ダイドーブレンドコーヒーなどで有名な、ダイドー。
コンビニやスーパー経由の売上が多いかと思いきや、圧倒的に一番の販売ルートは自動販売機です。
1台・1日あたり平均1,000円未満という小さな売上を積み上げることで、自販機だけで年間100億円近い売上をあげています。
今回はそんなダイドーの決算書について、解説していきます。
1. ダイドーとは?
1) 基本情報
2) 事業内容
2. 売上高&営業利益
1) 売上高
2) 営業利益
3) 営業利益の改善施策
3. キャッシュフロー
4. 安全性
1) 短期の安全性
2) 長期の安全性
5. 終わりに
6. まとめ
1. ダイドーとは?
1) 基本情報
① 会社情報
会社名 | ダイドーグループホールディングス株式会社 |
設立日 | 1975/1 |
従業員数 | 3,922名(2021/1/20) |
事業 | ① 国内飲料事業 ② 海外飲料事業 ③ 医薬品関連事業 ④ 食品事業 *詳細は後述 |
上場日 | 2003/1(東証一部) |
決算情報 | IR情報 |
② 沿革
1975 | ダイドーブレンドコーヒー発売 |
1991 | 大同薬品工業株式会社工場を新設して医薬品等の受託生産を開始 |
1992 | ダイドーデミタスコーヒー発売 |
2001 | 東証二部上場 |
2003 | 東証一部上場 |
2008 | 中国の上海に子会社設立 |
2012 | 株式会社たらみの子会社化(現食品事業) |
2013 | ロシアのモスクワ市に子会社設立 |
2016 | トルコ大手食品グループの製造子会社を子会社化 |
2019 | イギリスに子会社設立(トルコで生産した飲料の輸出先) |
2) 事業内容
① 国内飲料事業
ダイドードリンコ株式会社
コーヒー飲料を中心に、主に自動販売機経由で売上をあげている、ダイドーの中核事業。
② 海外飲料事業
DyDo Drinco Turkey
トルコ・イギリス・中国・ロシアを中心に、ダイドーの飲料を販売している事業。
*ロシアの子会社は清算予定。
③ 医薬品関連事業
大同薬品工業株式会社
ドリンク剤(医薬品や医薬部外品)のOEM(受託製造)を行う事業。
④ 食品事業
株式会社たらみ
フルーツデザートゼリー市場でトップシェアを誇る事業。
2. 売上高&営業利益
1) 売上高
まずは、ダイドーの売上高の推移を見ていきましょう。
売上高は毎年微減しており、4年前と比較すると約8%減少しております。
詳細を確認するために、セグメント別の売上高について見てみましょう。
ダイドーの売上高の7割以上を占める、国内飲料事業の売上高が毎年減少しているのが、主な原因と言えます。
そして、そんな国内飲料事業の売上の多くを担っているのが、自動販売機(自販機)。
つまり、自販機からの売上を拡大させるのに苦戦しているのが、ダイドーの現状となります。
2) 営業利益
次に、ダイドーの営業利益・営業利益率や、セグメント別の営業利益について見ていきましょう。
【全社の営業利益・営業利益率】
【セグメント別の営業利益】
2021年1月期は、コロナの影響で外出する人が減り、自販機の利用が下がったことが想定され、売上高の減少に伴い営業利益も減少した…かと思いきや、2年前の2019年1月期と変わらない水準の営業利益となっております。
実はこれは本業で頑張った成果ではなく、「自販機の耐用年数を5年から10年に変更」した結果、減価償却費が2,950百万円減少した影響によるものです。
この耐用年数変更の影響を加味すると、全体の営業利益は前年と変わらない水準となり、利益面でも苦戦している状況と言えます。
(ただし、今回の耐用年数の変更は、自販機の性能向上及び定期的な保守の実施等、本業での頑張りによるものと考えることもできます。)
3) 営業利益の改善施策
ダイドーの自販機は全国に約27万台あり(2021年4月掲載の社長へのインタビューより)、2021年1月期の自販機経由の売上高は約920億円です(2021年1月期決算補足説明資料より)。
これをもとに自販機1台あたりの1日の売上を計算してみると、約930円となります。
自販機ビジネスは、1台あたりのこのわずかな「売上を増やし」、「費用を削減」して、「設置台数を増やす」ことで、営業利益を改善していく薄利多売のビジネスと言えます。
ダイドーの営業利益の改善策について、具体的に見てみましょう。
① 1台あたりの売上を増やす
自販機1台あたりの売上をアップすれば、会社全体の営業利益は増加します。(自販機の設置や維持に伴う固定費は、売上高がいくらであろうが変わらないため)
具体的には、クローズドロケーションの比率を高めることで、1台あたりの売上はあがります。
クローズドロケーションとは、オフィスや工場など自販機を利用する人が多い場所のことを指します。
ダイドーのクローズドロケーション比率は右肩上がりに増加しているので、今後もこの調子で増加していけば、営業利益の増加に貢献する可能性は高いです。
(統合報告書2020より抜粋)
また、ダイドーの自販機で購入するたびにポイントがたまる「SmileSTAND(スマイルスタンド)」アプリの利用促進や、SmileSTANDに対応した自販機を増やすことにより、自販機の利用頻度をあげることも、1台あたり売上をあげることにつながります。
② 1台あたりの費用を減らす
SmileSTANDの普及は、1台あたりの売上をあげることよりも、実は費用削減効果の方が大きいと言えます。
SmileSTANDに対応した自販機とは、オンライン化した自販機、つまりはIOT化した自販機となります。
IOT化することで、週次で把握していた自販機ごとの販売データを、日次で管理することができ、担当者の経験や勘に頼った飲料の配送から、データに基づいた配送が可能となるのです。
その結果、自販機1台あたりに要する作業時間が減り、人件費などのコスト削減につながっています。
ダイドーは2022年1月までに8万台のIOT対応自販機を導入して、補充に関わる人員を3割減らす方針を掲げており、計画通りに進めば営業利益増加につながる可能性は高いです。
③ 設置台数を増やす
前述の①②を改善しながら、後は自販機の設置台数を増やしていけば、営業利益は改善されます。
ただし、国内全体の飲料自販機の設置台数は年々減少しており、自販機設置台数を伸ばすことは容易ではありません。
(日本自動販売システム機械工業会のデータをもとに作成)
そのため海外に市場を拡大することも考えられますが、前述のセグメント別の営業利益の通り海外飲料事業は赤字であり、またロシアの子会社については清算手続きに入るなどの状況であるため、設置台数の増加には限界があると言えます。
3. キャッシュフロー
ここでは、キャッシュフロー計算書の各数値について、見ていきましょう。
ダイドーは、毎年100億円を超える営業キャッシュフローを、安定的に稼いでおります。
また、稼いだ営業キャッシュフローを、自販機などの固定資産に継続的に投資している状況です。
さらに、借入金の返済や社債の償還などの財務活動にもキャッシュをまわしており、健全な資金状況と言えます。
キャッシュフロー・マージン(=営業CF÷売上高)も計算してみると、営業利益率よりも高く利益の質(キャッシュの回収効率)は良い方です。(キャッシュフロー・マージンについては「キャッシュフロー・マージンとは?分析方法・求め方をご紹介!」をご参照ください。)
ただし、あくまで営業利益率と比較すると良いという水準であり、キャッシュフロー・マージンの1つの目安である15%よりは低いため、より高い数値であることが望ましいと言えます。
4. 安全性
最後に、安全性について短期・長期それぞれの視点から、各指標を確認していきましょう。
1) 短期の安全性
① 手元流動性比率
まずは短期の安全性の指標として、手元流動性比率(=(現金及び預金+短期有価証券)/(売上高÷12))について見てみましょう。
手元流動性比率の目安である「1か月」を大幅に上回っており、短期の安全性からは問題ないと言えます。
特徴的なのは、短期の有価証券が分子(=現金及び預金+短期有価証券)の半分以上を占めている点です。
この有価証券の中身はいったい、なんなのでしょうか?
② 有価証券の中身
この金額は、「現金及び現金同等物」(CF計算書)と「現金及び預金」(貸借対照表)の差額と一致しております。
つまり、貸借対照表では「有価証券」となるけれども、キャッシュフロー計算書では「現金及び現金同等物」として扱うものが中身となります。
また、有価証券は主に債券・株式・「譲渡性預金」で構成されている旨の記述が有価証券報告書内にあります。
以上より、この有価証券は「譲渡性預金」であることがわかります。(他の年度も同様)
譲渡性預金を利用することで、余剰資金を運用して利息収入を得つつ、いざという時の資金需要に備えることができます。
2021年1月期はコロナ流行といった有事であり、結果的に正しい選択とも言えます。
しかし、平時になった際は本来本業に充てるはずのキャッシュをただ余らしているとも言えるため、今後本業への投資をどこかで強化していく必要あります。
譲渡性預金とは定期預金の一種であり、満期まで一定の利息を受け取れるが途中解約はできない点は、普通の定期預金と同様です。
ただし譲渡性預金の場合は、譲渡性預金自体を第三者に譲渡することができるため、定期預金として利息を得つつ、いざという時の資金調達手段にもなります。
預金保護制度の対象とならないなど、リスクもあるので注意が必要です。
2) 長期の安全性
次に、長期の安全性の指標として、自己資本比率についても見てみましょう。
目安である50%とほぼ同じ水準で推移しており、長期の安全性の観点からも現状は大きな問題はないと言えます。
ダイドーの配当利回り(=1株当たり配当額÷株価)は、高配当株の目安である3%をいずれの年も下回っており、配当目的の投資対象としては魅力的でないと言えます。
5. 終わりに
ダイドーの決算書について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
飲料自販機市場全体が停滞する中で、主力である自販機経由でどこまで利益を稼ぎ出せるか、今後に注目していきましょう。
(本記事で扱っている決算書分析の指標や知識は、ビジネス会計検定で学ぶことができますので、ぜひ挑戦してみてください。)
6. まとめ
◆飲料自販機市場全体は毎年縮小。
◆設置場所の工夫やIOT化などが今後のカギを握る。