膨大な試験範囲を勉強する必要がある、公認会計士試験。
しかも、短答式試験と論文式試験で出題内容が異なり、両方の対策をしなければなりません。
そこで、受験生の誰しも一度は考えるのが、短答式試験に特化して、まずは短答免除を狙う方法です。
私も受験生時代に、短答式試験になかなか受からず、短答だけに集中すべきか否か、何度も悩まされました。
そこで今回は、短答免除を狙って短答式試験に特化することの、メリットとデメリットについてお伝えしていきます。
1. 公認会計士試験の短答免除とは?
1) 短答に合格すれば2年免除
2) その他の短答免除の条件
2. 短答特化の5つのメリット
1) 勉強する科目数が減る
2) 効率的に短答の勉強ができる
3) 短答の合格可能性が上がる
4) 安く勉強を開始することができる
5) モチベーションを維持しやすい
3. 短答特化の5つのデメリット
1) 最短での最終合格が難しくなる
2) 論文を1回分捨てることになる
3) 予備校が限られる
4) トータルの予備校代が高くなる
5) 参考になる人を見つけづらい
4. 終わりに
5. まとめ
1. 公認会計士試験の短答免除とは?
まず初めに、そもそも公認会計士試験における「短答免除」とは何なのか?といった点について、解説していきます。
1) 短答に合格すれば2年免除
公認会計試験は、年2回実施される短答式試験と、年1回実施される論文式試験で構成されており、論文式試験を受験するためには、いずれかの短答式試験に合格する必要があります。
短答式試験は従来12月と5月に実施されており、論文式試験は8月に実施されておりましたが、新型コロナウイルスの影響で、2020年度試験は以下の通りとなっております。
1回目:2019年12月
2回目:2020年8月
2020年11月
短答式試験に1度合格すると、その後2年間分の短答式試験が免除され、いきなり論文式試験から受験することが可能となります。
例えば2020年試験の場合、2019年12月または2020年8月のいずれかの短答式試験に合格すれば、仮に2020年の論文式試験に不合格だったとしても、2021年と2022年は短答式試験を受験することなく、論文式試験を受験することが可能となります。
2) その他の短答免除の条件
短答式試験に合格する以外に、一部科目の短答免除も含めて、以下のような短答免除制度が設けられています。
免除対象 | 免除内容 |
税理士 | 財務会計論 |
税理士試験の「簿記論」と「財務諸表論」の合格者・免除者 | 財務会計論 |
大会社等での会計または監査実務経験が通算7年以上 | 財務会計論 |
会計専門職大学院で一定の単位を取得し修士学位を授与された者 | 財務会計論 管理会計論 監査論 |
司法試験合格者 | 全科目免除 |
年度により科目ごとの試験難易度が変わり、免除された科目が本来得点源となる可能性もあります。
また、そもそも免除される科目は既に知識があり、得意分野となりやすいです。
そのため、一部科目の短答免除が、必ずしも試験合格のために有利に働くとは限らない点には、注意が必要となります。
2. 短答特化の5つのメリット
それでは、短答免除を目的として、短答式試験に特化する場合のメリットについて、順に5つお伝えしていきます。
1) 勉強する科目数が減る
公認会計士試験で短答特化する1つ目のメリットとしては、「勉強する科目数が減る」ことが考えられます。
公認会計士試験の短答式試験と論文式試験は、以下の試験科目から構成されております。
・財務会計論
・管理会計論
・監査論
・企業法
・会計学
・監査論
・企業法
・租税法
・選択科目
科目の違いだけを見れば、論文式試験は短答式試験に「租税法」と「選択科目」が追加された形となります。
つまり、短答特化した場合は、とりあえずは租税法と選択科目を勉強する必要がなく、勉強すべき科目数が減ることとなります。
たった2科目減るだけと思われるかもしれませんが、これは大きな違いです。
予備校の講義を2科目全て聞きテキストを読むだけ、つまりは2科目のインプットだけでも非常に時間がかかり、さらにアウトプットの時間まで考えると、その負担は計り知れません。
特に租税法は、大きく分けて「所得税法」「法人税法」「消費税法」の3分野から構成され、範囲が広く負担が重いため、租税法を勉強しないだけで負担がだいぶ軽くなります。
以上より、「勉強する科目数が減る」ことは、短答特化のメリットとなります。
2) 効率的に短答の勉強ができる
公認会計士試験で短答特化する2つ目のメリットとしては、「効率的に短答の勉強ができる」ことが考えられます。
公認会計士試験の勉強を進めていくと、どこかで短答と論文の勉強割合をどうするか?といった問題にぶち当たります。
もちろん、土台となる部分は短答だろうが論文だろうが変わらないのですが、「広く浅く」出題される短答と「狭く深く」出題される論文とでは、異なる部分があるのも事実です。
私も短答と論文の勉強割合についてよく頭を悩ませた記憶があり、特に短答の試験日が近づいてくると、「論文の勉強をしている場合ではないな…」と短答特化に切り替えていました。
この点、初めから短答に特化する戦略をとっていれば、論文のことを一切考える必要がないため、短答のことだけを考えて効率的に勉強することが可能となります。
例えば、論述できるように長文を覚える必要もなく、短答に特化した勉強日程を組むことができ、短答の答練や模試だけをやればよいため、短答のことだけを考えれば勉強負担がだいぶ軽くなります。
以上より、「効率的に短答の勉強ができる」ことは、短答特化のメリットとなります。
3) 短答の合格可能性が上がる
公認会計士試験で短答特化する3つ目のメリットとしては、「短答の合格可能性が上がる」ことが考えられます。
前述の通り、短答特化することで勉強すべき科目数が減り、効率的に勉強することができるため、結果として短答式試験の合格可能性は高まります。
どれだけ論文の勉強をしようが、結局のところ最初の関門である短答式試験に合格できなければ、全ては水の泡となります。
また、短答式試験は年2回実施されていましたが、それぞれの合格率は10%程度と非常に低く、しっかりとした対策をとらないと合格点をとることは難しいです。
「公認会計士の短答式試験に4回目で合格した私の体験談&攻略法3選」でお伝えしている通り、私も短答式試験には苦戦して、4回目で何とか合格することができました。
実体験から考えても、短答式試験に合格することは非常に難しいため、少しでも合格可能性を上げられることは、大きなメリットと言えます。
以上より、「短答の合格可能性が上がる」ことは、短答特化のメリットとなります。
4) 安く勉強を開始することができる
公認会計士試験で短答特化する4つ目のメリットとしては、「安く勉強を開始することができる」ことが考えられます。
公認会計士試験に独学で合格することは、凡人には不可能だと思います。
私自身も独学で合格できたかと言われれば、絶対に無理でした。
つまり、公認会計士試験の勉強をするにあたり、公認会計士予備校の講座を申し込む必要があります。
ただ、簿記などと異なり、公認会計士試験の講座は50万円前後と非常に高く、また、複数回受験となる場合は最新の講座を申し込むこととなり、さらにお金が必要となります。
私も学生時代にコンビニや回転ずしなどでアルバイトをしながら、予備校の費用を貯めていましたが、結局それだけでは足りず、過去の貯金や親からの援助にも頼ることとなりました。
この点、「公認会計士スクールを費用と合格者数で比較!元講座運営者のおすすめは?」でお伝えしている通り、LECなどの短答に特化した講座を受講すれば、20万円台で勉強を開始することができます。
金銭的負担が重い公認会計士試験の勉強において、比較的安い値段で勉強を開始できることは、大きなメリットと言えます。
以上より、「安く勉強を開始することができる」ことは、短答特化のメリットとなります。
5) モチベーションを維持しやすい
公認会計士試験で短答特化する5つ目のメリットとしては、「モチベーションを維持しやすい」ことが考えられます。
公認会計士試験は、数年単位で臨む試験です。
そのため、モチベーションの管理が非常に難しいです。
特に、第一関門である短答式試験に何回も落ちると、「自分に最終合格なんて無理なのではないか。。。」と落ち込んでしまいます。
この点、前述の通り短答特化することで短答式試験の合格可能性を上げて、結果として早めに合格することができれば、モチベーションを維持することができます。
維持するどころか、「後は論文だけだ!」と考えることができ、モチベーションが一気に高まりやすいです。
また、年に1回しかない論文式試験をターゲットとするよりも、年に2回ある短答式試験をターゲットとした方が、ゴールまでの期間が半分となりモチベーションを維持しやすいと言えます。
以上より、「モチベーションを維持しやすい」ことは、短答特化のメリットとなります。
3. 短答特化の5つのデメリット
上記のメリットをみて、「これだけのメリットがあるなら、自分も短答特化で頑張ろうかな」と思われた人も、多いかと思います。
ただ実態としては、正確な統計はありませんが、合格者に限って言えば短答に特化している人は、そこまで多くないと考えられます。
と言いますのも、短答特化にはそれ相応のデメリットがあるのです。
そこでここでは、短答免除を目的として、短答式試験に特化する場合のデメリットについて、順に5つお伝えしていきます。
1) 最短での最終合格が難しくなる
公認会計士試験で短答特化する1つ目のデメリットとしては、「最短での最終合格が難しくなる」ことが考えられます。
後述の通り短答式試験に特化した場合、直近の論文式試験に合格することは、基本的に無理だと考えた方が良いです。
つまりは、最短での公認会計士試験合格は、短答特化の場合難しいです。
もちろん不可能ではありませんが、例えば2020年試験の場合、8月の第2回短答式試験に合格後、2カ月半で租税法と選択科目をゼロから仕上げ、かつ、他の科目も論文用に勉強し直すには、勉強時間が圧倒的に足りません。
そのため、短答免除をすることで、最短での短答合格は近づいても、最短での最終合格は遠のく点は、覚悟しておく必要があります。
以上より、「最短での最終合格が難しくなる」ことは、短答特化のデメリットとなります。
2) 論文を1回分捨てることになる
公認会計士試験で短答特化する2つ目のデメリットとしては、「論文を1回分捨てることになる」ことが考えられます。
前述の通り、短答式試験に特化した場合、直近の論文式試験は不合格となることを覚悟しなければなりません。
これは、実は非常に大きなデメリットと言えます。
「短答免除の間に論文は3回もチャンスがあるのだから、1回くらい捨てても問題ないのでは?」と思われるかもしれません。
ただ、公認会計士試験というのは、年度により問題傾向が変わることがあり、予備校や自分の予想が大きく外れるケースがあり得ます。
また、論文式試験は合格率から考えると、3回に1回は合格できる計算となります。
つまりは、しっかり対策を練って3回受験すれば、そのうち1回は合格できるということであり、3回のうち1回を放棄するのは、非常にリスクが高いのです。
以上より、「論文を1回分捨てることになる」ことは、短答特化のデメリットとなります。
短答合格後の1回目の論文は勉強時間が限られているため、科目合格を狙う人もいます。
ただ、論文式試験の科目合格は、狙わない方が賢明です。
年度によって科目ごとの難易度も変わり、本来得点源になるはずの科目が、免除される可能性もあるためです。
短答特化した人は、前述の通りそもそも1回目の論文合格が難しいですが、きつくても1回目の論文は満遍なく勉強して、科目合格ではなく全科目合格を狙う姿勢で臨むのがベターです。
3) 予備校が限られる
公認会計士試験で短答特化する3つ目のデメリットとしては、「予備校が限られる」ことが考えられます。
メリットでお伝えした通り短答式試験に特化した場合は、予備校の費用を抑えて勉強を開始することができます。
ただこれは裏を返せば、費用を抑えた短答に特化した講座しか、選択肢がないことを意味します。
実質的にこれに該当するのは、LECの短答特化講座くらいであり、講師や予備校との相性が悪くても、他の選択肢をとることができません。
LECの講座自体が悪いわけではありませんが、コストパフォーマンスの観点から考えると、本来はCPAなどの選択肢も考えられるため、選択肢が狭いことはデメリットと言えます。
以上より、「予備校が限られる」ことは、短答特化のデメリットとなります。
(ただこの点に関しては、どの予備校を選ぶか?よりも、1日でも早く勉強を開始する方が、合格可能性を高める上では重要となりますので、大きなデメリットではないとも考えられます。)
4) トータルの予備校代が高くなる
公認会計士試験で短答特化する4つ目のデメリットとしては、「トータルの予備校代が高くなる」ことが考えられます。
メリットで挙げたのは、あくまで予備校代を抑えて勉強を「開始する」ことができるといった点であり、最終合格までの予備校代はむしろ、短答特化することで高くなる可能性があります。
その主な理由としては、以下が挙げられます。
・複数年講座を受講することになる
論文講座に関しては、違う予備校の講座を受講することも考えられますが、その場合は割高になる可能性があります。
また、前述の通り短答特化することで、最終合格まで期間が長期化することが考えられるため、その分予備校の講座代金もかさみます。
以上より、「トータルの予備校代が高くなる」ことは、短答特化のデメリットとなります。
5) 参考になる人を見つけづらい
公認会計士試験で短答特化する5つ目のデメリットとしては、「参考になる人を見つけづらい」ことが考えられます。
公認会計士試験の勉強をするにあたり、ベンチマークとなる人を見つけておくことは大切です。
可能な限り自分と同じような環境で勉強している人で、かつ、自分の少し先をいっている人が望ましいです。
この点、短答式試験に特化して勉強している人を自分の周りで見つけることは、なかなか難しいです。
SNS上で見つけるのも、難しいかもしれません。
仮に見つけられたとしても、合格するために参考にすべき人とは限りません。
一方で、短答特化ではなく普通に公認会計士試験を受験する人であれば多数いるため、その中から参考にすべき人を見つけるのは比較的容易です。
そのため、この点も短答特化のデメリットと言えます。
以上より、「参考になる人を見つけづらい」ことは、短答特化のデメリットとなります。
4. 終わりに
公認会計士試験において短答免除を目的に、短答特化することのメリット・デメリットについてお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか?
短答特化は諸刃の剣です。
今回紹介したメリット・デメリットをしっかりと見極めながら、自分に合った方法を選択してください。
5. まとめ
・勉強科目の減少。
・短答に向けた勉強の効率化。
・短答合格の可能性が高まる。
・費用を抑えて勉強をスタートできる。
・モチベーションを管理しやすい。
◆デメリット
・最終合格までの期間が長期化。
・論文を1回捨てることになる。
・予備校の選択肢が限られる。
・最終合格までの費用がかさむ。
・目標とする人を見つけにくい。