簿記2級に合格した方が、さらなるステップアップとして検討することが多い「簿記1級」。
しかし、簿記1級は意味がないと言われているのを、ご存じでしょうか?
難易度が高い簿記1級を取得すれば、高い評価が得られると考えるかもしれませんが、実際に資格を活用できていない人は多くいます。
そこで今回は、簿記1級は意味がないと言われる理由や、簿記1級を勉強する意味がある人について解説します。
安易に簿記1級の受験を決める前に、この記事を読んで自分が簿記1級を活用できるのか、考えてみてください。
1. 意味ないと言われる4つの理由
1) 難易度ほど評価されない
2) 難関資格の試金石にしては難しい
3) 中小企業ではオーバースペック
4) 独占業務がない
2. 簿記1級を勉強する意味がある人
1) 経理関係で働いている人
2) 年齢が若い人
3) 簿記の勉強が楽しい人
4) 税理士の受験資格を目的とする人
5) 会社が簿記1級を評価してくれる人
3. 終わりに
4. まとめ
1. 意味ないと言われる4つの理由
簿記1級は、難易度ほど評価されない、中小企業ではオーバースペックになるなど、取得しても意味がないと言われるケースがあります。
ここでは、簿記1級を取得しても意味がないとされる理由を、順に4つ紹介します。
1) 難易度ほど評価されない
簿記1級は合格率が約10%であり、600~1,000時間ほどの学習時間が必要な難関資格です。
合格率10%ほどの資格試験には、社会保険労務士や行政書士、不動産鑑定士などがあり、取得すれば独立開業できる難関国家資格が並びます。
(簿記1級の直近の合格率)
回 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
165 | 10,251名 | 1,722名 | 17% |
164 | 9,295名 | 1,164名 | 13% |
162 | 9,828名 | 1,027名 | 10% |
161 | 8,918名 | 902名 | 10% |
159 | 9,194名 | 935名 | 10% |
158 | 7,594名 | 746名 | 10% |
157 | 6,351名 | 502名 | 8% |
簿記1級は取得難易度の高い資格ですが、同等の資格と比べると、評価が低い傾向にあります。
例えば、簿記1級の取得により昇給しても、微々たる額で努力に見合わないケースがあります。
そもそも、社内規定で昇給する資格に入っていなくて、昇給自体がないことも多いです。
苦労して簿記1級を取得しても評価されない可能性があるため、自社の評価制度を確認したうえで、受験を決意するといいでしょう。
2) 難関資格の試金石にしては難しい
簿記2級まではしっかりと勉強すれば受かる試験ですが、簿記1級は効率的な学習はもちろんのこと、会計のセンスも必要な試験です。
簿記に苦手意識を持っていたり、簿記2級に何度も落ちたりした方は、頑張っても簿記1級を取得できない可能性があります。
そのため、簿記1級はより上位の資格である、税理士や公認会計士の受験を決意する前の試金石となります。
しかし、公認会計士や税理士の試験とは、出題範囲や出題傾向、出題される問題の量が異なります。
そのため、簿記1級には落ちても、公認会計士や税理士の試験には受かるケースもあるのです。
簿記1級の取得に手間取っていると遠回りになり、他の難関資格を取得するのが遅れてしまう可能性があります。
公認会計士や税理士を本気で受験するのであれば、簿記1級を試金石にしないで、本命の資格勉強を始めるといいでしょう。
(公認会計士や税理士については「公認会計士と税理士の違い・共通点とは?どっちがおすすめ?」も合わせてご確認ください。)
3) 中小企業ではオーバースペック
簿記1級の出題範囲は、自己株式の処理や連結会計の税効果など、大企業が行う会計処理がメインです。
しかも、かなりマニアックな問題も出題されるため、中小企業の経理では必要ない知識も多く含まれています。
中小企業の経理で働くには、簿記2級の知識があれば十分であり、簿記1級はオーバースペックだと言われています。
「簿記1級の知識があれば転職に有利になるのでは?」と考えるかもしれませんが、実際の転職市場ではそれほど有利になりません。
中小企業の経理は人手に余裕がないため、実務経験が重視されます。
簿記1級を取得していても実務経験がないと、教育コストがかかり、一人前になるまでに時間が必要です。
実務経験がある簿記2級取得者は、即戦力としてすぐに働けるため、重宝される傾向にあります。
中小企業の経理で働きたいのであれば、簿記1級の学習をするよりも、簿記2級を取得した状態ですぐに求人に応募して、実務経験を付ける方がいいでしょう。
(参考「簿記2級を活かせる仕事とは?3級や1級よりもコスパが高い?」)
4) 独占業務がない
簿記1級には、独占業務がありません。
独占業務とは、国家資格や業務独占資格を保有している人のみが携われる業務のことです。
資格を保有していない人が独占業務を行うと、法律違反となり罰せられます。
独占業務は法律により守られているため、資格を取得すれば安定して稼げる可能性があります。
公認会計士であれば監査業務、税理士であれば税務代理や税務についての相談業務、行政書士は官公庁へ提出する書類作成と手続きが独占業務です。
これらの資格は独占業務があるため、独立しても比較的仕事を受注しやすく、事業を軌道に乗せられます。
しかし、簿記1級には独占業務がありません。
企業の経理を代行できるくらいの知識は身に付きますが、税理士資格の保有者が参入している業界のため、簿記1級だけで独立するのは難しいです。
また、経理代行は帳簿作りや財務諸表の作成をしますが、税理士の独占業務である法人税申告書の作成や税務相談はできません。
実際の現場では経理代行と税務代理は一体となっていて、税理士資格を持たない人に経理代行だけを依頼するメリットは、あまりありません。
独立開業を目指すのであれば、簿記1級ではなく独占業務がある資格を検討しましょう。
簿記講座の元運営責任者が、「実績(合格者数)」と「コストパフォーマンス」の観点から、簿記1級のおすすめ通信講座を以下の3つに絞り、メリット・デメリットについて解説してみました。
・大原
・スタディング
・CPAラーニング
詳細は「簿記1級の通信講座おすすめ3選!会計士が実績とコスパを比較」をご確認ください。
2. 簿記1級を勉強する意味がある人
簿記1級は意味がないと言われますが、すべての人に当てはまるわけではありません。
ここでは、簿記1級を勉強する意味がある人の条件を、順に5つ紹介します。
1) 経理関係で働いている人
経理部や財務部、税理士事務所などで働いている方は、簿記1級の勉強がスキルアップに繋がります。
簿記1級は仕訳や財務諸表の作成だけでなく、会計理論や会計基準が出題範囲に含まれます。
簿記1級を取得すると実務に強くなるだけでなく、会計処理の背景まで理解できるため、部下に教える際にも論理立てて説明可能です。
税理士事務所で働いている方は、顧問先の経理担当者に会計処理について説明を求められることが多いですが、理路整然と説明して納得してもらえるでしょう。
先ほど中小企業の経理ではオーバースペックだと解説しましたが、逆に言えば日々の仕事はすべて処理できるレベルになるということです。
簿記1級はマニアックな論点まで出題されて、実務的な応用力も身に付きます。
細かなポイントを質問されても回答できる知識があり、将来的には経理部の長として活躍できるでしょう。
2) 年齢が若い人
簿記1級は難易度ほど評価されず、コストパフォーマンスは高くありませんが、年齢が若いうちに取得すれば、長期間メリットを享受できます。
大学生が在学中に簿記1級を取得すれば、就職活動で有利になり、大企業を目指すことも可能です。
また、20代のうちであれば実務経験がなくても、転職に活かすことができます。
簿記1級は毎年高校生の合格者も出ています。
社会人の受験者が多い中で高校生が合格するのは容易ではなく、合格すれば地方の新聞などニュースで取り上げられるほどです。
大学入試で簿記資格取得者を優遇している大学は多く、簿記1級を取得していれば推薦入試で大きなメリットを得られるでしょう。
例えば、一橋大学や中央大学など会計学の名門として有名な大学も、簿記1級を保有していると推薦入試の際に加点が与えられます。
これらの大学に入学すれば、将来的に会計の道に進みたい人にとって有利に働きます。
若いうちに簿記1級を取得していれば、公認会計士や税理士などより上位の資格にチャレンジできます。
他にも簿記1級の知識は、中小企業診断士や米国公認会計士などにも役に立ちます。
人生の選択肢を広げられるため、若いうちに簿記1級を取得すると、多くのメリットがあると言えるでしょう。
3) 簿記の勉強が楽しい人
一般的に資格試験の勉強を大変だと感じる人が多いですが、簿記の勉強が楽しい人は、簿記1級を勉強しても不都合はありません。
簿記は問題に解答して、貸借がピッタリ一致すると、達成感を感じて楽しいものです。
その他にも、企業の財務諸表を読めるようになる、経済ニュースを深く理解できるなど、楽しみを感じるポイントは多くあります。
簿記に楽しみを感じないのであれば、コストパフォーマンスが高くない簿記1級を選ぶよりも、行政書士や社会保険労務士など、独立も目指せる資格の取得がおすすめです。
(参考「簿記が面白いと思える5つのポイント!」)
4) 税理士の受験資格を目的とする人
日商簿記1級の上位資格ともいえる税理士は、誰でも受験できるわけではなく、以下のような条件が設定されています。
① 大学又は短大の卒業者で、社会科学に属する科目を1科目以上履修した者
② 大学3年次以上で、社会科学に属する科目を1科目以上含む62単位以上を取得した者
③ 一定の専修学校の専門課程を修了した者で、社会科学に属する科目を1科目以上履修した者
④ 司法試験合格者
⑤ 公認会計士試験の短答式試験に合格した者(平成18年度以降の合格者に限られます。)
① 日商簿記検定1級合格者
② 全経簿記検定上級合格者(昭和58年度以降の合格者に限られます。)
① 法人又は事業を行う個人の会計に関する事務に2年以上従事した者
② 銀行・信託会社・保険会社等において、資金の貸付・運用に関する事務に2年以上従事した者
③ 税理士・弁護士・公認会計士等の業務の補助事務に2年以上従事した者
この受験資格から分かるように、大学を卒業していなくて、銀行や税理士事務所などの金融関係で働いていない場合、簿記1級(全経上級)を取得するのが受験資格取得への近道です。
ただし、令和5年4月1日以降に実施される税理士試験からは、簿記論と財務諸表論の受験資格は撤廃されて、誰でも受験できるようになりました。
これまでは、簿記1級取得→簿記論・財務諸表論→税法科目の流れで受験するのが一般的でした。
しかし、今後は簿記論・財務諸表論→簿記1級→税法科目という流れでの受験も考えられます。
5) 会社が簿記1級を評価してくれる人
所属している会社が資格の取得を評価してくれるのであれば、簿記1級を取得する意味があります。
基本的に簿記1級は、大企業で評価される傾向にあります。
資格手当や昇給の条件などに簿記1級があれば、簿記1級はコストパフォーマンスが高い資格に変化するでしょう。
実際に東証プライム市場に上場している企業の求人には、公認会計士や税理士と並んで、簿記1級を取得していることが応募の条件となっているケースもあります。
求人条件に簿記1級と記載されている会社は、難易度に見合った評価をしてくれる可能性が高いので、探してみるといいでしょう。
税理士法人においても、簿記1級を取得していると資格手当が付くケースが多いです。
ただし、簿記1級では月5,000円ほどのことが多く、それほど大きな足しにはなりません。
税理士試験の科目合格であれば、1科目につき月10,000円が加算されるのが一般的なので、簿記1級よりも簿記論を取得した方が効率的です。
また、税理士事務所は無資格者の給料が抑えられているケースがあるので、面接時などに給与や資格手当などの待遇面を確認しておきましょう。
3. 終わりに
簿記1級は意味がないと言われる理由を解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
簿記1級は難易度ほど評価されない、中小企業ではオーバースペック、独占業務がないなどの理由で、意味がないと言われています。
せっかく苦労して簿記1級を取得しても評価されないのであれば、コストパフォーマンスが低く、意味がないと言われてしまうのは仕方がないことです。
しかし、経理部で働いている、年齢が若い、会社が簿記1級を評価してくれるなどの場合は、簿記1級のメリットを活かせます。
簿記1級は合格レベルに達するまでに、600時間から1,000時間の勉強が必要な試験です。
自分にとって意味がない資格であれば、多くの時間を無駄にしてしまうので、学習を始める前に資格を活用できるか考えることが大切です。
4. まとめ
◆中小企業ではオーバースペックになり、独占業務もないためコストパフォーマンスが低い資格。
◆経理で働いている人や若い人にとっては、簿記1級を有効活用できる可能性が高く、取得する意味がある。