中小企業診断士は、企業経営における課題の洗い出しと問題解決の助言を行う専門家です。
法律上定められた国家資格になります。
合格するのがとても難しく、その最終合格率は3%~7%。
多くの人は複数年かけて、資格取得に挑んでいます。
独占業務が認められていないため、一部では「食えない資格」と揶揄する向きもありますが、実際には多くの診断士が「取得したことで人生が好転した」と肯定的な発言をしています。
今回はこの中小企業診断士という資格が、主にどんな場面で役に立ってくるのかをまとめていきます。
1. 昇進・昇格で役に立つ
2. 転職で役に立つ
1) 資格自体への評価が根強い
2) 専門領域があればより高評価
3) 中小企業診断士ならではのルート
3. 独立開業するときに役に立つ
1) 中小企業診断士の年収は高め
2) ダブル、トリプルライセンスは有利
3) 仕事の紹介が多い
4. 人脈づくりに役に立つ
1) 人脈が広がりやすい背景
2) 意識的に取り組むことが重要
5. 副業に役立つ
1) 比較的高額になることも
2) ネットを活用して副業を見つける
6. 終わりに
7. まとめ
1. 昇進・昇格で役に立つ
中小企業診断士が守備範囲とする分野は、広範多岐にわたります。
経営戦略、人材の育成や研修、財務、営業販売、新規事業、IT、調査研究など、企業活動に関係するほぼすべての分野が、中小企業診断士の業務対象です。
しかも、中小企業診断士が身につけている知識は、特定の企業や業界に特化した知識ではありません。
企業が変わっても、業界が変わっても通用する、汎用性の極めて高い知識なので、勤務先企業はもちろん、取引先や行政、金融機関などからも評価されます。
会社を引っ張る立場である経営者や管理職の多くは、中小企業診断士が持つ知識やスキルの重要さをよく理解しています。
そのため、自社の社員が中小企業診断士の資格を取ったという話を聞けば、それだけで一目置くことにもなりますし、もし業務上困ったことが起これば、「ちょっと話を聞いてみようか」という展開にもなりやすいでしょう。
企業内にとどまる中小企業診断士の中には、そうやって社内の人たちから意見を求められる立場になったことで、会議でも自分の意見が格段に通りやすくなった、という経験をされた人もいます。
これはつまり、社内における評価が上がったことを意味していますので、管理職への昇進や上位等級への昇格などで、有利な立場に立てるということにもつながっていくのです。
いずれにしても、資格取得によって社内の重要な部署や仕事に携われる機会が増え、結果として昇進や昇格につながりやすいということは間違いありません。
2. 転職で役に立つ
日本において、転職の際に最も評価されるのは、実務経験と実績です。
どのような資格も応募要件となることはあっても、それだけで採用が決まるというものではありません。
中小企業診断士の資格も同様ですが、やはり業種や職種によってその評価は大きく異なり、中には資格そのものが評価されるケースもあります。
1) 資格自体への評価が根強い
中小企業診断士の資格があるだけでは、採用にたどり着けないというのは間違いありません。
ただそうは言っても、中小企業診断士は日本で唯一の経営コンサルタント系国家資格です。
「経営コンサルタント」という肩書は誰でも名乗れますが、「中小企業診断士」という肩書は国家試験に合格した者しか名乗ることが許されません。
つまり、「中小企業診断士」と名乗れるだけで、「一定水準の能力の証明」にもなっているのです。
そのため、この資格と親和性の高い業界や企業では、実務経験が多少物足りなくても評価されることがあります。
年齢が若いほどその傾向は顕著で、20代や30代前半の人が中小のコンサルティング会社に転職するような場合には、より有利に働くでしょう。
2) 専門領域があればより高評価
しかし、中小企業診断士の資格が最も評価されるのは、本人に専門領域がある場合です。
営業でも財務でも経営企画でも、何か専門的な経験と知識を持ったうえで中小企業診断士の資格を有していれば、それは大きな武器となります。
例えば、ITシステムの構築・導入の経験に中小企業診断士の資格があれば、IT系のコンサル会社が高く評価してくれます。
また、人事畑で長年経験を積んできた人が中小企業診断士の資格を持っていれば、人事系コンサル会社が歓迎してくれるでしょう。
そのような人が転職サイトに登録すると、個別のスカウトメールが送られてくることもあるほどです。
3) 中小企業診断士ならではのルート
今の時代、転職というと転職サイトや転職エージェントに登録するか、地道にハローワークに通うなどの方法が一般的です。
しかし中小企業診断士になると、診断士同士の横のつながりが強く、そこから派生した人脈で転職がかなう場合があります。
そもそも、中小企業診断士は経営者をはじめとした様々な職業の人たちと交流があり、その交流の中で密度の濃い情報網を築いています。
どこでどういった人材が求められているか、といった情報に触れる機会もあるため、転職においては効率的に立ち回ることも可能なのです。
中小企業診断士講座の元運営責任者が、以下の7つの通信講座のコストパフォーマンスを比較して、おすすめ2つのメリット・デメリットについて解説してみました。
・TAC
・スタディング
・診断士ゼミナール
・クレアール
・LEC
・アガルート
・フォーサイト
詳細は「中小企業診断士の通信講座おすすめ2選!元講座運営者が比較します」をご確認ください。
3. 独立開業するときに役に立つ
中小企業診断士は、独立開業も可能な資格です。
業界団体である中小企業診断協会が2016年に行った「データで見る中小企業診断士2016年版」という調査では、中小企業診断士の資格保持者の4割以上が独立開業している、という結果が出ていました。
そこでここでは、独立開業した人達の状況はどうなのか、独立開業することでどんなメリットがあるのかを、調査結果を基にみていきます。
1) 中小企業診断士の年収は高め
下の表は、中小企業診断士の収入に関する調査結果を、500万円刻みでまとめたものです。
500万円以内 | 170人 | 27.2% |
501~1,000万円以内 | 192人 | 34.8% |
1,001~1,500万円以内 | 104人 | 18.8% |
1,501~2,000万円以内 | 50人 | 9.1% |
2,001~2,500万円以内 | 20人 | 3.6% |
2,501~3,000万円以内 | 12人 | 2.2% |
3,001万円以上 | 24人 | 4.3% |
合計 | 552人 | 100.0% |
(データで見る中小企業診断士2016年版)
これは、経営コンサルティング業務を行っている人のうち、業務日数が年間100日以上の人のコンサル業務売上です。
売上なので、厳密には収入ではありません。
しかし、コンサル業務は仕入れが発生しませんし、この調査自体が年収を問うた側面がありますので、この数値はほぼ収入に近いとみることができます。
単純に見ていくと「501万円~1,000万円」が最も多いということになりますが、もう少し別の味方をすると、「1,001万円以上稼いでいる人」は552人中210人もいて、38%にもなります。
「501万円以上稼いでる人」という切り分けをすると、なんと7割を超えてきます。
中小企業診断士の7割以上はコンサル業務で500万円以上稼いでおり、その半数近くは1,000万円オーバーということができるのです。
2) ダブル、トリプルライセンスは有利
中小企業診断士は、企業経営にまつわる様々な分野が業務対象となるので、多くの資格との相乗効果が見込めます。
実際に調査では、7割を超える人が中小企業診断士以外に資格を保有している、という結果が出ています。
《中小企業診断士以外の保有資格》
なし | 597人 | 24.0% |
弁護士 | 3人 | 0.1% |
公認会計士(補) | 13人 | 0.5% |
税理士 | 63人 | 2.5% |
司法書士 | 3人 | 0.1% |
行政書士 | 123人 | 5.0% |
不動産鑑定士(補) | 8人 | 0.3% |
社会保険労務士 | 169人 | 6.8% |
技術士(補) | 78人 | 3.1% |
情報処理技術者 | 305人 | 12.3% |
ITコーディネータ | 144人 | 5.8% |
販売士 | 205人 | 8.3% |
FP | 322人 | 13.0% |
その他 | 450人 | 18.1% |
合計 | 2,483人 | 100.0% |
(データで見る中小企業診断士2016年版)
例えば、FP(ファイナンシャル・プランナー)は主に個人を相手に金融関連の指南をする資格ですが、中小企業に対しても活動エリアを広げてきています。
その内容は、経営者や従業員向けにライフプラン関連のセミナーを開催したり、法人向けに保険や福利厚生のコンサルを行ったり、というものです。
当然、中小企業診断士の業務とリンクさせていくことが可能であり、好相性です。
行政書士だと官公庁への各種申請や、権利義務に関する書類の作成といった独占業務が認められています。
つまり、経営コンサルティングに付随して発生する書類作成や申請業務などを、ワンストップで請け負うことが可能になり、これも相乗効果が見込めます。
情報処理技術者やIT系の資格になると、中小企業診断士の試験科目である「経営情報システム」と内容が被ってくるくらいに、親和性があります。
このように、他の資格との相乗効果が高いため、資格をどんどん取得して収入アップと安定化を目指す、というアプローチが可能です。
3) 仕事の紹介が多い
通常、独立開業となると一番の心配事は、「仕事があるのか?」ということになるはずですが、中小企業診断士の場合は、仕事の多くが紹介で賄われているというデータも出ています。
中小企業診断協会の調査結果によると、コンサル業務受注のきっかけは、多い順に「中小企業支援機関・商工団体などからの紹介」「顧問先企業からの紹介」「同業者からの紹介」「各県の診断士協会からの紹介」「金融機関からの紹介」などとなっています。
もちろん、それ以外にウェブサイトからの直接依頼などもありますが、受注のきっかけの上位は全て紹介です。
仕事を紹介してもらうための努力は必要になってくるものの、努力すべき方向性がはっきりしているというのは、とても恵まれた環境だといえます。
(「起業して経営者になるのに中小企業診断士の資格は役立つ?」も合わせてご確認ください。)
4. 人脈づくりに役に立つ
中小企業診断士になった人のインタビューやブログを見ると、多くの人が人脈の急速な広がりに驚いたと言っています。
1) 人脈が広がりやすい背景
中小企業診断士は、弁護士や税理士などのような独占業務を持ちません。
独占業務があれば、皆がそこに集中するので仕事の奪い合いとなりますが、独占業務がなければ幅広い分野の中で自分の専門分野を見出し、それを「ウリ」にしていくようになります。
結果、様々な専門分野を持つ中小企業診断士が存在し、自分の専門外の仕事に関してはその分野を専門とする知り合いに紹介する、といったことが行われています。
同じ資格を持つ者同士が仕事を紹介し合う、といったことは他の資格ではあまりみられないことです。
中小企業診断士が横のつながりが強いといわれるのには、こうした「独占業務がない」という背景があるのです。
自分の開拓したクライアントの他に、地域の中小企業診断協会や商工会からのからの紹介、そして同じ中小企業診断士からの紹介、これらが複合的に重なって人脈を急拡大させることが可能です。
2) 意識的に取り組むことが重要
いくら人脈が広がりやすいといっても、自分自身が意識を向けて取り組まなければ、人脈というものは形成できません。
ここでは、人脈形成につながる方法を、順に2つご紹介します。
① 勉強会や研究会などのコミュニティに所属する
まずは各都道府県にある中小企業診断士の協会に所属し、そこでのさまざまな活動に参加することが基本になってきます。
各協会では、業種別に研究会が作られていたり、コンサルティング手法を学ぶ勉強会があったり、異業種や他士業の人たちとの交流会があったりと、人脈を広げる場がいろいろと用意されています。
そうしたところに顔を出すことで、同期や先輩とのつながりができます。
2度3度と会って情報交換するうちに情報密度が濃くなり、やがては人手や専門分野の関係で対応しきれない仕事を紹介される、という状況につながっていくのです。
② SNSを活用する
また、コミュニケーションツールとして、SNSを活用している人もたくさんいます。
特に、実名登録のFacebookは人脈作りには便利なツールで、「密に連絡を取り合うほどでもないが疎遠にもならない距離感を保つ」といった使い方ができます。
例えば、交流会で知り合った人ととりあえずFacebookの中でつながっておき、必要に応じて情報交換をする、といった具合です。
また、Facebookの中で提供されている「Facebookグループ」という機能は、各種勉強会や研究会などのコミュニティ単位で利用されるケースがよくあります。
使ってない人にとってはとっつきにくいものかもしれませんが、人脈の広がりを加速させるツールとしてはとても便利ですので、積極的に使っていくことで人脈形成に役立つことでしょう。
5. 副業に役立つ
中小企業診断士になると、ちょっとした単発の仕事が舞い込むことがあります。
多くは地元の中小企業診断協会や、診断士同士の横のつながりで入って来る仕事で、「講演」「資格学校での講師や模擬試験の作成・添削」「クライアント企業の業務支援補助」「中小企業向け補助金の申請支援」などがあります。
もっとも副業ですから、平日の昼間以外でこなせる仕事というのが、前提になってきます。
1) 比較的高額になることも
副業といっても、中小企業診断士という専門資格がベースにあっての仕事です。
報酬は比較的高額で、企業内診断士でありながら、年間数百万円を稼ぐような事例もあります。
例えば、スタンダードな副業とされる国の補助金申請支援だと、報酬は補助金の額の1割~2割が相場です。
補助金は数百万円というケースも珍しくはありませんから、報酬額も1件で数十万円ということになります。
コロナ渦では補助金申請が増加したこともあり、「コロナ特需」という言葉も登場しました。
他では資格受験の予備校で講師をしたり、模擬試験を作成したりする仕事もあります。
講師であれば1コマ1万円、模擬試験作成や添削などでは時給2,000円くらいが相場です。
2) ネットを活用して副業を見つける
最近では、ネットを使ってより簡単に副業を見つけることも、可能になってきています。
例えば、コンサルティングを希望する企業とコンサルタントをつなげるマッチングサイトには「人事制度について相談したい」「開業にあたって事業計画書の作成を相談したい」「ECサイトの立ち上げで営業戦略の提案をしてほしい」といった依頼が登録されています。
長期継続ではなく単発依頼の案件もたくさん登録されているので、活用できれば中小企業診断士の副業探しにはピッタリだといえます。
6. 終わりに
中小企業診断士は広範な知識とスキルが必要になる難関資格であるため、取得後は独立開業するにしても企業内にとどまるにしても、周囲から一定の評価を受けやすい資格であるといえます。
企業内においては経営層や上司、あるいは取引先から評価されやすく、ネットの体験談を見ても「仕事環境が好転した」という話があちこちに散見されます。
長い目で見たときに、昇進や昇格に有利に働くのは間違いありません。
また、独立開業した場合であっても、需要は豊富です。
行政や商工会議所などからくる公的業務の依頼だけでも相当数あり、地域によっては需要過多で中小企業診断士が足りてないケースもあります。
一般企業においても経営課題がない企業など存在しませんので、うまくつながることさえできればコンサル業務の受注も十分可能です。
そして、そのつながりを持つために大切なのが、人脈です。
多くの中小企業診断士が仕事の受注パターンとして各種紹介を挙げていますので、資格が取得できたらまずは地域の診断士協会に所属し、縦と横のつながりを作っていくのが得策といえるでしょう。
7. まとめ
◆仕事の幅が広がり昇進や昇格につながりやすい。
◆就職や転職では実務経験があれば高く評価され、若いほどより有利に働く。
◆中小企業診断士同士のつながりの中で転職が決まることもある。
◆他の資格や専門分野を持っていると、独立開業後も仕事を獲得しやすい。
◆独立開業後に年収1,000万円を超える中小企業診断士もいる。
◆中小企業診断士全体が人脈形成に熱心なので、最初から人脈が広がりやすい。
◆資格学校の講師や補助金の申請支援など、専門知識を活かした副業も可能になる。