらうため、かなりの大金でした。
会計上の数値とキャッシュベースの数値はどちらも大切であるため、財務分析においては双方の指標を見るスキルが必要となります。
2. あの企業のキャッシュフロー・マージンはいくら?
それでは、皆さんが知っている身近なあの企業の、キャッシュフロー・マージンについて見ていきましょう。
*2019年の決算情報を前提としております。
*一時点の数値だけを見ても本来はあまり意味がないので、これらの企業のキャッシュフロー・マージンを、ぜひご自身で期間比較してみてください。
1) パナソニック
⇒2.5%
日本有数の電機メーカーである、パナソニック。
パナソニックを一代で築き上げた松下幸之助に関する書籍を、一度は目にしたことがある方も多いかと思います。
そんなパナソニックのキャッシュフロー・マージンは2.5%と、目安からするとだいぶ低めの数値となります。
これは、米国において海外腐敗行為防止法違反などで、約310億円の制裁金を科されたことにより、一時的に営業キャッシュフローが低下したことが要因と考えられます。
(翌期も減収減益予想となっており、制裁金とは無関係に本業で苦戦しているとも言えます。)
制裁金は本業の稼ぎとは関係ないのに、営業キャッシュフローに区分されるの?と思われた方もいるかと思います。
この点、投資活動によるキャッシュフローと財務活動によるキャッシュフロー以外は営業キャッシュフローに記載されますので、覚えておいてください。
2) 日産自動車
⇒12.5%
日本の大手自動車メーカーである、日産自動車。
カルロス・ゴーン元会長の金融商品取引法違反で話題となり、経営面での課題が浮き彫りとなっている中、キャッシュフロー・マージンは12.5%とまずまずの数値となります。
ただ、実は売上高は減少しており、単に過去の売上債権を回収した結果として、営業キャッシュフローが一時的に増加している点には、注意が必要です。
3) 三菱地所
⇒27.4%
日本有数の不動産ディベロッパーである、三菱地所。
東京・丸の内を中心とするビル事業や、全国の住宅事業を主に手掛けている企業となります。
三菱地所のキャッシュフロー・マージンは、なんと27.4%。
ビル賃貸などの事業は、安定した営業キャッシュフローを生み出すことができるため、キャッシュフロー・マージンも高い値となっております。
3. おすすめ資格はビジネス会計検定!
最後に、キャッシュフロー・マージンなどの財務指標を学ぶ上でおすすめの方法として、「ビジネス会計検定」ついてお伝えしていきます。
1) ファイナンスと言えば
計算上の数値である会計とは別に、実際のキャッシュに焦点をあてた分野を、ファイナンスと言います。
そして、ファイナンスの入門資格としておすすめなのが、ビジネス会計検定となります。
企業のお金の流れを分析するための、知識や分析手法について学ぶことができるため、非常におすすめの資格となります。
キャッシュフロー・マージンについても、ビジネス会計検定の勉強をすることで、例えば以下のような例題が解けるようになります。
(例題)
【問題】
【解答】
短期間でビジネス会計検定に合格したいなら、会計ショップのビジネス会計検定講座がおすすめです。
頻出論点を短時間で講義するので、効率的に合格を目指すことができます。
・3級講義時間:約15分×20回
・2級講義時間:約20分×20回
・確認テスト、予想問題つき
2) 会計と言えば
また、ビジネス会計検定は、会計の入門資格としてもおすすめとなります。
会計といった場合に簿記も考えられるのですが、経理以外の職種や株式投資に必要な会計知識を得たい場合は、財務諸表を「作成」する簿記の知識というよりは、財務諸表を「分析」するビジネス会計検定の知識の方がおすすめとなります。
会計入門者がまず取り組むべき勉強方法については、「会計の入門者におすすめの勉強法7選!」も合わせてご確認ください。
4. 終わりに
キャッシュフロー・マージンの概要や、具体的な企業の数値について紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
キャッシュフロー・マージンなどの財務分析指標は、内容を理解するだけでなく、実際にアウトプットすることが大切となります。
入門編としてはビジネス会計検定などの問題演習を、実践編としては実際に企業の財務諸表を見ながら財務分析することを、おすすめいたします。
ぜひチャレンジしてみてください。
5. まとめ
◆売上高営業利益率のキャッシュフロー版で、利益の質を見ることができる。
◆一時点ではなく期間比較が重要。