自営業を始めるには、具体的に何から始めればいいか、すぐ思い浮かびますか?
開業届の提出でしょうか?
屋号を作ることでしょうか?
「自営業として頑張るぞ!」と意気込みは十分でも、自営業を始めるには何が必要なのか、理解できていない方も多いかと思います。
私も自営業として働く直前まで、具体的に何から始めていいか、あまり理解していませんでした。
そこで今回は、筆者の体験も踏まえながら、自営業の始め方と、自営業を始める際に押さえるべきポイントについて、ご紹介していきます。
ポイントをしっかりと押さえて、自営業としてのスタートダッシュを切りましょう。
1. 自営業を始めるには?
1) 開業届を出すだけ
2) 開業届を提出するメリット
2. 押さえるべきポイント6選
1) 青色申告承認申請書の提出
2) 1年間分の生活費の確保
3) メインターゲット層の決定
4) まずは理想より稼ぎを優先する
5) 初期投資を少なくする
6) 税金分のキャッシュを残す
3. 終わりに
4. まとめ
1. 自営業を始めるには?
1) 開業届を出すだけ
自営業を始めるには、何をすればいいのか?というと、税務署に「開業届」を出すだけです。
、、、それだけ?と思われたかもしれませんが、自営業を始めるに際にマストなことは、基本的に開業届の提出だけです。
「基本的に」と書いたのは、実際は個々のケースに応じて、以下のような書類の提出が必要となるためです。
・事業開始等申告書
・青色申告承認申請書
・青色事業専従者給与に関する届出書
・たな卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書
・納税地の変更に関する届出書(事業所と自宅が異なる場合)
・給与支払い事務所等の開設届出書(従業員を雇う場合)
このうち、各都道府県税事務所に提出する事業開始等申告書も、開業届と同様に自営業を始める全ての人に提出が求められていますが、提出しなかったからといって罰則があるわけではなく、また、提出したからといって大きなメリットがあるわけでもありません。(だから提出しなくていいというわけでもありませんが、、、)
また、青色申告承認申請書についてはマストではありませんが、後述するように提出しておいた方がお得です。
では、開業届はどうなのか?というと、実は開業届を提出しなくても罰則はないのですが、後述する開業届を提出するメリットを受けられなくなるため、実質的には自営業を始めるにあたりマストだと考えられます。
開業届の提出期限は、「開業日から1ヶ月以内」となっております。
この場合に問題となるのが、開業日をいつにするか?といった点です。
この点については、「実際に事業を開始した日」あるいは「初めて収入が発生した日」を開業日とすれば問題ありません。
また、もう1つ問題となるのが、1ヶ月を過ぎてしまった場合どうするのか?といった点です。
この点については、期限を超過したからといって特に罰則があるわけではなく、後追いで提出できるので、安心してください。
ただ注意点としては、提出が遅れるほど後述するメリットを受けられるのが遅くなりますので、気付いたタイミングでなるべく早く提出することをおすすめいたします。
2) 開業届を提出するメリット
① 青色申告で確定申告できる
開業届を提出する1つ目のメリットとしては、「青色申告で確定申告できる」ことが挙げられます。
確定申告の申告方法としては、「白色申告」と「青色申告」の2つがあります。
何もしなければ白色申告となる一方で、以下の条件を満たせば、青色申告を選択することが可能となります。
・複式簿記による帳簿作成。
(複式簿記については、「簿記とは何かを簡単に初心者にわかりやすく解説します!」をご参照ください。)
つまり、青色申告をするにあたって、開業届の提出が条件となっているのです。
そして、青色申告にはいくつかのメリットがあるのですが、一番大きなメリットは、「事業所得から65万円分を控除できる」ことです。
以下の例をもとに、白色申告と青色申告の税額の違いを確認しておいてください。
・売上:600万円
・必要経費:200万円
・所得控除:38万円
(600万円-200万円-38万円)×20%-42万7,500円
=所得税額:29万6,500円
(600万円-200万円-38万円-65万円)×10%-9万7,500円
=所得税額:19万9,500円
*参考(所得税の税率)
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万以下 | 5% | 0円 |
195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円超 695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円超 900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円超 1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円超 | 45% | 479万6,000円 |
このように、青色申告を選択して特別控除を受けることで、大きな節税効果が見込めます。
以上より、「青色申告で確定申告できる」ことは、開業届を提出するメリットと言えます。
② 屋号で銀行口座を開設できる
開業届を提出する2つ目のメリットとしては、「屋号で銀行口座を開設できる」ことが挙げられます。
開業届を出すことで、銀行口座の名義に屋号をつけることができ、以下のようなメリットが期待できます。
・名義に屋号が入っていることで、対外的な信用力が上がる。
ただ、以下の点には注意してください。
・全ての銀行で開設できるわけではない。
・既に商標登録済みの名前は使用できない。
・株式会社や法人を連想させる名前は使用できない。
注意点はありますが、メリットも大きいですので、屋号での口座開設はおすすめです。
以上より、「屋号で銀行口座を開設できる」ことは、開業届を提出するメリットと言えます。
③ 小規模企業共済に加入できる
開業届を提出する3つ目のメリットとしては、「小規模企業共済に加入できる」ことが挙げられます。
小規模共済とは、個人事業主などが事業を廃止した場合に、それまでの積立額に応じて共済金を受けとることができる制度となります。
そして、小規模共済に加入するためには、開業届の提出が必要となります。
小規模共済には、以下のようなメリット・デメリットがあります。
・掛け金に対して最大で120%が戻ってくる。
・掛け金分を必要経費にすることができ、節税になる。
・解約時に税金が発生するが、退職所得となるので事業所得より税負担が軽い。
・1,000円~70,000円の範囲で、500円単位で掛け金の変更が可能。
・20年未満で解約した場合、元本割れとなる。
・解約時に税金が発生する。(ただ上述の通り、退職所得として扱える。)
自営業の場合、将来への不安が大きいかと思いますので、いざという時の備えに小規模企業共済も検討してみてください。
以上より、「小規模企業共済に加入できる」ことは、開業届を提出するメリットと言えます。
開業届には、そもそも以下のような役割があります。
① 税務署に対する通知
② 開業証明書類
②につきましては、開業を証明することで、以下のようなサービスを受けることが可能となります。
・屋号付き銀行口座の開設。
・創業融資の申し込み。
・ハローワークの再就職手当の申請。
2. 押さえるべきポイント6選
それでは、自営業を始めるために押さえるべきポイントについて、順に6つ見ていきましょう。
1) 青色申告承認申請書の提出
自営業を始めるにあたって、押さえるべき1つ目のポイントとしては、「青色申告承認申請書の提出」が考えられます。
先述の通り、開業届を出すことで、青色申告を行うことが可能となるのですが、これは厳密に言うと、開業届を出すことで、青色申告の承認申請が可能となるということです。
つまり、いくら開業届を出しても、青色申告承認申請書を提出しなければ、青色申告を行うことはできません。
そして、青色申告承認申請書の提出にあたっては、以下の提出期限に注意が必要です。
開業日から2か月以内。(開業日が1/1~1/15の場合は、3/15が提出期限。)
② 白色申告から青色申告に変更する場合
3/15が提出期限。
特別控除65万円など、多くの利点がありますので、忘れずに開業届と合わせて提出しましょう。
以上より、「青色申告承認申請書の提出」は、自営業を始めるにあたって、押さえるべきポイントと言えます。
会計ソフトを利用すれば、開業届と青色申告承認申請書の2つ合わせて、10分程度で作成することが可能です。
実際に私は自営業として開業する際に、クラウド会計ソフトのfreeeを利用して、開業届と青色申告承認申請書を作成しました。
青色申告の条件となっている、複式簿記による帳簿作成も可能ですの、ぜひ一度利用してみてください。
2) 1年間分の生活費の確保
自営業を始めるにあたって、押さえるべき2つ目のポイントとしては、「1年間分の生活費の確保」が考えられます。
自営業の資金繰りと言うと、事業のことばかりを考えてしまいがちです。
しかし、事業の前に考えなければならないのが、当座の生活資金です。
基本的に自営業になって初めの1年は、無収入だと考えた方がいいです。
つまり、あらかじめ1年程度の生活資金を用意しておかないと、そもそも生活できない状況に追い込まれます。
そのため、自営業を始める前に、1年分の生活費を蓄える必要があります。
1年分の生活費がいくらになるのかは、住んでいる場所や家族構成により異なりますが、1人暮らしであれば最低でも250万円程度、4人家族であれば最低でも500万円程度は蓄えておいた方がよいでしょう。
以上より、「1年間分の生活費の確保」は、自営業を始めるにあたって、押さえるべきポイントと言えます。
3) メインターゲット層の決定
自営業を始めるにあたって、押さえるべき3つ目のポイントとしては、「メインターゲットの層決定」が考えられます。
自営業を始めたばかりの人は、とにかくお客様を囲い込むために、できるだけ多くの層のお客様に必要とされる商品や広告を考えがちです。
ターゲット層を広く設定してうまくいく事業というのは、そもそも企業・事業自体にブランド力があったり、あるいは巨額の資本投入が可能な事業です。
そのため、自営業が始めからターゲット層を広く設定しても、結果としてどのお客様にも響かず売上があがらないといった事態に陥ってしまいます。
一方で、「キャリアアップを目指している30代男性」「甘いものが好きな20代女性」といったように、メインターゲットを絞ることで、以下のようなメリットが期待できます。
・広告に使用する言葉やデザインがより明確になる。
・専門性を出して差別化できる。
コツとしては、メインターゲットを決めるというよりは、切り捨てる層を決める感覚で取り組んだ方がうまくいきやすいです。
特定の層を切り捨てるというのは非常に勇気のいることですが、限られたリソース(人・モノ・金・時間・情報)を有効活用するためには、選択と集中が大切となります。
以上より、「メインターゲット層の決定」は、自営業を始めるにあたって、押さえるべきポイントと言えます。
4) まずは理想より稼ぎを優先する
自営業を始めるにあたって、押さえるべき4つ目のポイントとしては、「まずは理想より稼ぎを優先する」ことが考えられます。
会社員よりも自営業としてのキャリアを選択した人の中には、何か成し遂げたいことがある人もいるかと思います。
あるいは、より自由に働くために、自営業という選択肢をとった人もいるかもしれません。
ただ、少なくとも初めの1年は、理想よりも稼ぎを優先してください。
成し遂げたいことも、自由な働き方も、全ては最低限の稼ぎの上に成り立っています。
そして、事業が軌道に乗るまでは、お金を稼ぐのは想像以上に大変だと考えた方が賢明です。
また、稼いでいないと、周りからの目線も冷たいものになります。
どんなに応援してくれる人でも、結果が出ないと気持ちが離れていってしまうものです。
稼ぎ、つまりは売上という客観的な指標で成果を出すことで、周りからの否定的な声を黙らせることができます。
以上より、「まずは理想より稼ぎを優先する」ことは、自営業を始めるにあたって、押さえるべきポイントと言えます。
まず稼ぐことを優先させるのであれば、本業とは別に副業をやるのもいいのではないか?
と思われた方もいるかと思います。
ただ、自営業の方は、副業を始めることで生じる本業へのマイナスの影響が大きいため、副業はやめた方がいいです。
詳細につきましては、「自営業は副業をやるべきでない4つの理由」をご確認ください。
5) 初期投資を少なくする
自営業を始めるにあたって、押さえるべき5つ目のポイントとしては、「初期投資を少なくする」ことが考えられます。
安定的に稼げる仕組みができるまでは、初期投資ができるだけ少ないビジネスを始めた方が無難です。
投資額が大きいほど期待できるリターンも大きいというのはその通りなのですが、反対に、失敗した時のリスクも大きくなります。
特に自営業を始めたばかりのころは、10回挑戦して1回成功するぐらいの気持ちでいた方が良いかと思います。
つまり、9回は失敗できる状態にしておく必要があるので、1回1回の初期投資が大きすぎると、たった1回の失敗で初期投資を回収できずに、事業をたたむことになりかねません。
始めから銀行から借入を行い事業を始める方もいますが、できるだけ避けた方が良いです。
また、初期投資を抑えるという意味では、極力在庫を持つビジネスも避けた方が賢明です。
在庫を持つということは、在庫を持つための場所にお金を投資する必要があり、さらに、毎月の在庫管理にもお金や時間といったリソースを割く必要があるためです。
以上より、「初期投資を少なくする」ことは、自営業を始めるにあたって、押さえるべきポイントと言えます。
Web系のビジネスであれば、初期投資が少なく、在庫を持つ必要もありません。
自営業としてまず始めるのであれば、Web系のビジネスはおすすめです。
また、特定の分野の専門知識を持っているのであれば、コンサルタントとして活動することも考えられます。
極力始めは、ローリスクなビジネスから始めていきましょう。
6) 税金分のキャッシュを残す
自営業を始めるにあたって、押さえるべき6つ目のポイントとしては、「税金分のキャッシュを残す」ことが考えられます。
始めは稼いだお金を再投資にあてて、事業を拡大していくべきですが、意外に忘れがちなのが、税金支払い分のキャッシュを手元に残しておくことです。
例えば、自営業として活動する上で発生する税金には、以下のようなものがあります。
・復興特別所得税
・住民税
・個人事業税
・消費税
・固定資産税(固定資産がある場合)
・源泉所得税(従業員がいる場合)
また、税金以外にも、「国民健康保険料」や「国民年金保険料」が発生するため、それなりの金額を手元に残しておく必要があります。
1つ1つ調べていけば、今年の予想所得からおおよその金額は計算できますので、まずは計算してみてください。
以上より、「税金分のキャッシュを残す」ことは、自営業を始めるにあたって、押さえるべきポイントと言えます。
消費税については、以下のいずれかの条件を満たした場合に、支払う義務が発生します。
・基準期間(課税期間の前々年度)の課税売上高が1,000万円を超えている場合。
・特定期間(前年の1月1日~6月30日)の課税売上高が1,000万円を超えている場合。
つまり、売上が1,000万円を超えた年の翌々年、あるいは、半年間で売上が1,000万円を超えた年の翌年からは、消費税を支払う必要があります。
3. 終わりに
自営業の始め方や、自営業を始める際のポイントについて解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
何の分野でも、スタートは非常に大事です。
事前に必要な知識を仕入れておき、自営業としての一歩を踏み出しましょう。
4. まとめ
◆青色申告承認申請書を提出する。
◆1年間分の生活費を確保する。
◆メイン顧客層を決める。
◆初めは稼ぎを優先させる。
◆初期費用や在庫を抑える。
◆納税分のキャッシュを残す。