クックパッドの決算書分析:短期的な収益性に囚われない理由とは?

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料理のレシピを検索する際に、誰しも一度は目にしたことがあるクックパッド。

レシピ事業において国内No.1の地位を誇っていましたが、実はここ数年の決算状況はあまり良いものではありません。

その背景には、短期的な収益性に囚われない、クックパッドの戦略が関係していました。

今回はこのあたりを中心に、クックパッドの決算書について解説していきます。

筆者の情報
・公認会計士
・監査法人➡経理に出向➡ベンチャー➡自営業
・会計ショップのビジネス会計検定講座講師

 

 

1. クックパッドとは?

1) 基本情報

① 会社情報

会社名 クックパッド株式会社
設立日 1997/10
従業員数 547名(2020/12末時点)
部門 ① クックパッド
(レシピ事業)
② クックパッドマート
(生鮮食品EC事業)
③ CookpadTV
(レシピ動画事業)
④ その他関連事業
上場日 2011/12(東証一部)
決算情報 IR情報

 

② 沿革

2004/9 クックパッドのプレミアムサービス開始
2009/7 マザーズ上場
2011/12 東証一部上場
2013/6 プレミアムサービス会員数100万人突破
2014/1 アメリカのレシピサービス会社を孫会社化して海外展開を開始。
2016/10 レシピ投稿数が250万品を突破
英国子会社を海外事業を統括する第二本社として再編を実施。

 

2) 売上内容

① 会員売上

国内クックパッドのプレミアム会員売上。

プレミアム会員単価(月額308円)×プレミアム会員数で計算されるため、基本的にはプレミアム会員数の増減に応じて売上も変動。

 

② 広告売上

国内クックパッドの広告売上。

タイアップ広告、ディスプレイ広告、ネットワーク広告の3形態で運用。

 

③ その他

・クックパッド出版物の監修料
・海外の会員および広告売上
・レベニューシェア売上(現在は終了)*
・CookpadTV、Komerco、クックパッドマート等の新規事業の売上

*NTTドコモのdグルメにクックパッドの一部機能を提供し、収益の一部をもらう事業。

 

2. 売上高・営業利益の推移

1) 売上高

まずは、クックパッドの売上高の推移から見ていきましょう。

クックパッド:売上高

2016年に約170億円あった売上高は、5年間で110億円まで低下しております。

なぜここまで売上が低下しているのか調べるために、売上種別の売上高の推移についても見てみましょう。

クックパッド:売上種別の売上高

 

①(国内)会員売上

プレミアム会員数の伸びが頭打ちとなり、それに合わせて売上高の成長もストップしておりますが、2016年に比べると増加しております。

 

②(国内)広告売上

2016年からの5年間で大幅に減少。

食品業界における広告資源のテレビCMや店頭販促へのシフト(~2019年)、ネットワーク広告の単価下落(2020年)などが主要因となります。

また、ライバル企業の台頭による利用者の減少も、大きな要因として考えられます。

 

③その他

5年間で5分の1に低下。

子会社(みんなのウェディングなど)の売却による減少(2017年)や、レベニューシェアの終了による減少(~2020年)などが主要因となります。

 

2) 営業利益、営業利益率

次に、営業利益と営業利益率の推移について、見ていきましょう。

クックパッド:営業利益と営業利益率

2017年~2018年を境に、営業利益・営業利益率ともに著しく下落しております。

 

① 2018年の減少

売上高の減少と、長期投資(*後述)による人件費などの増加が主要因となります。

 

② 2019年の減少

海外投資(海外のレシピ事業への参入)により発生したのれんについて、当初想定より収益性が悪化したために発生した減損(IFRSのため営業費用)が主要因となります。

 

③ 2020年の減少

長期投資(*後述)の継続による人件費などの増加が主要因となります。

 

数値の上では、売上・利益ともに非常に苦戦している状況と言えます。

一方で、クックパッドは目先の利益に囚われることなく、長期的な成長のために実は手を打っている状況でもあるのです。

次項で解説していきます。

 

3. 投資フェーズの10年

クックパッドは2017年からの10年間を「投資フェーズ」と位置付けており、事業基盤づくりに再注力しております。

そのため、先行投資の影響で短期的に業績が悪化していると言えます。

ここで、投資フェーズの10年で達成したいこととして、以下の3つを挙げております。

1.日本中心のサービス
⇒世界中で使われるサービスへ
2.便利なサービス
⇒楽しみになるサービスへ
3.レシピの会社
⇒料理の会社に

そして、上記を達成するための具体的施策として、「サービス開発」「海外進出」「新規事業への挑戦」「キャッシュ重視の事業運営」に取り組んでいます。

順に見ていきましょう。

 

1) サービス開発

レシピ事業のさらなる発展や海外進出、新規事業において、サービス開発は不可欠であり、クックパッドはエンジニアなどの採用を強化しております。

実際に2017年からの従業員数や人件費の推移を見てみると、右肩上がりで増加していることがわかります。

クックパッド:従業員数
クックパッド:人件費

特に人件費率(売上高に対する人件費の割合)の増加は顕著で、直近では売上高の半分程度を人件費に充てており、サービス開発への本気度がうかがえます。

クックパッド:人件費率

一般的には高すぎる人件費率であり、その証拠に人件費率の増加に反比例して営業利益は低下しております。

しかし、将来的には収益性を大きく高める可能性がある投資であるため、短期的な収益性を犠牲にしてでも安全性面に問題ない範囲であれば、投資を継続する価値はあると考えられます。

 

2) 海外進出

一番の収益源である国内レシピ事業のプレミアム会員数は、以下の通り推移しております。

クックパッド:プレミアム会員数

(*2014年に4月⇒12月に決算期を変更)

順調に会員数を伸ばしてきましたが、2016年ごろから成長が鈍化し現在は頭打ちの状態、つまり国内市場は飽和状態であると考えられます。

そのため海外進出は必須であり、海外向けのクックパッドの提供を開始しました。

2020年12月末時点で世界75か国、33言語(日本を除く)で展開。(参考:世界各地域のクックパッド

また、2019年には国内レシピ数を海外レシピ数が上回り、少しずつ海外進出を拡大している様子がうかがえます。

クックパッド:国内海外レシピ数
(2019年12月期 決算説明会資料より抜粋)

一方で、2018年から2019年にかけて、台湾・ギリシャ・ロシア・ハンガリーにある連結子会社ののれん全額を減損しており、海外進出については当初想定していた収益性を大幅に下回っている状況と言えます。

 

3) 新規事業への挑戦

既存のレシピ事業の強化や、レシピの会社から料理の会社へと成長するために、新規事業にも挑戦しているクックパッド。

具体的には、以下のような新規事業を展開しております。

 

【cookpadTV】

クックパッド:cookpad TV

レシピ数の多さで業界トップを独占してきたクックパッド。

一方で、レシピ数を絞り動画提供によりレシピの質を上げる戦略で急成長している、クラシルやデリッシュキッチンといった競合が台頭してきました。

そこで、2018年4月にCookpadTV株式会社を設立し料理動画事業を分社化して、レシピ動画分野に本格参戦しました。

しかし、2020年にクラシルがレシピ動画サービスにおける利用者数、アプリダウンロード数、SNS総フォロワー数、レシピ動画数で国内NO.1になったと宣言しており、cookpadTVは今のところ苦戦していることが予想されます。

 

【クックパッドマート】

クックパッド:cookpad mart

生鮮食品のECサービスを提供する、クックパッドマート。

アプリで食品を注文すると、街中に設置されている「マートステーション」と呼ばれる冷蔵庫に食品が配送されます。

クックパッドのレシピを見ながら、必要な商品をクックパッドマートで注文するといった流れを実現することで、単なるレシピサービスからの脱却を目指しております。

マートステーションの設置数増加や、生産者・ドライバー・利用者をつなぐシステムの改良など課題は山積みであり、クラシルなど競合も同様のサービスを開始しているため、新規事業としてグロースするか要注目の新規事業と言えます。

 

【Komerco(コメルコ)】

クックパッド:komerco

料理道具や食器のECサービスを提供する、komerco(コメルコ)。

ポップアップストアやワークショップの開催などにも手を広げており、料理に関連する体験を提供する新規事業となります。

 

4) キャッシュ重視の事業運営

クックパッドは10年間にわたる長期的な投資を行うにあたり、短期的な利益に囚われないキャッシュ残高を重視した事業運営を行っております。

つまり、仮に今後利益が赤字となっても、長期的な投資にまわせるキャッシュがあれば問題ないという方針です。

ただ当然のことながら、安全性が確保されていることが前提となります。

そこでまずは、短期の安全性の指標である手元流動性比率の推移について、見てみましょう。

クックパッド:手元流動性比率

手元流動性比率は24ヶ月を超えており、月商2年分の資金を確保しているため、短期の安全性の面からは問題ないと言えます。

ただ、一般的に大企業であれば手元流動性比率が1ヶ月超あれば問題なく、クックパッドは手元資金を余らせている、つまりは投資余力がまだあるのにアクセルを踏めていない可能性があります。

次に、長期の安全性の指標である自己資本比率の推移についても、見てみましょう。

クックパッド:自己資本率

自己資本比率も約90%と非常に高いため、長期的な安全性の観点からも問題はないです。

短期的な収益性は低い状況ですが、短期・長期の安全性は非常に高いため、さらに積極的に10年間しっかりと投資し続ければ、将来的に飛躍する可能性は十分あると言えます。

★無配当
クックパッドは従来配当を行っておりました。

しかし、投資フェーズの資金を確保するために、2018年に配当方針を変更して、現在まで無配を継続しております。

将来的に配当を再開する可能性もありますが、現状は配当目的の投資先としては魅力t的ではないと言えます。

 

4. 終わりに

クックパッドの決算書について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?

現状は売上・利益の面で大きく苦戦している一方で、将来に対して着実に投資を積み重ねているという側面もあり、今後の動きに注目していきましょう。

(本記事で扱っている決算書分析の指標や知識は、ビジネス会計検定で学ぶことができますので、ぜひ挑戦してみてください。)

 

5. まとめ

Point! ◆売上高・営業利益はともに大幅に減少。
◆2017年から10年間を投資フェーズと位置付ける。
◆サービス開発のための採用強化。
◆海外向けレシピ事業の展開。
◆新規事業の展開。
◆利益よりもキャッシュを重視。
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