業界団体である中小企業診断協会の調査「データで見る中小企業診断士」によると、営業職に従事している人で中小企業診断士の資格を持っている人は、わずか7.5%ほど。
「営業+コンサルティング」というパターンは、実はそんなに多くありません。
経営コンサルタントの資格を取得するメリットを感じないのか、それとも仕事と試験勉強の両立に二の足を踏んでしまうのか、はっきりとした理由はわかりませんが、割合としては1割にも満たない状況です。
しかし、中小企業診断士について調べていくと、営業職の人も大いにこの資格にチャレンジするべきだと思わせる情報が、たくさん出てきます。
そこで今回は、営業職の人が中小企業診断士になるとどんなメリットがあるのか、注意すべきデメリットはないのか等についてまとめました。
「気になっているんだけど…」という営業職の方は、ぜひ参考にしてみてください。
1. 営業が診断士を目指すメリット
1) 人脈が広がる
2) 営業で使える知識が増える
3) ロジカルシンキングで提案力アップ
4) 転職の幅が広がる
5) 管理職に必要な知識を学べる
6) 独立も可能となる
2. 営業が診断士を目指すデメリット
1) 直接的な営業手法は学べない
2) 難易度が高く簡単に合格できない
3. 終わりに
4. まとめ
1. 営業が診断士を目指すメリット
中小企業診断士の資格を取得すると、営業職ならではの強力なメリットが、いくつもあります。
ここではそのメリットについて、順にご紹介します。
1) 人脈が広がる
中小企業診断士の資格を取得して積極的に活動し始めると、人脈がどんどん広がっていきます。
実際、中小企業診断士のブログやインタビュー記事を見ていくと、
といった書き込みを、いくつも見つけることができます。
これは、この資格を持つ人の知識や経験を欲している人が、大勢いることの証明に他なりません。
営業にとって人脈は、最強の武器。
中小企業診断士の資格と営業職の相乗効果は、計り知れません。
2) 営業で使える知識が増える
「お客様のところへ出向いても、自社製品以外の話題には全くついていけない」
こうした悩みを抱える営業は、多くいます。
しかし、中小企業診断士の知識を身につければ、そうした悩みの大部分は解消できます。
なぜなら、中小企業診断士の試験勉強では、企業経営理論、財務会計、経営法務、情報システムといった、企業活動に関連するあらゆる分野を学べるからです。
例えば、「企業経営理論」では経営戦略や組織管理、マーケティングといった、企業の舵取りに関する知識を学びます。
経営者としての視点を身に着けることができるので、顧客企業の経営層と視点を共有するのに役立ちます。
「財務会計」を学ぶと財務諸表の内容を理解、分析することができるようになります。
中小企業診断士の中には、「顧客企業の財務諸表の数字を考慮したうえでの提案営業」を行って成果を挙げている人もいます。
「運営管理」では、製造業における生産管理や、流通業における店舗・販売管理を学びます。
この科目をマスターすると、現場レベルの話題にもしっかりと対応できるようになります。
このように、顧客企業のあらゆるポジションにいる人たちに、ビジネスベースで話を合わせていくことが可能となるため、必然的に頼られる存在となっていきます。
3) ロジカルシンキングで提案力アップ
中小企業診断士の2次試験では、設問に対して論理的かつわかりやすく回答することが求められており、ロジカルシンキングのスキルが合否を大きく左右すると言われています。
ロジカルシンキングとは、問題の背景にあるさまざまな原因を整理し、体系的に順序立てて考える思考法のことです。
ビジネスシーンに当てはめると、顧客が抱える複雑な課題を丁寧にひも解いて単純化し、本質的な原因は何か、実現可能な解決策は何かを論理的に導き出し、提案することができるようになります。
問題の原因と改善に向けて取るべき行動が具体的でわかりやすいので、顧客もメリットを感じ、提案が通りやすくなります。
また、ロジカルシンキングを身につければ、自分の意見を論理立てて主張できるようになるため、発言の説得力が増し、会議等でも存在感を出すことができます。
その結果、「社内でも一目置かれる存在になれた」という人は、少なくありません。
4) 転職の幅が広がる
① 営業としての転職の幅が広がる
商品知識や業界知識しか持たない営業職が転職しようと思っても、ほとんどの場合、受け入れてくれるのは似たような業界しかありません。
持っている知識やスキルが、極めて限定的だからです。
一方、中小企業診断士のようなコンサルティングの知識を持っている営業職となると、話は変わってきます。
コンサルティング営業という職種があるように、モノやサービスを売る営業職は、コンサルタントとしての素養が求められるケースが少なくありません。
ヒアリングによって顧客が抱える問題を抽出・分析し、自社製品やサービスを絡めた解決策を練り上げて提案する。
膨大な知識がバックボーンにあるからできることで、一朝一夕には身につかないスキルです。
そしてこのようなスキルは、一度身につけてしまえば業界や商品を選びません。
だからこそ、このような人材には大きな需要があります。
同じ営業職でも、コンサルティング関連の知識があるかないかは、天と地ほどの差があるのです。
② 他の職種への転職の幅が広がる
冒頭でも述べた通り、中小企業診断士のうち、営業職に就いている人はわずか7.5%というデータがあります。
では中小企業診断士の資格を持つ人が、どんな職種に就いているかというと、多い順に、経営企画、経営、マーケティング、財務、IT関連、人事労務関連となっています。
つまり、診断士資格を活かすなら、これらの職種が現実的な選択肢として、候補に挙がってくるということです。
ただし、違う職種へ応募するとなると、それなりに準備も必要です。
面接時には「この資格がもっと活きる職種にしたい」「この職種に就きたいから中小企業診断士の資格を取得した」など、応募動機もしっかり用意して臨むとよいでしょう。
5) 管理職に必要な知識を学べる
中小企業診断士の試験科目の中には、企業の組織運営について学ぶ科目があります。
1次試験の「企業経営理論」では、経営戦略やマーケティング、組織論について勉強します。
その中でも組織論は、「企業の組織形態にはどんなものがあるのか」「意思決定はどのようにして行われるのか」「労働関連法にはどのようなものがあるのか」といった、管理職でなければ学ぶ機会がめったにない内容が含まれています。
また、2次試験の事例問題「組織・人事」では、事例として提示された企業が抱える問題を分析し、組織管理の視点から改善策を策定して、回答しなければなりません。
これらの科目以外にも、企業経営や事業展開にまつわる幅広い知識を習得することになるため、中小企業診断士の勉強をしていけば、管理職として必要な知識や視点がおのずと身につきます。
6) 独立も可能となる
本人の希望次第ですが、営業畑の人であれば、管理部門の人よりは独立できる可能性も高くなります。
実は中小企業診断士は横のつながりも強く、紹介で仕事が入ってくることも少なくありません。
《コンサルティング業務の依頼経由トップ3》
依頼元 | 割合 |
中小企業支援機関・商工団体等からの紹介 | 24.8% |
他の中小企業診断士からの紹介 | 10.6% |
県協会からの紹介 | 10.5% |
顧問先企業からの紹介 | 8.3% |
金融機関からの紹介 | 7.1% |
(中小企業診断協会アンケート調査より)
中小企業診断士はそれぞれ専門分野を抱えていて、専門外の仕事は業界団体などで知り合った他の診断士に紹介することもありますし、「公的業務」といって、行政や商工会などの紹介で、中小企業の経営相談を受けることもあります。
つまり、すでに顕在化したニーズに触れる機会があるため、そこに営業職で培った営業力が加われば、管理部門にいる人よりもスムーズに独立できる可能性は、間違いなく高くなります。
ちなみに、すでに中小企業診断士として登録されている人のうち、独立をしている人の割合は直近の調査で47.8%です。
対して、企業に社員として属したままの人、いわゆる「企業内診断士」の比率は50%超。
独立をしない人にその理由を尋ねると、「仕事の受注に自信がない」「収入が不安定になりそう」といった理由を挙げる人が、それぞれ4割以上いることが分かっています。
つまり、みなさん仕事が継続的にあるのかどうかという点に不安を抱いて、独立に二の足を踏んでいるわけです。
営業として顧客の開拓とサポートに当たってきた経験は、こういう時に大きな力となります。
中小企業診断士講座の元運営責任者が、以下の7つの通信講座のコストパフォーマンスを比較して、おすすめ2つのメリット・デメリットについて解説してみました。
・TAC
・スタディング
・診断士ゼミナール
・クレアール
・LEC
・アガルート
・フォーサイト
詳細は「中小企業診断士の通信講座おすすめ2選!元講座運営者が比較します」をご確認ください。
2. 営業が診断士を目指すデメリット
営業職が中小企業診断士を目指すことにはメリットが多いですが、リスクや注意点もあります。
1) 直接的な営業手法は学べない
中小企業診断士の勉強では、「企業経営理論」でマーケティングや消費者行動など、営業に役立つ知識を学ぶことができます。
ただし、それらは手法ではなく理論であって、営業担当者が成約をどんどん積み上げるような「直接的なノウハウ」ではありません。
もし、成約を取るための具体的なノウハウを期待するのであれば、営業職を対象としたセミナーの方が、短期的なメリットは大きいでしょう。
中小企業診断士で学べる知識は、ビジネスパーソンとしての土台を高く強固にするためのものです。
今すぐ高くジャンプしたい場合には向きませんので、ご注意ください。
2) 難易度が高く簡単に合格できない
中小企業診断士試験は、非常に難易度の高い試験です。
《直近5年の最終合格率》
2023年 | 5.6% |
2022年 | 5.4% |
2021年 | 6.7% |
2020年 | 7.8% |
2019年 | 5.5% |
ここ数年は軟化傾向にありましたが、直近の試験では再び合格率が下がっており、やはり膨大な勉強時間を投下したうえで、しっかりと内容を理解しなければ、合格はおぼつきません。
管理部門の人ならまだしも、顧客最優先で時間確保もままならないような環境の人にとっては、その点が最大のリスクになります。
「中小企業診断士試験の合格に必要な勉強時間は1,000時間」などと言われますが、1,000時間勉強したからといって合格できる保証はどこにもなく、短期で合格するためには勉強時間確保を、プライベートの最優先事項に据えて取り組む必要があります。
限られた時間の中で勉強効率を最大限に高めるためには、費用はかかっても資格学校や通信講座の受講を検討するべきでしょう。
3. 終わりに
以上、営業職の人が中小企業診断士を目指すメリットやデメリット、注意点などについてまとめました。
営業の仕事で中小企業診断士の知識は必ずしも必須ではありませんが、あれば必ず役に立ちます。
ビジネスパーソンとしての立ち位置を高く強固にするにはもってこいの資格で、名刺に「中小企業診断士」という肩書が入れば、そこに目を留める人は少なからずいます。
そして、それをきっかけに新たな仕事の受注につながるケースもあります。
多くの時間を割いてでも、チャレンジする価値のある資格だといえるでしょう。
ただ、資格にチャレンジするとなると、営業という仕事の特性上、勉強時間の確保が最大の課題となります。
多くの人がこの資格を目指しながらも挫折していく背景には、時間の捻出が思うようにいかないという事情があります。
営業職はその点は、かなりシビアな自己管理が必須になってきますので、よほど独学に自信がある方でないかぎりは、隙間時間の活用ができる通信講座などを、うまく利用することをお勧めします。
4. まとめ
◆経営関連の幅広い知識を背景に、顧客企業の様々なポジションの人とコミュニケーションが取れるようになる。
◆ロジカルシンキングで説得力ある提案ができるようになる。
◆コンサル力のある営業として異業種への転職も十分可能になる。
◆経営企画やマーケティング、財務といった、違う職種への道も開ける。
◆管理職が身に着けるべき知識を学ぶことができる。
◆営業経験があればビジネスチャンスをつかみやすく独立にも有利。
◆中小企業診断士の知識があっても、営業成績が急激に上がるわけではない。
◆合格するためには覚悟をもって、時間と費用をかけて取り組む必要がある。