「中小企業診断士、なくなるの?」
この資格に興味を持つ人の中には、そんな不安を持っている人もいるようです。
中小企業診断士は国家資格の中でも難関資格として有名ですが、一部、「使えない資格」と揶揄する向きがあるのも事実です。
また、名前の通り、主に中小企業が顧客となる資格なので、一般的な知名度もそこまで高くはありません。
「知られてないし、使えない」となると、資格制度の存続自体を疑問視してしまうのも、無理からぬことです。
そこで今回は、「中小企業診断士制度はなくなるのか?」をテーマに、「なくなる」と言われる理由と、「なくなりはしない」と思われる理由をまとめました。
ちなみに、現段階で中小企業診断士の資格制度がなくなるという話はありません。
1. 診断士がなくなると言われる理由
1) 独占業務がないから
2) 人気がなさそうだから
3) 基礎的な内容しか学べないから
4) 転職で評価されにくいから
5) 若手が少ないから
2. 実際はなくなる可能性が低い理由
1) 仕事はそれなりにあるから
2) 実は人気があるから
3) 横断的な知識を得られるから
4) 採用で高く評価する企業があるから
5) 若手中心に合格者が増えているから
3. もし廃止されても知識や人脈は残る
4. 終わりに
5. まとめ
1. 診断士がなくなると言われる理由
なぜ「中小企業診断士はなくなる」と言われるのか、その理由や根拠を順に5つ解説します。
1) 独占業務がないから
中小企業診断士がなくなると言われる1つ目の理由は、「独占業務がないから」です。
国家資格の中には、独占業務が認められているケースがたくさんあります。
例えば、司法書士は登記や供託など法務局相手の手続きが独占業務として認められていますし、社会保険労務士は関係法令に基づく申請や帳簿作成が独占業務として認められています。
他にも独占業務がある資格はたくさんあります。
弁護士、公認会計士、税理士、一級建築士、二級建築士、司法書士、行政書士、弁理士、不動産鑑定士、宅地建物取引士、医師、薬剤師、看護師、理学療法士…
しかし、中小企業診断士は「唯一の経営コンサルタント資格」であるにも関わらず、独占業務が認められていません。
独占業務がないということは、無資格者でも全く同じ業務ができるということです。
事実、大手コンサルティングファームから中小零細のコンサル会社に至るまで、「中小企業診断士ではない経営コンサルタント」が沢山います。
難しい中小企業診断士の試験に合格しても、これらの人たちとの仕事獲得競争にさらされるため、「中小企業診断士は食えない資格」という指摘が昔からあります。
2) 人気がなさそうだから
中小企業診断士がなくなると言われる2つ目の理由は、「人気がなさそうだから」です。
これには、一般的な知名度の低さが影響しています。
中小企業診断士の主な顧客は、個人ではなく中小企業です。
しかも、企業相手のコンサルティング業務に、無資格の経営コンサルタントが多数従事しているため、中小企業診断士の活躍フィールドはどうしても限られてしまいます。
さらに、独立開業が珍しくない弁護士や税理士などとは違い、中小企業診断士の半数以上が資格取得後も、独立することなく企業内に留まり続けています。
考えてみれば、弁護士事務所や税理士事務所は官公庁街を歩けばよく見かけますが、「中小企業診断士事務所」といった看板を見かける事は非常に稀です。
つまり、一般の人にとって中小企業診断士という資格は、名前すら聞いたことがない馴染みのない資格だといえるでしょう。
さらに、SNSを見ると「中小企業診断士ほど使えない国家資格はない」「大手企業のサラリーマンが箔をつけるための資格」「結局は資格予備校が儲けるだけ」といった辛辣な書き込みを、いくつか見つけることができます。
馴染みがない上に悪評を目にしたならば、「この資格は人気がない」とネガティブなイメージを持っても仕方のないことです。
(参考「中小企業診断士の受験者数推移:人気が落ちない4つの理由」)
3) 基礎的な内容しか学べないから
中小企業診断士がなくなると言われる3つ目の理由は、「基礎的な内容しか学べないから」です。
確かに、診断士試験に向けて勉強するのは、各科目の基礎的な知識が中心となります。
ただし、基礎的な内容しか出題されないわけではありません。
実践的、応用的な内容も出題されるため、それに対応した勉強も必要になってきます。
しかし多くの受験生にとって、自分が経験した業務以外は初めて学ぶ内容であり、「経験したことのない実務」を想像しながらの勉強となります。
経験がなければ実践的な応用知識は理解するのが難しいため、結果的に「基礎的な知識しか頭に残りにくい」という状況が生まれます。
また、仮にそれで合格できても、知識が浅い分野では当たり障りのないことしか言えません。
つまり、浅いコンサルになってしまい、それが「中小企業診断士は使えない」という揶揄に繋がっていく側面があります。
そうした状況にならないためにも、中小企業診断士の中では、「専門分野を持て」とよく言われています。
4) 転職で評価されにくいから
中小企業診断士がなくなると言われる4つ目の理由は、「転職で評価されにくいから」です。
中小企業診断士は、最終合格率が5%~8%という難関資格ですから、転職においてもかなりの高評価を期待したいところです。
しかし、この資格を持っているだけでは、そこまでの評価はされません。
新卒採用ならともかく、転職となると評価されるのは、実務経験と実績です。
「どんな業界、どんな職種を何年経験したのか」、「どのような実績を挙げてきたのか」が重要なのであって、「どんな難関資格に合格したのか」は、評価項目としては似て非なるものです。
努力ができる人、知識を持っている人という評価はできても、実務で会社にどれだけ貢献できるかは未知数なのです。
そのため、「場合によっては全く評価しない」と言い切る採用担当者もいます。
これは、「ビジネスの現場でそれほど重宝されているわけではない」ということでもあり、「あってもなくてもいい資格なのでは?」という指摘につながっています。
5) 若手が少ないから
中小企業診断士がなくなると言われる5つ目の理由は、「若手が少ないから」です。
現役の中小企業診断士のポストを見ていくと、「会合に集まるのは高齢の診断士ばかり。」「若い診断士が増えなければやがて資格がなくなるのでは?」と、資格制度の将来を危惧した意見を見かけることがあります。
実際、これを裏付けるようなデータもあります。
中小企業診断協会が発表した、令和2年度の「中小企業診断士活動状況アンケート調査」によれば、50代以降の診断士の比率はなんと7割を超えており、40代以下の年齢層は3割にも満たない状況となっています。
そのため、「中小企業診断士は高齢化が進んでおり、世代交代ができてないのではないか。」と揶揄されることもあります。
2. 実際はなくなる可能性が低い理由
「中小企業診断士は将来なくなるのでは?」という指摘はありますが、実際はその可能性は低いです。
その理由を順に5つ解説します。
1) 仕事はそれなりにあるから
中小企業診断士がなくならないと考えられる1つ目の理由は、「仕事はそれなりにあるから」です。
独占業務がないとは言われるものの、中小企業診断士がカバーする業務領域は広範です。
経営戦略や資金調達といった経営層が担う分野から、現場レベルの店舗管理・倉庫管理にいたるまで、一通りの知識を持っています。
しかも日本の会社の97%以上は中小企業ですから、理屈の上では「仕事のタネはあちこちにある」と言っても過言ではありません。
そんな中小企業診断士がカバーする仕事内容は、大まかに2種類に分けることができます。
行政や商工会議所から依頼される「公的業務」と、一般企業の経営コンサルや業務支援を行う「民間業務」です。
地域の診断士協会での積極的な活動が受注につながることが多いと言われており、「診断士協会絡みで公的業務を受注し、受注先でさらに別案件を受注」というのがよく聞く業務拡大パターンです。
また、それ以外に副業として助成金や補助金の申請支援をしたり、講演やセミナーの講師をしたりするケースも珍しくありません。
なお、当サイトでも中小企業診断士の活躍事例をご紹介しています。
勤務先の経営戦略部門に活躍の場を与えられた人、人脈を構築し本業に活かしている人、セミナー講師やコンサルなどで実績を積んでいる人などの事例を掲載しています。
「中小企業診断士になっても仕事がない?過去に出会った診断士事例紹介」
2) 実は人気があるから
中小企業診断士がなくならないと考えられる2つ目の理由は、「実は人気があるから」です。
この資格は、一般的な知名度が低いのは事実ですが、だからといって人気がないわけではありません。
事実、1次試験の受験申込者数は、令和5年度に過去最高を記録しています。
年度 | 申込者数 |
平成13年度 | 10,025人 |
… | … |
令和元年度 | 21,163人 |
令和2年度 | 20,169人 |
令和3年度 | 24,495人 |
令和4年度 | 24,778人 |
令和5年度 | 25,986人 (過去最高) |
年代別にみても30代40代を中心に、全年代で受験者数が増加しています。
人気がなければ受験者数は減って行くものなので、この状況はむしろ「根強い人気がある」とみることができます。
さらに、こうした人気に拍車がかかるような話もあります。
ユーキャンの「10年後、AI・ロボットに奪われない資格とは?」という記事によると、「AI・ロボットによる仕事代替に不安を感じる人」は30.7%、「AI・ロボットの普及で、将来自分の給料が減ると思う人」は28.7%と、AIの普及に対して不安を感じている人が一定数いるというアンケート結果が出ています。
そして記事では、著名なロボット研究者の「ロボットが発展していく中で、人が身につけるべきスキルはコミュニケーション力やカウンセリング力」という話を紹介し、将来有望な資格の一つとして中小企業診断士をピックアップしています。
似たような話は他にもあります。
野村総研とオックスフォード大学が行った共同研究では、行政書士、弁理士、税理士、公認会計士といった難関国家資格が「80%~90%の確率でAIに取って代わられる可能性がある」と指摘される一方、中小企業診断士については、AIに取って代わられる可能性はわずか0.2%と試算されています。
日経新聞の調査で「ビジネスパーソンが取りたい資格1位」になったこともありますし、中小企業診断士は消滅するどころか、今後ますます人気となりそうな資格なのです。
3) 横断的な知識を得られるから
中小企業診断士がなくならないと考えられる3つ目の理由は、「横断的な知識を得られるから」です。
中小企業診断士の1次試験に出題されるのは、全部で以下の7科目。
「経済学・経済政策」「財務・会計」「企業経営理論」「運営管理」「経営法務」「経営情報システム」「中小企業経営・政策」
基礎的な内容が中心とはいえ、本業を持つ社会人がこれだけ幅広い知識を得る機会は、めったにありません。
その意味で中小企業診断士試験は、日本のビジネスパーソンのスキルアップに、確実に貢献しているといえます。
また、国家資格ですから、経営コンサルタントとしての資質を国が証明している側面もあり、令和2年の経済財政諮問会議では、中小企業診断士資格の更なる活用が提言されて話題にもなりました。
今後は、国がこの資格制度の拡充を図る方向に動くことは、間違いないでしょう。
そのような中で、資格制度自体をなくしてしまうことは、考えにくいことです。
4) 採用で高く評価する企業があるから
中小企業診断士がなくならないと考えられる4つ目の理由は、「採用で高く評価する企業があるから」です
中小企業診断士は、転職市場において無条件に高く評価してもらえる資格ではありません。
しかし、一部の業界や職種においては、かなり高く評価してもらえます。
例えばコンサルティング業界では、この資格の有無によって評価はかなり違ってきますし、中には「中小企業診断士であること」が応募条件になっている場合もあります。
一般企業においても「経営戦略」や「法務」など、知識がなければ話にならない部門では、高く評価される傾向があります。
このようなケースでは、中小企業診断士という肩書自体が、採用側にとっての「求めるスキルの目印」のような役割を果たしています。
5) 若手中心に合格者が増えているから
中小企業診断士がなくならないと考えられる5つ目の理由は、「若手中心に合格者が増えているから」です。
中小企業診断士の合格者は近年、増加傾向にあります。
年度 | 合格者数(2次試験) |
平成29年度 | 828人 |
平成30年度 | 905人 |
令和元年度 | 1,088人 |
令和2年度 | 1,174人 |
令和3年度 | 1,600人 |
令和4年度 | 1,625人 |
令和5年度 | 1,557人 |
令和4年度の合格者数は1,625人で、過去最高です。
そして、2次試験合格者の年代を見ると、各年度とも最も多いのは30代で、次に40代、20代と続きます。
30代と20代というくくりで見ても、全合格者の半数以上を占めており、廃れている感じは全くありません。
むしろ勢いがつきつつある気配すら感じます。
中小企業診断士講座の元運営責任者が、以下の7つの通信講座のコストパフォーマンスを比較して、おすすめ2つのメリット・デメリットについて解説してみました。
・TAC
・スタディング
・診断士ゼミナール
・クレアール
・LEC
・アガルート
・フォーサイト
詳細は「中小企業診断士の通信講座おすすめ2選!元講座運営者が比較します」をご確認ください。
3. もし廃止されても知識や人脈は残る
以上、中小企業診断士が「なくなる理由」と「なくならない理由」を考察してきました。
一方で、仮に中小企業診断士という資格が廃止されたとしても、既に資格を取得しているのであれば、さほど心配する必要はありません。
なぜなら、受験勉強を通じて得た広範な知識や論理的思考(ロジカルシンキング)のスキル、さらには診断士として活動する中で形成された人脈などは、自分の中に残り続けるからです。
しかも試験がなくなれば、あの広範な7科目をすべて学ぼうという人はほとんどいなくなるでしょう。
すると、中小企業診断士と同等の知識を持ったライバルは、年を追うごとに少なくなっていくことになります。
言わば、「知識や人脈といった武器は手元に残ったまま新たなライバルが減っていく」わけですから、制度自体がなくなることはむしろ、資格保有者にとっては恩恵があるといっても良いかもしれません。
4. 終わりに
いかがでしたでしょうか?
「知名度が低い」「独占業務がない」「使えない資格と揶揄される」など、この資格に対するネガティブな情報もありますが、「知識も人脈も増えて人生が変わった」「年収が増えた」と喜んでいる人達も大勢います。
それに、診断士資格を通して得た知識、スキル、人脈はビジネスパーソンとしての大きな武器となり、診断士資格制度の有無とは関係なく一生残り続けます。
つまり、資格制度が存続しようがなくなろうが、この資格を取得することのメリットは計り知れないわけです。
中小企業診断士という資格に注目し、受験を検討されているのであれば、一年でも早く資格を取得することをおすすめします。
5. まとめ
◆知名度は低いがAI時代にも生き残る資格として注目を集めている。
◆基礎的だが幅広い分野の知識を学べる点が評価されている。
◆業界や職種によっては転職時に高く評価してもらえる。
◆受験者も合格者も30代中心に増加し続けている。
◆診断士資格を通して得た知識、スキル、人脈は資格制度の有無に関係なく大きな武器となる。