ギフト(町田商店)の決算書分析:プロデュース店で事業拡大?

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飲食業界がコロナ禍で苦戦する中、順調に売上・利益をあげている家系ラーメン店「町田商店」を運営する株式会社ギフト。

2020年9月に東証一部上場を果たし、順調に事業を拡大している同社の決算書について、今回は解説していきます。

【筆者の情報】
・公認会計士のマツタロウ
・ビジネス会計検定講座講師
・大手監査法人→経理部に出向
 →教育×ITベンチャー→自営業

 

 

1. ギフトとは?

1) 基本情報

① 会社情報

会社名 株式会社ギフト
設立日 2009/12
従業員数 400名(2020/10末時点)
部門 ① 直営店事業
② プロデュース店事業
*詳細は後述
上場日 2018/10(マザーズ)
2020/9(東証一部)
決算情報 IR情報

 

② 沿革

2009/12 直営店事業の開始
2010/1 プロデュース店事業の開始
2014/3 直営店10店舗達成
2014/12 直営店20店舗達成
2015/5 初の海外法人をシンガポールに設立
2015/11 直営店30店舗達成
2016/3 アメリカ法人設立
2017/2 直営店50店舗達成
2018/10 マザーズ上場
2019/8 ラーメン天華(栃木県)の子会社化
2020/9 東証一部上場
直営店100店舗達成

 

2) 事業内容

町田商店ロゴ

ギフトは主に「町田商店」のブランドで、ラーメン店のチェーン展開を行っております。

一般的なフランチャイズチェーンとは異なる「プロデュース店」といった独自の形式で、店舗を展開している点が特徴的です。

一般的なフランチャイズ(FC)店とプロデュース店の主な違いは、以下の通りとなります。

一般的なFC店 プロデュース店
屋号 直営と同一 自由
加盟金 数百万円 0円
ロイヤリティ 売上の約5% 0円
運営・開発の自由度 ×

加盟金やロイヤリティなしで本部はどうやって設けているのか?というと、ラーメンやサイドメニューの原材料をプロデュース店に卸すことで、もうけをだしております。

本部で一括して材料を製造することで、プロデュース店も安価に原材料を仕入れることが可能となっております。

ギフト:プロデュース店の運営スキーム
(2020年10月期 決算説明会資料より抜粋)

 

2. 売上高・営業利益の推移

1) 売上の推移

まずは、ギフトの売上高の推移から見ていきましょう。

ギフト:売上高の推移

売上高は、順調に右肩上がりに拡大しております。

部門別に見てみると、直営店事業の売上拡大の影響が大きいことがわかります。

ギフト:売上高の推移(部門別)

以下の通り順調に店舗数を増やしていることが、売上拡大の大きな要因と言えます。

ギフト:店舗数の推移(部門別)

ここで、1店舗当たり売上高を見てみると、直営店事業の方が圧倒的に高い数値となります。

ギフト:1店舗当たり売上高(部門別)

一方で、ギフトは「直営店:プロデュース店=3:7」の割合で今後も店舗を増やしていく方針を掲げております。

売上高の絶対額が圧倒的に低いプロデュース店を直営店よりも拡大していく方針から、プロデュース店は利益率がかなり高いと推測されます。

 

2) 営業利益の推移

次に、ギフトの営業利益・営業利益率の推移を見てみましょう。

ギフト:営業利益 営業利益率

継続的に営業利益を出し、営業利益率も5%を超える水準を維持しており、堅調に推移しております。

2020年は新型コロナウイルスの影響を受けて営業利益率が下がっていますが、しっかりと黒字を確保しており、他社と比較すると好調な方と言えます。

 

3) コロナ禍における勝因

コロナ禍で他社が苦戦する中で、ギフトが好調な理由はいったいなんだったのでしょうか?

一番の勝因は、店舗の立地戦略にあります。

直営店の9割を郊外(ロードサイド)・住宅街に設置しており、家系ラーメンが群雄割拠している都心ほど競合が多くなく、地元民の根強い人気に支えられているため、コロナ禍においても早期に売上高を回復することができました。

名前の由来の通り、東京23区郊外の町田市から始まった町田商店。

町田での経験や都心の競合の多さから、地域密着型でビジネスを展開したことが、コロナ禍において功を奏したと言えます。

その他に、少人数かつ短時間で食べ終わるラーメンという業態や、デリバリー対応なども勝因の1つとして挙げられます。

 

3. 強気な店舗拡大

ここまでは、会計上の売上高や利益について見てきましたが、キャッシュフローはどうでしょうか?

ギフト:キャッシュフロー

本業でのもうけ(営業キャッシュフロー)や金融機関からの借入(財務キャッシュフロー)を継続的に投資活動にあてており、投資活動によるキャッシュフローは毎年増加している状況です。

これは、設備投資が必要な直営店事業の店舗数を、毎年拡大させていることを意味します。(プロデュース店は本部側の設備投資は不要。)

実際に、直営店事業の店舗数の推移を見てみると、以下の通り大きく拡大しております。

ギフト:店舗数の推移(直営店事業)

また、直営店とプロデュース店を合わせて、2025年10月期までに1,000店舗を目指しており、今後も投資活動を継続していくことが想定されます。

一般的に、チェーン展開を拡大し過ぎて不採算店舗をだしてしまうことがよくある飲食業界において、ギフトは強気の姿勢です。

強気な出店の背景として同社は、地方、特に北関東や東北は拡大の余地がまだあることと、地方に強いプロデュース店の存在を挙げております。

順に見ていきましょう。

 

1) 北関東&東北の拡大余地

都道府県庁所在市及び政令指定都市における、ラーメン(外食)の1世帯当たり年間支出金額のランキングを見てみると、北関東や東北地方が上位を占めており、ラーメンの人気が高いと言えます。

順位 都市 北関東
東北
1 山形市 東北
2 新潟市
3 宇都宮市 北関東
4 福島市 東北
5 盛岡市 東北
6 福井市
7 秋田市 東北
8 甲府市
9 仙台市 東北
10 金沢市
11 水戸市 北関東
12 富山市
13 青森市 東北

*統計局家計調査(二人以上の世帯) 品目別都道府県庁所在市及び政令指定都市ランキング(2017年~2019年平均)

 

ギフトは2019年8月に栃木県の「ラーメン天華」を子会社化しており、北関東や東北への進出を本格化させようとしています。

一方で、ラーメン店の数を人口比で割った人口当たり店舗数を見てみると、同じく上位を北関東&東北地方が占めており、既に飽和状態の可能性もあるため、同社の今後の出店計画を冷静に見る必要もあります。

順位 都道府県 北関東
東北
1 山形県 東北
2 新潟県
3 栃木県 北関東
4 秋田県 東北
5 青森県 東北
6 富山県
7 福島県 東北
8 沖縄県
9 長野県
10 石川県
11 群馬県 北関東
12 山梨県
13 宮城県 東北

*iタウンページで調べた都道府県別のラーメン店舗数を、統計局が公開している平成30年推計人口で割った値でランキング

 

2) 地方に強いプロデュース店

プロデュース店が地方に強い主な理由としては、以下が考えられます。

・初期コストを抑えられる
・屋号が自由でチェーンっぽさを消せる
・独自のメニュー開発が可能

プロデュース店の場合は、はじめに加盟金を支払う必要がなく初期コストを抑えられるため、一般的なフランチャイズよりはオーナーを募りやすいと言えます。

また、オーナー希望者の中には、いわゆるチェーン店ではなくオリジナリティをだしたいけれどもノウハウがないという人達も多く、屋号やメニュー開発が自由にでき、かつ本部のノウハウを学べるプロデュース店のニーズが一定程度あると推測できます。

 

さらに、今後は家系以外のブランドを都心に出店することで、郊外と都心の双方で事業を展開して、事業拡大&リスクヘッジを狙っております。

*参考:ブランド一覧

ギフト:直営店ブラント一覧
(2020年10月期 決算説明会資料より抜粋)
★今後の脅威はカップ麺?
コンビニやスーパーなどで販売されているカップ麺。

近年はおいしさに磨きがかかり、また有名ラーメン店の味を忠実に再現しているものも多く、値段も安いため、ギフトにとっては大きな脅威となりえるかもしれません。

ただ、外食のエンターテイメント性はなくならないため、直接的には競合しない可能性も高いと考えられます。

 

4. ROEの推移

その他の特徴的な点として、ROE(自己資本利益率)の推移について見ていきましょう。

ギフト:ROEの推移
ROEの分解

2018年10月期は、マザーズ上場により自己資本が増加し財務レバレッジが低下したため、ROEも低下しております。

ただ、売上高当期純利益率は2018年・2019年共に高い水準を維持しており、ROEも15%以上と高い水準を維持しているため、2019年までは収益性について大きな問題はないと言えます。

一方で2020年に関しては、借入を増加してレバレッジを高めているものの、コロナの影響もあり自己資本に対する収益性が大幅に低下し、株主にとっては望ましい状況ではありません。

負債によるレバレッジをかけて店舗を拡大した結果が、来期以降の利益水準にどのような影響を与えるか、注視する必要があります。

★配当利回り
ギフトの配当利回りは、高配当株の目安である3%をいずれの年も大幅に下回っており、配当目的の投資先としてはイマイチと言えます。
ギフト:配当利回り

 

5. 終わりに

ギフトの決算書の特徴的な点について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?

プロデュース店という独自の事業展開をみせるギフトが、ラーメン業界で今後台頭していくことができるのか、注目していきましょう。

(本記事で扱っている決算書分析の指標や知識は、ビジネス会計検定で学ぶことができますので、ぜひ挑戦してみてください。)

 

6. まとめ

Point! ◆プロデュース店という独自スタイルで店舗拡大。
◆売上高の絶対額は直営店の方が大きい。
◆郊外や住宅街といった立地戦略がコロナ禍での勝因。
◆1,000店舗を目指して店舗数をさらに拡大させる方針。
◆ROEは2020年に大幅低下。

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