資格にはそれぞれ、取得するためのルートがあります。
筆記試験のみで取得できる資格、面接が必要な資格、実務経験や教育機関での勉強が要件になる資格など、資格に求められるスキルに応じて様々なパターンが用意されています。
中小企業診断士の場合、2度の試験に合格することと実務経験を積むことが、資格取得のための一般的なルートです。
さらに、資格を取得した後も定期的に更新が必要となり、更新時には更新要件を満たしていることが求められます。
言ってみれば、試験に合格することは最初の一歩に過ぎず、資格の取得と更新の制度を俯瞰して見ておく必要があります。
そこで今回は、中小企業診断士になるためにクリアしなければならないハードルや、更新制度について解説します。
1. 中小企業診断士になるには?
中小企業診断士になるには、基本的に3つのステップをクリアしなければなりません。
「第1次試験」「第2次試験」「実務従事(実務補習)」の3つです。
「第1次試験」の出題科目は7科目で、合格するためには膨大な基礎的知識と、それらを使った応用力が必要です。
合格率はここ数年30%~40%前後で推移しており、以前と比べると1次試験の合格者は、増加傾向にあります。
「第2次試験」には、筆記試験と口述試験があります。
筆記試験の出題科目は4科目で、いずれも事例問題となっており、クリアするには「論理的思考」が必要となります。
筆記試験に合格すると今度は口述試験が待ち構えていますが、今のところ口述試験の難易度は、さほど高くないです。
なお、第2次試験の合格率は18%~19%で推移しています。
第2次試験に合格した人は、「15日以上の診断実務への従事」を経て、中小企業診断士として登録されます。
2. 第1次試験
第1次試験について、詳しく解説します。
1) 日程
1次試験は例年、以下のような日程で行われています。
・試験日:8月
・合格発表:9月
ただし、令和2年度は各日程が、1か月程度前倒しで実施されました。
今後も変則的な日程となる可能性があるため、最新の試験日程は中小企業診断協会のホームページで、確認する必要があります。
2) 出題科目
出題科目は以下の7科目です。
②財務・会計
③企業経営理論
④運営管理(オペレーション・マネジメント)
⑤経営法務
⑥経営情報システム
⑦中小企業経営・中小企業政策
出題形式は多肢選択式で、回答形式はマークシート方式で行われます。
3) 合格基準
合格基準は、「総点数の 60% 以上を得点し、かつ1科目でも満点の 40% 未満のないこと」となっています。
また、1次試験には「科目合格制度」が導入されており、総点数だけではなく、科目ごとの合否判定も行います。
科目合格の合格基準は「60%以上の得点」となっています。
科目合格できた場合、その科目は翌々年度まで試験を免除してもらえます。
(科目合格制度の詳細については、「中小企業診断士:1次試験の科目合格戦略メリット・デメリット」をご確認ください。)
3. 第2次試験
第2次試験には、筆記試験と口述試験があります。
1) 日程
第2次試験は例年、以下のような日程になっています。
・筆記合格発表:翌年1月
・口述試験:翌年1月
・口述合格発表:翌年2月
ただし第2次試験も、令和2年度は1か月前倒しで行われていますので、正式な日程はその都度中小企業診断協会のホームページで、確認しなければなりません。
2) 出題科目
筆記試験は4科目あり、いずれも事例問題となっています。
出題ジャンルは、以下の4分野です。
「マーケティング・流通」
「生産・技術」
「財務・会計」
3) 合格基準
筆記試験は1次試験同様に「総点数の60% 以上を得点し、かつ1科目でも満点の40%未満のないこと」が合格基準になります。
口述試験の合格基準は、「評定が60%以上であること」となっています。
中小企業診断士講座の元運営責任者が、以下の7つの通信講座のコストパフォーマンスを比較して、おすすめ2つのメリット・デメリットについて解説してみました。
・TAC
・スタディング
・診断士ゼミナール
・クレアール
・LEC
・アガルート
・フォーサイト
詳細は「中小企業診断士の通信講座おすすめ2選!元講座運営者が比較します」をご確認ください。
4. 実務補習or実務従事
2次試験に合格した人は、3年以内に「15日以上の診断実務への従事」をしなければ、中小企業診断士として登録してもらえません。
この要件を満たすためには、実際に診断実務に従事するか、実務補習を受講する必要があります。
それぞれについて解説します。
1) 実務補習
実務補習は診断実務に従事する機会がない人が受講するもので、中小企業診断協会などの「登録実務補習機関」が実施しています。
従来は5人~6人くらいのチームで中小企業に対してヒアリングを行い、期間内にチームで報告書をまとめ上げるという「グループワーク」方式のみでした。
しかし、令和4年度からはインターンシップ型も新設されることが、中小企業庁から発表されています。
インターンシップ型は、指導担当の診断士に受講生が随行し、実際の診断助言業務の現場で指導を受けることになります。
実務補習の受講期間は、15日間コースと5日間コースの2つが用意されています。
15日間コースであれば一気に要件を満たすことができますが、開講されるのは年に1回、2月のみです。
一方の5日間コースは、例年2月、7月、8月、9月に開催されています。
曜日も「土日を含めた5日間」となっているため、会社勤めの方にとっては5日間コースが、現実的な選択肢となっています。
なお5日間コースの場合、「15日間の実務従事」という要件を満たすためには、3回受講する必要があります。
期間は3年ありますから、1年目、2年目、3年目それぞれで5日間ずつ受講、といったパターンでも構いません。
費用は15日間コースが18万円、5日間コースが6万円(×3回)となっています。
2) 実務従事
実務従事は、実際の業務として経営診断や助言を行っている場合を指し、以下のようなケースが想定されています。
・自社に対して行う診断助言
・公的機関からの派遣で行う診断助言
・勤務先の取引先に対する診断助言
・1日5時間以上の窓口相談業務
申請するには各機関の責任者による証明が必要で、「診断助言業務実績証明書」や「窓口相談業務従事証明書」といった書類に、業務内容を記載して提出しなければなりません。
5. 登録&更新
1次試験と2次試験に合格し、実務従事などの要件を満たしたら、晴れて中小企業診断士として登録が可能となります。
ただし、登録後も5年ごとに、更新をしなければなりません。
1) 登録
試験や実務従事などの登録要件を満たし、所定の書類を揃えて中小企業庁に申請すれば、数か月後に登録完了となり、「中小企業診断士登録証」が送られてきます。
2) 更新
中小企業診断士の業務は常に新しい知識が必要となるため、登録には5年という有効期間が定められています。
つまり、5年ごとの更新登録が必要となり、そのたびに更新要件を満たす必要があります。
更新要件は「知識の補充」に関する要件と「実務の従事」に関する要件の2つがあり、どちらも満たさないと更新はできません。
① 「知識の補充」に関する要件
「知識の補充」要件は、「研修を受ける」「論文審査に合格する」「研修講師を務める」のいずれかを、5年間のうちに5回以上行えば満たしたことになります。
ちなみに、中小企業診断協会で「研修」や「論文審査」を受ける場合は、1回6,300円の費用が掛かるため、5回で31,500円必要となります。
② 「実務の従事」に関する要件
「実務の従事」に関しては、「経営診断助言業務」と「窓口相談業務」のどちらかに従事し、5年間で30点以上得点することが要件となっています。
点数のカウントは「経営診断助言業務」の場合は1日従事したら1点、「窓口相談業務」の場合は5時間ごとに1点となっています。
「経営診断と助言」を行う中小企業がない場合は、中小企業診断協会に入会すれば、実務を行う機会を得ることができます。
ただし、年会費が3万円~5万円程度、入会金も1万円~3万円程度かかります。
また、民間企業が中小企業診断士の更新需要を見込んで、実務従事支援サービスを展開しているケースもあります。
(中小企業診断士にかかる費用については「中小企業診断士にかかる費用とは?合格・登録・維持にいくら必要?」も合わせてご確認ください。)
6. 養成課程
ここまで見てきたように、中小企業診断士になるための一般的なルートは「1次試験⇒2次試験⇒実務従事⇒登録」ですが、実は養成課程という特殊なルートもあります。
養成課程を選択する場合のルートは、「1次試験⇒養成課程⇒登録」となり、より短いステップで中小企業診断士を目指すことができます。
養成課程を開講している機関は複数あるのですが、知名度が高いのは中小企業大学校が開講している「中小企業診断士養成課程」です。
中小企業大学校の場合、期間は半年間で、学校に通うのと変わらない形で受講することができます。
しかしながら、仕事をしながら受講するのは日程的に不可能であることに加え、受講料も約230万円と大変高額であり、利用するのは銀行やコンサル会社などから派遣されているビジネスパーソンがメインになります。
7. 終わりに
いかがでしたでしょうか?
中小企業診断士の場合、試験に合格してもその後3年以内に所定の実務経験を積まなければ、資格を取得できません。
しかも、5年ごとに更新が必要で、更新するために研修を受けたり、実務従事ポイントを稼いだりする必要もあります。
資格の取得にも維持にも、高いハードルが課されています。
その一方で、国は中小企業診断士がもっと活用されるように施策を打ってきており、公的機関からの信頼が厚い、魅力的な資格であるともいえます。
この機会に、ぜひ取得を検討してみてください。
8. まとめ
◆中小企業診断士になった後も5年ごとに更新登録をしなければならない。
◆更新登録では「知識の補充」や「実務の従事」といった要件を満たす必要がある。
◆2次試験と実務経験の代わりに養成課程に入る特殊な方法もある。