ミドリムシ(学名:ユーグレナ)を中心に事業を展開するバイオベンチャー、株式会社ユーグレナ。
実は毎年大きな損失を計上しているのに、投資を継続している事業があります。
今回はこの点を中心に、ユーグレナの決算書について解説していきます。
1. ユーグレナとは?
1) 基本情報
2) 事業内容
2. 売上0.3億、損失72億の事業とは?
1) 売上高・営業利益の推移
2) セグメント別推移
3) 事業拡大の2つのポイント
3. 長期の安全性
4. ソーシャル事業
5. 終わりに
6. まとめ
1. ユーグレナとは?
1) 基本情報
① 会社情報
会社名 | 株式会社ユーグレナ |
設立日 | 2005年8月 |
従業員数 | 357名(2020年9月末時点) |
主な事業 | ① ヘルスケア事業 ② エネルギー・環境事業 *詳細は後述 |
上場日 | 2012年12月(マザーズ) 2014年12月(東証一部) |
決算情報 | IR情報 |
② 沿革
2005/12 | 世界初の微細藻類ユーグレナの食用屋外大量培養に成功 |
2010/5 | バイオジェット燃料製造の共同開発開始 |
2012/12 | マザーズ上場 |
2013/3 | 八重山殖産株式会社の完全子会社化 |
2013/10 | バングラディシュ事務所開設 |
2013/12 | 理化学研究所と研究推進のための連携・協力に関する協定締結 |
2014/12 | 東証一部上場 |
2017/1 | ユーグレナの生産体制を年産160トンに倍増 |
2017/12 | オリエンタルエアブリッジ株式会社と資本業務提携 |
2018/11 | バイオ燃料製造実証プラントの竣工 |
2019/2 | 国連世界食糧計画(WFP)と事業連携 |
2019/2 | 株式会社デンソーと微細藻類を活用した事業開発で包括的提携 |
2019/6 | 伊藤忠商事とのミドリムシ海外培養実証事業開始に向けた覚書締結 |
2019/7 | 横浜市とバイオ燃料地産地消プロジェクトに関する協定締結 |
2) 事業内容
① ヘルスケア事業
ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を原料としたヘルスケア商品(健康食品・飲料・菓子など)やビューティケア商品(化粧品など)の販売、あるいは遺伝子検査サービスの提供を行っているヘルスケア事業。
通販・ECによる販売、あるいはスーパーやコンビニ、調剤薬局や理美容店などに流通させて事業を展開しております。
② エネルギー・環境事業
環境にやさしい再生可能エネルギーでありCO2の排出も抑えられる、ミドリムシを用いたバイオ燃料(生物資源を原料とする燃料)を製造し、販売する事業。
商業化前の研究開発段階ですが、飛行機や自動車・船舶などへの使用を目指して、着々と研究開発や実証実験が進んでおります。
また、日本をバイオ燃料先進国にする『GREEN OIL JAPAN』宣言に賛同する企業も増えており、商業化に向けて日々前進している事業と言えます。
2. 売上0.3億、損失72億の事業とは?
1) 売上高・営業利益の推移
まずは、ユーグレナの過去5年の売上高と営業利益の推移を見ていきましょう。
売上高は2018年9月期をピークに低迷し、ここ数年は営業利益の赤字も続いており、この数値だけを見ると好調な状態とは言えません。
ただ実は、セグメント別に見てみると、営業利益が赤字となっている原因がはっきりわかります。
2) セグメント別推移
それでは、セグメント別の売上高とセグメント利益(営業利益に相当)の推移を見ていきます。
上記を見ていただければわかる通り、営業利益が赤字となっている原因は、エネルギー・環境事業にあります。
特に2019年9月期は、0.3億円の売上高に対して72億円もの損失を計上しており、異常な数値と言えます。
他の年度についても、損失を垂れ流し続けております。
それではなぜ、事業を廃止せずにエネルギー・環境事業を存続させているのでしょうか?
実はエネルギー・環境事業はまだ収益化の段階ではなく、今後の大きな収益を見込んで先行投資を行っている段階であり、損失となるのは当然の結果なのです。
つまり今は、ヘルスケア事業でキャッシュを稼ぎ、そのキャッシュをエネルギー・環境事業への投資にまわしている段階なのです。
ちなみに、2019年9月期の大幅赤字は研究開発費が原因であり、日本初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントの建設費用を、工事が完了したタイミングで一括計上したことによるものとなります。(工事着工2017年6月1日、工事竣工2018年10月31日)
3) 事業拡大の2つのポイント
今後ユーグレナが事業を拡大していくためには、以下の2つの点がポイントとなります。
② 収益化までのキャッシュの確保
順に見ていきましょう。
① エネルギー・環境事業の収益化
エネルギー・環境事業、つまりはバイオ燃料事業の収益化の「スピード」と「規模」が、今後のカギとなります。
【社会的背景】
温室効果ガスを規定値以上に排出する航空会社に対して、2021年より排出権購入が義務化されるため、環境負荷の少ないバイオ燃料の利用増大が今後見込まれます。
また、2020年11月にANAが海外バイオ燃料を使用した初フライト(羽田⇒ヒューストン)を実施し、国内でのバイオ燃料市場が勃興したと言えます。
【収益化のスピード】
そんな中ユーグレナは、前述の通り2018年に実証プランを完成させており、2021年にはユーグレナ製のバイオ燃料のフライトへの初利用を計画しております。
さらに、2025年までに商業プラントの開発も目指している状況であり、一定のスピード感をもって取り組もうとしていると言えます。
ただし、キャッシュフロー計算書の投資活動によるキャッシュフローを見てみると、設備投資額(*)が継続的に低下しており、ここ数年は十分な先行投資ができておらず、スピードに陰りが見えており注意が必要です。
(*「有形固定資産の取得による支出」から「有形固定資産の売却による収入」を控除した値)
決算説明資料によると、今後は2025年に商業プラント完成、2030年にバイオ燃料産業の確立を目指す計画となっております。
(2020年9月期 決算説明資料より抜粋)
【収益化の規模】
バイオディーゼル燃料市場は、世界全体で2019年の4.5兆円から2025年の7.5兆円まで成長すると見込まれております。(同社調べ)
また、バイオ燃料大手のNeste社(ネステ:フィンランド)が売上高約5,000億円、営業利益率40%超を記録しており、十分な規模の収益が見込める市場と言えます。
② 収益化までのキャッシュの確保
ユーグレナが事業を拡大するための2つ目のポイントとしては、収益化までのキャッシュの確保が挙げられます。
エネルギー・環境事業が収益化するまで、ヘルスケア事業でキャッシュを稼ぎ投資にまわす必要があります。
しかし、ヘルスケア事業の営業利益は低迷しており、2019年には20億円以上の多額ののれんの減損も計上しております。
また、各キャッシュフローの推移を見てみると、営業キャッシュフローも直近5年の合計はマイナスとなっております。
一方で、財務キャッシュフローは3期に渡って以下の通り多額のキャッシュインがあり、プラスとなっております。
・2018年9月期:長期借入28億円
・2019年9月期:株式発行37億円
しかし、2020年9月期は営業キャッシュフローがマイナスで投資キャッシュフローも大幅に縮小せざるを得ない状況にもかかわらず、財務キャッシュフローはわずかなプラスとなっており、追加の株式発行や長期借入に苦戦している状況がうかがえます。
エネルギー・環境事業への十分な投資を行うためにも、ヘルスケア事業のテコ入れが必須な状況と言えます。
ヘルスケア事業の主要顧客はシニア層が中心となっており、シニアと親和性の高い新聞広告・テレビショッピング等のオフライン広告に、集中的に広告宣伝費を投下しているのが現状となります。
そのため、今後はミドル層への拡大、デジタルマーケティングの活用が課題と言えます。
3. 長期の安全性
ここまでは主に、収益性に焦点を当てて解説してきました。
ここでは、安全性について見ていきましょう。
安全性で特徴的な点として挙げられるのが、過去の資金調達の結果、負債合計よりも多い現預金を継続的に保有している点です。
また、自己資本比率も50%以上と高い水準を継続的に維持しているため、短期的に安全性に問題があるとは言えません。
一方で、ここ数年は大きな増資を2回行っているにもかかわらず、毎年の赤字が大きく純資産を削っているため、自己資本比率が年々低下しております。
中長期的には自己資本比率が50%を下回る可能性も十分あり、長期の安全性の面から注意が必要です。
ユーグレナは無配当を継続しています。
今は稼いだお金をバイオ燃料事業に先行投資する段階であり、前述の通りこの投資もまだ十分行えていない現状で、株主還元のために配当を実施している余裕はないと考えられます。
バイオ燃料事業の商業化が実現するまでは、継続して無配当政策となることが予想されます。
4. ソーシャル事業
それではその他のユーグレナの特徴的な取り組みとして、ソーシャル事業について見ていきましょう。
ユーグレナは、社会問題の解決を目指すソーシャル事業も展開しております。
具体的には、バングラディシュの小規模農家を農業技術トレーニングなどで支援し、バングラディシュ内に高品質で安価な食品を提供しております。
2019年に日本で初めてWFP(国際連合世界食糧計画)と事業提携しており、バングラディシュへの支援はより本格化していくことが考えられます。
また、農作物を日本に輸出して利益の創出を狙うことも、今後は計画されております。
契約農家数も2015年9月期の2,201農家から2020年9月期は7,221農家まで増加し、ソーシャル事業によるブランド力向上だけでなく、長期的に商業化を狙うビジネスモデルとなります。
5. 終わりに
ユーグレナの決算書の特徴的な点について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
バイオ燃料事業の商業化に注目しながら、今後のユーグレナの成長に注目していきましょう。
(本記事で扱っている決算書分析の指標や知識は、ビジネス会計検定で学ぶことができますので、ぜひ挑戦してみてください。)
6. まとめ
◆バイオ燃料事業の収益化、収益化までのキャッシュ確保が今後のポイント。