建設業経理士2級の前に簿記2級の勉強をした方がいい?

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「建設業経理士2級を受けるように会社から言われたけど、何から勉強していいかわからない..」

「建設業界に転職したいけど、簿記の資格と何が違うの?」

「建設業経理士と簿記検定は、どの順番で勉強したらいいの?」

といった建設業経理士2級に興味のある人で、取得する順番について悩んでいる人向けに、今回は解説していきます。

(簿記は全商・全経・日商と主催団体によって種類が分かれますが、ここでは社会的認知度と一番難易度が高いといわれる、日商簿記を前提に解説しております。)

【監修者の情報】
・公認会計士のマツタロウ
・ビジネス会計検定講座講師
・前職で簿記講座の運営責任者を担当

 

 

1. 建設業経理士2級と簿記2級の比較

建設業経理士2級と簿記2級の比較

1) 共通点

建設業経理士2級と簿記2級の共通点は、企業における日々の経営活動を記録して財務諸表を作成する一連の流れを、実務レベルで行える能力が求められるという点です。

また2級取得者は、財務諸表の数字から経営内容を分析・把握し、経営管理に役立てる知識を持っていると、一般的に高く評価されます。

履歴書に堂々と書けるのも、2級からといっていいでしょう。

2級までは比較的独学で取得しやすく、社会的評価も高いので、コスパのいい資格であるといえます。

簿記検定の試験内容は、商品を仕入れてそのままの状態で販売するといった、商品売買業を営む企業を対象とする「商業簿記」と、仕入れた材料を加工しモノ(製品・成果物)を作って売ることを目的とする、製造業や建設業で行われる「工業簿記(原価計算)」からなっております。

このうち工業簿記が、建設業簿記と共通している部分となります。

どちらの検定も5つの大問によって構成され、100点満点中70点以上で合格です。

受験資格は特になく、下位級に合格していなくても受験することができます。

 

2) 相違点

建設業経理士2級と簿記2級の相違点は、勘定科目収益の認識基準です。

建設業もモノを作って売るという点では、広い意味で製造業に分類されます。

しかしながら、建設業で売るモノとは工事を施工して完成する構造物や建築物であり、作る期間が長期間にわたることや、完成品の価格が高いことなどの特徴があります。

そのため建設業で行われる簿記は、一般的な会計規則をベースに、その特殊性を加味した管理や処理が必要になります。

例えば建設業経理士でよくでる勘定科目として「未成工事支出金」という勘定科目がありますが、これは簿記では「仕掛品」という勘定科目となります。

「完成工事原価」・「完成工事高」は簿記では「売上原価」・「売上高」となるように、建設簿記特有の勘定科目を覚えないといけません。

また、通常の商品売買であれば商品を引き渡すことで収益を認識しますが、建設業の場合は作成期間が長期にわたるため、工事の進捗度に応じて収益を認識する会計処理が認められております。

建設業経理士2級は、建設業の経理部門において必要な知識と処理能力を向上させるための検定資格であり、また公共工事を受注するために必要な経営事項審査において加点対象になることから、建設業界においては非常に価値のある資格です。

反面、建設業以外では知名度が低いため評価されにくく、あらゆる業種で重宝されるのは日商簿記資格であるといえます。

 

2. 簿記2級を勉強した方がいい理由

建設業経理士2級の前に簿記2級を勉強した方がいい理由

ここでは、建設業経理士2級の勉強をはじめる前に、簿記2級を受験した方がいい理由について、順に4つ解説していきます。

 

1) 簿記の知識が前提となっている

建設業経理は簿記の中の一分野であり、建設業特有の勘定科目や処理の違いはあるものの、簿記のベースは一緒です。

そのため、簿記2級の知識があれば、理解が楽になります。

また建設業経理士の教材は、簿記の知識が前提となっている傾向があり、解説が少々分かりづらかったり、あっさりまとめられて不親切だったりすることがあります。

試験範囲や内容は非常によく似ているため、簿記2級レベルの理解があると、少ない労力で合格をつかみ取ることができるでしょう。

 

2) 簿記は教材が豊富にある

簿記は教材が豊富で、大体の書店にテキスト、問題集等がおいてあります。

種類も多く、自分のレベルや好みに合わせて教材を選ぶことができます。

また、解説が丁寧で分かりやすく、独学でも学習しやすいよう工夫されています。

最近ではネットやYouTubeなど無料のWeb講座も充実しており、受験者にとっては独学しやすい環境が身近にあります。

一方で、前述の通り建設業経理士の教材は解説が少ないこともあるため、事前に簿記の基礎知識を簿記検定で養っておく方が、効率的に学習を進められると言えます。

 

3) 簿記2級で原価計算も学べる

原価計算は、製造業や建設業に勤務されている方でないとイメージがつかみづらく、苦手意識を持ちやすい分野です。

(一方で、一度覚えてしまえばある程度パターンは決まっており、得点源になりやすいです。)

簿記2級の教材はイラストを多用して、段階的に原価計算について学習できるようになっています。

そのため、初めての方でも流れや全体像をイメージしながら、原価計算について勉強できると言えます。

 

4) 簿記2級は他の業種にも活きる

簿記2級の知識は建設業以外でも、業種を問わず活かすことができます。

さらに、財務・経理といった会計職にとどまらず、お金の流れを読みコストを意識することができるので、例えば営業、生産管理の仕事など、幅広い職種でその知識を役立てることができます。

仕事以外でも、自身の家計管理やライフプランを作成するとき、株式投資を始めるときなどに、簿記の知識は役立ちます。

日商簿記は資格自体のネームバリューもあり、就職・転職に有利になることも珍しくなく、ビジネスパーソンにとって持っていて損はない資格であると言えます。

 

★日商簿記受験はネット試験(CBT)がおすすめ!
日商簿記検定2級を受験する場合は、以下の理由からネット試験がおすすめです。

・受験日時を都合に合わせて自由に決められる
・紙の試験よりも簡単な傾向がある(基礎的な問題が多い)
・終了後すぐ合否がわかる
・再受験も最短4日後から可能(試験日の翌日から予約でき、その日から最短日3日後以降の受験日が選べる)

 

3. 簿記3級まででもいい理由

建設業経理士2級の前に勉強するのは簿記3級まででいい理由

ここでは反対に、建設業経理士2級の勉強を始める前に勉強するのは、簿記3級まででもいい理由について、順に3つ解説していきます。

 

1) 簿記2級は学ぶことが多い

簿記2級は建設業経理士2級の試験範囲を網羅していますが、範囲が広く受験には必要ない知識まで学習することになり、時間と労力がかかってしまいます。

日商簿記検定2級は、平成28年から平成30年にかけて、大幅な試験範囲の改定がありました。

商業簿記に関しては、扱う勘定科目が増えたり、それまで1級の試験範囲だったものが一部移動してきたりして、難易度が上がっています。

日商簿記2級独学者の多くを苦しめているといっても過言ではない「連結会計」の問題は、建設業経理士1級の財務諸表でも出てきますが、日商簿記2級の方がはるかに難しいです。

工業簿記の範囲変更はなかったのですが、簿記2級の原価計算は個別原価計算・部門別計算・総合原価計算、標準原価計算や直接原価計算、CVP分析と学習範囲が広いです。

建設業経理士2級の原価計算は、一般的に工事ごとの個別原価計算です。

原価計算の中でも一番簡単で理解しやすく、建設業経理士2級合格を目標としている方は、わざわざ範囲の広い簿記2級の原価計算まで学習する必要はないと言えます。

 

2) 簿記の基礎固めには簿記3級で十分

簿記初学者や知識を補完したい人など、簿記の基本や仕組み・流れを理解するのであれば、簿記3級の内容で十分です。

簿記の要は仕訳です。

仕訳のルールが根本的に理解できていないと、いつまでたっても合格できません。

日商簿記3級は仕訳の知識を学習できる、簿記の基礎ともいえるでしょう。

履歴書に書いてあると、会計の素養があると判断されます。

簿記3級を合格レベルまで学習できれば、建設業経理士2級の独学での理解がぐっと楽になります。

簿記3級では工業簿記は学習しませんが、建設業経理士2級の原価計算はさほど難しくありません。

最初は難しく感じられるかもしれませんが、簿記3級の知識と理解力があれば、独学での勉強も問題ないといえるでしょう。

 

3) 建設業経理事務士3級を利用する

すでに建設業にお勤めの方や、あるいは建設業への転職のため資格取得を急がれている方で、日商簿記の取得を特に考えていない場合は、建設業経理事務士3級の学習でも十分かもしれません。

(3級は「建設業経理士」ではなく「建設業経理事務士」と呼ばれます。)

建設業経理事務士3級でも、仕訳の基本や簡単な原価計算を学ぶことができるので、3級のテキストで建設業簿記の基本が理解できれば、建設業経理士2級の事前準備としては十分といえるでしょう。

(建設業経理事務士3級は年1回しか試験がなく、公共工事発注の判断基準である経営事項審査でも加点対象にならないので、資格手当が出る、あるいは会社から取得を求められている人以外は、受験する必要はないです。)

ただ前述したとおり、建設業経理に関する教材は簿記の知識を前提に書かれている傾向があり、初学者には不親切な部分があります。

簿記知識ゼロで建設業経理事務士3級のテキストの内容が頭に入ってこない方は、簿記3級の教材を併せて勉強することをおすすめします。

★おすすめ講座
建設業経理士の講座を選ぶ際は、以下の3つが基準となります。

①「通学講座」or「通信講座」
②「2級まで」or「1級まで」
③「実績」or「コスパ」

そしてこの判断基準をもとに、以下の2つのおすすめ予備校の講座について、解説してみました。

・資格の大原(実績重視)
・ネットスクール(コスパ重視)

詳細は「建設業経理士の通信講座おすすめ2選!実績重視?コスパ重視?」をご確認ください。

 

4. 建経と簿記の難易度比較

建設業経理士と簿記検定の難易度比較

建設業経理士と簿記資格を簡単な順から並べると、以下の通りとなります。(①簡単⇒⑦難しい)

① 建設業経理事務士3級
② 日商簿記3級
③ 建設業経理士2級
④ 日商簿記2級
⑤ 建設業経理士1級(三科目)
⑥ 全経簿記上級
⑦ 日商簿記1級

建設業経理士2級がよく「簿記2.5級」といわれるのはこのためです。

 

5. どの順番で学習すべき?

建設業経理士と簿記検定はどの順番で学習すべき?

それでは結局のところ、どの順番で学習すべきなのでしょうか?

結論から言うと、建設業経理士2級の前に最低でも日商簿記3級を学習しておくことが、一番の近道です。

一方で、日商簿記2級は難易度がここ数年で格段に上がったので、建設業経理士2級取得を目標にしている方には、学習の無駄が多く非効率な可能性が高いです。

ただし、取得を急ぐ必要があるか?最終目標をどこにおくか?によって、2級まで取得した方がいいかどうかが変わります。

以下で順に解説していきます。

 

1) 建設業経理士の取得を急ぐ場合

日商簿記3級
⇒建設業経理士2級
⇒建設業経理士1級

 

① 簿記知識ゼロの方

簿記初学者の方は、まずは最低でも日商簿記3級の学習をおすすめします。

簿記3級の学習をおろそかにせず、しっかりベースを作ってから次のステップに進むことが、遠回りのようで実は合格への近道であるといえます。

日商簿記3級合格に必要な勉強時間は、1~3カ月(60~100時間)といわれています。

一方で、建設業経理士2級の試験は、年に2回(9月と3月)しかありません。

つまり、建設業経理士2級の前に日商簿記3級を学習しても、時間的に十分間に合います。

また日商簿記3級を受験し合格することができれば、履歴書にも書けますし業種を問わずアピールポイントになります。

 

② 簿記3級合格者または同等レベルの方

簿記3級に合格している方、あるいは簿記を過去に勉強していて同等レベルにある方は、基本的には建設業経理士2級の学習に進んでもいいといえるでしょう。

ただ、簿記知識ゼロから建設業経理事務士3級を学習して合格ギリギリだった、あるいは3級の内容が難しかったという方は、日商簿記3級を学習しておくことをおすすめします。

建設業経理事務士3級には、特別研修という講習と検定試験とを組み合わせたカリキュラムがあり、3日間の講習を受け最終日に実施される試験に合格すれば取得できます。

4級取得者(特別研修だと2日間の講習+最終日に試験)でないと受講できませんが、裏を返せば5日間(正味25時間程度)の講習で取得できてしまう資格なのです。

(特別研修での合格率は4級で96%、3級でも90%を超えます。)

建設業経理事務士3級が合格ギリギリだった、難しかったということは、簿記の基本が身についていない可能性が否定できません。

繰り返しになりますが、時間的にも間に合いますし、無駄にもなりませんので、日商簿記3級の学習をしておくといいでしょう。

日商簿記3級に合格されている方は簿記の基礎はできているので、建設業経理士2級の独学もスムーズに理解できるはずです。

日商簿記3級合格者は1~2ヶ月(40~60時間)ほどで、建設業経理士2級を合格レベルに乗せることができるかと思います。

 

③ 簿記2級合格者または同等レベルの方

簿記2級保持者(同等レベル含む)にとって、建設業経理士2級はさほど苦労せず取得できる資格です。

いきなり建設業経理士2級の学習を始めても大丈夫でしょう。

もちろん建設業簿記独特の勘定科目や処理方法がありますので、専用のテキストを使っての学習は欠かせません。

ですがテキストを読んで問題集を解き、できなかったところを再度テキストで復習し、また問題集を回してある程度パターンをつかめば、早い人で2週間、長くても1ヶ月で合格ラインに手が届くでしょう。

建設業経理士2級を取得後、間を置かず1級の学習に進むことをおすすめします。

建設業経理士1級の試験は、3科目(原価計算・財務分析・財務諸表)を5年以内にすべて合格すると、晴れて1級に合格となります。

建設業簿記では最上位級であり、合格者は公共工事への入札参加には欠かせない経営事項審査において、何と公認会計士・税理士と同じ扱いとなります。

合格率は科目にもよりますが、概ね20~30%です。

独学でも取得できなくはないですが、難易度も急に上がるので、学習効率を考えてスクールや通信講座を利用する方も多くなります。

 

2) 建設業経理士の取得を急がない、建設業経理士と簿記どちらも取得したい場合

日商簿記3級
⇒日商簿記2級
⇒建設業経理士2級
⇒建設業経理士1級
⇒日商簿記1級

 

① 簿記知識ゼロの方

まずは、日商簿記3級の取得を目指しましょう。

簿記の基礎となります。

汎用性があり、持っていて損はない資格です。

建設業経理事務士3級は、学習する必要はありません。

(理由は前に述べたとおりです。)

 

② 日商簿記3級以上レベルの方

日商簿記2級取得を目指して勉強を始めましょう。

やはり建設業経理士よりも日商簿記の社会的需要が高いので、日商簿記取得を優先させましょう。

そして学生時代に全商・全経1級を取得していた方も、この機会に日商簿記2級を取得しておくことをおすすめします。

日商簿記は他の簿記資格よりも、社会的認知度が格段に高いです。

社会的には簿記=日商簿記といっても過言ではなく、同等の実力があるのに日商簿記2級を保有していないだけで、評価されないのはもったいないからです。

日商簿記2級を取得したのち、建設業経理士2級の受験をするといいでしょう。

そのあとは難易度の順に勉強すると、段階的に知識を積み上げることができるので、無理なく学習できると思います。

 

6. 学習の方法

建設業経理士の学習方法

簿記資格の勉強方法は、どの級でも基本的には一緒です。

まず学習の全体量と学習方法を把握し、受験日から逆算して学習計画を立てます。

次にテキストを読み、知識をインプットしていきます。

(論点ごとにある基本問題も、解説を見ながら解いていきます。)

テキストを一通り読んだら問題集を解き、わからなかったり、できなかったりしたところをテキストに戻って復習し、問題集を繰り返し解きます。

感覚が鈍らないよう、勉強はできるだけ毎日継続して行うことが大切です。

実力がついてきたら、試験本番と同様に時間を計って過去問(直近5年分)または予想問題を通しで解いて、実践形式に慣れておきましょう。

 

7. 終わりに

いかがでしたでしょうか?

建設業経理士も含め、簿記資格はキャリアアップという点でも有用性があり、就職・転職の幅が広がったり、あらゆる分野でその知識が役に立ったりと、社会人にとって必要性の高い資格であるといえます。

自分にとっての優先順位を考慮し、無理・無駄なくステップアップしていきましょう。

 

8. まとめ

Point! ◆簿記には業種の特徴を加味した種類があるが、基本的な内容は一緒。
◆簿記の中で抜群の知名度を誇るのは日商簿記。
◆建設業において歓迎されるのは建設業経理士2級以上。
◆2級までは独学で取得しやすいのに需要が高く、コスパがいい。
◆目標を定め、段階的に学習を進めることが大切。

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