日本M&Aセンターの決算書分析:約45%の高利益率の理由とは?

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平均年収ランキングで毎年上位にランクインする、日本M&Aセンター。

年収だけでなく会社の業績も好調であり、特に利益率が非常に高いです。

それではなぜ、利益率が高いのでしょうか?

給与が高いわりに低い人件費率、広告宣伝に頼らない集客力、M&Aの仲介という業態の特性といった点が、主な原因として考えられます。

今回はこの辺りを中心に、日本M&Aセンター決算書について、解説していきます。

【筆者の情報】
・公認会計士のマツタロウ
・ビジネス会計検定講座講師
・大手監査法人→経理部に出向
 →教育×ITベンチャー→自営業

 

 

1. 日本M&Aセンターとは?

1) 基本情報

① 会社情報

会社名 株式会社日本M&Aセンター
設立日 1991年4月
従業員数 810名(2021年3月)
事業 M&Aの仲介
上場日 2007(東証一部)
決算情報 IR情報

 

② 沿革

2006 マザーズ上場
2007 東証一部上場
2015 JPX日経インデックス400構成銘柄に採用される
2016 シンガポールオフィス開設
2019 J-Adviser資格を取得してTOKYO PRO Market上場支援サービスを開始
インドネシア事務所開設
2020 ベトナム法人設立
マレーシア事務所開設

 

2) 事業内容

事業承継や成長戦略の観点から、事業の売却を検討している売り手と事業の買収を検討している買い手の間に立って、M&Aを仲介する事業。

仲介契約締結のタイミングでもらう着手金と、M&A完了のタイミングでもらう成功報酬が売上となります。

 

2. 右肩上がりの売上高

まずは売上高の推移について、見ていきましょう。

日本M&Aセンター:売上高

売上高は毎年10%以上の成長率で、右肩上がりに増加しております。

M&Aの仲介ビジネスというのは、商品開発や固定資産、広告宣伝などに対して投資するビジネスと異なり、人手をかける労働集約型のビジネスです。

そのため、従業員数の増加に比例して、売上高が拡大していく傾向があります。

日本M&Aセンターの場合も、コンサルタントやスタッフなどの従業員数の増加により、M&Aの成約件数が増加したことが、売上高増加の主な要因として挙げられます。

日本M&Aセンター:従業員数
日本M&Aセンター:成約件数

一方で、単に従業員数を増やすだけでは、必ずしも成約件数の増加につながらないのも事実です。

この点、日本M&Aセンターは優秀な人材を獲得しているため、従業員数にある程度比例して、成約件数が増加していると考えられます。

その証拠に、約5千万円の1人当たり売上高となっており、設備投資を行わない非製造業としては高い水準です。

それではなぜ、優秀な人材が集まるのでしょうか?

その理由として考えられるのが、高い給与とインセンティブです。

有価証券報告書に記載してある「平均年間給与」を見てみると、1,000万円を超える非常に高い水準となっております。

日本M&Aセンター:平均年間給与

また、ストックオプションも付与されており、優秀な人材が集まりやすい環境と言えます。

さらに、社歴や肩書など関係なく、実力主義で社員を5つのレイヤーに区分して競争原理を働かせることで、成果を最大化させている点も特徴的です。

日本M&Aセンター:2021年3月期決算説明資料

(2021年3月期決算説明資料より抜粋)

★右肩下がりの1人当たり売上高
確かに1人当たり売上高は高い水準なのですが、実は年々下がっております。
日本M&Aセンター:1人当たり売上高 M&Aは数日で完了するものではなく成約までに長い期間を必要とするため、従業員採用のタイミングとその従業員が成果を出す(M&Aを成約させる)タイミングにずれがあり、従業員が増加している局面では一人当たり売上高が低下しやすいことが、原因のひとつとして考えられます。

また、新規従業員のほとんどがM&A仲介の経験がなく、一人前になるまで一定の期間を必要とするため1人当たり売上高が低下しやすい点も、理由として挙げられます。

 

3. 非常に高い利益率

次は、営業利益・営業利益率について見ていきましょう。

日本M&Aセンター:営業利益&営業利益率

売上高と同様に、営業利益も右肩上がりで増加していますが、それ以上に注目すべきは約45%という異常な営業利益率の高さです。

なぜ日本M&Aセンターの営業利益率は、ここまで高いのでしょうか?

その理由を順に3つ、紹介していきます。

 

1) 低い人件費率

1つ目の営業利益率が高い理由としては、「低い人件費率」が考えられます。

経営コンサルタント業などは人件費が主な費用となるため、人件費率(=人件費÷売上高)約50%がひとつの目安となります。

ところが日本M&Aセンターの人件費率は、なんと半分の約25%となっており、非常に低い人件費率となっております。

日本M&Aセンター:人件費率

優秀な人材を採用して高い1人当たり売上高をキープすることが、人件費率の低下につながっている要因の一つと言えます。(前述の通りここ数年は1人当たり売上高が低下しているため、それに合わせて人件費率も上昇傾向にあります。)

★原価に含まれる人件費
一般的な企業であれば、人件費は販管費に含まれます。

一方で、M&Aの仲介業のような業種の場合は人手をもとにして売上を上げるため、人件費は原価に区分されています。

日本M&Aセンターの決算書を読む際には、原価と販管費の区分に注意が必要です。

 

2) 低い広告宣伝費率

2つ目の営業利益率が高い理由としては、「低い広告宣伝費率」が考えられます。

日本M&Aセンターの広告宣伝費率(=広告宣伝費÷売上高)を見てみると、約2%となっております。

日本M&Aセンター:広告宣伝費率

サービス業は他の業種と比べて広告宣伝費率が高い傾向があり、15%が一つの目安となります。

つまり、日本M&Aセンターの広告宣伝費率は、低い水準であると言えます。

広告宣伝費をかけなくても顧客を集客できる理由としては、例えば以下のようなものが考えられます。

 

【理由①】

約300の地域金融機関、969の会計事務所、 約1,700の士業者、商工会議所や証券会社、ベンチャーキャピタル、コンサル会社などと連携しており、案件を紹介してもらえる。

 

【理由②】

ダイレクトな案件獲得についても、前述の通り優秀な人材による営業力でカバーしている。

 

【理由③】

中小企業庁調べによると、2025年までに70歳を超える中小企業の経営者のうち127万人(日本企業全体の1/3)が後継者未定となっており、M&Aのニーズが高く案件を獲得しやすい。

 

【理由④】

中小企業のM&A仲介として初めて上場した会社であり長年の実績もあるため、積極的に広告宣伝する必要性が小さい。

 

3) M&Aの仲介による高報酬

3つ目の営業利益率が高い理由としては、「M&Aの仲介による高報酬」が考えられます。

そもそもM&Aは報酬単価が高く費用は人件費がメインなので、一定の成約率をキープすれば高い利益率を確保できます。

それに加えて日本M&Aセンターの場合は、「FA(ファイナンシャル・アドバイザリー)」と異なり「仲介」という形態をとっているため、売り手と買い手の双方から報酬をもらうことができます。

FAの場合は買い手または売り手のいずれかと契約を結び、片方からしか報酬をもらえませんが、仲介の場合は買い手と売り手の双方から取引価格の約5%ずつをもらえる業界慣行となっており、この点も利益率が高くなる理由と言えます。

 

4. 安全性

ここでは、短期と長期の安全性について、順に見ていきましょう。

 

1) 短期の安全性

まずは短期の安全性の指標として、「流動比率(=流動資産÷流動負債)」と「手元流動性比率(=(現金及び預金+短期有価証券)÷(売上高÷12))」について見てみましょう。

日本M&Aセンター:流動比率
日本M&Aセンター:手元流動性比率

流動比率の目安である200%、手元流動性比率の目安である1か月を共に大きく超えており、短期の安全性に問題はないと言えます。

ちなみに2021年3月期は、定期預金として運用していた140億円(貸借対照表で「長期預金」として計上)の払い戻しにより現金及び預金が増加した影響で、流動比率・手元流動性比率が共に急上昇しております。

 

2) 長期の安全性

次に長期の安全性の指標として、自己資本比率(=(純資産-新株予約権-非支配株主持分)÷負債純資産合計)についても見てみましょう。

日本M&Aセンター:自己資本比率

自己資本比率も目安である50%を大きく上回っており、長期の安全性の観点からも問題ないと言えます。

毎期の純利益を積み上げ純資産を強化して、かつ借入金比率(借入依存度)を低下させることで、財務体質を改善している状況と考えられます。

日本M&Aセンター:借入金&借入金比率
★配当利回り
日本M&Aセンターの配当利回り(=1株当たり配当額÷株価)は、高配当株の目安である3%を大きく下回っており、配当目的の投資対象としては魅力的でないと言えます。
日本M&Aセンター:配当利回り

 

5. キャッシュフロー

最後に、キャッシュフローについても見てみましょう。

日本M&Aセンター:キャッシュフロー

営業活動によるキャッシュフローを見てみると、利益ベースだけでなくキャッシュベースでも安定的に稼いでいることがわかります。(キャッシュフロー・マージンは30%超)

投資活動によるキャッシュフローは、定期預金の預入や払戻がメインであり、2021年3月期に大きなキャッシュインがあったように見えますが、実際は単に預け入れていた定期預金を払い戻しただけなので、実質的には大きな変動はありません。

財務活動によるキャッシュフローは、株主に対する配当がメインとなります。

つまり、毎年本業で稼いだキャッシュを定期預金で運用し、配当で株主に還元しており、健全な資金状況と言えます。

 

6. 終わりに

日本M&Aセンターの決算書について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?

今後さらに人員を増やして事業を拡大していく中で、今の高い利益率を維持できるか注目していきましょう。

(本記事で扱っている決算書分析の指標や知識は、ビジネス会計検定で学ぶことができますので、ぜひ挑戦してみてください。)

 

7. まとめ

Point! ◆売上高は毎年10%以上の成長率。
◆営業利益も右肩上がりに増加。
◆営業利益率は約45%と非常に高い。
◆平均年間給与1,000万円超。
◆1人当たり売上高が高く人件費率が低い。
◆広告宣伝費率も低い水準。
◆買い手と売り手の双方から報酬を受け取れる仲介という業態。

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