シューズを買う時に、ABCマートをまず候補として思い浮かべる人も、多いのではないでしょうか?
ABCマートは収益性や安全性が高く、優等生企業の1つとして挙げられることもあります。
ただし実は、高い収益性の陰に隠れた、3つの懸念事項があるのです。
今回はそんな点を中心に、ABCマートの決算書について解説していきます。
1. ABCマートとは?
1) 基本情報
2) 事業内容
2. 高利益率に隠れた3つの懸念
1) 売上高&営業利益
2) 利益率悪化の3つの懸念
3. 安全性
1) 短期の安全性
2) 長期の安全性
4. キャッシュフロー
5. 終わりに
6. まとめ
1. ABCマートとは?
1) 基本情報
① 会社情報
会社名 | 株式会社エービーシー・マート |
設立日 | 1985年6月 |
従業員数 | 8,600名(2021年2月) |
事業 | 国内および海外での靴を中心とした小売・商品企画・製造 *詳細は後述 |
上場日 | 2002(東証一部) |
決算情報 | IR情報 |
② 沿革
1994 | VANSの国内商標使用契約の締結 |
1995 | HAWKINSの商標権を取得 |
2000 | ジャスダック上場 ショッピングセンター内に初出店 |
2002 | 100店舗達成 韓国に初出店 東証一部上場 |
2009 | 台湾に初出店 500店舗達成 |
2011 | 韓国で100店舗達成 |
2012 | 700店舗達成 |
2015 | 1,000店舗達成 |
2017 | 韓国で200店舗達成 |
2019 | 国内で1,000店舗達成 |
2) 事業内容
国内・海外で靴(シューズ)を中心とした、小売・商品企画・製造を行っている事業。
カテゴリー別の売上高を見てみると、「スポーツ」や「レザーカジュアル」分野のシューズが強みであることがわかります。
自社で製造したシューズと他社から仕入れたシューズの両方を販売しており、自社商品としては以下のブランドがあります。
(”FACTBOOK 2021.2″より抜粋)
2. 高利益率に隠れた3つの懸念
1) 売上高&営業利益
まずは、ABCマートの売上高の推移を見てみましょう。
2021年2月期はオンライン販売を強化するも、シューズ販売はやはり実店舗のニーズが高く、コロナによる外出自粛の影響を受け売上高が大幅に減少。
営業利益・営業利益率も見てみると、同様に大幅に減少しています。
一方で、2021年2月期を除けば売上高は右肩上がり、営業利益率は15%を超える高い水準を維持していました。
特に営業利益率は、競合と比べて非常に高い水準です。
(参考情報:競合3社との比較)
・株式会社チヨダ
・株式会社ジーフット(イオングループ)
・アキレス株式会社
競合よりも高い収益力があるため、外出自粛の影響がなくなり客足が戻れば、元の水準に回復する可能性は十分あると言えます。
2) 利益率悪化の3つの懸念
前述の通り2021年2月期の状況は一時的なものであり、今後利益率は改善するとも考えられますが、実は元通りの水準まで利益率が回復しない可能性もあります。
その主な理由としては、以下の3つが考えられます。
② 自社商品比率の低下
③ 出店場所の限界
順に見ていきましょう。
① 滞留在庫の増加
棚卸資産(シューズ)がどれくらいの日数で販売されるかを表す「棚卸資産回転期間」が年々長期化しており、滞留在庫が増えている状態と言えます。
売れない在庫を処分するために値引きをすることが、利益率の悪化につながっていきます。
滞留在庫を増やさないためにも、売れ筋商品を見極めた在庫の供給が必要となります。
また、滞留在庫となり年末など特定のタイミングで大幅な値下げをする前に、少し早いタイミングで小幅な値下げで売り切るといった戦略も必要です。
② 自社商品比率の低下
ABCマートはユニクロなどと同様にSPA(製造小売業)方式を採用しており、中間コストをなくすことで原価を抑えてきました。
しかし、自社商品比率が年々低下し他社からの仕入れの割合が大きくなった影響で、原価率も少しずつ悪化しているため、今後の利益率の悪化が懸念されます。
一方で自社商品以外(他社からの仕入)については、メーカーとの直接取引による大量仕入れでコストを削減しており、原価への影響は比較的軽微なものとも考えられます。
SPAとは、(主にアパレル業界において)商品の製造から消費者への販売までを、自社で行う業態のことを指します。
卸売業者を挟まないため中間コストを削減することができ、また顧客ニーズを素早く商品に反映することも可能となります。
SPA方式により実現した高い商品力は、ABCマートの大きな強みです。
ABCマートでは、前述の自社商品比率がSPA方式を採用している割合となります。(他社商品の場合は商品を仕入れて販売する方式。)
③ 出店場所の限界
ABCマートの店舗数は、右肩上がりに増加しています。
特に国内ではショッピングセンターでの出店割合が増加しており、ABCマートにとって収益性の高い出店場所であることがわかります。
新規出店することがそのまま広告宣伝につながり、「シューズ販売店と言えばABCマート」という第一想起のポジションを獲得していると言えます。
ただし、1㎡当たり売上高は2016年2月期を境に低下し、全体の売上高成長率も年々鈍化し、前述の通り営業利益率も少しずつ悪化しており、収益性の高い出店場所の余地に限界がきつつあることが推測されます。
今後もトップライン(売上高)を伸ばすために新規出店を増加していくのか、現状の高収益体制を維持するために新規出店のペースを落としていくのか、判断に迫られている状況です。
3. 安全性
次にABCマートの安全性について、短期・長期それぞれの視点から見てみましょう。
1) 短期の安全性
短期の安全性の指標である手元流動性比率は、目安の1ヵ月を大幅に上回る数値であり、短期の安全性の面からは問題がないと言えます。
後述の通り継続的な投資活動や株主還元施策(配当金)も行っており、お金を無駄に余らせているといった状況でもありません。
2) 長期の安全性
長期の安全性の指標である自己資本比率も、目安の50%を大幅に上回る数値であり、長期の安全性の面からも問題はないです。
借入金の総資産に対する割合が毎年1%以下であり、実質的には無借金企業と言えます。
配当利回りは高配当株の目安である3%には届かないものの、2%後半と高水準を維持しており、配当目的の投資先として考えることもできます。
2019年2月期に、創立40周年の記念配当40円を加えて1株当たり配当額を170円としてから、その配当額を継続している影響で、配当利回りが高くなっています。
4. キャッシュフロー
最後に、キャッシュフロー計算書の各活動区分の推移について、見ていきましょう。
営業キャッシュフローの範囲内で新規出店のための投資活動と株主への配当を行っており、非常に健全な資金状況であると言えます。(2021年2月期だけは「営業CF<投資CF+財務CF」)
コロナによって一時的なダメージを受けていますが、安全性やキャッシュフローの面からは、大きな問題はないと言えます。
5. 終わりに
ABCマートの決算書について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
決算数値上は優等生の企業と言えますが、「滞留在庫の増加」「自社商品比率の低下」「出店場所の限界」といった問題を抱えております。
今後これらの問題を解決しながら、収益性を回復・維持することができるか、注目していきましょう。
(本記事で扱っている決算書分析の指標や知識は、ビジネス会計検定で学ぶことができますので、ぜひ挑戦してみてください。)
6. まとめ
◆滞留在庫が増加しており値引きによる利益率悪化の可能性あり。
◆自社商品比率が低下しており原価が高騰する可能性あり。
◆右肩上がりの新規出店数も少しずつ限界が見えてくる可能性あり。