インターネット上の情報を見ると、
「簿記1級は何の役にも立たない」
など、さまざまな意見があります。
このような情報を見ると、受験しようか迷ってしまう方も、多いのではないでしょうか。
そこで今回は、実際に簿記1級は役に立つのか?取得すると何ができるのか?などについて解説します。
簿記1級に合格するには長期間の学習が必要なので、この記事を読んで迷いを持たずに勉強に入るようにしてください。
1. 何ができる?どれくらいすごい?
1) 簿記1級で学べる内容
2) 簿記1級の難易度
2. 簿記1級の7つのメリット
1) スキルアップできる
2) キャリアチェンジできる
3) より難しい資格にチャレンジできる
4) 大学入試で優遇される
5) 資産形成に役立つ
6) 独立・開業に活用できる
7) 新卒で大企業の経理を目指せる
3. 終わりに
4. まとめ
1. 簿記1級は何ができる?どれくらいすごい?
![簿記1級は何ができる?どれくらいすごい?](https://kaikei-shop.net/wp-content/uploads/2023/02/24613110_s.jpg)
まずは、簿記1級の概要を把握するために、学習範囲や難易度について紹介します。
1) 簿記1級で学べる内容
簿記1級は、大企業で経理を担当できるレベルの資格です。
また、経理作業だけでなく、経営管理や経営分析など、管理職に必要な知識も身に付きます。
簿記1級には、「商業簿記」「会計学」「工業簿記」「原価計算」の4科目があり、それぞれの学習内容は以下の通りです。
① 商業簿記
商業簿記では、損益計算書や貸借対照表などの財務諸表の作成を中心に、連結会計や本支店会計なども出題されます。
簿記1級で初めて学習する論点としては、次のような内容があります。
・割賦販売
・資産除去債務
・退職給付債務の計算
・発行した商品券の処理
・セール・アンド・リースバック取引
・会計上の変更および誤謬の訂正
これらの論点はほんの一例ですが、より実践に近い学習内容ばかりだといえます。
② 会計学
会計学では、会計理論の穴埋め問題や、リース会計・退職給付債務の計算問題などが出題されます。
商業簿記は仕訳や財務諸表の作成方法など実務的な知識が求められますが、会計学では理論を問われることが特徴です。
ただし、会計学は理論を丸暗記しても合格できません。
なぜこの会計基準が必要なのか?どうしてこの処理になるのか?など本質的に理解していないと、応用問題が出題される簿記1級に太刀打ちできないためです。
③ 工業簿記
工業簿記では、総合原価計算や標準原価計算など、原価計算基準がメインで出題されます。
簿記1級で初めて学習する論点としては、次のような内容があります。
・経費の複合費の計算
・標準原価計算の修正パーシャルプラン
・多品種製品のCPV分析
・直接標準原価計算
・差額原価収益分析
・戦略策定と遂行のための原価計算
工業簿記はかなり細かい部分まで出題範囲となっていますが、簿記2級の延長線上にあります。
簿記2級の工業簿記をしっかりと理解できていれば、簿記1級の工業簿記は得点源にできるでしょう。
簿記2級の工業簿記の知識が曖昧だと、途中で簿記1級の学習についていけなくなってしまうため、まずは簿記2級の工業簿記を完璧にすることが重要です。
④ 原価計算
原価計算では、設備投資の意思決定や最適なセールスミックスの決定・予算実績差異分析などが出題されます。
さまざまな資料をもとに、設備投資をするべきか?どの製品を何個製造するのがベストか?などを判断します。
資料の読み取り方を一つ間違えると、解答も連続して間違える可能性がある科目です。
2) 簿記1級の難易度
簿記1級は簿記検定の最高峰に位置する難関資格です。
ここでは、簿記1級を取得する難易度について解説します。
① 簿記1級の合格に必要な勉強時間
簿記1級の合格に必要な勉強時間は、500~700時間とされています。
この勉強時間は、簿記2級に合格できるレベルの人を想定していて、初めて簿記を学ぶ人は800~1,000時間ほどかかる可能性があります。
同じくらいの学習時間が必要な資格には、
・FP1級(500時間)
・通関士(500時間)
・社会保険労務士(1,000時間)
・中小企業診断士(1,000時間)
などがあります。
どれも難関資格ばかりなので、簿記1級の難易度の高さをイメージできるのではないでしょうか。
また、税理士試験の簿記論(500時間)は、簿記1級と同じくらいの難易度といわれています。
つまり、簿記1級を取得すれば、簿記については税理士と遜色ない知識があると言っても、過言ではありません。
② 簿記1級の合格率
簿記1級の合格率は、平均で10%前後です。
簿記1級の試験は毎年約20,000人が受験しますが、年間で2,000人しか合格しない希少な資格であるといえます。
簿記2級の合格率は20%ほどなので、簿記2級と比較しても、難易度がかなり高いことが分かります。(一方で、第165回は約20年ぶりに1級と2級の合格率が逆転。)
試験回 | 1級 合格率 |
2級 合格率 |
165 (2023.11.19) |
16.8% | 11.9% |
164 (2023.6.11) |
12.5% | 21.1% |
162 (2022.11.20) |
10.4% | 20.9% |
161 (2022.6.12) |
10.1% | 26.9% |
159 (2021.11.21) |
10.2% | 17.5% |
158 (2021.6.13) |
9.8% | 30.6% |
157 (2021.2.28) |
7.9% | 24.0% |
その他の資格では、
・土地家屋調査士(10%)
・一級建築士(10%)
・マンション管理士(8%)
などの国家資格と同等の合格率です。
資格試験は資格により受験者層が異なるため、一概に比較はできません。
しかし、簿記1級の受験者は簿記2級に合格している人や、公認会計士・税理士の受験者がメインです。
しっかりと簿記を学習してきている人たちが受験しているのに、合格率が10%しかないので、かなりの狭き門だと言えるでしょう。
③ 簿記1級はなぜ難しい?
ここまでに説明したデータから、簿記1級の難易度の高さをイメージできたかと思います。
簿記1級の難易度が高いといわれる理由は、出題内容が難しいだけではなく、各科目に最低正答率が設定されていることも要因の一つです。
簿記1級の合格条件は、次の2つを満たす必要があります。
・各科目で40%以上の正答率
4科目合計で70%以上の正答率であっても、苦手な科目があり40%の正答率を確保できないと、不合格になってしまいます。
簿記2級は商業簿記60点・工業簿記40点の配点で、合計70点以上を取れば合格です。
例えば、商業簿記が得意で60点満点を取れば、工業簿記が10点でも合格できます。
しかし、簿記1級は一つでも苦手科目があると、足切りで不合格になってしまうため、すべての科目に力を入れなくてはなりません。
また、必要な勉強時間も、簿記1級が難しいといわれる理由の一つです。
簿記1級は経験者でも500~700時間ほどの勉強時間を確保する必要があるため、半年で合格ラインに達するには、毎日4時間近く勉強しなくてはなりません。
社会人にとって平日・休みを問わず、毎日4時間勉強するのは大変難しいことです。
合格ラインに達する前に挫折して勉強をやめてしまう受験者も多いので、明確な目標を持ってモチベーションを維持するようにしましょう。
簿記講座の元運営責任者が、「実績(合格者数)」と「コストパフォーマンス」の観点から、簿記1級のおすすめ通信講座を以下の3つに絞り、メリット・デメリットについて解説してみました。
・大原
・スタディング
・CPAラーニング
詳細は「簿記1級の通信講座おすすめ3選!会計士が実績とコスパを比較」をご確認ください。
2. 簿記1級の7つのメリット
![簿記1級のメリット7選](https://kaikei-shop.net/wp-content/uploads/2023/02/簿記1級のメリット7選!どれくらいすごい?何ができる?.jpg)
ここでは、簿記1級を取得することにより得られるリットを、順に7つ解説します。
1) スキルアップできる
簿記1級の出題範囲はかなり幅広く、経理の仕事をしている人からみても、かなりマニアックな内容も出題されます。
そのため、簿記1級に合格すると、仕事でイレギュラーが発生しても対応できるだけの知識が身に付きます。
会計に関する応用力が高まるため、一緒に働く人たちから「経理については、あの人に相談すればなんでも解決できる」と評価されるようになるでしょう。
また、経理部の管理職に必要な能力を備えていると評価されて、昇進や資格手当など給料にも影響します。
大企業で昇進したり資格手当をもらったりすれば、生涯賃金が大きく増えるため、経理で収入を増やしたい方にもおすすめです。
2) キャリアチェンジできる
現在、営業や研究職など経理以外で働いている方が、経理にキャリアチェンジしたい場合にも、簿記1級は活用できます。
一般的に企業で経理として働くには、実務経験が重視されます。
しかし、簿記1級を取得していれば、すぐに経理の現場で働ける実力が付いているので、実務経験がないことを補えるでしょう。
大企業を目指す場合でも、簿記1級の評価は高く、実務経験がなくても採用される可能性が高まります。
3) より難しい資格にチャレンジできる
簿記1級を取得すれば、税理士や公認会計士などより上位の資格にチャレンジできるため、人生の選択肢が広がります。
例えば、税理士試験の税法科目を受けるには、以下のような条件があります。
・銀行や税理士事務所などでの実務要件
・日商簿記1級の取得など資格要件
税理士試験を受けるために、大学に入学したり、銀行などに転職したりするのは、ハードルが高いです。
そのため、税理士試験の受験要件を満たすために、簿記1級を取得する方は多くいます。(会計科目の受験資格が撤廃されたため、今後は税理士試験のために簿記1級を取得する人は減少することが予想されます。)
税理士試験の簿記論は、簿記1級と同じくらいの難易度とされているため、簿記1級の勉強は大部分が税理士試験の勉強に繋がります。
一方で、公認会計士の試験に受験資格は無く、誰でも受験することが可能です。
しかし、公認会計士は日本の三大国家資格とされ、努力したからといって誰でも合格できるわけではありません。
まずは、簿記1級で会計に関する適性を見極めてから、公認会計士の受験を決意する方も多いです。
(税理士と公認会計士については「公認会計士と税理士の違い・共通点とは?どっちがおすすめ?」も合わせてご確認ください。)
また、国家資格で唯一のコンサルタント資格である中小企業診断士の試験でも、簿記1級は役に立ちます。
一次試験の「財務・会計」は、簿記1級の知識があれば、ほとんど勉強しないでも合格可能です。
二次試験の「事例Ⅳ」では、財務内容の分析に関する問題が出題されるため、簿記1級はかなり役に立ちます。
二次試験は筆記問題なので文章作成能力が必要となりますが、知識的には簿記1級で十分に対応可能です。
また、中小企業診断士として独立した際には、「経理・財務に強い中小企業診断士」として売り出すことも可能です。
その他にも、証券アナリストやUSCPA(米国公認会計士)など、簿記1級の知識が役立つ資格はたくさんあります。
4) 大学入試で優遇される
大学も簿記検定を高く評価していて、全国78の大学で入試の際に優遇すると表明しています。
簿記3級や2級でも優遇の対象となりますが、高校生で簿記1級を取得する方はごく僅かなので、かなりのアドバンテージになるでしょう。
簿記検定を入試で優遇する大学の中には、会計学の名門である一橋大学や中央大学もあり、将来的に会計の道を進みたい高校生にもおすすめです。
入試で簿記検定を優遇している大学は、日本商工会議所の「(簿記資格取得者が)入試で優遇される大学」で確認できます。
5) 資産形成に役立つ
簿記1級の知識は仕事だけでなく、日常生活の資産形成にも役立ちます。
人生で最も大きな買い物とされる住宅購入では、住宅ローンの返済計画を自分で立案して、最適な価格の物件を購入できます。
日本経済新聞や経済専門誌などの内容も深く理解できるようになるため、将来の金利や経済の動向を予測して有利な金利タイプを選択できるでしょう。
また、簿記1級を勉強することで、企業の財務内容を分析できるようになります。
上場企業のホームページには財務諸表や今後の経営計画が掲載されていて、独自に分析をすれば株式投資にも役に立つでしょう。
近年は、つみたてNISAやiDeCoのような長期投資は、所得税を節税できるなど優遇されています。
簿記1級で身に付いた分析能力は、長期投資と相性が抜群なので、投資の判断に役立つでしょう。
6) 独立・開業に活用できる
独立・開業する場合、株式会社や合同会社、個人事業主などいずれの形態であっても、経理業務は必須です。
簿記1級の知識があれば、税理士に記帳代行を依頼する必要はなく、自分で処理できるのでコストを減らすことができます。
また、開業時は日本政策金融公庫などの金融機関に、「創業融資」を申し込むことがあります。
創業融資を申し込むには、事業計画書を作成する必要があり、その内容が融資の可否を大きく左右します。
簿記1級の知識があれば、数字に裏打ちされた説得力がある事業計画書を作成でき、融資の審査が有利になるでしょう。
7) 新卒で大企業の経理を目指せる
簿記1級を取得していると、新卒時の進路の選択肢も増えます。
簿記1級は、大企業での経理を想定した出題範囲であり、企業側としては新卒なのに即戦力級の人材を獲得できます。
経理の適正があることが証明されているため、採用活動で失敗するリスクも減らせます。
そのため、簿記1級を持っていると、新卒で大企業へ入社するのに役立つといえるでしょう。
また、税理士を目指すのであれば、税理士法人への就職も容易です。
税務は経理とは違う分野なので、一から勉強する必要がありますが、税務を行うには経理の知識が欠かせません。
経理の基礎から応用まで身に付いていることは、大きなアドバンテージになるでしょう。
ただし、税理士を目指さないのであれば、税理士法人への就職はあまりおすすめしません。
税理士資格を持っていないと、税理士の補助者としての仕事しかできないため、一般企業と比べると給料は劣ります。
さらに、簿記1級の知識は、経営コンサルティングファームでも役に立ちます。
経営コンサルタントは当然、経営の知識が必要です。
簿記1級では財務諸表の読み方や意思決定会計など、経営に関する内容も学習します。
経営コンサルティングファームは学生に人気の就職先ですが、簿記1級を取得していることは、強い訴求ポイントとなるでしょう。
3. 終わりに
簿記1級の難易度やメリットについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
簿記1級は合格率10%ほどの難関資格ですが、取得できれば就職や転職・大学入試などで有利になるので、人生を変えてくれる資格と言えるでしょう。
簿記1級を取得すると、税理士の受験資格を得られる、独立開業の役に立つ、資産形成が有利になる、などのメリットもあります。
一方で、合格ラインに達するまでの勉強時間は、簿記2級保有者で500時間~700時間なので、生半可な気持ちで取得できる資格ではありません。
何のために受験するのか目的をはっきりとさせないとモチベーションが落ちてしまうため、初心を忘れず信念をもって勉強に取り組んでください。
4. まとめ
◆簿記1級の試験科目は、商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算の4科目がある。
◆簿記1級を取得すると、スキルアップや転職・就職・大学入試などに活用できる。