銀行員が中小企業診断士を目指すメリット・デメリット

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「銀行員こそ中小企業診断士を目指すべき」

中小企業診断士について調べていると、そのような主張をたまに見かけることがあります。

「銀行業務と診断士業務は親和性が高く相乗効果も大きい」というのがその理由ですが、調べていくと他にもいろいろなメリットやデメリットがあることがわかってきました。

本記事では、銀行員が中小企業診断士を目指すメリットとその理由を中心に、考えられるデメリットなども織り交ぜながらご紹介します。

【監修者の情報】
・公認会計士のマツタロウ
・中小企業診断士講座の元運営責任者
・大手監査法人→経理部に出向
 →教育×ITベンチャー→自営業

 

 

1. 銀行員が診断士を目指すメリット

銀行員が中小企業診断士を目指すメリット

銀行員が中小企業診断士を目指すメリットは、いろいろあります。

一つずつご紹介します。

 

1) 融資や経営支援の深みが増す

銀行員が中小企業診断士を目指す1つ目のメリットは、「融資や経営支援の深みが増す」ことです。

銀行にとって、取引先企業への融資や経営支援は、業務の中核です。

特に融資は銀行収益の源泉ですから、返済能力の見極めや貸し倒れリスクへの対応は、極めて重要です。

「貸借対照表や損益計算書の数値におかしな点はないか」「事業計画書の内容と融資額はバランスが取れているか」「担保や保証人は大丈夫か」といった点をチェックして、慎重に融資の判断をしなければなりません。

しかし、ここ数年はこうした従来の融資審査ではなく、「事業性評価による融資」の必要性が国により提言されています。

「事業性評価による融資」とは、従来の「担保・保証」や「決算書の内容」のみを基準にした審査ではなく、「事業内容」や「事業の成長性」を審査の基準に加えた融資のことをいいます。

要は、「もっと事業の中身や将来性を加味して融資の判断をしましょう」ということです。

また、経営支援に関しては銀行の監督省庁である金融庁から「取引先企業の本業支援を積極的に行うように」との要請が出ています。

「本業支援」とは売上や開発力など、企業価値を向上させるための支援のことを指します。

このような、「事業性評価による融資」や「本業支援」は、決算書の数字を追っているだけでは実現が困難です。

数字の裏に隠れている業界や企業ごとの特徴を踏まえる必要があり、それには企業経営に関する幅広い知見が必要です。

そこで、中小企業診断士に注目が集まります。

中小企業診断士の勉強では、企業経営に関する様々な知識に触れることができます。

経営理論や法律を学ぶもの、法人コンサルに必要な情報や知識を学ぶもの、現場レベルの管理知識を業種別に学ぶものなど、その対象は広範多岐にわたります。

これらの知識を蓄えていくことで、決算書の数字もより深いところでの理解がすすむことでしょう。

 

2) 肩書で箔がつく

銀行員が中小企業診断士を目指す2つ目のメリットは、「肩書で箔がつく」ことです。

中小企業診断士はどんな職業の人が取得しても評価される資格ですが、銀行員は業務内容と資格内容の相乗効果が高いため、より評価される傾向にあります。

資格取得のために勉強する「経営に関する知識」は、小売業やサービス業、製造業といった業界の平社員が学んでも、すぐに業務に役立てるのは難しいかもしれません。

そういった業界の平社員は、経営や組織のマネジメントに関わる機会が少ないからです。

しかし銀行員、とりわけ法人相手の仕事をしている人達にとっては、日々の業務にダイレクトに役立てることができます。

顧客企業にとっても、ただの銀行員より「中小企業診断士の肩書がある銀行員」の方が、断然頼りがいがあるはずです。

なぜなら、資金面での課題だけでなく、その背景にある経営上の課題も含めて、踏み込んだ相談ができるからです。

つまり、「融資の相談先」という立ち位置が「経営全般の相談先」に格上げされるわけで、法人であれ個人であれ、一定の信頼を得やすくなるのは間違いありません。

また、こうした評価は、転職時にも良い影響を与えます。

信用第一で数字にも強い銀行員は、ビジネスパーソンとしての基礎がしっかりしているという一般認識があるため、転職で有利だと言われています。

そこに診断士資格が加われば、「資格所有者としての知識がある」「継続的な努力ができる」「成果を出せる」といった評価が上乗せされますから、肩書上のインパクトも確実に増します。

これらのことは、まさに「肩書に箔がついた」と言うことができるのではないでしょうか。

 

3) 財務・会計と相性がいい

銀行員が中小企業診断士を目指す3つ目のメリットは、「財務・会計と相性がいい」ことです。

「財務・会計」とは、財務諸表に記載されている数値を理解・分析し、経営を改善する手法を学ぶ科目で、以下のような内容になっています。

《財務・会計の出題範囲》
簿記の基礎、企業会計の基礎、原価計算、経営分析、利益と資金の管理、キャッシュフロー、資金調達と配当政策、投資決定、証券投資論、企業価値、デリバティブとリスク管理

「貸借対照表」や「損益計算書」などの財務諸表は、企業経営にはつきものですが、そこに書かれている数値が意味するところを理解できる人は、多くありません。

事業活動の何に関連している数字なのか、どのくらいが適正なのか、その数字が増減したらどのような影響が出るのか、こういったことを理解するには、専門知識を学ぶ必要があります。

中小企業診断士の試験では、1次の「財務・会計」や2次の「事例Ⅳ」がそのような知識を問われる科目になっていますが、実は毎年多くの受験生が苦戦を強いられています。

なぜなら、この科目は計算問題が多く出題されるため、知識を暗記するだけでは点が取れないからです。

一般的なビジネスパーソンは、受験対策で繰り返し問題を解いて「計算慣れ」していくものの、多少計算慣れしたくらいでは、なかなかハードルは高いようです。

一方、銀行員にとっては逆に有利です。

銀行員は取引先企業の財務諸表に目を通す機会が多く、経営数値の理解はもちろん、内容を分析することも業務の一環だからです。

すでに知っている知識を整理することは必要ですが、他の多くの受験生のように知識をゼロから覚える必要も、計算問題対策に多くの時間を費やす必要もありません。

現にネット上では、診断士試験に合格した銀行員が「財務・会計は楽勝だった」と述べている例も見られます。

 

4) 合格しやすい

銀行員が中小企業診断士を目指す4つ目のメリットは、「合格しやすい」ことです。

 

① 全体平均より合格率が高い

既述の通り、銀行員は一般的には難解とされる「財務・会計」が苦にならないケースがあり、その点からしても他業種の人と比べると、合格しやすいのは間違いありません。

その傾向は、数値にも表れています。

以下の表は、令和3年度の申込者数と合格者数を、勤務先別に集計した表です。

 

《令和3年度1次試験》

勤務先 申込
者数
合格
者数
合格率
経営コンサルタント自営業 380 76 20.0
税理士・公認会計士等自営業 678 168 24.8
上記以外の自営業 624 116 18.6
経営コンサルタント事務所等勤務 629 145 23.1
民間企業勤務 14,952 3,632 24.3
政府系金融機関勤務 446 129 28.9
政府系以外の金融機関勤務 2,199 572 26.0
中小企業支援機関 542 109 20.1
独立行政法人・公益法人等勤務 267 81 30.3
公務員 836 231 27.6
研究・教育 139 27 19.4
学生 759 140 18.4
その他(無職含む) 2,044 413 20.2
合計 24,495 5,839 23.8

 

上記の表の中で、銀行員が含まれている項目は「政府系以外の金融機関勤務」になります。

合格率は26.0%であり、「全体合計」の合格率23.8%を上回っています。

ちなみに、この傾向は他の年度も同様です。

 

《合格率の比較》

年度 全体合格率 政府系以外の
金融機関合格率
令和3年 23.8% 26.0%
令和2年 24.8% 26.6%
令和元年 21.0% 24.1%
平成30年 16.1% 16.2%
平成29年 15.4% 16.0%

 

平成29年度以降、すべての年度で全体合格率を上回っているのがわかります。

「独立行政法人・公益法人勤務」や「政府系金融機関勤務」などと比べると若干数値は劣りますが、合格しやすい職種であることは間違いありません。

(難易度については「中小企業診断士試験の難易度・合格率は?」も合わせてご確認ください。)

 

② 養成課程の受講

銀行員が合格しやすいといえるもう一つの理由に、「養成課程の受講」があります。

中小企業診断士試験は、1次試験と2次試験を実施して最終的な合格者を確定させていくのが一般的ですが、それ以外に「中小企業診断士の養成課程を修了する」という道もあります。

養成課程とは、1次試験合格者を対象に「中小企業庁が定めたカリキュラム」に基づく講義、演習、実習を行い、修了者には中小企業診断士の登録資格が与えられるという制度です。

養成課程が設けられているのは、中小企業大学校や一般大学・業界団体などで、開講期間は6か月~2年間。

6か月と2年間ではずいぶんと差がありますが、期間の長短は養成課程を開講している機関によって異なります。

ちなみに、銀行がよく利用する「中小企業大学校」の養成課程は、期間が6か月間、費用はなんと200万円を超えます。

講義も日中に行われるため、個人で受講するには時間的にも金銭的にも厳しいものがありますが、銀行員という立場であれば少々事情が異なります。

というのも、国が「中小企業診断士制度をもっと活用すべき」という提言をしているからか、「受講期間中は銀行からの派遣扱い」「受講費用は銀行負担」という手厚い支援体制を敷いている銀行が多くあるのです。

受講生となるには、銀行内部での選考と中小企業大学校の選考、両方に通過する必要がありますが、受講生に選ばれれば給料をもらいながら、中小企業診断士になるための勉強に専念することができます。

必ず修了できるとは限らないものの、受講生の多くは修了までこぎつけていますから、「養成課程」を目指す価値は十分にあるといえます。

 

5) 手当や奨励金が出る

銀行員が中小企業診断士を目指す5つ目のメリットは、「手当や奨励金が出る」ことです。

すべての銀行で出るかどうかは未確認ですが、多くの銀行で何等かの金銭的な支援制度が整えられています。

《支援制度例》
・通信講座を銀行が用意してくれる
・予備校の受講費用を支援してくれる
・合格奨励金が出る
・資格手当が出る

銀行にとっての収益柱である法人融資には、貸し倒れリスクが常に内在しています。

そのようなリスクを回避するには、その企業の経営体力や事業の収益性・将来性を見渡せる視野と見識が必要であり、それを持っているのが中小企業診断士です。

そのため、多くの銀行で診断士のスキルを持った行員を増やすべく、上記のような支援制度を設けてバックアップしています。

 

6) 将来のリスクヘッジになる

銀行員が中小企業診断士を目指す6つ目のメリットは、「将来のリスクヘッジになる」です。

現在、いろいろな業界でAIの普及が進みつつあります。

一説によると「銀行業務の7割は事務作業なので、銀行業界はAIによる業務の代替が適している業界だ」と言われています。

確かに窓口業務の一部はオンライン化されたり、店頭端末に代替されたりしていますし、銀行ホームページからの問い合わせには、チャットボットによる24時間対応が可能になってきています。

さらに融資の分野では、AIを活用して顧客の信用力を数値化したり、口座の動きをAIが分析して業況変化を検知したりする仕組みが、すでに動いています。

何より、金融庁がAIの導入に積極的ですから、こうした流れは今後一層強まるでしょう。

このように、銀行業務がAIに代替されて、銀行員の数が徐々に減って行くのは、避けようがない情勢です。

一方でそんな中にあって、中小企業診断士の資格は銀行員にとって、生き残りの武器になる可能性が少なからずあります。

なぜなら、中小企業診断士の業務は、AIによる代替が不可能と言われているからです。

企業の経営課題を洗い出し、原因を探り、改善点を提案するスキルは、人とのコミュニケーションがベースであり、AI化には適しません。

つまり、銀行業務で診断士のスキルが求められている限り、資格保有者は生き残りに有利な立場にいることができます。

さらにこの資格は、将来独立することも可能な資格です。

銀行業務を通して診断士としての経験を積み、定年後に独立して経営コンサルタントになるという道もあります。

銀行員にとっては、リスクヘッジの側面も強い資格なのです。

 

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2. 銀行員が診断士を目指すデメリット

銀行員が中小企業診断士を目指すデメリット

次に、銀行員が診断士を目指すことによるデメリットをまとめます。

 

1) 直接的には評価されない

銀行員が中小企業診断士を目指す1つ目のデメリットは、「直接的には評価されない」ことです。

直接的に評価されないとは、資格の取得が昇格や昇進に直接つながっているわけではないということです。

例えば、「銀行業務検定」という資格は、特定の級に合格することが昇進・昇格の条件になっている銀行もあり、直接的な評価を得られる資格だといえるでしょう。

しかし、中小企業診断士の資格は資格手当が出ることはあっても、取得が昇進や昇格に直接つながってくるわけではありません。

マイナスの評価を受けるわけではないので、必ずしもデメリットとは言えませんが、投下した時間と費用の割には、目に見えるリターンが少ないと感じるケースもあるようです。

 

2) 変に浮いてしまう

銀行員が中小企業診断士を目指す2つ目のデメリットは、「変に浮いてしまう」ことです。

銀行全体としては、行員が中小企業診断士のような資格を取得することは、業務との相乗効果が見込めるため大歓迎のはずです。

しかし、職場レベルになると、少し冷たい対応をする人もいるかもしれません。

中小企業診断士は難関資格で、落ちる人の方が圧倒的に多い資格です。

もしかしたら職場の人も中小企業診断士にチャレンジして落ちているかもしれないし、挫折した過去を持っているかもしれません。

診断士資格を活かそうと業務に精を出すのは良いことですが、程度が過ぎると反感を買ったり「退職して独立するのでは?」と疑念を持たれたりする可能性もあります。

「出る杭は打たれる」のことわざもありますから、慎み深い振る舞いや言動を心がける方がよいかもしれません。

 

3) 勉強と仕事の両立が難しい

銀行員が中小企業診断士を目指す3つ目のデメリットは、「勉強と仕事との両立が難しい」ことです。

多忙な銀行員にとって、1,000時間とも言われる勉強時間をどう確保するのかは、非常に大きな課題になってきます。(中小企業診断士の勉強時間については、「中小企業診断士の勉強時間は1,000時間?半年合格は無理?」をご確認ください。)

毎日18時に退勤できれば問題ありませんが、19時、20時、あるいはそれ以降まで残業している銀行員もいます。

また、職場や取引先の人からアフター5のお誘いを受けた場合は、なかなか断れないこともあるでしょう。

「仕方ないから今日の勉強は休もう」ということになった場合、その日の勉強は別の日で補填しなければなりません。

もし2日休めば、その2日分を他の日に上乗せしていかなければ、合格は遠のいてしまいます。

勉強の遅れは早めに解消しておかないと、致命傷になりかねないものの、それによって本業がおろそかになり、同僚や上司から不興を買ってしまっては本末転倒です。

余裕を持った学習計画を立て、隙間時間も有効に活用するなど、勉強の工夫をしていく必要があります。

 

3. 終わりに

いかがでしたでしょうか?

メリット、デメリットを見てきましたが、基本的には銀行員にとって診断士資格はメリットの方が圧倒的に多い資格なのは間違いありません。

なにより、国が中小企業診断士の資格制度を今以上に活用しようとしていますし、銀行の多くは資格取得を支援する制度を敷いて、行員の挑戦をバックアップする体制を整えています。

多少のデメリットや注意点があっても、銀行員なら挑戦するべき資格だといえるでしょう。

 

4. まとめ

Point! ◆中小企業診断士としての知見は融資や経営支援の業務と親和性が高い。
◆注目の資格なので取得することで銀行内外から一定の評価が得られる。
◆難関科目の「財務・会計」と相性が良く有利な立場で受験できる。
◆金融機関勤務の人の合格率は全体の合格率より高い。
◆国も銀行も診断士を増やしたいと思っており追い風が吹いている。
◆診断士業務はAIに代替されにくく将来へのリスクヘッジになる。
◆デメリットも多少あるがメリットの方が大きい。

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