高級食品であった寿司の大衆化に成功した、小僧寿し。
しかし、一時は2,000店舗を超えていた店舗数も、今や約10分の1までに減少。
しかも、10期連続で赤字を計上しており、一時は債務超過にまで追い込まれました。
一方で実は、直近の決算では黒字化かつ債務超過の解消に成功しております。
今回はこのあたりを中心に、小僧寿しの決算書について分析していきます。
1. 小僧寿しとは?
1) 基本情報
2) 事業内容
2. 10年連続赤字からの黒字化
1) 10期連続の赤字
2) 黒字化に成功
3. キャッシュフロー
4. 安全性
1) 短期の安全性
2) 長期の安全性
5. 終わりに
6. まとめ
1. 小僧寿しとは?
1) 基本情報
① 会社情報
会社名 | 株式会社小僧寿し |
設立日 | 1972/2 |
従業員数 | 社員69名、準社員594名 (2020/12月時点) |
事業 | ① 持ち帰り寿し事業等 ② デリバリー事業 *詳細は後述 |
上場日 | 1994/6(JASDAQ) |
決算情報 | IR情報 |
② 沿革
1977 | 1,000店舗達成 |
1981 | 2,000店舗達成 |
1991 | 売上1,000億円突破 |
1994 | 株式の店頭公開 |
2006 | すかいらーくの連結子会社となる |
2012 | すかいらーくとの資本業務提携を解消 |
2016 | 阪神茶月を子会社化 けあらぶ (介護)を子会社化 |
2018 | デリズを完全子会社化 |
2019 | けあらぶ (介護)を売却 |
2021 | だいまるを完全子会社化 |
2) 事業内容
① 持ち帰り寿し事業等
「小僧寿し」「茶月」のブランドで持ち帰り寿しを提供する事業。
直営だけでなく、フランチャイズによる店舗運営も行っております。
② デリバリー事業
完全子会社である株式会社デリズが運営するデリバリー事業。
カレー・とんかつ・中華・うどんなどを中心に、小僧寿しのデリバリーも行っております。
2. 10年連続赤字からの黒字化
1) 10期連続の赤字
まずは、小僧寿しの売上高と最終利益(親会社株主に帰属する当期純利益)の推移を見ていきましょう。
(*上記の当期純利益=親会社株主に帰属する当期純利益)
売上高は長期的に見ると、大きく下落しております。
また、2010年から2019年まで10期連続で最終利益が赤字となっており、非常にまずい状態です。
ここで原価率を見てみると、飲食業界の目安である30%よりはるかに高く、競合にあたる回転寿司と同等かあるいは少し高いくらいであり、商品自体にはお金をかけていると言えます。
(回転寿司業界については「スシローの決算書分析:好調な売上&利益に隠された2つのリスク」も合わせてご確認ください。)
実際に回転ずしのテイクアウトと食べ比べてみると、好みの違いはあれども大差はないと感じる人も多いかと思います。
それでは、赤字がここまで続いた原因は何なのでしょうか?
「スシロー」などの回転寿司や、「ちよだ鮨」などの持ち帰り寿司の競合の存在は、当然に大きいと言えます。
それ以外に推測される要因として、ここでは以下の2つについて解説していきます。
② なかなか当たらない新規施策
① 持ち帰り寿しという業態の限界
持ち帰り寿しには、回転寿司のように店舗で食べるエンターテイメント性がありません。
また、自宅まで運んでくれるデリバリーほどの手軽さもないため、中途半場な位置づけとなっており、持ち帰り寿しだけで勝負するには限界があると言えます。
② なかなか当たらない新規施策
小僧寿しは赤字に対して何も手を打っていないのか?というと、当然そんなことはなく、他社同様に商品戦略や販売戦略を工夫しております。
また、介護事業に手を付けるなど、新規事業への取り組みも行ってきました。(現在介護事業からは撤退しております。)
しかし、新規事業や新規施策を試すもなかなか成果が出ず、失敗に終わっています。
2019年までは販管費率(売上に対する販管費の割合)が高い水準にあり、販売戦略のためにかけた販管費に対して、思うように売上があがっていないことを示しております。
2) 黒字化に成功
しかし、2020年には黒字化に成功しており、10期連続の赤字に終止符を打つことができました。
それでは、黒字化できた要因はなんだったのでしょうか?
主な要因として、ここでは以下の2つについて解説していきます。
② 持ち帰り寿し事業の赤字削減
① デリバリー事業の黒字化
黒字化の原因を調べるために、売上高と営業利益について、セグメント別に見てみましょう。
2018年に買収した「デリズ」のデリバリー事業が躍進して、売上高を順調に伸ばし、2020年には黒字化に成功しております。
後述の通り買収時に計上した「のれん」7.9億円を買収した年に全額減損しており、買収時に想定していた収益が見込めない状況でした。
しかし2020年度は新型コロナの影響により、デリバリー業界全体が右肩上がりでデリズも業績好調となり、結果として小僧寿し全体の黒字化につながったと言えます。
持ち帰り寿しという業態の限界を補うためにも、今後はデリバリー事業のさらなる躍進が欠かせません。
② 持ち帰り寿し事業の赤字削減
持ち帰り寿し事業は依然赤字ですが、赤字幅は年々減少していき、2020年には3,900万円の赤字にまで減少しています。
これは販管費の削減や不採算店舗の削減といった守りの施策を実施するとともに、寿司だけでなく唐揚げ、かつ丼、天丼なども提供する小僧寿しにリブランディングしたことが功を奏した結果と言えます。
ゴーゴーカレー監修の「ゴリラカレー」の販売なども行っております。
店舗数の推移からも、デリバリー事業の拡大(上記①)と持ち帰り寿し事業の店舗整理(上記②)の様子がうかがえます。
ただし、2020年の勢いはマクロ要因によるもので、一時的な可能性もあります。
そこで、2021年3月までの月次前年比データの速報値についても、事業別に見てみましょう。
持ち帰り寿し事業については客数が前年比で伸びており、好調と言えます。
一方でデリバリー事業については、1~3月の累計が昨年同時期とほぼ同程度の売上高となっており、成長が鈍化している可能性があるため今後に注意する必要があります。
3. キャッシュフロー
ここでは、キャッシュフローについて見ていきます。
営業、投資、財務の各キャッシュフローの推移をみると、資金調達をして営業キャッシュフローのマイナスや債務超過(後述)を補填しつつ、将来に対して少しずつ投資を行っている状況と言えます。
前述の通り利益ベースでは2020年に黒字化に成功しましたが、営業キャッシュフローベースではまだ赤字の状況です。
後述の通り短期の安全性に問題がある状況であるため、早期にキャッシュベースでも黒字化できるかが大きな課題となります。
4. 安全性
それでは最後に、短期・長期の安全性について、見ていきましょう。
1) 短期の安全性
流動比率は目安である200%を大幅に下回っております。
また、より短期の資金状況をみる手元流動性比率も、目安である1か月を大幅に下回っており、短期の安全性に非常に問題がある状態が続いていると言えます。
2) 長期の安全性
自己資本比率も目安である50%を、大幅に下回っております。
さらに2018年に関しては自己資本がマイナス、つまりは債務超過の状態となっており、非常に危険な状態が続いております。
2018年の債務超過は、2018年6月に「デリズ」を子会社化した際に小僧寿しとのシナジー効果を期待して、当時数億円規模の債務超過であったデリズに2.8億円相当の株式交換を実施し計上したのれん7.9億円を、2018年12月決算で全額減損したことが原因となります。
当初想定していたほどの収益を生み出せないことが早期に判明し、減損を計上したかたちとなります。(前述の通り2020年12月期においてはデリズが躍進します。)
2期連続で債務超過となるとジャスダックの上場基準に抵触するため、新株予約権の発行による資金調達により債務超過を何とか解消しましたが、引き続き安全性に問題がある状態と言えます。
小僧寿しは2020年に減資を行い、資本金を33億円から0.1億円まで減らして資本剰余金を約60億円まで増やし、マイナス約60億円の利益剰余金の欠損を填補しました。
(単位:千円)
利益剰余金をプラスにして、剰余金の配当を可能にすることが主な目的となります。
5. 終わりに
小僧寿しの決算書について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
黒字化したとはいえ非常に危ない状態が続いているため、今後の決算情報を注意して見ていきましょう。
(本記事で扱っている決算書分析の指標や知識は、ビジネス会計検定で学ぶことができますので、ぜひ挑戦してみてください。)
6. まとめ
◆デリバリー事業の黒字化。
◆持ち帰り寿し事業の赤字幅縮小。
◆営業CFは依然としてマイナス。
◆安全性は短期・長期共に危険な状態。