伊藤園の決算書分析:緑茶市場トップシェア?競合の台頭で苦戦?

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「お~いお茶」や「健康ミネラル麦茶」で有名な、伊藤園。

緑茶や麦茶飲料市場でトップシェアを獲得している一方で、サントリーの「伊右衛門」やコカ・コーラの「綾鷹」など、競合が台頭してきております。

そんな伊藤園の決算書について、今回は解説していきます。

【筆者の情報】
・公認会計士のマツタロウ
・ビジネス会計検定講座講師
・大手監査法人→経理部に出向
 →教育×ITベンチャー→自営業

 

 

1. 伊藤園とは?

1) 基本情報

① 会社情報

会社名 株式会社伊藤園
設立日 1966年8月
従業員数 5,403名(2021年4月)
事業 ①リーフ・ドリンク関連事業
②飲食関連事業
*詳細は後述
上場日 1996年(東証二部)
1998年(東証一部)
決算情報 IR情報

 

② 沿革

1980 世界初の缶入りウーロン茶を開発
1985 「缶入り煎茶」(「お〜いお茶」の前身)販売開始
1989 「缶入り煎茶」を「お〜いお茶」に名称変更
1994 「緑の野菜」販売開始
1996 東証二部上場
「お~いお茶」500mlの販売開始
2003 「お~いお茶」が茶系飲料トップシェアブランドに
2004 「お~いお茶 濃い味」「1日分の野菜」販売開始
2006 タリーズコーヒージャパンを子会社化
2011 チチヤスを子会社化
2019 「お~いお茶」が販売実績でギネス世界記録に認定

 

2) 事業内容

① リーフ・ドリンク関連事業

茶葉(リーフ)や飲料(ドリンク)の製造販売を行う事業。

緑茶・麦茶等が中心商品であり、以下が主要なブランドとなります。

・お~いお茶
・健康ミネラルむぎ茶
・1日分の野菜
・TULLY’S COFFEE

伊藤園:主要ブランド

 

② 飲食関連事業

タリーズコーヒーを運営する事業。

伊藤園:タリーズコーヒーロゴ

 

2. 苦戦&トップシェアの理由

1) 売上高&営業利益

まずは伊藤園の売上高と営業利益について、見てみましょう。

伊藤園:売上高
伊藤園:営業利益

売上高は2019年4月期をピークに減少し、営業利益率は毎年減少している状況です。

ただし伊藤園単体決算の営業利益率は、2018年4月期から毎年少しずつ改善しております。

伊藤園:営業利益(単体)

伊藤園は2022年4月期までの5か年の中長期経営計画の柱の一つとして「ROE経営の強化」を掲げております。

そのための施策の一つとして、営業利益率を5%超まで改善すべく取り組んでいる成果と言えます。

 

2) 飲料種類別の売上高

次に、飲料種類別の売上高について、解説していきます。

まずは、国内飲料市場の推移を見てみましょう。

伊藤園:飲料市場

(2021年4月期決算説明会資料より抜粋)

今や飲料市場で最も大きい市場となった「茶系飲料」。

そして以下の通り、伊藤園の主力も茶系飲料となります。

伊藤園:飲料種類別売上高

そんな主力の茶系飲料が、2019年4月期をピークに伸び悩んでいるように見えます。

その理由について、ここでは2つ見ていきましょう。

 

① 競合の台頭

伊藤園の主力商品である「お~いお茶」は、2018年に販売実績年間9,000万ケースを突破し、2018年~2020年の3年連続で容器入り緑茶飲料の販売実績世界一として、ギネス世界記録に認定されました。

ただし、競合も負けてはいません。

主な競合商品としては、以下があります。

・サントリー:伊右衛門
・コカ・コーラ:綾鷹
・キリン:生茶

「伊右衛門(サントリー)」の2020年12月期の販売実績は5,560万ケースとなっており、お~いお茶に迫る勢いです。

「綾鷹(コカ・コーラ)」は個別の販売実績が公表されていませんが、伊右衛門と同数程度という調査もあり、また2020年12月期に清涼飲料事業全体で約9,500万ケースも販売しているため、お~いお茶に続く2番手、あるいは3番手の位置にいると推測されます。

「生茶(キリン)」も個別の販売実績はわかりませんが、2020年12月期に日本茶事業全体で3,257万ケースを販売しております。

実際に近くのコンビニ(ローソン)の茶系飲料の棚を見てみると、競合との戦いの様子が見て取れます。

伊藤園:コンビニ競合比較写真

このように競合が台頭してきており、非常に競争が激しい市場であるため、伊藤園の茶系飲料事業は伸び悩んでいると考えられます。

 

② 市場が伸び悩んでいる

茶系飲料市場は2019年まで3年連続で拡大している一方で、2020年と2021年は外出自粛の影響で2019年に比べて縮小しております。

そして、伊藤園の茶系飲料の販売実績は、この市場と同じ動きをしております。

つまり市場の中での立ち位置は変化しておらず、競合に負けずに頑張っているともいえるのです。

よって、2019年からの伊藤園の茶系飲料の伸び悩みは、市場そのものの伸び悩みが原因の一つと考えられます。

次項以降ではそんな茶系飲料市場のうち、伊藤園の主戦場である「緑茶」「麦茶」それぞれの市場について、順に見ていきます。

 

3) 緑茶市場No.1

茶系飲料の中でも一番市場が大きい「緑茶飲料」において、売上シェアNo.1を誇る伊藤園。

ここでは、緑茶市場で伊藤園が長年No.1のシェアを維持できている理由について、順に3つ見ていきましょう。

 

① 生産量の圧倒的シェア

日本の緑茶(荒茶)生産量のうち、約4分の1が伊藤園で取り扱われています。

1976年より長年にわたって茶産地をサポートしてきたからこそ獲得できた、シェアの大きさであると言えます。

茶園面積が年々減少している現状で、生産量に対する高いシェアを確保していることが、緑茶市場で売上NO.1を獲得できている一つの要因となります。

伊藤園:茶園面積

(伊藤園HP「茶産地育成事業とは」より抜粋)

 

② 茶系飲料が主力商品

伊藤園の飲料事業のうち茶系飲料が占める割合は毎年増加しており、社内で圧倒的No.1の事業となっております。

伊藤園:飲料種類別売上高(割合)

競合は茶系飲料以外にも主力商品があるのに対して、伊藤園は茶系飲料が圧倒的な主力商品であり、ヒト・モノ・カネといった社内の経営資源は茶系飲料に流れていきます。

また、健康志向の飲料開発を率先してきた結果、無糖飲料の比率は年々高まっており、国内飲料のうち半数以上が無糖飲料となっております。

伊藤園:無糖飲料比率

(2021年4月期決算説明会資料より抜粋)

そしてこの無糖飲料の代表が茶系飲料であるため、ますます茶系飲料に社内資源が流れていくこととなります。

このように茶系飲料が主力商品である点も、伊藤園が緑茶市場でNO.1を獲得できている要因と考えられます。(これは「緑茶」だけでなく後述の「麦茶」にも当てはまります。)

★無糖飲料比率75%
伊藤園は今後の目標として、無糖飲料比率75%を掲げております。

そのため、今後ますます茶系飲料の比率が高まっていくことが予想されます。

 

③ 競合に負けない商品開発

伊藤園の競合に負けない商品開発力も、緑茶市場でNo.1を獲得できている要因と言えます。

一つの例として、「お~いお茶」と「伊右衛門(サントリー)」の競争の歴史を簡単に見てみましょう。

サントリーは後発ながらお~いお茶の牙城を崩すべく商品開発を重ね、伊右衛門をリリースしました。

しかし伊藤園も負けじと伊右衛門の販売開始数か月後に、新商品となる「お~いお茶 濃い味」を販売して対抗しました。

伊藤園:お~いお茶濃い味

また、サントリーは特定保健用食品である「伊右衛門、特茶」を販売し年間1,000万ケースの大ヒットに成功しましたが、伊藤園も追随して体脂肪を減らす機能性表示食品である「お~いお茶 濃い茶」を販売しました。

伊藤園:お~いお茶濃い茶

現在は「お~いお茶 濃い茶」が2,500万ケース超を販売しており、伊右衛門の特茶をリードしている状況です。

このように伊藤園は競合に負けない商品開発を行うことで、緑茶市場トップシェアを維持してきたと考えられます。

 

4) 麦茶市場NO.1

伸び悩む茶系飲料市場の中で、2019年までの10年間で市場規模を約3.5倍まで拡大した麦茶市場。(2020年は外出自粛の影響で縮小)

無糖・ミネラル・カフェインゼロといった特徴が昨今の健康志向と合致した点が、市場拡大の一つの要因として考えられます。

そんな異例の伸びを記録する麦茶市場でも、実は伊藤園がトップシェアを誇っています。

そして伊藤園の麦茶と言えば「健康ミネラルむぎ茶」。

伊藤園:健康ミネラル麦茶

ペットボトルの麦茶が一般的でなかった時代から販売を開始しており、歴史ある商品と言えます。

また20年以上にわたって笑福亭鶴瓶さんをCMで起用しブランドイメージも確立しており、人気商品としてトップシェアを誇っています。

★5・6ブランド目の確立
伊藤園のブランドの中で、年間販売数量が1,000万ケース超となるのは、以下の4ブランドとなります。

・お~いお茶
・健康ミネラルむぎ茶
・1日分の野菜
・TULLY’S COFFEE

2022年4月期までの中長期経営計画の1つ目の項目として、1,000万ケース超のブランドを現在の4つから6つに拡大することを掲げており、5・6つ目のブランドを確立できるか注目が集まります。

 

3. キャッシュフロー

ここでは、キャッシュフロー計算書の各区分の動きについて見てみましょう。

伊藤園:キャッシュフロー

 

1) 営業活動によるCF

毎年一定の営業活動によるキャッシュフローを生み出しております。

また、キャッシュフローマージン(=営業CF÷売上高×100%)は営業利益率よりも高く、キャッシュの回収効率の点からも大きな問題はないと言えます。

伊藤園:キャッシュフローマージン

 

2) 投資・財務活動によるCF

財務活動によるキャッシュフローの詳細を見てみると、2021年4月期の約400億円の借入が目立ちます。(以下は2021年4月期の明細です。)

伊藤園:財務活動によるキャッシュフロー

これは自動販売機に対する投資の拡大(後述)のため、あるいは他の用途への使用も考えられるため、今後の使途に注目する必要があります。

また、借入金の返済や配当金の支払いのほかに、「ファイナンス・リース債務の返済による支出」という項目も目立ちます。

これは、従来リースで契約していた自動販売機について、金利情勢を踏まえてリースから購入への切替えを順次進めており、その過程で発生した項目となります。

実際に連結貸借対照表のリース債務は、年々減少しております。

伊藤園:リース債務

さらに、自動販売機の購入による設備投資が毎年発生しており、投資活動によるキャッシュフローも継続的にキャッシュアウトの状態が続いております。

将来に向けた健全な投資であると言えます。

 

4. 安全性

ここでは安全性について、短期・長期それぞれの観点から見ていきましょう。

 

1) 短期の安全性

まずは短期の安全性の指標として、流動比率(=流動資産÷流動負債×100%)を見てみましょう。

伊藤園:流動比率

目安となる200%を毎年超えており大きな問題はありませんが、200~250%の間で推移しており今後200%を割る可能性もあるため、注意が必要となります。

より短期の安全性の指標として、手元流動性比率(=手元流動性÷(売上高÷12))についても見てみましょう。

伊藤園:手元流動性比率

目安となる1か月を超えており、こちらも大きな問題はないと考えられます。

また、前述の約400億円の長期借入により、2021年4月期の手元流動性比率が急激に上昇しており、短期的な安全性が強化された形となります。

 

2) 長期の安全性

次に、長期の安全性の指標として、自己資本比率(=純資産÷負債純資産合計×100%)について見てみましょう。

伊藤園:自己資本比率

2020年4月期を除くと目安となる50%を下回っており、長期的な安全性に注意する必要があります。

特に2021年4月期は約400億円の借入により、継続的に低下していた有利子負債比率が大きく上昇しており、有利子負債の今後の返済に伴うキャッシュの動きは要注目です。

(*有利子負債=借入金+リース債務+社債)

伊藤園:有利子負債比率

 

5. ROE

最後は、ROE(=当期純利益÷自己資本×100%)とROEの各構成要素について、見てみましょう。

伊藤園:ROE
ROEの分解

2022年4月期までの中長期経営計画の一つに「ROE経営の強化」を掲げておりますが、ROEは毎年低下しており、特に2020年4月期・2021年4月期は大きく低下しております。

2020年4月期・2021年4月期に減損損失(約53億円・40億円)を計上している影響で、売上高当期純利益率が大きく減少した点が、大きな原因と考えられます。

この減損は、連結子会社(「Distant Lands Trading Co.(米国)」「ネオス(株)」)ののれんに対する減損や、タリーズコーヒージャパンの店舗に対する減損となります。

来期以降はここまでの減損が発生しない可能性があり、また前述の通り伊藤園単体の営業利益率は改善しているため、2022年4月期からROEが改善する可能性は高いですが、どの水準まで回復するのか注意が必要です。

★配当利回り
伊藤園の配当利回り(=1株当たり配当額÷株価)は、高配当株の目安である3%をいずれの年も大幅に下回っており、配当目的の投資対象としては魅力的でないと言えます。
伊藤園:配当利回り

 

6. 終わりに

伊藤園の決算書について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?

緑茶や麦茶飲料市場でこのままトップシェアを維持できるのか?それ以外のヒット商品を出すことができるのか?といった点に注目しながら、今後の決算に注目していきましょう。

(本記事で扱っている決算書分析の指標や知識は、ビジネス会計検定で学ぶことができますので、ぜひ挑戦してみてください。)

 

7. まとめ

Point! ◆伊藤園単体の営業利益率は改善傾向。
◆茶系飲料市場の伸び悩みに合わせて伊藤園の売上高も伸び悩む。
◆緑茶市場でトップシェアの理由
・生産量に対するシェアが大きい。
・茶系飲料への経営資源の集中。
・競合に負けない商品開発力。
◆自動販売機をリースから購入に切り替え中。

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