中小企業診断士の人気や評判について調べていくと、ネガティブな情報とポジティブな情報が入り混じっていることに気づきます。
「×独占業務がない」
⇔「〇公的業務は独占状態」
「×知名度が低い」
⇔「〇ビジネスパーソンに人気No.1」
「×食えない資格」
⇔「〇平均年収が高い資格」
一体何が正解なのかと思ってしまいますが、そういう時に一つの尺度として使えるのが受験者数です。
実は、中小企業診断士は難関資格の中でも受験者数が堅調に推移しており、その人気は落ちるどころか上がる兆しを見せています。
今回は、中小企業診断士試験の受験者数の推移と、人気が落ちることなく底堅い推移を見せている理由について、まとめていきます。
1. 中小企業診断士の受験者数推移
1) 受験者数の推移
2) 他資格との比較
2. 人気が落ちない4つの理由
1) 国家資格だから
2) 公的な後押しがあるから
3) 企業内で活用できるから
4) 将来の選択肢が増えるから
3. 終わりに
4. まとめ
1. 中小企業診断士の受験者数推移
まずは人気のバロメーターである、受験者数の推移を見ていきましょう。
1) 受験者数の推移
業界団体である中小企業診断協会が公表しているデータを基に、平成26年度から令和5年度までの10年間の、1次試験受験者数を見ていきます。
年度 | 1次試験受験者数 |
平成26年度 | 16,224 |
平成27年度 | 15,326 |
平成28年度 | 16,024 |
平成29年度 | 16,681 |
平成30年度 | 16,434 |
令和元年度 | 17,386 |
令和2年度 | 13,622 |
令和3年度 | 18,662 |
令和4年度 | 20,212 |
令和5年度 | 21,713 |
表にある通り、中小企業診断士の1次試験受験者数は16,000人~20,000人くらいで推移しており、落ちていません。
令和2年度に落ち込んでいますが、これは他の資格でも見られた傾向で、コロナウイルス感染症の影響とされています。
現に、令和3年度は前年分を取り返すように受験者数が急増し、令和5年度は過去最高を記録しています。
2) 他資格との比較
前項で中小企業診断士の受験者数が減ってないことがわかりました。
それでは、他の資格の受験者数がどうなのか、古くからあって名前をよく聞く資格として「宅地建物取引士(宅建)」「行政書士」「司法書士」「社会保険労務士」の4つをピックアップして、受験者数の推移を見ていきます。
《宅地建物取引士(宅建)》
年度 | 受験者数 |
平成25年度 | 186,304 |
平成26年度 | 192,029 |
平成27年度 | 194,926 |
平成28年度 | 198,463 |
平成29年度 | 209,354 |
平成30年度 | 213,993 |
令和元年度 | 220,797 |
令和2年度 | 204,247 |
令和3年度 | 234,714 |
令和4年度 | 226,048 |
令和5年度 | 233,276 |
宅建は土地価格が高騰したバブル時の受験者数が多く、表にはありませんが1990年には34万人もの受験者数を記録しています。
その時と比べると10万人以上減っていますが、ここ10年は20万人前後で推移しつつ、多少増加傾向にあります。
《行政書士》
年度 | 受験者数 |
平成25年度 | 55,436 |
平成26年度 | 48,869 |
平成27年度 | 44,366 |
平成28年度 | 41,053 |
平成29年度 | 40,449 |
平成30年度 | 39,105 |
令和元年度 | 39,821 |
令和2年度 | 41,681 |
令和3年度 | 47,870 |
令和4年度 | 47,850 |
令和5年度 | 46,991 |
行政書士は直近4年ほどで持ち直してきているものの、平成25年度と比べると5千~1万人程度も受験者数が減っています。
理由については「難易度とリターンのバランスが取れてない」「資格を取ろうとする人自体が減っている」などと言われていましたが、最近は盛り返していることもあり、「業務範囲が幅広いので、様々な資格や職種との相乗効果が見込めるのでは?」といった見方をする人も増えてきています。
《司法書士》
年度 | 受験者数 |
平成25年度 | 22,494 |
平成26年度 | 20,130 |
平成27年度 | 17,920 |
平成28年度 | 16,725 |
平成29年度 | 15,440 |
平成30年度 | 14,387 |
令和元年度 | 13,683 |
令和2年度 | 11,494 |
令和3年度 | 11,925 |
令和4年度 | 12,727 |
令和5年度 | 13,372 |
司法書士は明らかな減少を見せています。
人気のピークは平成22年の26,000人でしたから、実に50%以上減少したことになります。
司法書士は「仕事を続けながらの勉強ではなかなか受からない」と言われ、勉強時間は3,000時間も必要とされる、超難関資格です。
にもかかわらず、「業務領域の一部がネットで解決可能になった」「マイナンバーで不要となる業務がたくさんある」「司法書士同士の競争が激しい」「AIで代替可能な資格と指摘されている」「収入が安定しづらい」など、資格自体の魅力が低下するような話を見聞きすることが多くなっています。
「割に合わない」と考える人が増えているのかもしれません。
《社会保険労務士》
年度 | 受験者数 |
平成25年度 | 49,292 |
平成26年度 | 44,546 |
平成27年度 | 40,712 |
平成28年度 | 39,972 |
平成29年度 | 38,685 |
平成30年度 | 38,427 |
令和元年度 | 38,428 |
令和2年度 | 34,845 |
令和3年度 | 37,306 |
令和4年度 | 40,633 |
令和5年度 | 42,741 |
社会保険労務士の最高は平成22年年で、当時は55,000人の受験者がいましたが、それ以降はなだらかな減少傾向にあります。
企業の業況が上向いたことで資格取得希望者が減ったことや、AIによる代替可能性が高いと指摘されていることなどが、受験者数減少の背景にあるのではと言われています。(近年は少し回復傾向です。)
中小企業診断士講座の元運営責任者が、以下の7つの通信講座のコストパフォーマンスを比較して、おすすめ2つのメリット・デメリットについて解説してみました。
・TAC
・スタディング
・診断士ゼミナール
・クレアール
・LEC
・アガルート
・フォーサイト
詳細は「中小企業診断士の通信講座おすすめ2選!元講座運営者が比較します」をご確認ください。
2. 人気が落ちない4つの理由
なぜ中小企業診断士の人気は落ちないのか、その理由を考察します。
1) 国家資格だから
中小企業診断士の人気が落ちない1つ目の理由は、「国家資格だから」です。
中小企業診断士は「中小企業支援法」という法律に基づく国家資格です。
企業の経営診断を行い、課題点を見つけて改善策を提案するのがメインの業務であり、このような「経営コンサルティング」を業務とする国家資格は、中小企業診断士しかありません。
診断士になるには国が行う資格試験に合格する必要があるわけですから、国がコンサルティング能力についてお墨付きを与えているという側面もあります。
そのため、コンサル業界や会計事務所などでは、採用活動において資格取得者を優先的に採用することもありますし、それ以外の企業でも資格手当を出して取得を奨励しているところもたくさんあります。
また、国家資格はよほどのことがないとなくなりません。
統合や名称変更などの整理は行われても、民間資格のように運営団体の都合で廃止されて使えなくなるといったことが、ほぼありません。
安心して資格取得に全力投球できます。
(中小企業診断士の廃止については、「中小企業診断士がなくなると言われる理由とは?」も合わせてご確認ください。)
2) 公的な後押しがあるから
中小企業診断士の人気が落ちない2つ目の理由は、「公的な後押しがあるから」です。
① 公的機関から業務を委託されることが多い
以下は、中小企業診断士に対して行われた、業務内容に関するアンケート調査の結果です。
《公的業務と民間業務の売上割合》
選択肢 | 回答数 | 構成比 |
公的業務がかなり高い | 342 | 28.1% |
公的業務がやや高い | 108 | 8.9% |
半々程度 | 115 | 9.4% |
民間業務がやや高い | 101 | 8.3% |
民間業務がかなり高い | 521 | 42.7% |
わからない | 32 | 2.6% |
(中小企業診断協会「中小企業診断士活動状況アンケート調査」より)
上記の表のうち、「公的業務がかなり高い」「公的業務がやや高い」「半々程度」を合わせると46.4%になり、「半数近い診断士は公的業務の割合が半分以上ある」という結果になっています。
ちなみに、中小企業診断士に業務を委託する公的機関とは、以下のような機関を指します。
国や地方自治体の行政機関、中小企業基盤整備機構、都道府県等中小企業支援センター、商工会議所・商工会などの公的機関
公的業務でメジャーなのは「窓口相談」や「専門家派遣」で、委託形態は単発のスポット的なものと、数か月以上の期間を定めて業務委託契約を結ぶものの、主に2パターンあります。
これらの業務は、経営者から公的機関に寄せられる「売上を上げたい」「コストを下げたい」「資金繰りを何とかしたい」「組織を改編したい」といった経営上の相談に対応したり、企業に訪問して経営課題の改善を支援したりします。
民間企業相手ですから要求水準はシビアですし、相手のお眼鏡に適わないとその後は声がかからなくなるという怖さもありますが、公的業務は新人や独立したての診断士にとっては、貴重な経験と報酬を得る場になっています。
また、こうした公的業務は中小企業診断士でなければほぼ受注はできないので、「実質的な独占業務」と形容されることもあり、中小企業診断士を目指す人にとってはひとつの安心材料になっています。
② 金融庁が中小企業診断士の活用を促している
金融庁は銀行などの金融機関を監督する省庁で、銀行は金融庁の方針も意識しながら、経営方針などを決めていきます。
その金融庁が金融機関に対し、10年以上も前から中小企業診断士の活用を促しています。
多くの金融機関では企業に融資を行う際、担保や保証を元に融資の可否を判断していますが、金融庁はそれ以外に「事業価値を見極めた融資手法の活用」を監督指針の中で提言しているのです。
事業価値を見極めるためには、その企業のことはもちろん、業界に関する知識やノウハウの蓄積が必要になります。
それを実現する方法として、銀行内部に診断士資格の保有者を増やすことを求めたり、外部の中小企業診断士等と提携して、知見を活用するよう求めたりしています。
③ 政府も診断士資格の活用を提言
中小企業診断士の資格制度の活用は、内閣府の「経済財政諮問会議」でも取り上げられました。
内容は「中小企業診断士は大変重要な資格だが難易度が非常に高い。中小企業経営を担う人材の裾野を広げるためにも、科目合格だけでも何らかの位置づけを与えてはどうか」というものです。
これを受けてかどうかは不明ですが、その翌年、令和3年度から、1次試験合格者や科目合格者も、期間限定の肩書を名乗ることができるようになりました。
⇒〇年度中小企業診断修得者
・科目合格者
⇒〇年度中小企業支援科目合格者(科目名)
金融庁のみならず、政府の会議でも診断士資格の活用が話題に挙げられ、実際にそのとおりの変更が行われているわけですから、国がこの資格をさらに活用していこうとしているのは明らかであり、資格を取り巻く環境が好転していると見ることができます。
3) 企業内で活用できるから
中小企業診断士の人気が落ちない3つ目の理由は、「企業内で活用できるから」です。
中小企業診断士は経営に関する広範多岐な知識を学んでいるので、企業内にとどまっていてもいろいろと活用の機会があります。
企業側もこの資格を評価するところは多く、中小企業診断協会の調査でも「昇給・昇格した」「資格手当が支給された」「資格が活かせる部署に配属された」「上司や同僚、あるいは関係先から良い評価を得た」といった変化を感じた人が、大勢いることがわかっています。
また、ある程度大きな規模の会社になると、企業内にいる他の診断士たちと「企業内診断士会」を立ち上げて活動する人達もいます。
多くの場合、企業内診断士会は会社の組織ではなく「会社公認のクラブ活動」という位置づけになっているようです。
しかし、活動内容は一般的なクラブ活動とは一線を画しています。
例えば、「社内研修での講師」「社内報への執筆」「顧客企業やグループ会社に対する経営相談やコンサルの実施」「社内各部署からの相談対応」「他企業の診断士会との交流」など、中小企業診断士としての立場や知見を活かした活動が多く見られます。
企業内診断士としてこうした活動を積み上げることで、社内における存在感は増しますし、将来の選択肢に独立開業も入ってきます。
結果、社内における立ち振る舞いに自信が持てるようになるなどの、副次的効果もあるようです。
(企業内診断士については「企業内診断士のメリット・デメリット」も合わせてご確認ください。)
4) 将来の選択肢が増えるから
中小企業診断士の人気が落ちない4つ目の理由は、「将来の選択肢が増えるから」です。
診断士資格を取得することで、「今の会社で頑張る」という道の他に、「より良い条件で転職する」「独立開業する」という選択肢も出てきます。
転職に関しては、診断士資格が無条件で有利に働くわけではありません。
しかし、中小のコンサル会社や金融機関では、診断士の知見は業務遂行に大いに役立つので、診断士資格を高く評価する傾向があります。
また、コンビニ業界やドラッグストア業界など、多店舗を展開しているような業態でも、店舗ごとの経営状態を把握し改善する能力は、おおいに歓迎されますから有利です。
転職に関しては年齢も重要で、特に20代、30代のまだ若い世代の方であれば、ポテンシャル重視の採用をしてもらいやすく、「診断士資格を武器により良い条件で転職する」というのも十分に可能です。
また、独立に関しては主に「経験を積んで自信がついた段階で独立する」というパターンと、「定年退職後の仕事にして独立する」というパターンがあります。
実は、定年後の独立を考えている診断士は多く、中小企業診断協会のアンケート調査では95%もの方が、定年後の仕事として診断士活動をしたいと回答しています。
逆に言えば、40代以降の受験生の多くは、定年後を見据えて診断士試験を受験していると見ることもできるのです。
3. 終わりに
いかがでしたでしょうか?
昔からある知名度の高い難関資格が受験者数を減らしている中、中小企業診断士は底堅く推移し、最近では受験者数が上昇する兆しをみせています。
この資格は知名度が低く、独占業務もありませんが、他の資格では簡単に代替できませんし、将来AIに取って代わられる可能性もほぼありません。
しかも中小企業相手の業務を行う国家資格ですから、国が中小企業施策を打つ際には、何かと活躍の場が用意されていたりもします。
国の方向性として、今後もっと診断士の数を増やそうという流れにあることは間違いなく、地方を中心に診断士不足が叫ばれている今は、絶好のチャンスかもしれません。
気になる人は、ぜひチャレンジしてみてください。
4. まとめ
◆経営コンサルタントの国家資格は中小企業診断士しかない。
◆公的業務が多く、国も診断士を活用する方向にある。
◆独立しなくても企業内で資格が活きてくるケースが多い。
◆資格取得で将来の選択肢を増やすことができる。