東宝の決算書分析:業界No.1の映画事業と高利益率の不動産事業

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長年映画業界を牽引してきた、東宝。

TOHOシネマズで映画を見たことがある、あるいは東宝が配給した映画を見たことがある人も、多いかと思います。

そんな業界No.1の映画事業だけでなく、実は映画事業をはるかに上回る利益率をあげる、不動産事業も運営しております。

今回は映画事業や不動産事業を中心に、東宝の決算書について解説していきます。

筆者の情報
・公認会計士
・監査法人➡経理に出向➡ベンチャー➡自営業
・会計ショップのビジネス会計検定講座講師

 

 

1. 東宝とは?

1) 基本情報

① 会社情報

会社名 東宝株式会社
設立日 1932年8月
従業員数 3,305名(2021年2月)
事業 ① 映画事業
② 演劇事業
③ 不動産事業
*詳細は後述
上場日 1961(東証一部)
決算情報 IR情報

 

② 沿革

1949 東証/大証/名証に上場
1954 ゴジラシリーズ第1作「ゴジラ」公開
1961 東証一部上場
1980 ドラえもんシリーズ第1作「ドラえもん のび太の恐竜」公開
1993 クレヨンしんちゃんシリーズ第1作「クレヨンしんちゃん アクション仮面VSハイグレ魔王」公開
1997 名探偵コナンシリーズ第1作「名探偵コナン 時計じかけの摩天楼」公開
「もののけ姫」公開(配給収入113億円:新記録)
1998 ポケモンシリーズ第1作「劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲」公開
2001 「千と千尋の神隠し」公開(興行収入308億円:新記録)
2003 「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」公開(興行収入173億円:実写作品新記録)
2004 「世界の中心で、愛をさけぶ」公開(興行収入85億円:自社製作作品新記録)
2008 年間興行収入739億円:記録更新
2010 年間興行収入748億円:記録更新
2013 「永遠の0」公開(興行収入86億円:自社製作作品新記録)
2015 新宿東宝ビル・札幌東宝公楽ビル竣工
2016 「君の名は。」公開(興行収入250.9億円:自社製作作品新記録)
年間興行収入854億円:記録更新

 

2) 事業内容

① 映画事業

【映画営業事業】
自社制作の映画や、国内・海外の制作会社から委託された映画の、映画館への配給を行う事業。(映画の卸売)

【映画興行事業】
TOHOシネマズなどによる映画の興行(映画の上映)を行う事業。

【映像事業】
アニメ制作(出資)、パッケージ(DVD)、出版商品(パンフレット・書籍・商品)、ODS(演劇、音楽など映画以外の上映作品の制作)などを扱う事業。

 

② 演劇事業

演劇の制作および興行を行う事業。

 

③ 不動産事業

【不動産賃貸事業】
保有不動産の賃貸を行う事業。

【道路事業】
道路の維持管理・補修保全等を行う事業。
子会社であるスバル興業株式会社が担っている。

【不動産保守・管理事業】
ビルの管理・清掃・警備等を行う事業。

 

2. 売上高&営業利益

まずは東宝の営業収入(売上高)と営業利益について、全社とセグメント別それぞれに分けて見てみましょう。

 

1) 全社

東宝:営業収入(全社)

2021年2月期はコロナによる休館や外出自粛の影響で、営業収入が対前年比で約27%下がっていますが、その程度で済んだと見ることもできます。

また、前年までは少しずつですが、右肩上がりに営業収入が伸びております。

東宝:営業利益 営業利益率(全社)

営業利益も見てみると、2021年2月期は営業収入と同様に大幅に下がっておりますが、営業利益率は12%とまずまずの数値と言えます。

さらに、前年までは約20%の高い営業利益率を記録しております。

 

2) セグメント別

営業収入や営業利益について詳細を確認するために、セグメント別に見ていきましょう。

東宝:営業収入(セグメント)

東宝と聞いて多くの人が思い浮かべる映画事業が、やはり営業収入の多くを占めています。

東宝:営業利益(セグメント)

営業利益も同様に映画事業が一番…かと思いきや、2021年2月期は不動産事業が一番の営業利益を稼ぎ出しています。

映画事業はコロナの影響を受けて減収減益となっておりますが、実は不動産事業はコロナの前後でほとんど営業収入と営業利益に変化がありません。

不動産事業の存在は、2021年2月期の決算において、減収減益の影響を最小限に抑え込めた要因の1つと言えます。

東宝:営業利益率(セグメント)

また、営業利益率を見てみると、不動産事業は毎年25%を超える非常に高い利益率を維持しており、東宝の隠れた主力事業なのです。

次項以降では、映画事業と不動産事業について、さらに細かく事業を分けて見ていきましょう。

 

3. 映画事業が健闘している3つの理由

映画業界No.1の、東宝の映画事業。

前述の通り、映画事業全体の営業収入や営業利益は、2021年2月期に大幅に減少しております。

コロナによる外出自粛や休館、公開予定だった映画(特に海外映画)の延期が、主な要因となります。

一方で、営業利益は黒字で営業利益率も約9%を確保しており、健闘しているとも言えます。

ここまで健闘できた要因とは、いったいなんなのでしょうか?

考えられる要因を、順に3つ紹介していきます。

 

1) 国内映画のヒット

1つ目の映画事業が健闘した要因としては、「国内映画のヒット」が挙げられます。

2021年2月期は、海外映画の主要作品が、軒並み延期となりました。

国内映画の主要作品の中にも、同様に延期となったものもありましたが、以下の通り興行収入が10億円を超える作品が、複数上映されました。

東宝:興行収入10億円以上の作品

(2021年2月期決算説明資料より抜粋)

そして2021年2月期は何と言っても、歴代最高の映画興行収入記録をたたき出した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の影響が、非常に大きかったと言えます。

鬼滅の刃がなければ、今よりも大幅な減収減益となっていたことは、間違いありません。

 

2) 一定の収益力を毎年維持

2つ目の映画事業が健闘した要因としては、「一定の収益力を毎年維持」していたことが挙げられます。

いわゆる映画事業である、映画営業事業や映画興行事業は、2021年2月期を除き、以下の通り毎年一定の収益力を維持してきました。

東宝:営業収入(映画セグメント詳細)
東宝:営業利益(映画セグメント詳細)
東宝:営業利益率(映画セグメント詳細)

映画営業事業は映画の卸売(映画を仕入れて映画館に配給すること)によって、映画興行事業は映画館の運営によって営業収入・営業利益を稼いでおります。

つまり当たり前のことですが、両事業とも「ヒット作品が出るか?」といった点が重要となります。

この点、東宝は安定的にヒットをだせる、アニメ・マンガを映画の主力に据えております。

特にドラえもん・クレヨンしんちゃん・名探偵コナン・ポケットモンスターなど、毎年安定的に興行収入を稼ぎ出している映画を扱っているため、結果として最低限の収益力をキープすることができるのです。

 

3) 映像事業の存在

3つ目の映画事業が健闘した要因としては、「映像事業の存在」が挙げられます。

映画事業と聞くと映画館での上映に目が行きがちですが、実はアニメ制作やDVDなどのパッケージ、出版などを手掛ける映像事業も、しっかりと営業利益を出しています。

特に営業利益率に関しては映画事業の中でも2番目であり、2021年2月期においてはコロナの影響をあまり受けなかったため、営業利益率で一番となりました。

特にアニメ制作が好調に推移しており、「僕のヒーローアカデミア」「呪術廻戦」など人気作品の制作に出資している状況です。

★増加するスクリーン数
全国の映画館のスクリーン数は年々増加しており、それに合わせて東宝のスクリーン数も増加しております。

一方で映画館の入場者数は毎年増加しているわけではなく、上がったり下がったりを繰り返しており、その年にヒット作があったか否かに大きく左右されている状況です。

ではなぜ東宝はスクリーン数を増やすのか?というと、一定のシェアを維持するためと考えられます。

ヒット作が出た際に、スクリーンのシェアが大きい方が収入も大きくなるため、他社にシェアをとられるくらいであれば、自社のスクリーンを出店するという、ある種のチキンレースの状態と言えます。

実際に、スクリーン数を増やしているにもかかわらず、東宝のシェアは増加せず一定のままとなっております。
東宝:スクリーン数

 

4. 高利益率の不動産事業

東宝の事業の中で、圧倒的に高い営業利益率を誇り、実は東宝の隠れた稼ぎ頭である、不動産事業。

そんな不動産事業についても、さらに細かく「不動産賃貸事業」「道路事業」「不動産保守/管理事業」の3つに分けて、営業収入や営業利益について見てみましょう。

東宝:営業収入(不動産セグメント詳細)
東宝:営業利益(不動産セグメント詳細)
東宝:営業利益率(不動産セグメント詳細)

 

1) 遺産を受け継ぐ不動産賃貸業

グラフを見てみると、不動産事業の高い営業利益率は、不動産賃貸事業の異常に高い営業利益率が原因であることがわかります。

不動産賃貸事業は毎年約45%の営業利益率となっており、不動産業界の平均的な営業利益率をはるかに上回ります。

ここまで営業利益率が高い主な理由としては、一等地に物件があり収益力が高く、かつ減価償却が完了している、あるいは収益に比して減価償却が低い物件が多いことが考えられます。

東宝は昭和の時代から、映画館用として全国の一等地に多くの物件を所有しており、古くなった映画館を高層ビルに改築して映画館以外を貸し出し始めたのが、不動産賃貸事業の基礎となっております。

毎年の空室率を見てみると非常に低く、実質空室ゼロの状態を継続しており、収益力の高さがうかがえます。(2021年はコロナの影響で上昇しましたが、それでもわずか1%台をキープ。)

東宝:空室率

過去の遺産であるため、減価償却が完了している物件もあります。

また、一等地であるため取得時よりも物件の価格が上がっており、現在の収益力に対して減価償却費が非常に低い物件も多いと推測されます。(2020年1月1日時点で固定資産の含み益は約2,862億円。)

その結果、営業利益率が異常に高くなっているのです。

 

2) 安定の道路事業

不動産賃貸事業ほど営業利益率は高くないですが、道路事業も安定的な営業収入を稼ぎ出しています。

公共投資が堅調に推移し、「阪神高速技術株式会社」「中日本ハイウェイ・メンテナンス東名株式会社」などの主要顧客や、新規顧客からの受注を拡大しており好調です。

コロナによる影響も少なく、安定して営業収入・営業利益を稼ぎ出している事業と言えます。

 

5. 安全性

ここでは、東宝の全社的な安全性について、短期と長期に分けながら見ていきます。

 

1) 短期の安全性

まずは短期の安全性の指標として、流動比率と手元流動性比率について、確認してみましょう。

東宝:流動比率
東宝:手元流動性比率

共に目安となる数値(流動比率:200%、手元流動性比率:1ヶ月)を大幅に超え、また多額の余剰資金を「現先短期貸付金」として運用しており、短期の安全性に問題はないと言えます。

★現先取引とは?
現先取引とは、債券などを一定期間経過後に一定の価格で買い戻す(売り戻す)ことを事前に約束して、売買する取引のことを指します。

東宝は現先取引の買い手となり、余剰資金を貸し付け一定の利息を得ることで資金を運用しております。(「現先短期貸付金」として貸借対照表に計上。)

現金及び預金や短期有価証券の金額よりも多い現先短期貸付金も、重要な短期の資金決済手段と言えます。
東宝:現先短期貸付金

 

2) 長期の安全性

次に長期の安全性の指標として、自己資本比率についても見てみましょう。

東宝:自己資本比率

自己資本比率も目安となる50%を超えており、また借入金がほぼなく実質無借金であるため、長期の安全性の観点からも問題ないと言えます。

 

3) 株式の持ち合い

安全性の面でもう1つ特徴的なのが、持ち合い株式が比較的多い点です。

テレビ局やその他の事業上関りの深い会社と株式を持ち合っており、有価証券報告書に特定投資株式(保有目的が純粋な投資目的以外である上場投資株式)として開示されております。(貸借対照表では投資有価証券として計上。)

具体的には、以下のような会社と株式を持ち合っております。

・フジメディアホールディングス
・TBSホールディングス
・日本テレビホールディングス
・丸井グループ
・バンダイナムコホールディングス
など

株式を持ち合うことで結束力を高め、事業上協力し合うことができるだけでなく、経営の安定化や敵対的買収に対する対抗策ともなり、長期的な安全性に貢献すると考えられます。

★配当利回り
東宝の配当利回り(=1株当たり配当額÷株価)は、高配当株の目安である3%を下回っており、配当目的の投資対象としては魅力的でないと考えられます。
東宝:配当利回り

 

6. 終わりに

東宝の決算書について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?

ヒット作を今後も上映し続けられるか?不動産事業の高利益率を維持できるか?といった点に注目しながら、今後も決算情報を確認していきましょう。

(本記事で扱っている決算書分析の指標や知識は、ビジネス会計検定で学ぶことができますので、ぜひ挑戦してみてください。)

 

7. まとめ

Point! ◆国内映画のヒット、従来から高い収益力を維持してきたこと、映像事業の存在などにより映画事業が健闘。
◆不動産事業、特に不動産賃貸事業の利益率が非常に高い。
◆スクリーン数は毎年増加。
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