「英語なんて勉強しなくても、公認会計士の資格を持っていれば問題ない。」
公認会計士の方、あるいは公認会計士を目指している方の中には、このように思われている人もいるのではないでしょうか?
公認会計士が英語を勉強することは、意味のないことなのでしょうか?
いえ、公認会計士と言えど、今後は英語を勉強すべきです。
そこで今回は、具体的にどのような場面で英語が活かせるのか?について解説した上で、英語の学習方法についてお伝えしていきます。
1. 会計士が英語を活かせる場面
1) 監査法人:外資・国際企業担当
2) 監査法人:国内企業担当
3) 経理に転職
4) 独立開業
2. どうやって英語を身に付ければいいの?
1) 監査法人の場合
2) その他
3. 終わりに
4. まとめ
1. 会計士が英語を活かせる場面
まず、公認会計士が英語を活かせる場面について、以下の4パターンに分けて解説していきます。
1) 監査法人勤務かつ外資企業・国際企業(*)担当の場合。
2) 監査法人勤務かつ国内企業担当の場合。
3) 経理に転職した場合。
4) 独立開業した場合。
*本社は日本だが、グローバルに拠点を展開している企業。
1) 監査法人:外資・国際企業担当
① 社内文書の読解
監査法人で外資・国際企業担当の人が英語を活かせる1つ目の場面としては、「社内文書の読解」が考えられます。
監査を行うためには、社内規定・議事録・請求書・契約書などの監査証拠を集めて、読み解く必要があります。
そして、外資・国際企業の場合は、そもそもこれらが英語で書かれていることが多いです。
そのため、社内文書を読解するための英語力、具体的にはreadingの力が要求されます。
実際に私が監査を担当していた外資企業の場合も、社内文書はほとんど英語でした。
専門的なことが英語で書かれているので、高度な読解力が求められるのでは?と恐れる人もいるかもしれません。
しかし、むしろ専門用語の方が英語で書かれていても理解しやすいです。
極端な話を言えば、文書の中から専門用語だけを拾うだけで、だいたいの意味がわかる場合もあります。
逆に、専門用語が全く入っていない文章の方が、理解に苦労するかもしれません。
以上より、「社内文書の読解」は、外資・国際企業担当の人が英語を活かせる場面と言えます。
② IFRSやUSGAAP、最新の会計論点の読解
監査法人で外資・国際企業担当の人が英語を活かせる2つ目の場面としては、「IFRSやUSGAAP、最新の会計論点の読解」が考えられます。
外資・国際企業の場合は、海外本社あるいは海外拠点が存在する国でも、決算を行う必要があります。
そして、その際に使用する会計基準がIFRS(国際財務報告基準)やUSGAAP(米国会計基準)となります。
つまり、日本の会計基準で作成した決算書をIFRSやUSGAAP用に作り変える、あるいは逆に、IFRSやUSGAAPで作成した決算書を日本の会計基準用に作り替える作業が必要となります。
この際に、IFRSやUSGAAPで作成された海外本社あるいは海外拠点の決算書を読み解くために、英語が要求されます。
また、IFRSやUSGAAPそのものを理解するためにも、当然に英語力が必要となってきます。
さらに、最新の会計論について学ぼうと考えた場合、英語で情報収集した方が、量・質のどちらの点でも望ましいです。
以上より、「IFRSやUSGAAP、最新の会計論点の読解」は、外資・国際企業担当の人が英語を活かせる場面と言えます。
③ クライアントとのやりとり
監査法人で外資・国際企業担当の人が英語を活かせる3つ目の場面としては、「クライアントとのやりとり」が考えられます。
クライアントの経理担当者の人が外国人の場合、メールや対面での会話、電話などは英語でのやりとりとなるケースが多いです。
もちろん外資と言えど日本国内にある場合は、日本語が話せる外国人もかなりいます。
ただ、本人が日本語を話せても、メールのCCなどで本国の上司などを入れるケースも多く、その際には英語でのコミュニケーションとなります。
実際に私が外資企業を担当していた際に、日本語がペラペラの外国人と、メールでは英語でやりとりをしていました。
また、クライアントの経理担当者同士のやりとりも英語で行われていることが多く、そのやりとりのメールを監査証拠として使おうと思った場合も、英語での読解力が必要となりました。
以上より、「クライアントとのやりとり」は、外資・国際企業担当の人が英語を活かせる場面と言えます。
④ 海外の監査チームとのやりとり
監査法人で外資・国際企業担当の人が英語を活かせる4つ目の場面としては、「海外の監査チームとのやりとり」が考えられます。
外資系企業の場合は、本国の監査チームに日本拠点の監査結果や懸念点などを伝える必要があります。
また、国際企業の場合、海外拠点のうち連結の範囲に含める重要な拠点については、現地の監査チームとやりとりをして、監査結果や懸念点を聞く必要があります。
その際にも、英語でのコミュニケーションが必要となります。
昨今では、国際的な租税回避に注目が集まっており、海外の監査チームと協力して、効率的かつ効果的な監査を進めていく必要があります。
以上より、「海外の監査チームとのやりとり」は、外資・国際企業担当の人が英語を活かせる場面と言えます。
⑤ 海外駐在
監査法人で外資・国際企業担当の人が英語を活かせる5つ目の場面としては、「海外駐在」が考えられます。
外資・国際企業の場合は、海外拠点の監査チームに、日本からスタッフを派遣するケースが非常に多いです。
そもそも海外駐在目当てで、外資・国際企業の担当を希望する人もいます。
そして、言うまでもなく、海外駐在の際にも英語は必要となってきます。
日本の監査チームへの連絡の際は日本語でも問題ありませんが、現地では現地の監査チームの一員として働くため、同僚とのコミュニケーションは不可欠です。
以上より、「海外駐在」は、外資・国際企業担当の人が英語を活かせる場面と言えます。
2) 監査法人:国内企業担当
① 海外企業の買収案件
監査法人で国内企業担当の人が英語を活かせる1つ目の場面としては、「海外企業の買収案件」が考えられます。
国内企業の担当でも、その企業が海外企業を買収する際は、買収される企業の情報を調べ、また、買収される企業の現地監査チームから情報を得るために、英語が必要となります。
買収と聞くと「そんなニッチなケースは自分で対応できなくても、他の人に任せれば問題ないのでは?」
と思われる方もいるかもしれません。
ただ、買収に限らず、海外の非上場企業に対して投資する場合にも、その株式の評価額を算定するために、英語を使って情報収集をする必要があります。
一例を挙げると、ソフトバンク・ビジョン・ファンドなどは、複数のユニコーン企業(評価額10億ドル以上の非上場企業)に対して投資をしており、この株式の評価額が適切かどうかを判断するためにも、投資対象企業の情報収集は不可欠となります。
以上より、「海外企業の買収案件」は、国内企業担当の人が英語を活かせる場面と言えます。
② 昇進&転属
監査法人で国内企業担当の人が英語を活かせる2つ目の場面としては、「昇進&転属」が考えられます。
最近では、国内企業担当であっても、TOEICなどのスコアの提出を求められるようになってきました。
逆に言えば、英語ができることが、昇進の1つの要素になりつつあるとも言えます。
また、英語ができることを示しておけば、外資・国際企業担当への転属や海外駐在など、キャリアの幅が広がります。
「国内企業担当の人の英語スキルを評価する意味があるの?」
と思われるかもしれません。
ただ、いくら国内企業と言えども、海外企業との取引が始まる可能性は当然にありえます。
品質が良いものを作っている会社であれば、海外の企業から大口の引き合いがあることも、十分考えられます。
その際に、その取引を監査するためにも、契約書や先方の事業の状況などを、英語で理解していく必要があります。
そのため、国内企業担当の人の英語スキルを評価しておくことは、法人にとっても非常に重要となってきます。
以上より、「昇進&転属」は、国内企業担当の人が英語を活かせる場面と言えます。
③ 転職
監査法人で国内企業担当の人が英語を活かせる3つ目の場面としては、「転職」が考えられます。
転職市場において、英語ができることは、転職先の選択肢を広げることにつながります。
公認会計士が英語を身に付けることで、「会計×英語」という専門分野の掛け算が、自分の市場価値となります。
会計スキル、あるいは英語スキル単体で市場価値を出そうと思うと、かなりの専門性を要求されることもあります。
一方で、2つのスキルの掛け算であれば、「会計60%×英語60%」程度でも、かなりの希少価値が出て、転職先の幅を広げることが可能となります。
以上より、「転職」は、国内企業担当の人が英語を活かせる場面と言えます。
(公認会計士の転職については、「凡人公認会計士の転職先は?監査法人の次はどこ?未経験でも大丈夫?」も合わせてご確認ください。)
どの企業の担当であろうが、クライアントの業界の世界的な動向や、あるいは最新のビジネス・会計ニュースを把握するために、英語は必須となります。
そのため、国内担当か、あるいは外資・国際担当かといったっ点にあまりこだわらず、英語に取り組んでいく必要があります。
3) 経理に転職
① 外資経理の場合
経理に転職した公認会計士が英語を活かせる1つ目の場面としては、「外資経理の場合」が考えられます。
外資系企業の経理の場合は、そもそも最低限の英語ができることが必須であることが多いです。
そのため、いくら公認会計士と言えども、外資経理に転職しようと思った場合は、英語を学習する必要があります。
とは言え、経理としてまず求められる英語力は、英語で直接交渉しなければならない営業などと比べると、そこまで高いわけではありません。
最初は、以下のあたりを押さえておけば、十分やっていけます。
・電話応対のテンプレートを覚える。
・英語の勘定科目を覚える。
3つ目の英語の勘定科目については、意外に忘れがちですが、むしろ転職前から準備しやすい項目ですので、ぜひ押さえておいてください。
以上より、「外資経理の場合」は、経理に転職した公認会計士が英語を活かせる場面と言えます。
② 自社のビジネス理解
経理に転職した公認会計士が英語を活かせる2つ目の場面としては、「自社のビジネス理解」が考えられます。
経理は会計や税務にだけ詳しければ良い、というものではありません。
そもそも会計とは、ビジネスの1つ1つの取引を、勘定科目や金額に置き換えて仕訳を切り、内部や外部の人に報告する手段です。
(会計については、「経理と財務と会計の違いは?」をご参照ください。)
つまり、経理でも自社のビジネスについて、理解する必要があるのです。
そして、ビジネスを理解するためには、クライアントの業界の最新情報を理解する必要があります。
その際に、英語を駆使して全世界から情報を収集することで、クライアントのビジネスについて、より理解することができます。
日本語で得られる情報でも十分ではないのか?と思われるかもしれません。
しかし、日本の市場というのは世界的にみれば非常に小さいものであり、また、日本語訳されている海外の記事でも、訳す時点で翻訳者の解釈が入ってしまうため、英語で直接情報を仕入れるのがおすすめとなります。
以上より、「自社のビジネス理解」は、経理に転職した公認会計士が英語を活かせる場面と言えます。
4) 独立開業
① 国際進出する顧客のサポート
独立開業した公認会計士が英語を活かせる1つ目の場面としては、「国際進出する顧客のサポート」が考えられます。
これからの時代は、個人や中小企業でも、海外の企業・個人を相手に仕事をする時代です。
そのため、国際会計・国際税務の点から顧客をサポートするためにも、独立開業した公認会計士に英語が求められます。
もちろん国内だけでやっていくクライアントばかりを顧客にするのも1つの方法ですが、他の会計士との差別化の観点から、英語を駆使して国際会計・国際税務に強い会計士というポジションを築くのも、1つの考えです。
以上より、「国際進出する顧客のサポート」は、独立開業した公認会計士が英語を活かせる場面と言えます。
② 株式投資
独立開業した公認会計士が英語を活かせる2つ目の場面としては、「株式投資」が考えられます。
公認会計士として独立開業してすぐは、なかなか仕事がなく収入が安定しない時期もあるかと思います。
そんな時に、資産運用の一環で、また、会計士の財務分析スキルを活かして、株式投資をやる人も多いです。
もちろん日本のマーケットだけで株式投資を行うのも1つの方法ですが、一定程度儲けるためには、また、リスク分散の観点からも、海外の株式市場に対する投資が必要となります。
その際に、投資対象企業の情報収集や財務諸表分析に、英語のスキルが必要となります。
以上より、「株式投資」は、独立開業した公認会計士が英語を活かせる場面と言えます。
2. どうやって英語を身に付ければいいの?
会計士が英語を活かす場面について解説してきましたが、そもそもどうやって英語を身に付ければ良いのでしょうか?
ここでは、以下の場合に分けて、英語の学習方法について解説していきます。
1) 監査法人の場合の英語学習方法。
2) その他(公認会計士全般に言える英語学習方法)
1) 監査法人の場合
① 海外駐在の機会を利用
監査法人勤務の公認会計士が英語を身に付ける1つ目の方法としては、「海外駐在の機会を利用」することが挙げられます。
海外駐在の機会を利用する方法は、一番効果的な学習方法と言えます。
英語学習において必要なことについては諸説ありますが、以下の2点は大切な要素と言えます。
・英語を学ばなければならない危機感。
そして、この2点を満たすのが、海外駐在となります。
海外駐在の場合は当然に現地で英語を使用します。
また、英語ができないと、そもそも仕事ができません。
そのため、海外駐在の機会を利用して、飛躍的に英語力が上がるケースは非常に多いです。
(当然、現地での過ごし方や仕事に対する取り組み方によっては、海外駐在しても英語が上達しない人もいます。)
以上より、「海外駐在の機会を利用」することは、監査法人勤務の公認会計士が英語を身に付ける方法と言えます。
② 社内の補助制度を利用
監査法人勤務の公認会計士が英語を身に付ける2つ目の方法としては、「社内の補助制度を利用」することが挙げられます。
特に大手監査法人に言えることですが、英語を身に付けるための様々な制度が用意されています。
一例ですが、例えば以下のようなものがあります。
・英語のE-learning教材の無料使用。(ただし使用実績が一定に満たないと料金負担あり。)
・オンライン英会話、ビジネスライティング講座費用の法人負担。
・TOEICの受験費用の法人負担。
これらのような補助制度は、監査法人ならではの機会であるため、積極的に有効活用すべきです。
以上より、「社内の補助制度を利用」することは、監査法人勤務の公認会計士が英語を身に付ける方法と言えます。
2) その他
① 海外の財務諸表を読む
1つ目の公認会計士全般に言える英語を身に付ける方法としては、「海外の財務諸表を読む」ことが挙げられます。
英語を学習する目的は人それぞれですが、公認会計士である以上、海外の財務諸表を読めるようになりたいと思うのではないでしょうか?
であれば、海外の財務諸表を読めるように英語の学習をするというよりは、海外の財務諸表を読むことで英語力をつけた方が、英語学習が捗る可能性が高いです。
英語の学習においては、リアルな英語に触れる必要があります。
ただ、ビジネスで使われているリアルな英語をいきなり学習するのは、普通は難しいです。
そのため、まずは自分の専門分野のリアルな英語に触れるのが効率的であり、会計士の場合は海外の財務諸表がまさにそれにあたります。
英語自体は難しくても、会計の専門用語は背景知識も含めて理解しやすいかと思いますので、比較的容易に海外の財務諸表を読み解くことができます。
専門分野の知識を活かしながら英語学習ができるので、非常におすすめの方法となります。
以上より、「海外の財務諸表を読む」ことは、公認会計士全般に言える英語を身に付ける方法となります。
② 一般的な英語学習法
2つ目の公認会計士全般に言える英語を身に付ける方法としては、「一般的な英語学習法」が挙げられます。
公認会計士ならではの学習方法ではありませんが、以下のような一般的な英語学習方法でも、英語が身に付く可能性は当然にあります。
・TOEIC
・英語勉強アプリ
・語学留学
・独学系勉強法(ネットやYoutubeなどで紹介されている独学勉強法)
こちらについては、ネット上で調べれば山のように情報が出てくるため、詳細は割愛させていただきます。
以上より、「一般的な英語学習法」は、公認会計士全般に言える英語を身に付ける方法となります。
3. 終わりに
公認会計士が英語を活かせる場面や、英語の学習方法について紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?
活かせる場面を想定しながら勉強した方が、英語の学習は捗ります。
今回ご紹介した場面のうち、自分に当てはまりそうなものを想定しながら、日々の英語学習に役立ててください。
4. まとめ
◆(国内企業担当の場合)海外企業のM&A、昇進・転属・転職などに英語が活きる。