企業経営の診断や改善提案を行う中小企業診断士には、業務知識や分析力、対人コミュニケーション能力などのスキルが欠かせません。
これらのスキルは一朝一夕で身につくものではなく、経験を積むことで蓄積されていきます。
使えるスキルは年代によって変化していくものなので、同じ診断士でも20代の頃と50代の頃とでは、コンサルティングスタイルがまるで違うということも起こります。
試験についても同様で、20代と50代では持っている強みが違うので、勉強するにあたっての留意点も違ってきます。
今回はそのような事情を念頭に、年代別のメリットやデメリットについて、まとめていきます。
1. 中小企業診断士と年齢の関係
1) 中小企業診断士の年齢分布
2) 中小企業診断士試験の年齢分布
2. 10、20代のメリット・デメリット
3. 30、40代のメリット・デメリット
4. 50、60代のメリット・デメリット
5. 終わりに
6. まとめ
1. 中小企業診断士と年齢の関係
まずは現状把握のため、業界団体のアンケート結果や試験の合格者データをもとに中小企業診断士の年齢分布について、まとめていきます。
1) 中小企業診断士の年齢分布
現在の中小企業診断士の年齢分布について、業界団体である中小企業診断協会が、令和3年に発表したアンケート調査のデータがあるので紹介します。
年代 人数 構成比 20代以下 7人 0.4% 30代 134人 7.1% 40代 423人 22.4% 50代 592人 31.3% 60代 493人 26.1% 70代 236人 12.5% 無回答 7人 0.4% 合計 1,892人 100%
表を見たらわかるように、現役の中小企業診断士は50代⇒60代⇒40代の順に多いという結果になっており、30代と20代はかなり少数派です。
特に、ビジネスパーソンとしてのスキルアップに熱心と思われる30代は意外なほど少なくて、70代の6割以下です。
ただ、このデータは中小企業診断協会が行ったアンケート調査に回答した人だけのデータです。
中小企業診断士は2018年時点で約27,000人いるので、より詳しく見るために、年度別の合格者データを見ていきましょう。
2) 中小企業診断士試験の年齢分布
【2次試験の合格者数推移】
年齢 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
~20 | 1 | 2 | 1 | 1 |
20~29 | 218 | 283 | 249 | 216 |
30~39 | 501 | 687 | 618 | 546 |
40~49 | 296 | 416 | 459 | 459 |
50~59 | 143 | 193 | 246 | 279 |
60~69 | 13 | 19 | 49 | 52 |
70~ | 2 | 0 | 3 | 2 |
年度別合格者の数字は、前項とは全く違った数字になっていることがわかります。
もっとも特徴的なのが、
という点です。
診断協会のアンケートデータとは違った結果になっていますが、年度別合格者数とアンケートデータが違うのは、ある意味当たり前です。
30代を中心とした若手世代が多く合格し、順次年代が上がっていって60代以降は引退する人が増えるので減っていく、そのような流れをよく表しているともいえます。
もう少し詳しく見るために、1次試験と2次試験の合格率データを比較してみましょう。
【1次試験合格率】
年齢 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
~20 | 12.7% | 13.3% | 6.6% | 12.1% |
20~29 | 24.8% | 23.1% | 20.9% | 21.3% |
30~39 | 26.3% | 24.9% | 22.4% | 22.7% |
40~49 | 24.1% | 23.5% | 19.8% | 20.8% |
50~59 | 24.7% | 24.1% | 18.9% | 20.8% |
60~69 | 23.3% | 23.7% | 16.9% | 19.7% |
70~ | 16.5% | 11.8% | 14.0% | 12.1% |
1次試験は世代による動向の差は、あまり感じられません。
次に、2次試験の合格率推移を見てみます。
【2次試験合格率】
年齢 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 |
~20 | 9.1% | 13.3% | 20.0% | 9.1% |
20~29 | 26.5% | 25.4% | 23.7% | 22.5% |
30~39 | 23.6% | 24.9% | 22.9% | 22.0% |
40~49 | 14.0% | 15.4% | 17.0% | 18.2% |
50~59 | 9.4% | 9.7% | 12.3% | 13.9% |
60~69 | 2.9% | 3.3% | 8.2% | 8.9% |
70~ | 4.9% | 0% | 5.6% | 4.9% |
2次試験の合格率は、30代以下と40代以上で真逆の動向を示しています。
若い世代は合格率が下がっている一方で、中高年世代は上がっています。
中小企業診断士講座の元運営責任者が、以下の7つの通信講座のコストパフォーマンスを比較して、おすすめ2つのメリット・デメリットについて解説してみました。
・TAC
・スタディング
・診断士ゼミナール
・クレアール
・LEC
・アガルート
・フォーサイト
詳細は「中小企業診断士の通信講座おすすめ2選!元講座運営者が比較します」をご確認ください。
2. 10、20代のメリット・デメリット
10代、20代のうちに中小企業診断士を目指したり、中小企業診断士になったりすることのメリットとデメリットを、ここでは紹介していきます。
1) メリット
① 希少性が非常に高い
前章でも取り上げたように診断協会のアンケートでは、現役の中小企業診断士の年齢分布は40代~60代がボリュームゾーンになっており、10代、20代はほとんどいません。
合格者は増加してきていますが、合格者全員が登録するわけではないですし、登録したとしても多くは企業内診断士です。
アクティブに活動する若い診断士はまだ珍しい業界なので、たまに20代の人が診断協会に入るとそれだけで話題になります。
こちらから名前を売り込まなくても認知されるという状況は、最初の一歩としてはとても有利な状況といえるでしょう。
② 固定観念にとらわれにくい
経験を積んでいくと、スキルや知恵は蓄積されていきますが、一方で「これはこんなもの」と妙に悟ったような判断をするようになります。
無駄を排除し効率性を高めた結果であれば悪いことではありませんが、それが固定観念となって思考が硬直化することもよくあることです。
若いうちはそこまでの経験がない分、そのような固定観念にとらわれることもありません。
試験勉強もあれこれ考えることなく吸収できますし、診断士としても独自の視点で斬新な提案をしたり、柔軟な立ち回りで新たな活躍フィールドを開拓できたりする可能性があります。
2) デメリット
① 経験が足りない
中小企業診断士に限らず、どんな業界でも10代、20代は経験を積む期間です。
この期間に、より多くの経験値を積み上げることで、30代以降のパフォーマンスが変わってくるものです。
逆にいうとまだまだ経験値が足りない期間でもあるので、問題を表面的・一面的にしかとらえられず、クライアントへの提案内容が薄い内容になりがちです。
経験不足を補うために、先輩診断士の意見を仰げるような環境に、身を置くことが理想的でしょう。
② なめられやすい
帝国データバンクの調査によると、2021年時点での日本の社長の平均年齢は60.3歳という結果が出ています。
海千山千の60歳の社長と比べれば、10代、20代は知識も経験も不足しているのが普通です。
若くて経験値が足りないゆえに、仕事ぶりによっては見くびられる可能性もあります。
(「中小企業診断士を大学生が勉強するメリット・デメリット」も合わせてご確認ください。)
3. 30、40代のメリット・デメリット
30代、40代は実務経験も積んできて事業の最前線を動かす年代であり、中小企業診断士の資格は多くのメリットをもたらす半面、この年代特有のデメリットもあります。
1) メリット
① 試験と実務の関連性が高い
30代、40代となると、一般の企業であれば部下を抱える管理職のポジションに就いていても、不思議ではありません。
中小企業診断士試験で勉強する内容と実務の関連性が高いため、実務経験が試験勉強で学ぶ内容を補足してくれますし、試験勉強で得た知識はそのまま実務に役立てることができます。
② 出世や転職に活かしやすい
30代、40代は、出世や転職が盛んになる年代です。
転職サイトの調べによると、転職が最も多い年代は30代の前半という結果が出ていますし、平社員から一つ上の係長クラスへ昇進する平均的な年代は、30代前半が多いでしょう。
この時期に中小企業診断士の資格を持っていると、同世代の中では頭一つ抜けた存在として、評価されやすくなります。
現場レベルでは気づきにくい「企業全体を俯瞰するための知識」が身についていると思われるからです。
転職や昇進は企業を引っ張って行けるようなポテンシャルを持った人間が有利であり、その意味では診断士資格はポテンシャルをアピールするのに十分な材料といえるでしょう。
次に40代ですが、40代になると転職の門戸は狭まりますが、出世競争は激化してきます。
この年代ではポテンシャルよりも実績の方がより重視されるのは間違いないですが、診断士資格は実績の補完材料としては申し分ありません。
やはり、ないよりはあった方が確実に有利です。
2) デメリット
① 勉強時間を確保しにくい
30代~40代は仕事のみならず、プライベートでも多くの人が家庭を持つので、公私ともに忙しくなる年代です。
中小企業診断士の資格を取得しようと思い立っても、なかなか勉強時間を確保しにくいという環境が、大きなハードルとなります。
また、中小企業診断士になれたとしても、資格を維持するためには更新制度があり、「知識補充」要件と「実務従事」要件を満たす必要があります。
特に実務従事は時間も労力も必要となるので、更新時にはそれなりの負担を覚悟しておく必要があります。
(「中小企業診断士の勉強時間は1,000時間?半年合格は無理?」も合わせてご確認ください。)
② 診断士として活動する余裕がない
どんな資格でも実務をこなして初めて知識がスキルとして定着するもので、中小企業診断士も他の資格以上に実務経験を積むことが重要になってきます。
しかし、働き盛りの30代、40代は会社においても事業の最前線を動かす動力源であり、診断士として活動する時間がなかなか確保できません。
事実、中小企業診断協会のアンケート調査では、コンサルティング業務を行っていない診断士の多くが「会社の仕事に追われて時間と余裕がないから」と答えています。
この年代になると家庭がある人が多いので、時間のやりくりはよりシビアになってきます。
4. 50、60代のメリット・デメリット
50代、60代は経験豊富というメリットがある反面、思考の柔軟性や多様性が減少してしまうというデメリットがあります。
1) メリット
① 信頼を得やすい
ビジネス上で人からの信頼を得るには、いくつかのポイントがあります。
「礼儀正しくふるまう」「約束を守る」といった当たり前のこと以外に、「世間話ができる」「腹を割って話ができる」「相手のことなら何でも興味を示す」といったことがコツとしてよく知られています。
しかし、これらのコツは言うは易く行うは難しで、クライアントと親子ほども年が離れていると、かえってやり取りが白々しくなる場合も少なくありません。
ところが同世代であれば、そのハードルはグンと下がります。
同じ時代を生きてきたわけですから、世間話をする際の視点も似通ったものになりますし、悩みなども同じタイミングで似たようなことを考えているものです。
既述の通り、日本の社長の平均年齢は60歳ですから50代、60代は同世代ということになり、他の世代の人たちよりは信頼を得やすい環境が整っています。
② セカンドキャリアに活かせる
人生100年時代とも言われる現代では、定年退職後もまだまだ働きたいというシニア世代が大勢います。
朝日新聞が2022年に行ったアンケート調査では、「定年後も仕事をしている」あるいは「したいと希望している」人の割合は6割以上という結果が出ていました。
中小企業診断士で学ぶ知識はどんな業界でも活かせる汎用性のある知識なので、50代、60代の人たちがそれまで築いてきた人脈や業界知識を活かす形で、セカンドキャリアをスタートさせることができます。
2) デメリット
① 試験勉強に苦戦する(特に2次試験)
第1章でもご紹介したように、50代、60代は2次試験の合格率が高いです。
では試験勉強が楽なのか?というとそんなことはなく、特に2次試験の勉強に苦戦する傾向があります。
その主な原因の一つに、2次試験での解答の作り方に問題があると考えられます。
50代、60代は経験豊富なゆえに、自分の経験則を基にした解答を作りがちです。
しかし、2次試験で求められるのは経験則に基づいた解答ではなく、論理的思考に基づいた解答です。
この点をしっかり理解して、問題にアプローチする必要があります。
② 固定観念が強い
人間は、経験を積めば積むほど成功体験と失敗体験を重ねていくので、それらの体験を基にした固定観念を作り上げていきます。
固定観念があまりに強いと、教科書的なありきたりのことしか思いつかなくなり、革新的な提案をするのが難しくなってしまいます。
しかし、クライアントが求めるのは汎用性のある教科書的なアイデアではなく、自社向けにカスタマイズされた独創的で実効性の高いアイデアです。
年を重ねるごとに固定観念に縛られていくのはある意味仕方のないことですが、より多くの人と意見交換することで固定観念から脱却するヒントが得られる場合もあります。
常にアンテナを張っておいて、情報に貪欲になると良いかもしれません。
5. 終わりに
いかがでしたでしょうか?
年代別合格率の推移を見る限りは、中小企業診断士業界も若返りの流れがきているように見えます。
若いうちから経営層相手に仕事をするのは非常にハードですが、その経験を10年20年と継続すれば、50代、60代になったころには百戦錬磨のコンサルタントとして、頼られる存在になれるのではないでしょうか。
一方、現在50代、60代の人にとっては少しハードルが上がっている状況ですが、30代前後の年代は合格しても企業内診断士にとどまる人がほとんどなので、実際のコンサル需要を満たすのは50代前後の独立診断士たちです。
中小企業診断士にとって重要とされる人脈や経験値も若い世代には負けないわけですから、狭き門とあきらめずにチャレンジあるのみです。
6. まとめ
◆10代、20代は若さがメリットにもデメリットにもなる。
◆30代、40代は診断士業務と本業がリンクしやすいものの時間確保が課題である。
◆50代、60代は診断士資格との親和性は高いが固定観念の克服が課題となる。