簿記検定は会計業界で働く人だけでなく、多くのビジネスパーソンに必須の知識を学べる有用な資格です。
しかし、何級から学べばいいのか、何級から使えて就職などで有利になるのか、悩む方が多くいます。
そこで今回は、各級の学習内容や、どのように役に立つのかを解説します。
なお、この記事での「簿記検定」は、日本商工会議所が実施する「日商簿記検定」を前提としています。
1. 初級、3級、2級、1級
1) 簿記初級
2) 簿記3級
3) 簿記2級
4) 簿記1級
2. 簿記3級から使えるケース
1) 会計分野の適性判断
2) 確定申告
3) 未経験OKの求人への応募
3. 簿記2級から使えるケース
1) 経理・財務
2) 株式投資
3) 経理・財務以外でも役に立つ
4. 簿記1級から使えるケース
1) 大企業の経理
2) 資格手当、給料アップ
3) 簿記1級のさらに先に進める
5. 終わりに
6. まとめ
1. 初級、3級、2級、1級
日商簿記検定には、初級・3級・2級・1級の難易度があります。
ここでは、それぞれの級の概要について説明します。
1) 簿記初級
簿記初級は、初めて簿記を学ぶ方のための入門級です。
以前は、簿記4級という名称でした。
他の級の試験と違い、インターネットを介して試験を受ける「ネット試験」のみです。
ただ、ネット試験とは言っても、指定された会場を訪れて、会場のPCを操作して回答する必要があります。
簿記初級は、簿記の基本用語や複式簿記の仕組みを理解して、日常の業務に活かすことを目的としています。
出題範囲は以下の通りです。
・貸方、借方などの取引の8要素
・勘定科目や仕訳の意義
・貸借平均の原理
・主要簿や補助簿の概念
・減価償却など固定資産に関する処理
・試算表など月次集計 など
初級とは言っても、上記のように幅広い内容を学びます。
これまで、簿記に全く触れたことがない方は、用語を覚えるのに苦労するのではないでしょうか。
簿記初級で学んだ内容は、簿記3級の内容を半分以上カバーしています。
初級を取得したからと言って、すぐに3級に合格できるわけではありませんが、簿記3級合格にかなり近づいていると言えるでしょう。
合格率は60%ほどで、ほとんどの方が独学で合格しています。
(簿記初級については「簿記初級(4級)、原価計算初級を勉強する意味がない5つの理由」も合わせてご確認ください。)
2) 簿記3級
簿記3級では、基本的な商業簿記を学びます。
実務経験を踏まえれば、店舗、小規模企業における経理関連書類を、適切に処理できるレベルです。
簿記3級の出題範囲は、簿記初級の内容を深く学ぶ形になっています。
また、簿記3級からの新たな論点として、決算や株式会社会計についても出題されます。
簿記3級は、ペーパー試験とネット試験のどちらかの受験方法を選択可能です。
ペーパー試験は年に3回実施されていて、ネット試験は受験停止期間を除いて、いつでも受験できます。
ネット試験の合格率は40%ほどで、独学で合格する方も多くいます。
合格に必要な勉強時間は、100時間ほどとされていて、会社員の方でも仕事終わりに毎日1時間、休日に2時間勉強すれば、約3か月で取得可能です。
(参考「簿記3級は独学で合格可能?」)
3) 簿記2級
簿記2級からは、簿記3級までの商業簿記に加え、工業簿記が出題範囲に加わります。
工業簿記は製造業で必要な簿記の知識で、製品を製造する際の材料費や労務費・製造間接費の計算などを行います。
2級に合格することにより、商店や商社・サービス業など商業簿記が必要な会社だけでなく、工業簿記を必要とするさまざまなメーカーで経理を担当可能です。
商業簿記は、より実践に近づき、銀行勘定調整表や有価証券・リース取引など、中小企業の即戦力となる知識を身に付けます。
また、連結会計の初歩を学習するため、子会社やグループ会社がある企業での経理も、行えるようになります。
受験方法は、簿記3級と同じくペーパー試験とネット試験のどちらかを選択可能です。
ペーパー試験は年に3回実施されていて、ネット試験は受験停止期間を除いていつでも受験できます。
ネット試験の合格率は40%ほどで、必要な学習時間は200~250時間が目安です。
簿記3級よりも大幅に学習時間が増えるため、資格学校に通う方が多いですが、独学で合格する方もいます。
(参考「簿記2級は独学では無理?」)
4) 簿記1級
簿記1級は、日本商工会議所が実施する簿記検定の最高峰の試験です。
簿記1級は、ネット試験には対応しておらず、ペーパー試験のみ実施されています。
商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算の4分野から出題され、いずれも極めて高度な知識が必要とされます。
実務的な知識だけでなく、会計基準や会社法など企業関係に関する法規も学習するため、経理部の管理職レベルの知識が身に付きます。
稀に独学で合格する方もいますが、多くの受験生は資格学校や通信講座などを利用しています。(参考「簿記1級の独学は無理?何から始めればいいの?」)
また、公認会計士や税理士の受験生が、腕試しとして簿記1級を受験するケースも多いです。
試験は問題数が多いため、問題文を見て直感的に判断できるレベルまで、学習を繰り返すことが重要です。
会計学など理論を問われる問題は、暗記するだけでなく意味をしっかりと把握していないと、正解することは難しいでしょう。
合格基準は100点中70点以上とされていますが、実質的には相対評価となっていて、合格率は10%前後です。
簿記1級の合格に必要な学習時間は、500~1,000時間と言われています。
しかし、2級までと違い「簿記のセンスが必要な試験」と言われていて、複数回受験しても合格できない受験生も多くいます。
簿記講座の元運営責任者が、「講座代金(安さ)」と「講座との相性(わかりやすさ)」の観点から、おすすめ通信講座を以下の5つに絞り、メリット・デメリットについて解説してみました。
・クレアール
・フォーサイト
・ネットスクール
・CPA会計学院
・スタディング
詳細は「簿記の通信講座おすすめ5選!安さとわかりやすさで比較すると..」をご確認ください。
2. 簿記3級から使えるケース
簿記3級を取得すると、会計の基礎を把握して商店規模の経理を行えるようになるため、取得難易度以上の恩恵を受けられます。
簿記3級から使えるケースについて、順に見ていきましょう。
1) 会計分野の適性判断
会計分野は細かな作業が多く、お金を扱うためミスが許されない仕事です。
さらに、法令改正にも対応するために、常に新しい知識を取り入れる必要があります。
そのため、誰でも会計の仕事ができるわけではありません。
数字に苦手意識がなく、ある程度几帳面で成長意欲が高い方に向いています。
その適性を判断できるのが、簿記3級です。
簿記3級は、会計の基礎だけでなく実務的な内容も出題されるため、合格できればある程度の適性はあると言えるでしょう。
2) 確定申告
個人事業主や副業をしている会社員は、所得が一定額を超えると確定申告が必要ですが、簿記3級の知識があれば自分で申告を済ませられます。
最近は会計ソフトが発達しているため、日々の仕訳を入力していけば、税務に関する知識がなくても確定申告書が完成します。
税理士に依頼する必要がないため、余計な報酬を支払う必要は無く、青色申告を利用すれば節税も可能です。
簿記3級は、個人商店や一人で事業を運営しているような経営者を対象とした資格なので、自分で確定申告をしたい方にピッタリと言えるでしょう。
3) 未経験OKの求人への応募
経理関係の求人募集を眺めていると、意外と未経験OKの会社が多くあります。
しかし、本当にまったく経理に関わった経験が無い人が面接に来ると、面接官は「本当に続けられるか?」と不安になるものです。
そこで、簿記3級を取得していれば、経理の経験が無くても一定の知識があることを示せるので、有利になるでしょう。
3. 簿記2級から使えるケース
簿記2級を取得すると、即戦力レベルの知識が身につくため、活用できる場面はさらに広がります。
簿記2級から使えるケースについて、順に見ていきましょう。
1) 経理・財務
簿記2級を取得していると、中小企業の経理や財務であれば、業務内容を理解できる下地ができているため、スムーズに仕事に入れます。
仕訳や帳簿の内容などはすぐに理解できるため、あとは会社独自のやり方を覚えれば、すぐに一人前の社員になれるでしょう。
また、税理士事務所や会計事務所であっても、簿記2級の知識があれば、ほとんどの会計業務を一人で行えます。
企業が即戦力の社員を募集する際は、「簿記2級取得者」と条件を付けることがあります。
中小企業の経理は、簿記3級では少し物足りないけど、簿記1級ではオーバースペックになるため、簿記2級を条件とするのです。
そのため、簿記2級を取得していれば、応募できる求人の幅が格段に広がり、転職に有利に働くでしょう。
2) 株式投資
最近は政府がNISAやiDeCoを推進しているため、長期投資に関する知識が重要視されています。
長期投資で成功するには、企業のファンダメンタルズ分析、つまり資産・負債や売上・利益から財務状況を分析して、投資する銘柄を選ぶことが重要です。
企業の財務状況を分析するには、公式ホームページでのIR(投資家への情報提供)や四季報などに載っている情報を、簿記の知識を駆使して理解する必要があります。
銘柄選定の際に簿記の知識があるのとないのとでは、分析結果に大きな差が出るため、簿記2級は株式投資に役立つと言えるでしょう。
3) 経理・財務以外でも役に立つ
簿記2級の知識は、経理・財務の仕事以外にも営業職や総務・工場の技術員など、さまざまな業種で活用できます。
例えば、営業職であれば自社の製品の原価がどのように決められているのか理解できるため、得意先から過度な値引きの要求をされても、理論的に対応できないことを伝えられます。
また、得意先の経営者と雑談をする際に、会社の経営状況の話題になっても簿記2級の知識があれば、ある程度対等に会話ができるでしょう。
総務では給与計算や源泉所得税・社会保険料の流れが分かり、仕訳を頭に思い浮かべながら処理をすれば、ミスを減らせます。
4. 簿記1級から使えるケース
簿記1級は、簿記検定の最高峰なので、どのような現場にも対応できる力が付き、簿記のエキスパートとして重宝されます。
簿記1級が使えるケースについて、順に見ていきましょう。
1) 大企業の経理
会社法上の大会社(資本金が5億円以上、または負債金額が200億円以上)になると、監査法人による監査が義務付けられています。
そのため、中小企業と比べて慎重に会計処理を行う必要があり、簿記1級など確かな知識を持った人材が重宝されます。
大企業の経理では、子会社を含めた連結決算や、自己株式や社債の発行・キャッシュフロー計算書など、簿記1級の出題範囲である知識を必要とする場面は多くあります。
簿記1級は生半可な知識では合格できないため、各分野について深く理解することが大切です。
そのため、簿記1級を取得していれば、大企業の経理でも問題なくこなせるでしょう。
ただし、中小企業の経理の場合、簿記1級ほどの知識は必要とされないため、オーバースペックとなる可能性があります。
中小企業の経理に就職したいからといって、簿記1級の取得を目指すのは、コストパフォーマンスが低いので注意が必要です。
2) 資格手当、給料アップ
大企業が経理の社員を募集するときは、「税理士試験科目合格者」や「簿記1級取得者」などの条件を付けることがあります。
つまり、簿記1級は税理士試験科目合格者と同列に見られる、難関資格だと言えます。
そのため、簿記1級を取得している社員には、資格手当を支給する企業も多く、給料アップが見込めます。
一方で、簿記1級の資格手当は数千円~2万円ほどのケースが多く、取得のための労力と比べると物足りなく感じます。
しかし、簿記1級を取得していると、経理課の管理職としての能力があるとみなされて、出世にも大きく関わるでしょう。
そのため、目先の資格手当は満足できる金額でなくても、生涯年収で比べたら大きな差が出ると言えます。
3) 簿記1級のさらに先に進める
簿記1級を取得すると、さらにその先の資格にチャレンジできます。
例えば、税理士試験の試験科目の一つである簿記論は、出題範囲の大部分が簿記1級と被っているため、学習の負担が減るでしょう。
他には、国家資格の最高峰である公認会計士にチャレンジする道もあります。
簿記1級は公認会計士試験への試金石とされているため、簿記1級に合格できれば公認会計士試験に合格するチャンスがあります。
日本で唯一の経営コンサルティングの国家資格である中小企業診断士も、試験の一部で簿記の知識が必要です。
このように、簿記1級を取得すると、さらなる道が開かれ人生の幅を大きく広げてくれます。
5. 終わりに
簿記検定の概要や活用できるシーンについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
合格難易度が低い簿記3級でも、かなり活用できる場面があります。
簿記2級であれば中小企業の経理で、簿記1級であれば大企業の経理で活躍できる能力が身に付きます。
「中小企業への転職に活用したい」
「経営者と対等に話せるようになりたい」
など、何の目的で簿記を学習するのかを明確にして、自分に合ったレベルの学習をしてください。
6. まとめ
◆簿記2級は、中小企業の経理や財務で活躍でき、転職の際にも有利。
◆簿記1級は、大企業で経理のエキスパートとみなされて、給与アップも見込める。