簿記検定を受験する際に、何級にするかは多くの人が悩むポイントです。
簿記検定には初級・原価計算初級・3級・2級・1級とあり、一番簡単な初級から受験しようと考えている人も、多いのではないでしょうか。
しかし、簿記初級・原価計算初級は勉強する意味がない、といわれています。
この記事では、簿記初級は本当に勉強する意味がないのか、原価計算初級も意味がないのか、について解説します。
1. 簿記初級(4級)とは?
1) 簿記初級の目的と概要
2) 簿記初級の学習内容
3) 簿記初級の難易度
4) 簿記初級と簿記3級の違い
2. 原価計算初級とは?
1) 原価計算初級の目的と概要
2) 原価計算初級の学習内容
3) 原価計算初級の難易度
4) 簿記2級の工業簿記との比較
3. 勉強する意味がない5つの理由
1) 知名度がかなり低い
2) 実用性がない
3) 教材が少ない
4) お金がかかる
5) 3級や2級で同じ内容を扱う
4. 終わりに
5. まとめ
1. 簿記初級(4級)とは?
簿記初級は、簿記を初めて学習する人が、基礎を学べる資格です。
ここでは、簿記初級の概要や難易度について解説します。
簿記初級の内容を知り、学習を始める際の参考にしてください。
1) 簿記初級の目的と概要
簿記初級は、簿記を初めて学習する人への入門級として、2017年4月に設けられました。
初学者が簿記の基本を体系的に学習でき、挫折せず継続して学ぶことを目的としています。
また、簿記の基本用語や複式簿記の仕組みを理解できます。
受験に資格は不要で、制限なく誰でも受験可能です。
ただし、パソコンを使用して受験するネット試験のみが実施されていて、紙を使用して受験する統一試験はありません。
ネット試験は随時受験が可能で、試験結果もその場ですぐわかるため、社会人で仕事が忙しい人でも気軽に挑戦できるでしょう。
2) 簿記初級の学習内容
簿記初級の学習内容は、まったくの未経験者でもスムーズに学習に取り組めるように、工夫されています。
具体的な学習内容は、以下の通りです。
取引の種類や勘定科目の意義・仕訳の意義・帳簿の種類など
現金預金や債券・債務・手形・固定資産・資本など
試算表で月次集計をおこない、数値を読み取る
以上が簿記初級で学習する、主な内容です。
簿記の基礎知識でありながら、より難しい級を目指すのにも役に立ちます。
また、勘定科目が少ない・帳簿の種類が少ないなど、詰め込み過ぎない内容であり、覚えきれずに挫折しないように配慮されています。
3) 簿記初級の難易度
簿記初級の合格率は、例年60%ほどです。
期間 | 受験者 | 合格者 | 合格率 |
2022/4/1~ 2023/3/31 |
3,353名 | 2,062名 | 61.5% |
2021/4/1~ 2022/3/31 |
3,644名 | 3,644名 | 64.2% |
2020/4/1~ 2021/3/31 |
3,988名 | 2,516名 | 63.1% |
2019/4/1~ 2020/3/31 |
4,284名 | 2,545名 | 59.4% |
2018/4/1~ 2019/3/31 |
4,182名 | 2,421名 | 57.9% |
2017/4/1~ 2018/3/31 |
4,167名 | 2,243名 | 53.8% |
勉強しないで合格するのは難しいですが、しっかりとスケジュールを組んで学習すれば、多くの人が合格できる資格といえるでしょう。
簿記初級と、その他の級の学習時間の目安は、以下の通りです。
簿記3級:100時間
簿記2級:200時間
簿記1級:600時間
*下の級を持っている場合の学習時間
簿記初級の学習時間は100時間なので、1日1時間を3ヶ月ほど続ければ合格できるレベルになります。
仕事が終わった後にしか勉強する時間を確保できない社会人でも、比較的取り組みやすい学習時間だといえるでしょう。
(勉強時間については「簿記3級・2級の勉強時間は?一ヶ月・二ヶ月での合格は可能?」も合わせてご確認ください。)
4) 簿記初級と簿記3級の違い
簿記初級と簿記3級は必要な学習時間が同程度のため、どちらを受験しようか迷う人が多いです。
簿記初級は初心者が基礎知識を覚えるのに向いていて、簿記3級は実務的な内容に近づき、仕事に役立てられるでしょう。
試験方式や受験料などの違いは、以下の通りです。
初級 | 3級 | |
受験資格 | 制限なし | 制限なし |
合格基準 | 100点満点 で70点以上 |
100点満点 で70点以上 |
試験時間 | 40分 | 60分 |
試験方式 | ネット試験 | ネット試験 会場試験 |
受験料 | 2,200円 | 2,850円 |
受験のしやすさや受験料などを総合的に検討して、受験する級を決めるといいでしょう。
2. 原価計算初級とは?
原価計算初級は、簿記2級で学習する工業簿記の入門となる資格です。
ここでは、原価計算初級の概要や学習内容を解説します。
1) 原価計算初級の目的と概要
原価計算初級は、簿記の知識がない人でも原価計算の基本的な考え方を学び、企業人としての原価意識を持てる資格です。
簿記検定の初級~1級に加わる形で、2018年4月に施行されました。
原価計算について学習すると、自社の商品やサービスの原価や利益などを原価計算により把握して、経営状態の分析などに役立てられます。
試験方式は簿記初級と同じくネット試験のみで、受験に制限はなく、誰でも申し込みが可能です。
普段の仕事で経理業務をしている人だけでなく、工場で生産管理や仕入れをしている人、営業で利益を計算する人など、幅広く活用できる資格です。
2) 原価計算初級の学習内容
原価計算初級の学習内容は、簿記2級で学習する「工業簿記」の入門ともいえる内容です。
工業簿記を学習する際に、簿記3級までに学習した商業簿記とは内容が大きく違うため、戸惑う人がいます。
しかし、原価計算初級を取得していれば、スムーズに学習を進められるでしょう。
原価計算初級の具体的な学習内容は、以下の通りです。
材料費や労務費などの原価の計算、売上総利益など損益計算
CVP分析や予算実績差異分析など
原価の集計や在庫の原価・製品別の損益計算書の作成
学習内容だけを見ると難しく感じるかもしれませんが、実際は簿記の知識がなくても理解できるレベルです。
簿記2級の工業簿記の学習にも繋がるため、上位の級を目指している人は、取得して損はないでしょう。
3) 原価計算初級の難易度
原価計算初級の難易度はかなり易しく、毎回90%前後の合格率です。
期間 | 受験者 | 合格者 | 合格率 |
2022/4/1~ 2023/3/31 |
1,453名 | 1,314名 | 90.4% |
2021/4/1~ 2022/3/31 |
1,753名 | 1,569名 | 89.5% |
2020/4/1~ 2021/3/31 |
1,870名 | 1,705名 | 91.2% |
2019/4/1~ 2020/3/31 |
1,788名 | 1,641名 | 91.8% |
2018/4/1~ 2019/3/31 |
2,098名 | 1,954名 | 93.1% |
2017/4/1~ 2018/3/31 |
4,167名 | 2,243名 | 53.8% |
合格率も高く、かつネット試験であるため、気軽に受験できます。
一方で、原価計算は知らない用語や考え方を多く学ぶ必要があり、まったく学習をしないで受かる試験ではありません。
合格率が高いからといって油断しないで、しっかりと合格レベルに達してから受験するといいでしょう。
4) 簿記2級の工業簿記との比較
原価計算初級は、原価計算の基本用語や原価と利益の関係、簡単な分析を通して初歩を学びます。
そのため、簿記2級の工業簿記で学習する「個別原価計算」や「総合原価計算」などの、原価計算の具体的な種類には触れていません。
しかし、原価計算初級を学ぶことで、簿記2級の工業簿記の基礎を固められます。
原価計算初級の内容を完璧に理解できれば、簿記2級の工業簿記の学習の30~50%は完了しているといえるでしょう。
また、原価計算初級には、簿記1級の学習範囲である、予算実績差異分析が含まれています。
簿記1級の学習範囲と聞くと、かなり難しいように感じるかもしれません。
しかし、予算実績差異分析を理解するのは、それほど難しくありません。
原価計算初級で予算実績差異分析を理解しておけば、2級以上の学習を始める際に役に立つでしょう。
さらに、予算実績差異分析は、実務にも役立つ考え方です。
このことから、原価計算初級は工業簿記の初歩でありながら、上位級の学習や実務でも活用できる、コストパフォーマンスの高い資格といえるでしょう。
簿記講座の元運営責任者が、「講座代金(安さ)」と「講座との相性(わかりやすさ)」の観点から、おすすめ通信講座を以下の5つに絞り、メリット・デメリットについて解説してみました。
・クレアール
・フォーサイト
・ネットスクール
・CPA会計学院
・スタディング
詳細は「簿記の通信講座おすすめ5選!安さとわかりやすさで比較すると..」をご確認ください。
3. 勉強する意味がない5つの理由
簿記初級や原価計算初級は、知名度が低く、実用性に乏しい資格です。
ここでは、簿記初級と原価計算初級は勉強する意味がない、と言われる5つの理由を紹介します。
資格取得を考えている方は、自分にとって学習する意味があるのか、よく検討してください。
1) 知名度がかなり低い
簿記初級と原価計算初級は知名度が低く、取得してもアドバンテージにならないことが多いです。
知名度が低い理由としては、簿記検定の中では近年施行された級であり、受験者数も少ないことが挙げられます。
簿記3級の受験者数が毎回30,000人を超えるのに対して、簿記初級は3,000人ほどです。
知名度の低さと資格の有用性は、直接の関係はないと考えるかもしれません。
しかし、他人に簿記初級の資格を持っていると伝えても、相手が内容を知らなければ、有用性を示すのは難しいです。
知名度が高い簿記2級であれば、取得していると伝えるだけで、経理として働けるだけの能力があると示せます。
簿記初級や原価計算初級を取得しても、ネームバリューで得することはないでしょう。
2) 実用性がない
簿記初級と原価計算初級は、実用性がなく、取得しても実務レベルにはなりません。
実務レベルの実力をつけるのではなく、基礎を学ぶことを目的としているからです。
「簿記初級を取得して経理で働きたい」
「原価計算初級を学んで自社の利益構造を把握したい」
など、実務で使おうとしているのであれば、勉強する意味はありません。
就職や転職に役立てたいのであれば、簿記2級を取得するといいでしょう。
ただし、学習する内容は、上位の級を学ぶ際に役立つものも多いです。
実務ですぐに活躍できるレベルにはなりませんが、将来を見据えて基礎からじっくり学びたい人には、勉強する意味はあるでしょう。
(簿記の実用性については「簿記は何に役立つの?経理以外も勉強した方がいい理由」も合わせてご確認ください。)
3) 教材が少ない
簿記初級と原価計算初級は受験生が少なく、市場規模が小さいため、発売されている教材が少ないです。
教材が少ないと、自分に合ったものを見つけられず、学習が捗らない可能性があります。
例えば、図や挿絵で分かりやすく書かれている教材が好きな人が、文字ばかりの教材を選んでしまうと、途中で学習が嫌になってしまうでしょう。
簿記2級のように、本屋の棚が埋まるほどの教材から選べば、自分に最適な一冊が見つかるはずです。
簿記初級や原価計算初級の教材は、数冊しかないか、小規模な書店では置いていないケースもあります。
購入したいと思える教材が見つからない場合は、簿記3級を検討するのもいいでしょう。
4) お金がかかる
簿記初級と原価計算初級の受験料は、それぞれ2,200円(税込)です。
2,200円という金額だけでみると、それほど高くないと感じるかもしれません。
しかし、他の級と比較すると、それほど安くないと分かります。
・簿記2級:4,720円(税込)
・簿記1級:7,850円(税込)
簿記3級は、小規模な会社で通用するレベルの知識が身に付きます。
しかし、受験料は初級と比べて650円しか差がないため、簿記3級はコストパフォーマンスが高いといえるでしょう。
簿記2級は中小企業レベルの簿記の知識が身に付き、即戦力として採用にも有利になります。
取得すれば一生活用できる簿記2級を4,720円で受験できるのは、安いと感じる人が多いのではないでしょうか。
受験料の他にも教材購入費が発生しますが、初級と2級・3級では金額に大きな違いは発生しません。
同じくらいの費用が発生するのであれば、簿記初級よりも上位の級に挑戦するのがおすすめです。
5) 3級や2級で同じ内容を扱う
簿記初級で学習する内容は、簿記3級の範囲にも入っています。
簿記初級は初めて簿記を学ぶ人向けですが、簿記3級も初心者向けとなっていて、基礎から学習できるためです。
基礎だけをじっくり学びたい人は簿記初級でも問題ありませんが、実践的な内容も同時に学習したいのであれば、簿記3級から始めるといいでしょう。
同じように、原価計算初級の内容は、簿記2級の工業簿記の範囲に入っています。
簿記2級までの取得を目指しているのであれば、原価計算初級は学習せずに、2級から始めるのもおすすめです。
ただし、簿記2級は商業簿記と工業簿記を同時に学習する必要があり、求められる知識も増えます。
ゆっくりと工業簿記の基礎から覚えたい場合は、原価計算初級を取得する意味はあるでしょう。
4. 終わりに
いかがでしたでしょうか?
簿記初級は、簿記を初めて学ぶ人向けに、用語や概念など基礎を身に付けられる資格です。
原価計算初級は、簿記2級の工業簿記の初歩を学べる資格です。
どちらも合格率が高く、しっかりと学習すれば誰でも取得できるでしょう。
簿記初級と原価計算初級は、勉強する意味がないといわれています。
その理由は、受験者が3,000人ほどで知名度が低く、実務で活躍できるレベルにならないためです。
ただし、基礎の基礎から着実に簿記を学びたい人には、初級を学習する意味はあります。
自分にとって、どの級から始めるのが最適なのか、よく検討してから勉強を始めてください。
5. まとめ
◆約60%と高い合格率であり、しっかりと学習すれば誰でも取得可能。
◆実務レベルにならないなどの理由により、簿記初級は勉強する意味がないといわれている。